紙の本
個人的には、シリーズ中最高の出来だと思う。伸坊の真摯な態度、弟子を見守るかのような河合の優しい対応、お互いが高めあう、学問はこれでなくちゃあいけません
2004/11/04 21:15
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「南伸坊が各分野の第一人者と語り合うシリーズ。今回は日本で初めてユング派精神分析家の資格を取得した河合隼雄に、心について教えを乞う」個人講座。
生物学、免疫学、解剖学に続く本だけれど、伸坊の理解がどんどん深まっていくのがよくわかる。
予習と13の講話からなる構成で、各講、そのテーマについて先生との話から、南がそれをどう理解したかが書かれ、それについて河合から答えのような長い説明が入り、先生の一言というまとめで終わる。伸坊のイラストが各講にはいって、内容も高度なのに読みやすい。これはシリーズの姿勢もあるだろうが、とくに河合の考えに合致しているからだろう。
話は、催眠術、心理学の科学性、心理療法の実態、人間の行動、人間関係、箱庭、ロールシャッハなどどれも身近なものばかりだが、河合のわかりやすい説明もあって、スンナリ頭に入ってくるところがありがたい。さらに言えば、南伸坊が真面目で、自分のできる範囲で少しでも正確に理解しようとする姿が心地よい。
面白いのは矢張りフロイトだろう。フロイトの精神分析というのは、あくまで、人間の心理を理解する一つの解釈に過ぎないが、それをめぐって対立があり、ヨーロッパとアメリカでは受け容れられ方が異なることがうまく説明されていて、次第にアメリカのカウンセリングの背景にあるものが浮き彫りにされてくるのは、その道の人には常識ではあっても素人には大変ためになる。
また、心理療法が、医学と教育という二つの流れからなっているというのを読むと、なぜ文学部の先生がこの分野で発言をしている理由がよくわかる。ま、医学者と違って文学者だから、責任がないから気楽だろうなあというのは、私の偏見だろうけど。それから、「ガイダンス」という日常使っている言葉が、教育用語だということも、この本で初めて知った。
また、精神分析というのはあくまでフロイト個人の手法というか考えをいうので、アドラーは個人心理学、ユングは分析心理と名乗り、折衷派というのもあって、皆がそれぞれ独自の名前をもつというのも、心理学を理解するうえでは案外重要なことかもしれない。正直言って、武道や空手の流派争いを連想するのが一番近いかもしれない。学問なんざぁ、所詮そのレベルのものではある。
心理療法における転移と逆転移、それが生むであろう複雑な人間関係なども真剣に語られる。ここらは、ハーストの事件と関連付けたりすれば、もっとわかりやすい。うーむ、京極夏彦の関口巽などは、この症例に近いのかもしれない、などと納得。
それから、箱庭療法の結果について、伸坊が芸術家としての発言を短絡的にしてしまうのに対し、河合がそれを嗜め、次回に伸坊が素直に反省をするくだりや、物語の重要性を南が指摘したのに対し、自分で言いながらそれを重要視してこなかったことを反省する河合という、先生と生徒が互いに高めあっていく姿は、大げさな表現だけれど、感動的である。
ともかく、南伸坊の切れのよい解説と深い理解が印象的で、それはシリーズ中でも最高ではないかと思ってしまう。そのせいか、どれが先生の言葉で、どれが生徒の言葉か分からなくなる。分かるといわない素直さも心地よい。まだ奥があるということの面白味、学問の楽しさが伝わってくる。それがあとがきで、今後の勉強会への参加するという南の言葉に繋がっていく。このシリーズは、もしかすると私たちの科学離れを止めるものになる大変なものかもしれない。
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心を癒す勉強を始めようとして3冊目に買った本ですが、心理療法の歴史から手法や問題点などがすんなりココロに入ってくる内容。私はこの本のおかげで、臨床心理学に俄然興味が湧いてきました!
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高校生の頃かな、カウンセラーや精神科医になりたいと思った時期があった。
今考えれば無謀な夢だったのかもしれないけど、そういうふうに、誰かを助けられたらいいな、などど考えていた。
簡単にいってしまえば、あの頃の自分は思春期真っ只中で、いろいろ考えたり、悩んだりしていたんだと思います。
だから、そういう夢をちょっと抱いたのでしょう。
さすがに今は思いませんが。
でも、この本がもし、あの頃あったら、よくわからなかったカウンセラーと精神科医の違いとか、理解できて、進んだ道は違ったかな…なんて。
「ものが豊かになった分だけ、こころのほうも努力しないといけない。」
この言葉がとても印象に残りました。
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これシリーズものだったのねぇ。養老猛か多田富雄のを拝読すればいがった!
失敗。あたくしも精神科通いしたですし、今もした方がいいのでしょうが
なんだかなあ。なんだかなあ。なのですよ。ただ単に。
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人間の心の中は判らなくて当たり前。判らないものを判らないなりに判ろうとする過程が重要なんだな。何でも厳密に要素還元すればいい訳じゃないし、そんなことは出来ない。
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先日なくなられた河合隼雄さんの授業。
河合さんの講演は何度か聞きましたが、ほんとおもしろいです。
そんなおもしろさがぎっしり詰まってます。
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心理療法家の河合隼雄さんが先生役をつとめ、エッセイストの南伸坊さんが生徒役をつとめるという形で「心理療法」や「心理学」の世界に迫っていくという内容。個人授業を通して河合さんから学んだ内容を南さんがレポートとして文章にまとめ、それに先生が一言申し述べるという感じの構成。心理学の歴史から心理療法の話や「物語」など、心理学が扱う広範囲の事柄の要点が分かりやすく書かれている。フロイトの精神分析学やユングの分析心理学、臨床心理学などの入門編として、非常に分かりやすく参考になった。
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なんとなく、再読。
どちらの方も基本的に好きなんです。
ただ、どちらも一見のらりくらりとしているので結果、この本はのらりくらりとしております。答えはこの本では見つからないです。きっと。
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心理療法…というか、臨床心理学というものに対して抱いていた疑問について、いくつかの解答が得られた。
心理療法、精神分析、カウンセリング…似て非なるものの違いと共通点や、「心理学は科学なのか?」についての回答、どれも興味深かった。
南伸坊の質問は実によいところをついている。僕が以前から疑問に思っていたところを聞いてくれている。
臨床系の友人と会うときに、さーっと読み返したい本だな。
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最近、はまってる河合隼雄の本。
この本は入門本とはいえ、
まるっきり知識がない分野なので
毎日少しずつ読んだ。
河合隼雄の本を読んでから
臨床心理士とかカウンセラーの仕事って
おもしろそうと勝手に思っていたけど
この本を読むと、本当に大変そうで、
ストレスのたまるお仕事。。。
人間の幅とか経験とかも不可欠だよなあ。
それにしても、毎回思うことだけど
河合隼雄は本当にユニークで
この本もとてもおもしろかった。
生徒役の南伸坊のつっこみもするどくてよかった。
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ユング派の第一人者、心理療法士の河合隼雄さんに南伸坊さんが生徒として入門するような本です。南さんの素人ぶりは、ほんとうにまっさらなくらいのものなので、何も知らない読者が読んでもついていけますが、そのぶん、深みにかけるところがあるかもしれません。
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河合隼雄と南伸坊の心理療法個人授業を読みました。心理療法士の草分けの河合隼雄から南伸坊が講義を受けるという形式の心理療法の解説書でした。ちゃんとした訓練と知識なしに心理療法の仕事をしてはいけない、という指摘は生兵法は怪我の元ということわざを連想します。心理学の解説書を読んでいるとなんとなくわかったつもりでいますが、これが一番よくないのかもしれません。二者択一の質問に対しては必ずしもどちらかで答える必要はない、という指摘も、先週読んだ掌の中の小鳥のテーマとダブっていて、私はいつもそこまで深く考えて応対しているかなあ、と自分を振り返ってしまいました。人間はどうも豊かな状態で生きていくように設計されていない、という指摘も私の考えと合致するところがあって納得できました。
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人の心ほどよくわからないものはないと思うけど、でも、だからこそ何がどうなっているのか知りたい。で、いつものように河合先生の本を読み、結局「わかってきたこともあるけど、わからないこともありますなあ」とか言われてしまうわけなんだが、それがまた心地よいという不思議。
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ガロの編集長とユング派心理療法家の対談。
よく僕が使う言葉で
ナンバー1は「少女」ですけど、
ナンバー2は「こころ」です。
「こころ」ってなんだろう。
「人の心ってどこまでわかるのですか」
と質問されたときに、
心理療法家の河合隼雄先生は
何と言ったと思いますか?
人の心理を治療しているしている
心理屋さんはどのように答えたでしょうか。
A.「わかってたまるか(笑)」
あらためて思うとそのとおりですよね。
それがわかってない人が多いと思いますけど
僕だけでしょうか。
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いやはや、心理とは難しい難しいとは思ってはいたが、改めて分からないことだらけだと痛感。ただ、その「分からない」と言う河合隼雄の言葉には深みが感じられた。
「発見的に分かる道をともにするためには、”分からない”と自覚する謙虚さが必要だが、これはまったく自身がないのとは異なる。自信がないのはハナからまったく分からない人である。”分かる”に分からないをつなぐ人は分かる自信と分からない謙虚さを持ち合わせている」
つなぐ。大事なことだと思います。下線引いたり太字にできるならそう表示したいです。
全てはわからない。分かる部分に分からないをつなげて分かろうとすることが臨床心理士の仕事だと河合隼雄は言う。臨床心理士の仕事とは何か?-100人の臨床心理士に聞けば100通りの答えが返ってきそうである。自分の中で、この答えはその一つ目として心にしまっておくことにします。
それにしても、この河合隼雄の本をもっとたくさん読みたくなってきた。(この本は河合隼雄だけが書いた訳じゃないですが・・・南しんぼうさんのかいた部分もおもしろかったdす、もちろん。)次は「人の心はどこまでわかるか」に挑戦してその後色々読み込みます。