紙の本
私がこのタイトルで思い出すのは夢野久作の本ではなくて、有栖川有栖『スイス時計の謎』に出てくるロックバンドなんだね
2004/01/02 20:13
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
単行本は1993年に他社から出版された。東雅夫の解説によれば、『黄泉がえり』が好評なため、新潮社が梶尾の他社の作品で埋もれたものに目を向けた気がする。それはともかく、このタイトルを見ただけで、ミステリファンなら、すぐにピンとくるだろう。有栖川有栖『スイス時計の謎』の「あるYの悲劇」に出てくるインディーズ系ロックバンド〈ユメノ・ドグラ・マグロ〉だ。
いやあ、10年も前の本に今出たばかりの短編の話が、うん、これってミステリだねと思える人は、かなりのマニアで、案外若い人は素直に信じてしまうのではないだろうか。もちろん、有栖川の短編の話は本当だが、梶尾真治が意識したのは、戦前に出版された天下の奇書、夢野久作の『ドグラ・マグラ』であることは、たしかに間違いがない。
それは東の解説を待たずとも、冒頭の「…ヴィイィーンンンーンンンー。」や、舞台が古い大病院であり、夢野のそれは脳病院が舞台であったのに対して、こちらは総合病院とはいうものの、痴呆気味の老人の入院患者が多いなどという点が、似ていないわけではない。ICUに入院しているのが右翼の老人、福岡久作というのは、九州の地名と夢野久作を足して二で割ったとも言える。
由井美果は、横嶋市立第二高校を卒業後、高等看護学校にはいり、今年から培尾総合病院に勤務し始めたばかりの新人看護婦。これは彼女が経験した、悪夢のような深夜勤務の話である。彼女と一緒に夜勤をするのが柚桂子、先輩たちいわく悪魔のような婦長で、美果が見る限り50代というよりは30代に近い女性。
夜、寮から出てきた看護婦に車の中から声をかけてきた、チンピラと呼ぶのも恥ずかしいような二人のバカガキは19歳のフリーター鶴井薫平と塗装業の見習い小山亀吉。彼らに追われたことを告げようとした警備員のうち、酒に溺れて婦長に怒鳴られている60代の老人がケンタッキーこと内藤。
高野千晶、ボーイフレンドの岡田達行、50代の会社員、20代のインターン、30代の離婚早々の男、45年以上天井裏にひっそりと潜んで暮らすジョン・デュー・キルロイ、尊皇攘夷を旨とする防共創櫻塾の塾長の福岡久作、90歳近い老人、塾の先輩でお姐言葉を使う30代の巨漢の早乙女、生き方に迷い福岡に救われた16歳の少年小泉瀬彦。
ICUにいる福岡の様態が急変した。コールに返事をしない安田医師を探しに行った由井が見たものは、部屋で首を切断された男の姿だった。深夜に響き渡る絶叫。彼女たちに忍び寄る、妄想にとらわれた二人のチンピラ。そして、どこからともなく現れる謎の生き物。恨みを抱いた軍人の幽霊。
これは決して『ドグラ・マグラ』の世界ではない。解説の東も、最初のうちは久作に捧げられたオマージュみたいな書き方をしているが、途中で無理に気付いて、アメリカのB級SFホラー、あるいはスプラッター・ムービーと言い直している。たしかに、そのほうが判りやすい。それは話の流れにも言えて、東がいうように夢野の作品が、閉じた迷路のような構造であるのにたいして、梶尾の作品は、もっとシンプルで、どちらかというと誰にでも楽しめる、ただしその分「孤高の」といった独特の高みをもたない作品にはなっている。
少なくとも、この作品はパロディでもなければパスティーシュでもない。あくまで、夢野の世界のほんの一部を利用した、まったくの別物で、ここまで違うと、むしろこじ付けのようなタイトルころ、不要ではなかったのかと言いたくなる。そこで、有栖川の『スイス時計の謎』インディーズ系駆け出しロックバンドの名前〈ユメノ・ドグラ・マグロ〉になる。どうも、私にはこの名前のほうが、口にしやすくって記憶にに残るんだなあ、これが。秀才梶尾だけれど、私は『黄泉がえり』を薦めます。もちろん、骸骨のように痩せた薄気味悪いアイドルが出る映画ではなくて、小説のほう。何度読んでも、涙がでてくる。
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このタイトルをみてすぐ「チャカポコチャカポコ」を連想し、手に取ってみました。
うーむ。後味が・・なんとも。
解説が面白かった(夢野久作ってこんな顔していたのか)(2003.5.23)
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旧陸軍病院で次々おこる不思議な出来事、悲惨な姿でいなくなる人々、見たこともない不思議な物体・・・。この病院に隠された秘密とは。新米看護婦、その他メンバーの命は!?
一言でいえば、SF病院ホラー。途中で説明があったが、培養体やショロホフスク体、ドグマの地下なるものの存在がいまいち理解しきれぬまま。
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夢野久作「ドグラ・マグラ」を明白にもじったパロディタイトルが印象的だが、内実は病院を舞台にした異次元怪物の侵略によって巻き起こされるSFホラー。
異次元生物を巡って、暗躍を開始する謎の組織「マ=グロ」、真実を隠匿している病院上層部、そして突然の恐怖に巻き込まれたヒロインの看護婦らの視点から繰り広げられる群像劇パニックの快作ではある。
ホラーというほどスリリングなストーリーに感じないのはコミックテイストを思わずからか、というのは個人的感想。B級SFアクション映画風味な活劇調子かな。
パロディ元である「ドグラ・マグラ」のような狂的恐怖性格とはまったくの別物と考えるべきである。
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倍尾総合病院で勤めだして始めての深夜勤務に当たった新人看護士の由井美果。共に一晩働くのは口うるさいと有名な柚婦長。何か失敗でもすれば婦長の格好の餌食となる。そんに緊張した面持ちの中、重病患者の異変と緊急外来の呼び出しが起きる。パニックを起こしかけるも婦長より指示されたとおり外来の対応へと向かう美果。そこで奇妙な小男から「ま・ぐ・ろ」という言葉を聞く。そしてそこに現れる銃を持った男が二人……。何かが病院内で起き始めていた。
タイトルで一目瞭然ですが、これはオマージュ作品であります。(だからわざと続けて読んだ)
冒頭の相似にちょっとほくそえんだのは私(笑)とは言うものの、内容は当然ながら違います。
展開が早いのでサクサクとは読めるが、最終オチは想像出来ました――と言うか、私だったら、個人的にこういう結にするだろーな。と思いその通りだった。が正しいですね。
舞台が病院。しかも曰くつきなのでホラー風味。でもまぁそれほど怖くは無いでしょう。
綺麗に纏まってる作品であるとは思います。
漱彦がどういうポジションに着いたのかが気になるのと、あのお婆さん連中はとても好きです。
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夢野久作やらなんやらのパロディとかいうから期待したけど…てんでダメ。どこがオマージュなのか…そう言うことが失礼に値しそうなくらい。笑。そもそも文章が下手すぎてどうしていいのやら。星1つもつけたくなかったので「評価しない」です。
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気持ち悪かったー。
起きている状況をリアルに想像すると相当な気色悪さなのに、出てくる人達が滑稽だったりして、なんとも不思議な読後感。
小学生くらいの頃に江戸川乱歩を読んだ時と似たような感じ。
ただ、ほかの作品と同じで、粘っこくないんだよな。
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新米看護婦の美果が経験する初めての深夜勤。緊張する彼女の眼前で次々と奇怪なことが起きていく。病院内を徘徊する怪しい人影、右翼メンバー、「マ=グロ」と名乗る黒服の男たち、顔なし軍人の幽霊、不定形の生命体……悪夢のような一夜が明けた末に彼女を待つ信じ難い現実。
作品自体は10年前に出たものだが、今回は「黄泉がえり」のヒットでこちらも文庫化されたらしい。
タイトルは夢野久作の一大怪作「ドグラ・マグラ」へのオマージュを装ってはいるが、内容は冒頭の“音”くらいのもの。それでも乱歩や海野十三などかつての怪奇探偵小説、はたまた1940、50年代アメリカのB級怪物ホラーに対しての愛着も垣間見える。このチープさが好きな向きにはオススメできるかも。
……ホラーってよりアクション、エンタテインメントって感じだが。
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触手のおぞましいバケモノが看護婦を深夜の病棟で襲う話…かと思いきや、パラレルワールド的なSF要素も。
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幽霊がでてきたり、マッドサイエンティストと
ヌルヌルクリーチャーのホラー・オカルト?
謎の組織と不気味な男たちはサスペンス?
次元の違う世界とパラレルワールド、超能力を持つ老婆
のSF味付け。
年上の女性への淡い恋心、あの人とこの人の過去の関係
シリアス・ドタバタ・コミカルなやり取りの二人の男女
認知症の人々のドラマを交えて、たくさんの人が
非業の死を遂げる。けど、グロくなく、特に怖くなく
あまり悲しくもない。ごちゃ混ぜ娯楽作。
ただ、ショロホスクという名前(地名)と
最終盤現れるもう一つのショロホスク体の名前(おしい?)
それにオチを読み終わると、
私たちが見ていた世界が何だったのかなんだか分かる。
(小説だから当然といえば当然)
とりあえずタイトルの元になった「ドグラ・マグラ」を読む。
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何となく荒削り感があり、非現実的なストーリーゆえ描写から一瞬場面がどのようになっているか少々分かりづらかった。どうせなら映像で見てみたいかな。
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SFホラーなんだろうけど、カジシンさん詰め込みすぎ。他作品の推理、怪奇、SFの要素を無理なく少しでも盛り込もうとの努力は分りますが、結局はしらけさせる部分あり。特にラスト付近のパラレルワールドに至ってはぶち壊しの苦笑しかない。大筋の展開はホラー映画の定番に近いのでキャラの問題になるが、人命に対して無感動に近くなってるし・・楽しんだのは作者だけかも(笑)
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◆ネタバレがありますのでご注意ください
ここにはなんの新しいモチーフもない。ありきたりの怪物にありきたりのキャラクター。大勢が出てきてワイワイガヤガヤだが、結局ただのドタバタ劇で終わってしまう。あまりにも緊張感のない文章のため、途中から「これはコメディなのか?」と思ったほど。なんか高校の文芸部とかにこういうの書くヤツがいそう。この程度の作品にこのタイトルをつけたとすると、確信犯的サギみたいなもんだ。夢野久作や江戸川乱歩もこれがオマージュと言われたんじゃいい迷惑だろう。
最後の物語の舞台となっている世界自体がこの世界とは異なるパラレルワールドだった(ショロホフスクとツングース)というのは「おっ?」と思ったが、それとて物語全体からみれば「だからどうした」というレベルにすぎない。
解説を書いている文芸評論家も無理やり褒めつつも結局先達作家の偉大さにほとんど終始してしまっているのも笑える。
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雑誌に発表されたときに、途中までしか読んでいなかったので、10年以上たってようやく最後まで読んだ。
まぁ、連載されていたのが獅子王だけに、そのオマージュとなっているドグラ・マグラよりはやや軽めのタッチではあるが。
最後はちょっとやられた。