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紙の本
人の縁というのは、このようにつながってゆく。という目の覚めるような一冊。
2005/06/29 22:46
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:和田浦海岸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
私は飽きっぽい性質なので、画集とか写真集というのは手を出さないようにしております。写真集は値段の割りに、一度眺めると満足してしまい。そのまま埃をかぶっていることになりやすいから。
それでも天才アラ〜キの奥さんを撮った写真は、捨てられずに取ってあり。今回紹介する写真家の藤本巧「韓くにの風と人」も、ありました。
そんな気になる写真家の一冊。そこに鶴見俊輔の語りが、まるでナレーションみたいに京都を背景にして響きあうように付いております。
あとがきで藤本功は、こう書き始めております。
「本書の掲載写真は、私にとっての自分史とも重なる記録である。これまでにお世話になった先生がたを撮影してきたものをまとめ」たとあります。
司馬遼太郎さんをはじめ藤木さんが縁で交わった方々のひろがりがそのままに写真として定着して残った具合の一冊になっております。
そこに「京都に住みついて55年。生まれ育った東京よりも長い」という書き出して鶴見俊輔さんがご自身の交わりの円を交差させる書きぶりが見どころ読みどころです。
また「『富士正晴画遊録』の撮影の折、富士先生の親しかった京都の文化人につぎつぎと紹介していただくことができた」とあり、その当の富士正晴さんを撮った写真が、竹林に住む狸や狐がでてきそうな農家風の家と、ご本人。そしてその家の書斎を撮って必見です。その写真につけた鶴見さんの言葉はこうして始まります「京大わきの進々堂コーヒー店で、声をかけられた。この人からくるはがきの筆跡にひかれた。・・」。
桑原武夫夫婦の写真も印象深かった。
そこについている鶴見俊輔の文といったら
「桑原武夫の仙台の家の二階に、土居光知が置いてもらっていた。・・土居光知は、ベイシック英語の研究者であり、基礎日本語を工夫し考案した人でもある。私は、戦中に日本に戻ってから、土居さんの著作を読み、敗戦後に自分の書いた論文を・・送った。仙台では桑原武夫家におられたことなど知るよしもなかった。
土居さんは、私の『ベイシック英語の背景』を読まれ、食卓の話題にされた。そのことが、桑原さんと私との機縁になった。
土居さんとも桑原さんとも、当時、私は面識もない。土居さんはやがてなくなられ、私は一度も面会の機を得なかった。・・」
もう一人だけ。外村吉之介を語って最近亡くなった塚本邦雄に及ぶ、1㌻ほどの文も鮮やかな印象を残し、一冊の塚本邦雄論の序章を読んでいるような気分でした。
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