紙の本
年を重ねる事に弱々しく変わってゆく親。子にはそれを受け容れる変化が求められる。
2012/03/28 18:58
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
秋山小兵衛には、理想の父親像のような感覚がある。
常に泰然とした姿が、そう思わせるのだろう。
ところが、この巻で、とうとう弱気を見せることとなり、常に強くあって欲しい父が、普通の人間になってしまったような、もの悲しさを覚えた。
小兵衛は、何者かが、大治郎と、かなりの剣を使う浪人・波川周蔵の決闘を内密にすすめているらしいことを知り、ただならぬ密謀の気配を感じとった。
「何やら量り知れぬ事が背後にあるような気がしてならぬのじゃ」
岡っ引の弥七と、手下の徳兵衛は、真相究明に協力を惜しまない。
「すまぬのう。このとおりじゃ」
と両手を合わせ、目を潤ませて感謝する小兵衛は、弱々しい。
かと思うと、密謀の恐るべき全容を知った小兵衛は興奮状態に落ち入り、それでも平然としている大治郎に、
「このところ、毎日のように、父や弥七や徳次郎が苦労を重ねているのを、おのれは何と看ていたのじゃ」
「父上。ま、落ちついて下さい」
「黙れ、黙れ!!」
と、ついにヒステリックになってしまった。
小兵衛はこの巻で六十六になる。
小兵衛の見せた弱さは、年齢から来るものだけではなく、年来の友・内山文太の死(【夕紅大川橋】『剣客商売〈13〉波紋』に収録)も、大きな衝撃を与えたようだ。
もし内山が剣客として死んでいたなら、「それも剣客の宿命」と割り切れていただろう。
しかし内山は、隠し子騒動に一段落つくと、呆けてしまい、死んでいった。
この剣友の死に、六十六となった小兵衛は己の死も想像したはずだ。
こういう出来事が重なって、剣客としての顔より、息子を思う人の親としての顔が噴き出した。
そう理解できるのだが、やはり小兵衛の見せた弱さには、「このあと次第に弱々しくなっていくのだろうか」という寂しさを覚えてしまう。
一方で、波川周蔵が、狂ってしまった母を引き取る場面がある。
波川が、やむをえない状況で藩を出奔して十七年。
亡くなったであろうと諦めていた母は生きていた。
母と生きて出会えた波川には、母が狂っていようが、いまいが関係なかった。
このことは、人は変化するものの、親と子という関係には変わりがないということを認識させてくれた。
強かろうが、弱かろうが、狂っていようが、いまいが、親は親なのだ。
弱々しく変化する親を悲しむことは、親に対して、常に強くあって欲しいという不変の気持ちがあるということだ。
しかし必要なのは、どのように変化した親であろうと、それを受け容れる子の側の変化なのだと、思い知らされた一冊だった。
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浪人・波川周蔵
蘭の間・隠し部屋
風花の朝
頭巾の武士
忍び返しの高い塀
墓参の日
血闘
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20120620 小兵衛の老がリアル。なんとなくホッとする。
20141022 大治郎の落ち着きと小兵衛の短気な行動。時間の経過が感じられる。子を思う親の愛情が感じられた。
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剣客商売シリーズ14作目
ある日、小兵衛は凄腕の二人の浪人者をたちまちにして蹴散らす巨漢の剣客を目にする。
その男の名は波川周蔵。
「あの男ならせがれでも危うい」。
その後、小兵衛は大治郎襲撃の計画を偶然知ることになる。実行するのは波川らしい。その裏には誰がいるのか。なぜ大治郎が狙われているのか。
小兵衛66歳。この巻では今までにはないような失敗をしたりもする。でも、ここへきてどんどん人間味が増している感じもする。大治郎に対して声を荒げてしまうシーンなど特にそう思う。
大治郎は、さらに腕を磨き、小兵衛へ近づきつつある。
三冬は娘からしっとりとした妻、母に。
田沼の悪評はさらに広がり、威勢も衰えつつある。この「暗殺者」の事件の一月後には意知は殺害され、その二年後、彼は老中を罷免・領地も没収されるのだ。
そして、この作品の重要人物である波川周蔵。
彼もまた一角の剣士でありながら十数年のうちに剣の道で天道を歩めぬ身となっている。
大治郎襲撃の黒幕となっている者もそうだった。
人は流れていく。ひとつのところに留まっていられる者などいないのだと強く感じる一冊でした。
波川周蔵がすごくよかった。だからこの終わり方で少しホッとしました。
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ラストが秀逸。
剣客者の思考としては当然か・・・。幸せになってほしい。
小兵衛、老いを少しずつ感じる。
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長編でなかなかに読み応えあり。
小兵衛はますます老いを感じさせるようになるが、
性格描写などでそれを表しているのはさすが御大というところ。
逆に大治郎はますます熟成されてきた感があり序盤の不安定さはすっかり鳴りを潜めてきた。
時代もすこしずつ進み権勢を誇った田沼意次も失脚が見えてきたし。(次巻ではすでに失脚しているのか?)
暗殺者の裏切りについて今ひとつ動機が弱いという気もする。
人づてに聞いた剣客よりも、人が変わったとはいえ昔世話になった人は裏切れなんじゃないの?お侍として・・?
三冬さんの活躍が少ないのがちと残念なところ。
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時代小説。「剣客商売」シリーズ第14弾。長編。
「暗殺者」
剣客、波川周蔵の手並みを見た小兵衛。そして不二楼にて侍たちの「秋山大治郎が・・」との不穏の声を耳にする。弥七と傘徳とともに暗殺計画を探る・・。
小兵衛の昔の弟子、稲垣老人が小兵衛と波川を繋ぐ。
話の展開が「どうなる、どうなる」と気になり、読み進める手が止まらない。
小兵衛の老いと大治郎の落ち着きの対比が、年月を感じさせる。お勧めです。
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池波正太郎を初めて読んだ一冊。話に引き込まれ一気に読んだ。意外な結末に向けて、長い下調べと綿密な打ち合わせが続くが、決して冗漫になっていないのがすごい。
一見、物語に関係ないように思われる朝餉、夕餉のシーンがあることで、かえって時間の経過が感じられた。生活感が出ることで物語にリアリティが増しているように思う。
藤田まことのテレビ時代劇を先に観ていたので頭の中に既にイメージができている。その前提がなかったらどうふうに読めただろうか。その点が不明なので☆4つにする。
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剣客商売シリーズ第14弾、この「暗殺者」は特別の長編である。
老中・田村主殿頭意次の政策の影響で命を狙われる秋山大治郎とその息子を案じる秋山小兵衛の葛藤。
読み応えのある一冊です。
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番外編『黒白』を読んだがゆえに深まる理解。終盤でキーパーソンとなる滝口を、かつての秋山道場へ弟子入りさせたのも、小兵衛の「人が変わった」ためであり、その発端は波切八郎の一件があったためだ。本書に登場する剣客・波川周蔵も、不幸な事件から出奔して裏稼業に身をやつすまでは波切と一緒だったが、結末に救われた。さて、本シリーズも残り本編2冊、番外編2冊となった。奥付の出版年から『二十番斬り』『ないしょないしょ』と進もう。
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珍しく長編、先が気になり一気に読んだ。強い剣客が現れ、弱気な小兵衛、のんき?な大治郎が面白い。実際に戦ってほしい気もした。
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2019年9月1日、読み始め。
●人物メモ
・吉右衛門---書物問屋・和泉屋の当主で、三冬の伯父。
・おひろ---三冬の実母。
・永山精之助---町奉行所の同心。弥七の直属先。
・弥七---四谷・伝馬町の御用聞き。
・徳次郎---内藤新宿の下町に住む。女房は、おせき。
・又六---深川・島田町の裏長屋に住む、鰻売り。
・小川宗哲---亀沢町の町医者。小兵衛の碁がたき。小兵衛より10歳位年長。
・文吉(ぶんきち)・おしん---鬼熊酒屋の亭主と女房。前亭主は、熊五郎。文吉・おしんは養子夫婦。
・長次・おもと---浅草駒形堂裏の河岸の料理屋「元長(もとちょう)」をひらいている。
・牛掘九万之助(うしぼりくまのすけ)---浅草・元鳥越町に奥山念流の道場をかまえる。
・金子孫十郎信任(のぶとう)---湯島5丁目に道場をもつ。60歳をこえている。門人は300人以上。
・杉本又太郎---団子坂の無外流・杉本道場の当主で、秋山親子とも顔見知りの剣客であった父親を1年前に亡くしている。
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浪人・波川周蔵
蘭の間・隠し部屋
風花の朝
頭巾の武士
忍び返しの高い塀
墓参の日
血闘
大治郎の危機(未確認)に右往左往・グダグダする小兵衛。
特に山無し。
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剣客商売14作目。
久しぶりの長編。
今回は、人間というものは時とともに変わりゆくもの。というのが、キーポイントかも。
波川周蔵という人物に好印象を覚えるエンディングだった。
この方は気の毒だ。
いろいろな面で。
人生の悪戯に翻弄されてしまった人。
今後は、幸せに暮らしてほしいと願う。
浪人・波川周蔵
蘭の間・隠し部屋
風花の朝
頭巾の武士
忍び返しの高い塀
墓参の日
血闘
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剣客商売 十四
今回は特別長編「暗殺者」です。
秋山大治郎を襲う計画があるらしいと耳にした小兵衛さんは、その噂の真偽を確かめる為に奔走します。
そこで浮かんできたのが、波川周蔵という凄腕の剣豪で・・。
例によって、小兵衛さんが弥七や徳次郎と共に探りまわるのですが、自分たちが大変な思いをしているのに、当の大治郎があまりに落ち着き払っているので、ついイラっとした小兵衛さんが大治郎に食って掛かるという珍しい場面がありました。
結局は、田沼老中の暗殺計画が裏にあったという事で、前回の長編「春の嵐」でも田沼老中がらみで大治郎がターゲットにされていましたよね。“大治郎、長編で狙われがち”という感じです。
ラストは波川の想定外の行動に驚かされましたが、彼自身の人柄は良いので、“無口な波川ファミリー”が今後、静かに幸せに暮らしていけることを願う次第です。