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高い評価の役に立ったレビュー
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2003/10/11 21:14
アメリカと「もてない男」
投稿者:メル - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画を用いた現代思想入門。ロラン・バルトのテクスト論やフロイト−ラカンあたりの精神分析などを、映画を使って説明する。たしかに分かりやすい本なのだが、内田氏の以前の本に出てきた話などが含まれているために、本書はそれほど新鮮さは感じられない。
そんな中でも、一つ面白いと思ったことがある。本書のなかで、アメリカ文化・社会に見られる「女性嫌悪」を考察している箇所がある。内田氏は、この「女性嫌悪」はアメリカ特有のものではないかと論じ、それではなぜこの嫌悪が生じたのかということを、歴史的に考察をしている。このあたりの分析は本書を読んでもらうと良いのだが、私が注目した箇所は、以下の部分である。
《私が指摘したいのは、ただ「男だけの集団」に「希少性ゆえに決定権を持つ女」が侵犯してきて、男たちの「ホモソーシャルな集団」の安寧秩序を乱し、多くの男に「選ばれなかったトラウマ」を残したために、「選ばれなかった男たち」が女の悪口を言って、その傷跡を癒すという自己治癒の物語が、ほぼ二世紀にわたってフロンティアの全域で繰りかえし語られたはずだ、ということだけである。》
この内田氏の仮説が妥当かどうか、きちんと考察すべきところであるが、一つの解釈(あるいは物語)として興味深い意見である。この女性に「選ばれなかった男たち」というのは、言い換えれば「もてない男」のことだろう。「もてない男」たちは、もてる男を嫌悪するのではなく、男を選らぶ女を嫌悪する。ここには、決定権が男ではなく女にある、ということが男性中心社会では嫌悪されることなのだろう。それはともかく、内田氏の仮説からアメリカ文化とりわけハリウッド映画は、実は「もてない男」を癒すための文化だったのではないか、アメリカ社会は「もてない男」の社会だったのではないか、とそんなことを想像してしまった。「もてない男」の視点から、アメリカを分析することが可能なのかもしれない。
低い評価の役に立ったレビュー
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2004/11/27 11:45
胃の腑に落ちない
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
衒学的、つまり惑乱的に読者を現代思想でケムにまくという類いの本ではないとは思いますが、現代思想が先にあって、その枠組みの中に強引に押し込むかのように数々の映画を解釈しているという印象がつきまとう本でした。
例をあげるならば、映画「大脱走」を「父殺し」の物語であるとし、あげくの果てに脱走のためのトンネルを女性器の記号だと記していますが、こうした性的解釈は万人の了解が得られるとは思えません。フロイト好きのかたには受けるのでしょうか。
さらにいえば映画のほぼラストでスティーブ・マックイーン演じるヒルツが脱走に失敗して独房入りするというシーンがありますが、ここで彼が壁に向かって孤独にキャッチボールする姿を指して、グローブは「空な腔洞(ママ)があって、なにものかを容れることができるという性質を備えた」女性器の象徴だと言い切っています。これは牽強付会ではないでしょうか。
多国籍の連合国軍捕虜たちの中でもとりわけマックイーンというアメリカ人がドイツ軍の独房で野球の道具を手にしているという場面から私たち観客が感じるのは、(もちろん女性器などではなく)自由を尊ぶ「アメリカ魂」だと思います。欧州にはないスポーツ競技の道具をあえて登場させることの意味はそういうことでしょう。百歩譲って性的に解釈しても、野球はアメリカ的マチズモという男性を象徴している気がします。
ことほど左様に現代思想に無理矢理映画作品を幅寄せしているかのような、危険牌の匂いが残る一冊です。
ただし、「若き勇者たち」や往年の西部劇映画では、描かれるはずのものが描かれていないことによってある種の政治的メッセージや歴史的に歪曲された情報が観客に刷り込まれるという解析は、大変有意義だと感じました。映画は我われに類型化された情報(例えばステレオタイプ的な人種観など)を大量に浴びせる装置となりうることをあらためて感じさせました。