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会社はこれからどうなるのか みんなのレビュー

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みんなのレビュー34件

みんなの評価4.1

評価内訳

34 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

ポスト産業資本主義の時代、モノをいうのは、人間の知識や能力。

2003/06/29 23:25

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:ソネアキラ - この投稿者のレビュー一覧を見る

大抵の人は、何らかしらの会社に勤めている。そして、就職する時には、会社に入ることに躊躇はなかっただろう。それが、東証一部上場企業など大企業だったりしたら、万々歳だろう。ところが、昨今の不況で勝ち組・負け組が明確になり、また、今日まで勝ち組だった企業も、明日にはあっという間に負け組みになってしまいかねない。

会社って何? 株式会社って何? 会社の仕組みって? 資本主義とは? など素朴な質問に、経済理論の第一人者である作者は、噛み砕いて教えてくれる。素朴な質問に、わかりやすく答えるのは至難の業であるはずなのだが、なるほどと思うことばかり。

たとえばリストラ。リストラと聞くと、イコールクビ切り。ではなくて、本来のリストラは、その会社のコア・コンピタンス(得意分野)を鑑みて、そうじゃない部門を縮小して、新陳代謝を良くする、いわば会社のダイエットである。ところが、一般的には、給料ばっか高くて、パソコンも使えない中高年社員の肩たたきというイメージが強い。もっとも、コア・コンピタンスが見出せるかどうか、皮肉じゃなくてさ。突き詰めていくと、会社のレーゾン・デートルまで問うことになる。

株式会社は誰のものという質問に対して、通常は株主のものと考えられがちだが、作者は否定する。さらに、企業の利潤を追及する余り、企業倫理をないがしろにした、エンロン、ワールドコムを引き合いに出して、アメリカ型のコーポレート・ガバナンス(会社統治機構)を「誤りである」と批判する。

「ポスト産業資本主義の時代が幕開けをしたいま、おカネとヒトとの力関係が大きく変わり始めているのです」と述べ、アメリカ流でもないし、かつての日本流でもない、新しい資本主義を作者は、提案している。

「ポスト産業資本主義における利潤の最大の源泉は、機械制工場ではなく、差異性を創り出していくことのできる人間の知識や能力です」。企業とは、個性的な組織であり、それこそが、コア・コンピタンスであると。作者は「知識資産(KNOWLEDGE ASSETS)」の価値が高い企業としてマイクロソフト社を紹介している。

そのためには、会社はいままでのヒエラルキースタイル、伽藍方式ではなくオープンスタイル、バザールスタイルといった「自由で独立した環境が不可欠である」などと、具体的なアドバイスまでしてくれている。

この本を、ぜひ、大学生いや大学じゃ遅いか、中学か高校の社会あたりのテキストに採用してくれないかな。

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紙の本

マルクス+「差異性」

2003/04/10 21:26

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:yama-a - この投稿者のレビュー一覧を見る

ちょうど10年前に、同じ岩井克人による「貨幣論」を読んでとても面白かった記憶がある。でなければ、こんなタイトルの本は買わなかっただろう。
タイトルはなんだかビジネス書っぽいが、岩井教授が書いているのだから経済学書なのだろうと見当をつけて読んだら果たしてそのとおりだった。「貨幣論」を読めば1行目から明らかなように、この人の基礎はマルクス経済学である。そして、この「会社はこれからどうなるのか」においても、まず所有関係から説き起こし、そこに時間軸を加えて歴史的な発展形態を明らかにしようとする姿勢はマルクス経済学そのものである。そして、まさにその王道的分析手法に沿って理論は極めて明晰である。
ところが、その論理展開は第7章に入って突然独自性を発揮し、「差異性」というキーワードが登場する。そこから先は、まるで騙されたみたいにあまりにきれいにものごとが説明されて行く。これはひとつには、(タイトルのつけ方からしてそうなのだが)この本が研究者ではなく一般の人間を読者として想定しており、ひとえに読みやすいことを心がけた結果なのだろう。1つか2つの例を挙げただけで推論を完結して次に進んで行くのだが、もしもこれが学術論文であったならもっと多くの例を考察して、反証を持ち出される危険性を封じ込めて行くはずだ。人によっては(そして僕には)その点が少しもの足りなく、信頼性に欠ける気もした。
改めて確認するが、これはビジネス書ではなく経済学書なのである。ただし、一般向け(というよりもサラリーマン向け)に書かれた経済学書である。この点に関して著者は、自分にはサラリーマンの経験がなく「純粋培養の学者」であることを文中で何度か(しかも言い訳っぽくならずに謙虚に)述べている。しかし、経済学者本来の使命は現象面での対処療法を見つけることではなく、経済の本質を見破ることである。
そういう意味でこの本は十二分にその使命を果たしていると言える。純粋に読み物としても面白い。
そして、結論として述べられている事柄は僕ら中年サラリーマンにも希望を与えてくれる内容になっている。

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紙の本

当代きっての理論家による会社論

2003/03/10 21:10

2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:GG - この投稿者のレビュー一覧を見る

「失われた十年」に続く長く経済的な苦境のなか、日本の(自分の)会社は一体どうなるのかという思いを抱いている人は多い。この切実な問題に『ヴェニスの商人の資本論』や『二十一世紀の資本主義』などで知られる理論経済学者が取り組んだ、著者初めてのビジネス書である。
「はじめに」の問題設定を読めば、きっと本文を読みたくなるはず。ただ、内容はやはり抽象度が高いので、即効性を期待するとあてがはずれてしまうかもしれない。

序論である第1章に続いて、次の三部構成で記述されている。
1.「会社」とは法理論上、いかなる存在なのか(第2章から第6章)
2.ポスト産業資本主義とは何か(第7章・第8章)
3.会社はこれからどうなるのか・どうなるべきか(第9章・第10章)

読みやすくする工夫が随所になされている。専門用語を脚注にとばすのでなく、本文のなかで説明する。カタカナ英語を極力廃し、基本的に漢語で説明する。英語の綴りを示すときにも思考の流れを中断しないために、縦に英語を組む。などである。著者の講演・講義はきっと素晴らしく明快なものに違いない。
にも関わらず内容の難解さも相当なものである。「会社は株主のものなのか、それとも経営者・従業員のものなのか」という議論は、哲学の名目論と実念論のレベルにまで深められた上で、株主のものでもあり、経営者・従業員のものでもあるという二重性こそが会社の本質であると喝破される。このあたり、著者の『貨幣論』に親しんだ読者はニヤリとするところだが、普通のビジネス書のつもりで読んでいるとあまりの抽象性に読み続けることを諦めてしまうかもしれない。
でも、それはもったいない。著者のポスト産業資本主義論を理解した上で、この二重性に注目すれば、本書からビジネス・チャンスを読み取ることだってできるはずなのだ。
優れた著作は多くそうであるように、読み手の側にキャパシティがあればあるだけ多くのものを教えてくれる作品だと言える。理論好きな若いサラリーマン・サラリーウーマンが読むと刺激を受けること請け合いだ。しかし、会社のベタな現実よりこっちの勉強の方が面白いので、もう一度大学へ戻ろうという気になってしまうかもしれない。

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紙の本

僕達が人生の過半を過ごす会社という世界は、どんなもので、これからどこへ向かうのか?

2005/04/02 21:37

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:まさぴゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る

第二回小林秀雄賞受賞作品。多くの雑誌や評論で絶賛されていたが噂に違わぬ著作であった。一言で言うと「これからの資本主義社会がどこへ向かうかのわかりやすい説明」だ。学問のタコツボ化を回避し全体を見通すことは難しい。それはアダムスミスの『国富論』やルソーの時代のような文明社会を総合的に見る透明性が現代にはないからだ。世界は複雑になりすぎている。そうした時代背景の中で極めてわかりやすく大きな流れを描ききったこの著作は良書だと思う。

また本格的な経済学者が書いたビジネス書というのも本書の売りの一つであろう。ビジネス書というのは時代を先行してわかりやすい反面、学問的蓄積を無視したセンセーショナルな(そのほうが売れる)内容なものが多く、原理的な知的思考としては役に立たないモノが多い。しかし本書はビジネス書の必要用件である「寝る暇もなく働くサラリーマンが手軽に読める」かつ「時代を先取りしている」「目の前のシゴトや人生の選択に対して役に立つ」ことを満たしながら本格的な学問的蓄積を背景にしている。複雑で難しいことをわかりやすくシンプルに他人に説明できる人こそ「真の知識人」であるというのが僕の考えなので、さすが東京大学の経済学部長まで上り詰めた人であるなと唸りました。

基本はマルクス経済学。所有から説き起こし歴史的段階を経る姿勢は、マルクス経済学そのもの。わかりやすい(物理学のモデルに似た近代経済学との比較で)という意味では、やはり歴史が挿入されるマル経が一番。ちなみにソ連の崩壊で社会主義が輝きを失った現代では馬鹿にされやすいが「共産主義」「社会主義」という構想と、カールマルクスの資本主義社会分析はほぼ無関係です。いまだマルクス経済学の独占資本主義分析やアプローチは意味を失ってはいないと思う。とはいえマルクス経済学は、近代経済を支える数学的アプローチを嫌う傾向があり、学問というよりはイデオロギーの色彩を帯びやすいという欠陥を抱えるのは事実だと思うが。

「会社は誰のものか」というのは面白い質問です。会社は法人格(人間と同等の扱い)であるにもかかわらず所有されるという矛盾した存在です。人類社会では、基本的に人間を奴隷にすることを認めないのですが(人間の定義は幅があるとしても)株主に所有されます。ところが株主が所有できるのは株による議決権の支配であって、単純に企業自体を所有は出来ません。つまり直接的な所有権ではなくワンクッション置いた所有権となります。筆者はここに法人格である株式会社の不思議な特徴(ややこしさと可能性)があるとしています。最後の結論は、ぜひ手にとって読んで欲しいが、僕としては『僕たちの洗脳社会』で岡田斗司夫さんが、主張していた自由洗脳社会というアプローチを強く連想させられました。

登場する言葉はありふれた言葉です。しかし総合する発想が異なると、これほど明快になるのかとおどろきでした。確かに法学に対する詰めの甘さやビジネス書にありがちな論拠出典の貧弱さに、反駁を許してしまいそうな論理の飛躍も多々ありました。ただしそれは本書の目的である「たくさんの人にわかりやすく読んでもらう」という意義から外れるので、的外れな批判になってしまうと考えます。また専門性というタコツボに隠れてしまいがちな象牙の塔に鎮座する学者が「社会の大きな仕組みを明らかにしよう」とする姿勢には好感が持てます。やはり深くを分析する知識人と実践する人が結びついてこそ社会は進歩すると思いますので。



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紙の本

会社という不思議。

2003/10/11 14:05

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投稿者:aguni - この投稿者のレビュー一覧を見る

 私も実は会社員なのだが、考えてみると、どうして学校を出たら会社に就職したのか、その理由がわからない。会社というものがそもそもどういう歴史や経緯で成立し、そこで働くということがどういう意味なのか、わからずによくも人生の選択をしたものだと、この本を前にして改めて思った。

 あとがきによると、この本はそもそも平凡社のPR誌『月刊百科』2001年6月号に掲載されたインタビュー「会社はどこにいくのか?」に端を発しているという。このインタビューを介して、岩井氏自身の「資本主義」論と「会社」論との結びつきが「発見」され、さらに14時間ものインタビューを経てできた第一稿を全面的に書き直して制作されたという。その結果、非常に読みやすくわかりやすい口調の文章の一冊ができあがった。岩井氏が経済・法律・歴史の知識を駆使して語ってくれるのは、資本主義とは何か、会社とは何か、日本型経営とは何か、そしてこれからの資本主義や会社はどうなっていくのか、ということ。すべてが示唆に富んでいる。

 非常に興味深かったのは、会社はヒトでもありモノでもあるという法律からの指摘だった。モノの要素が強いのが米国などの資本主義であり、ヒトの要素が強いのが日本の資本主義だということだ。外資がハゲタカなどと言われるのは、会社をモノのように売り買いする姿が、会社にヒト的なものを多く求める日本人的な感覚なのだということもよくわかる。持ち株会社や財閥のロジックや目的なども解説されていて、こちらも面白い。

 この本のラストでは、ポスト産業主義社会の姿が具体的に紹介されている。ネットバブルは崩壊したけれども、これから生まれる新しい産業にはまだまだチャンスがある。そうしたヒントも満載である。株式投資、企業不祥事、M&A、コーポトレートガバナンス、リストラ、就職難、起業ブーム…。今こそ「会社とは何か」ということが問われているときはない。そんな時代に生きる我々にとって頭を整理させるためにも必読の一冊となるだろう。第二回小林秀雄賞受賞。

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紙の本

希望を与える書物

2003/05/11 08:54

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投稿者:仙道秀雄 - この投稿者のレビュー一覧を見る

岩井克人さんは、10年ほど前に「貨幣論」で、私をおおいに驚かせ、「ヴェニスの商人の資本論」、「二十一世紀の資本主義論」でさすが岩井克人さんは柄谷行人さんの畏友であるだけのことはあるなと、再々度唸らせた。ピアノでいえばビル・エヴァンス。駄作の見当たらない人、今すぐ読むべき書物である。こんな人が東大の経済学部長をしているとは日本の大学もそれなりに進化しているのかもしれないと思わせる。

この本はサラリーマン向けに書かれた読みやすい本である。しかし上記の本で展開されていた論点、とりわけ、株式会社論が更に展開されており、且つ、具体性にまで降りてきている。これは、役に立つ本である。自分の従事している事業のあり方、組織のあり方などを検討するのに役立つ。

それだけではない。「失われた10年」の意味、グローバル化、IT革命、金融革命の意味などが経済理論と経済史との関連において語られている。ただし学術論文ではないから、細部の論証や実証までを期待してはいけない。それは先にあげた別の書物を参考にすればよい。

このような大局観をもちつつも、ごく最近の事柄にも目は行き届いている。例えば、エンロンの倒産がアメリカ型コーポレート・ガバナンスの崩壊であるという明快な断定とそうする判断の根拠を読むと、TVの論説や新聞紙上でアメリカ色の濃い主張にうんざりしつつも、「ではどう考えればいいのか」悩んでいる多くの経営者、サラリーマンに希望を与える。

多くの理論家・評論家と言われる人々が、自分の身近にある現実を説明できなかったり、自分の感じ方を殺して、たんなる理論の整合性や、学会や世間での権威を根拠として「だから日本は、日本の会社はダメなのだ。変わらねばならない」などと大上段の結論を引き出してきたのとは違う質がこの本にはある。

それは著者が日本人なら誰しも感ずる欧米理論へのささやかな違和感を大事にしてきたからだと想像する。つまり、我々もそのような思考方法で行けばいいのだ、自分の感じ方を大事にして思考していけばいいのだという自信を与えてくれる。

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紙の本

達意の文、しかし本づくりに一考を

2003/09/24 20:48

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:YOMUひと - この投稿者のレビュー一覧を見る

会社はこれからどうなるか、アメリカ型の株主主権的的会社が主流となり、日本的経営は消滅するのかという問題を、巨視的な資本主義の歴史という文脈で、原理的に考えていく。

現在、私達は、商業資本主義、産業資本主義を経て、ポスト産業資本主義の時代にあるという。資本主義は「利潤を永続的に追求していく経済活動」であるが、「差異性から利潤を生み出す」という原理がすべての資本主義に通用するという規定は新鮮である。

ポスト産業資本主義は、「意識的に差異を創り出さなければならない」時代であるが、後期産業資本主義に適応し過ぎた日本は、ポスト産業資本主義への適応に遅れをとった、即ち、過去10年以上の日本経済の低迷を、ポスト産業資本主義への不適応とみる。

ここに至って、会社はどうなるかという本題は、このようなポスト産業資本主義期にある日本において、しかも「『失われた十年』のなかで日本的経営の全面的な破産が宣告された」状況において、と限定されて問い直されることになる。

利潤の最大の源泉が「機械制工場でなく、差異性を創り出していくことのできる人間の知識や能力」であるポスト産業資本主義においては、アメリカ型の「株主主権的な会社はグローバル標準にはなりえ」ず、むしろ日本的経営は、「株式の持ち合いを通して外部の株主のホールドアップ(=乗っ取り)を排除し、熟練労働者や工業技術者や専門経営者による組織特殊的な人的資産の蓄積をうながすことを、その最大の特徴とし、」「ポスト産業資本主義的な企業を、少なくとも部分的に先取りしていた」と評価する。

しかし、もちろん日本的経営が現状のままでよいわけがなく、差異性を創り出していく知識や能力を要する仕事が内発的に行われる、自由で独立した仕事の環境という面が不十分であるとする。

結論として、著者は、「21世紀においても、会社に長らく勤続して、そのなかで昇進していくという従来型のサラリーマンは、決してなくな」らない。「だが、それに加えて、会社でしばらく働いて経験を積み、その後自分で企業を起こしたり、他の会社に入りなおす選択肢をもつことになる」と言う。

従って、「会社とは、一生の職場ではなく、将来独立したり、転業するときのための修行の場という意味をもちはじめた」。その時に備えて、サラリーマンは特定の組織にしか通用しない「組織特殊的な人的資産より汎用的な人的資産を蓄積して」いくべきという助言は、説得力に富む。

ただ一点、ポスト産業資本主義へいち早く突入したアメリカで、なぜ株主主権的会社が優勢なのか、シリコン・ヴァレー・モデルのようにポスト産業資本主義に適合的な会社は、なぜ少数派にすぎないのか、著者は、株主主権論というイデオロギーに支配されていたと示唆するが、この点の説明をもっと聞きたいと思った、


達意の文と言う表現があるが、本書のような文章をいうのであろう。理論的でありながら、地に足のついた考察を明晰に記述する能力には敬服せざるを得ない。社会科学的思考の見事な作品となっている。

一つ、苦言。本づくりという面から見ると、本書の1ページの活字数が少なすぎて、ページ面を見ると余りに疎な印象を受け、違和感を覚える。活字の大きさとか1ページの字数とか、あるいは活字の配置(逆にいうと余白)には、おのずから読みやすさ、美しさ等の観点から標準がある。四六版だというのに、新書より文字数が少ないというのは、いかがなものであろうか。これでは、ページ数の水増しと言われてもしかたないであろう。1ページの活字数を標準的にして、全体のページ数を減らし、本全体をコンパクトにすべきであった。

また、本書のように読み捨ての本でなく、精読に値する、半学術的な本には巻末索引をつけるべきである。価格面からもつける余裕はあるはずである。新書版でも良心的な出版ではきちんと索引を用意している。

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紙の本

買ってもよい

2003/08/07 01:21

0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:評判の本の評判 - この投稿者のレビュー一覧を見る

◆経済学者の著者が、アメリカ型の株主主権論がこれからのコーポレート・ガバナンスのグローバル標準にはなりえないことを証明し、おカネの重要性が失われていくポスト産業資本主義の中での「会社のありかた」について論じている本。
◆コーポレート・ガバナンス論や、日本的経営の行方に興味を持っている方にお薦め。
◆著者が指摘するアメリカ型の株主主権論の矛盾点は2つある。ひとつは、法理論上、株主が法人としての会社を所有し、法人としての会社が会社資産を所有しているという二重関係を無視して、所有と経営の一体化を図ることが、必然的に経営者層の腐敗を生むことである。もうひとつは、先進諸国がポスト産業資本主義へと転換する中で、株主の提供するおカネの重要性が薄れてきていることである。
◆なお、139ページの図9は、三井財閥の関係図であるが、本文中には「住友財閥」の関係図として説明されており、図と説明が矛盾している。再版時には直していただきたい。
◆無料メールマガジン『評判の本の評判』はこちらです。

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紙の本

現代資本主義にふさわしい会社形態が株主主権的な会社でないことを分かりやすく論理的に説明した一冊

2003/05/03 15:53

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投稿者:烟霞 - この投稿者のレビュー一覧を見る

 近年、日本では、リストラだ、グローバルスタンダードだ、株主重視だと、日本的経営を否定するような考え方が強くなっている。だが、この考え方に則った改革が必ずしも十分に効果を挙げているとは言えず、今の日本には、一体何をすべきか方向性が見えず、苛立ちの気分すら蔓延している。
 そのような中で、本書は、経済学の本でありながら、通常経済学で使う「企業」という概念でなく、日本人にとって馴染み深い「会社」に焦点を当て、読みやすい文体でかつ論理的に、現在の資本主義では米国的な株主主権的な会社はグローバル標準にならないことを説明する。本書を「目からウロコ」といって読む人は多いと思う。
 本書が、会社には「法人名目説的な仕組み」と「法人実在説的な仕組み」の二面性があるとして分析を進めているのは目新しいが、本書の中で用いられている説明の多くは、これまでよく言われてきた議論をベースにしていると言って良い(たとえば「知識や能力が重要」「差異が利潤を生む」など)。
 では、本書の何がが良いかというと、一つには、世間一般で言われるが真に正しいか論証されていない命題(たとえば、株主利益の最大化、ITが資本主義を変えた)を主張するあまたの書籍と異なり、本書が、根源的に、会社とは何か、資本主義の本質はどう変化したか、それに会社はどう対応すべきか等を、既存の枠組みを組み合わせて探求し、その結果を、一般の人々にも分かりやすく、かつ一貫した論理で説明していることである。
 さらに刺激的なのが、そうした分かりやすい論理展開によって得られる結論が、今日の通俗的な議論、たとえば、会社は株主主権的であるべきだ、といった議論と逆になってしまう、ということだ。
 つまり、グローバル化、IT革命、金融革命により、差異が容易に解消され、モノやカネ等の標準化が進んでいる(たとえばおカネや機械設備などは安価となり世界中で皆が利用できる)。このため、企業が利潤を上げるには、独自の差異性が必要で、そのためには知識資産、それを生み出す人間の知識・能力が重要になっている。この人間の知識・能力を活かして独自の差異性を創造するにふさわしい企業組織とは、株主主権的な会社ではなく、「法人実在説的な会社」、即ち会社それ自体が純粋なヒトとして、組織特殊的な人的資産を外部(株主など)から保護し、従業員による創意工夫が内発的に行われることを促す形態なのだ − というのが著者の主張だ。それでいて安易に日本的経営復活論になっていないところもよい。
 ただ、本書にもいくつか問題があると思う。たとえば、全体として主張が「仮説」の域を出ていないこと、また、著者のいう人間の知識と能力が活かされる企業組織を作ることは実際容易でなく、その困難性にも理論的に言及すべきでなかったかということが問題点として挙げられよう。
 しかし、より重要と思うのは、著者が主流になるという「法人実在説的な会社」には企業変革のモメンタムが乏しいという欠点があることに触れていないことだろう。このような会社では、市場環境の変化等により不必要になった組織特殊的な人的資産や変革の障害となる企業文化も保護されてしまうし、経営者等のモラルハザードを是正する契機も小さいであろう。そのことは、会社自身、ひいては経済システム全体のパフォーマンスにも影響しかねない。現代の日本でコーポレートガバナンス、株主重視の経営などが叫ばれているのは、まさにこの問題の存在が背景にあるからではないだろうか。組織特殊的な人的資産を保護する「法人実在説的な会社」が主流となる、と言われると、若干留保を付さざるを得ない。
 とはいえ、本書は、現代の経済の「本質」に迫った上で、業績の低迷する日本企業にも今後の方向性を示唆した、他の一般向け経済書ではあまりお目にかかれない内容に富んだ一冊である。一読に値する。

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2005/07/01 02:11

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2006/05/05 00:57

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2017/02/02 14:38

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2007/08/28 20:56

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2007/12/23 22:50

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