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紙の本
もうひとりの総帥晁蓋とはいかなる人物であるのか。ここに軍略家としてのリーダーシップの冴えを見る。そして………。
2004/08/04 12:14
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投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
第九巻では梁山泊中最強の軍人豹子頭・林沖が亡き妻の残影を追う苦悶のエピソードが見せ場なのだが、ここでは割愛する。
晁蓋と宋江このふたりの総帥は梁山泊にとって健在でなければならない。どちらかひとりを失えば全土で梁山泊に好意をもっている者たちの衝撃ははかりしれない。官軍にはやはり勝てないのかと諦めにもつながりかねない。
だが晁蓋は宋江をはじめ幹部たちの猛反対を押し切ってこの作戦は自分が先頭に立って総指揮をとると言い出した。
禁軍3万が梁山泊側の要衝・流花寨へ向かう。晁蓋率いる六千と対峙する。流花寨が決戦の場と誰もが思った。だが、青蓮寺の狙いは北にあった。梁山泊の財源、闇塩の道を統括する盧俊義と柴進を捕縛することだった。晁蓋はぎりぎりの瀬戸際でこの陽動作戦に気づいた。果断に流花寨から転進し、二人へ迫る北方の官軍を的確な命令であざやかに撃破する。
天性の判断力、決断力、実行力。宋江とは違って率先垂範型のリーダーシップに非凡なものを持つのが晁蓋である。
「北だ。たぶん」と気づくのは確信ではないが戦場へ立つ者の感覚である。「宋江にはない戦人の血が自分の体には流れている」と………晁蓋はそんな人物だ。
全幅の信頼を集める二人であるが、第八巻では宋江、ここでは晁蓋と、読者は両雄の違いをはっきりと見ることになるのである。北方謙三のこのロジック、わかりやすさも含めて丹念に書かれている。
次に読者は武力革命というべきこの闘争の方法論に潜むふたりの決定的な対立を目の当たりにする。この差異を我流にまとめると以下のようになるだろう。
晁蓋:大衆は飢えている、政府への限りない怒りが爆発しようとしている。われわれが口火を切って一点を突破すれば、全国いたるところで民の蜂起が起きる。そして一気に宋は崩壊する。「覚めよ! わが同胞。暁は来ぬ」
宋江:民の力を安易に当てにすることはできない。全国的蜂起が起こったとしても各地に軍閥が立ち上がり国情は大混乱に陥る。今二万に満たない梁山泊の勢力が十万人になるまで本格的戦は待つべきである。
やれ左翼小児病の日和見主義のと、そんな言葉は出てこないのだけれど、かつて若者であった60歳台の世代であれば、学生運動の渦中に見聞した論争とよく似ているロジックだと懐かしい思いで読むことができるにちがいない。
ついでながら軍師・呉用の戦略は:梁山泊の支配する自由商業都市を全土に構築すべき。それらの都市が宋の経済基盤を崩壊させる。軍事力はその都市を攻撃する官軍に備える程度にとどめる。
それなりの歴史観を浪花節で語る北方節、思わず笑ってしまった。実に愉快な『水滸伝』ではないか。
梁山泊に内部分裂の火種を残しながら物語は第十巻へとすすむ。
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紙の本
局地戦から全体戦に変貌していく梁山泊と宋の国との戦い
2003/02/09 21:52
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投稿者:格 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「歴史を変えようという夢」それを捨てて,「女ひとり救えなくてなんの志か.なんの夢か」との思いから,戦場を一人離脱した林冲.その戦いはどうなるのか.そして,その処断がこの巻のハイライトか.宋江の悩みとは別に,晁蓋があっさり決めていく.一方のリーダであり,戦いを自ら率いる晁蓋であるが,水滸伝の強烈なキャラクタ達のなかで,どこか存在感が薄い気がするのはなぜか.
梁山泊の西南に新たな山塞を建設し,リーダを花栄とする.全体的な配置替えを行い,前巻までの登場人物達が,適材適所に配置されていく.敵は,梁山泊の塩の道を徹底的につぶしにかかってくる.そして,戦いは「局地戦から全体戦に」なってきた.
晁蓋と宋江の梁山泊に何万人必要か,という議論はつまらないようで,とても重要なのだろう.その計算が確実にできないことがまだ自信のなさなのかもしれない.しかし,この巻で新たに加わる索超のような各地に埋もれる人材を自発的に立たせることを可能にすることが,今後の勝利の鍵になるのであろう.
秦明と公叔のエピソードはこの物語らしくなくほほえましい.梁山泊の将となった美女,扈三娘をめぐる物語はこれからか.
この巻はしびれるセリフがいつもより少ない気がする.
「自分の気持ちを語ることなく諦めるのは,自分に対して卑怯だという気がしてきた」.
「自分の言ったことにどれだけ上乗せできるか.そういう考えだったから,疲れはしなかったのだと思う」.
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