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紙の本
家族を外から支えているもの
2010/11/09 15:27
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
文章が美しい。同じ作者の他の作品と比べても、この作品の文章は一段と味わい深い。他の作品だと、あまりにも一流の職人とか一流の商人とかにこだわりすぎて鼻に付くことがあるのだが、この作品にはそれがなかった。すべての登場人物の喜怒哀楽がきっちりと描かれていて、人間らしさを感じた。それは快感と同時に苦痛を感じるほどだった。
魅力的なヒロインであったおふみが、愚かで子供を苦しめる母親になってしまったこと、母親の歪んだ愛情の注ぎ方のせいで、本来、仲良く育つことができたであろう三人の子供たちの間に、溝が出来てしまったこと、母親に一番可愛がられた長男が、その甘やかしのせいで、だめな男になること、この愚かな母親が更に次男の嫁をいじめること、それはもう、一行読むごとに、苦痛を感じずにはいられない。
どんなに深い理由があろうとも、どんなに無理もない事情があろうとも、児童虐待をしてはいけない、たとえば、子供を間引くのよりはましだろうとか、女郎屋に売り払うよりもましだろうとかいうことは、言い訳以前のことだ、たとえ、江戸時代であっても。と、私は、声を大にして叫びたい。たとえ心の底にはどんなに深い愛情があったとしても、だからって上辺は意地悪に振る舞ってもいいってもんじゃない、上辺の優しさも両方とも大切だよ、とも、言いたい。
そんなことわかっていても、自分ではどうにもできないままに、死を迎える、おふみ。そのとき、家族の絆を結び直す力が、外から働きかけてくる。
物語は、同じ作者の『まとい大名』の舞台だった徳川吉宗の治世の次の時代から、『かんじき飛脚』の舞台となる松平定信の寛政の改革の頃までの数十年間に亘る。天明の大飢饉があり、棄捐令がある。それらも主人公たちの人生に影響を与えるが、それ以上に、主人公たちに深い関わりを持つ老夫婦の存在が、強く胸を打つ。
永代寺門前の豆腐屋相州屋の主人が死ぬ場面で、私は泣いた。年老いた夫の手を、同じく年老いた妻が握り、声をかける。閉じた眼が、うっすらと、開く。何度か繰り返し、もう、眼が開かなくなっても、妻が声をかけると、少し力を入れて手を握り返してきた。だが、最後には、もう、何も返ってこなくなった。妻はまだ手を握っていた。
雨戸を閉じた相州屋の外を、若い豆腐屋の祝言の行列が通り過ぎていく。上方から来て、上方の豆腐を作って売り始めた定吉と、定吉の豆腐が深川の人々に受け入れられるまで支え続けた、おふみ。彼らを暖かく見守ってきた長屋の人々。相州屋の年老いたお内儀は、明り取りの窓を開けて、行列をのぞいた。心からの喜びでいっぱいになって、そして、悲しみでいっぱいになって、泣き崩れて。
長い物語の中程で、私は、「あっ」と、声を出して驚いた。あっ、この人は……!と、この物語を貫く仕掛けと、登場人物たちが結び合っている不思議な縁を想った。その後、読み進む間の興味の半分は、常にそのことにあって、最後にはすべてが明るみに出るのだろうか、と気になって仕方がなかった。だが、終わりが近づくに従って、だけどこれですべてがわかって大団円になったら、まるで、歌舞伎だよなあ、と思った。歌舞伎も好きだが、この小説にはそれは似合わない。そして、それで良かったのか悪かったのかわからないが、結局、歌舞伎のような大団円には、至らなかった。
それでも、最後までおもしろかった。定吉とおふみの子供たち、栄太郎、悟郎、おきみ、彼らひとりひとりの幼い心に、どんな悲しみや傷が残されたか、そしてまた、悟郎とその嫁に来るおすみとの間にも、幼い頃から、どんな深い絆があったかが語り尽くされる。
読者の方にはわかっても、登場人物たちにとっては、すべてが明るみに出るわけではない。それでも、物事は落ち着くところに落ち着いて、何度も引き裂けそうになってきた家族の絆がしっかりと結び直され、溝を埋めることができた。それで私は、ますます、縁の不思議さを想った。実際、縁というものは、そういうものだろうとも、思った。何か、ありがたいような気もした。それは物語だから、そんなふうにうまく運んだんだ、と言えばそれまでだけど。
紙の本
家族のすれ違いと衝突、憎しみと悲しみ、深い情愛と結束を描いた豆腐屋京やの二代記
2010/01/04 19:30
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
<あらすじ>
希望と不安を胸に京から江戸へ下ってきた豆腐職人・永吉。
新兵衛店にやってきた永吉は、幸運にも明るく快活で世話焼きの娘・おふみと知り合った。
おふみと次第に仲良くなっていった永吉は、おふみを嫁にもらい、新兵衛店で始めていた豆腐屋京やを二人で力を合わせてもり立てた。
初めは売れなかった京風の豆腐は、彼らを応援する人の隠れた援助によって、徐々に得意先を増やし、受け入れられ始めた。
跡取りとなる長男・栄太郎をもうけ、忙しくも順風満帆かと思っていた矢先、不注意から栄太郎の頭に傷を付け、手に火傷を負わせてしまった。
おふみが『命にかえても大事に育てる』からと八幡様に栄太郎の命を助ける願いをかけてから、京やの取引きが広がっていくものの家族の歯車が狂い始めた。
<感想>
山本一力氏が直木賞を受賞した作品で、京から江戸へ出て豆腐屋を始めた永吉のサクセスストーリーと、すれ違う家族の愛情と深い所で繋がっている堅い結束が見所。
物語は二部構成となっており、第一部では、永吉とおふみが周囲の援助と努力によって豆腐屋の取引を広げていく様子と、やがて歯車がずれていく家族を描いている。
第二部では、歯車が狂ったあとの兄弟妹に焦点が当てられ、兄弟妹の視点や、ずれていた歯車が正常にかみ合っていく様子を描いている。
話の展開は、山本作品定番の、障害と縁と努力によって主人公が成長していくものだが、その障害を縁によってなんだかんだとうまく乗り越えていく豆腐屋や、散々すれ違っていたものが、おふみの幼なじみの取りなしによって一つにまとまっていく兄弟妹など、都合良く感じられる所もある。
しかし話の流れに違和感はなく、努力と自分たちを大切に思ってくれる人たちへの感謝が清々しい気持ちにさせる。
また物語に多く描かれている、おふみの行動に端を発する家族の混乱は、おふみの思いこんだらとことんまでいってしまう性格や、理由も聞かずに相手を責めるなど、家族がすれ違っていく原因が分かっているだけに、もっと話し合えばいいのにと歯がゆい気持ちになる。
しかし、おふみの幼なじみであり栄太郎が世話になっている鳶の親方の取りなし、渡世人の傳蔵の粋な行動によって、家族の気持ちが一つになる様子は、その歯がゆい気持ちを消化させ、家族が一つになったという爽やかな安心感に満ちている。
最後には数々の困難を乗り越えて、一回り大きく成長する様子は、山本一力作品の定番。
最後に結束する兄弟妹には堅い絆が感じられたが、残念なのは家族全員が幸せになっていないことだろう。
少々厚みのある本ではあるが、物語は起伏富んでおり、翻弄する荒波の様子や家族がそれをどう乗り切っていくのかが読者の興味を惹き付けて、すぐに読み終えてしまう作品になっている。
紙の本
もう一歩の理解と我慢
2005/09/04 02:01
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まっすぐ - この投稿者のレビュー一覧を見る
人が、多くの人の中で互いに支えあい、認め合い生きていくのは大変難しい。そう思うと同時に、「もう少しだけ進んでみよう。」、「その角を曲がってみよう。」そんな、お気楽だけど、前向きな姿勢は崩さない、こういう心がけが、目の前を明るくするのかもしれないと、感じる物語でした。
紙の本
あなたの心に熱き魂が戻ってくる熱き家族小説です。
2004/11/02 23:40
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作は現役の時代小説作家では乙川優三郎さんと人気・実力を二分しているといっても過言ではない著者の代表作と言われている作品で第126回直木賞受賞作品である。
受賞当時、同時ノミネートされた乙川さんが落選し山本さんが受賞されたので腑に落ちないと思ったものだが、本書を手にとってそれが杞憂だったことがわかった。
作風的には乙川さんが端正な文章で“武家もの”を得意としているのとは対照的に、著者の山本さんは力強い文章で“市井もの”を描いて熱く読者に訴えかける。
上方から江戸に出てきて豆腐やを開業した永吉とおふみ夫婦。味覚の違いにもめげずに商売は軌道に乗って行くのだが…
まず関西人として、主人公が関西弁(ここでは上方弁かな)なのが親しみやすい。
2部構成となっていているがこの構成も見事成功している。
第1部では子供が出来てから夫婦に少しづつ亀裂が入って行くのが辛くって仕方なかったけど第2部でその悩みも解消される。
親の死によってあとに残された子供たちがいかにそれぞれのわだかまりをなくして行くかを入念に書いている。
徐々にそれぞれの登場人物の思いが伝わってくる筋書きとなっていて、最終的に家族の絆を上手く描いている。
ひとりひとりの人物造型もきっちり出来ていて読みやすい。
特に妹の“おきみ”ちゃんがとっても健気な性格でいい。
あと、豆腐の値段や家賃等かなりリアルで臨場感を醸し出している点も見逃せない。
このあたりが他の作家と比べて描き方の秀でたところなのだろう。
小説を読む醍醐味のひとつに、普段日々の忙しさや現実の厳しさに追いやられた読者が当たり前のことなんだけど忘れがちになっている、生きて行く上でとっても大切なことを思い起こさせてくれる点があると思う。
本書なんか典型的なその例であって、本書を読まれて子供の幸せなくして親の幸せはないんだということを分からない読者っていないであろう。
きっと読者の脳裡に焼きつくのである。
とにかく、いつの時代も子供を思う親の気持ちは同じなんだなと再認識させてくれた点は作者に感謝したく思う。
仲の悪いようにも見えた永吉とおふみ夫婦が、子供たちのあいだのわだかまりが消えて結束できた事によって、理想の夫婦だったんだとわからせてくれたような気がした。
親が子供を思う気持ち、裏返せばこれは子供にとっても同じ事である。
なぜなら、長男“栄太郎”に腹が立ってた読者も最後にはきっと彼の気持ちもわかって本を閉じる事が出来るであろうから。
作者の筆力の高さを実感できた証拠であろう。
時代小説ってとっつきにくく感じられてる方が多いかもしれない。
確かに文章は現代物ほど早く読めない方もいらっしゃると思う。
ちなみに私もそうである。
しかしながら作者が伝えたいことは現代物となんら変わりない。
いや、むしろシンプルなのである。
そういう意味では、本作は時代小説というジャンルに留めずに“究極の家族小説”と捉えて読まれたらより楽しめることだろう。
トラキチのブックレビュー
紙の本
あんなに仲のよかった夫婦なのに、いがみ合うようになってしまう・・・。
2023/02/02 19:38
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:まなぽん - この投稿者のレビュー一覧を見る
■評価を「4」にしようか、「5」にしようか、迷って、「4」に。
■夫婦の「仲」、親子の「情」-人間の不思議な気持ちがよく描けていると思います。
■政策を立案するときも、この人間の不思議な気持ちを大切にしなければいけないと思います。
■理路整然とした政策は説明しやすいけれど、それだけでは、人間は支持してくれないのでは・・・。
■小説なんだけれども、人間の気持ち・情を大切にした政治を行うことの重要性をあらためて感じました。