紙の本
反米ナショリスト内田のアメリカ「論」
2007/07/14 22:23
21人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「どうしようもないな、これは」。これが本書を読んでの感想だ。
内田はアメリカの専門家でない素人、街場の視点が重要なのだという。この視点自体に違和感はない。しかし、英語を学ぶ、アメリカで学ぶ、アメリカで学びアメリカを専門とする連中は「米国の手先」「米国の精神的奴隷」であり、従って日本人のアメリカ専門家の論はどれもこれも信用出来ない、だから「街場の視点が重要なのだ」ということになると疑問を持たざるを得ない。同じようなことを原田武夫も言っていたが、私には「私は英語が出来ません」という劣等感の屈折した表現にしか聞こえない。敵を知るということは戦いの基本であることは、かの孫子も言っている。英語を敵性語と看做す戦前の軍部のような発想に私はついていけない。
内田は「アメリカは遠からず没落する」といきなり断定する。そしてその論拠としてロレンス・トーブなるユダヤ系カナダ人未来学者の議論を、あたかも預言者であるかのごとく引用する。しかし「米国でやがて凄惨なユダヤ人虐待(ポグロム)が起きて、米国からユダヤ人が雪崩を打ってパレスチナに移住するエクソダスが起きて、米国経済は崩壊し、米国は没落し、世界経済は重大な試練を迎えるだろう」などというトーブのトンデモ論を、内田が称揚すればするほど内田の知性そのものに重大なる疑問符を多くの人が覚えることに内田は気がついているのだろうか(ほかにもこのトーブは「日中韓で儒教経済圏が出来る」などという妄説をSAPIO誌上で展開していた)。
米国には「子供嫌い」という児童虐待の文化があって、その動かぬ証拠がホラー映画「チャイルドプレイ」がシリーズ5まで出来た事実だなどいう断定を読むと「内田、正気か!」と叫びたくなるし、映画「サイコ」のモデルとなった連続殺人犯を例に取り「シリアルキラーは米国に端を発する」などという断定を聞かされると「ハア?」と叫びたくなる(「トリビアの泉」に習って「ハア?」ボタンを商品化し、売り出したくなる)。19世紀の英国で既に切り裂きジャックが登場しているではないか!
米国では社会の上層と下層で子供殺し・児童虐待が連綿と行なわれてきたなどと内田はいい、「こういうことは日本ではありません」などと嘯くが、江戸300年間に渡り日本人が「間引き」を行い、世界で最も大規模に日本で人工中絶が行なわれていることを内田は知らんのか?(アメリカでは今も人工中絶=殺人と看做すキリスト教団体がいる)。
鉄人28号という日本のアニメを「鉄人=心の無い武力=自衛隊」といし、鉄人を操る金田少年を「汚れを知らない無垢な少年=憲法第9条平和憲法」という「分析」は、もうただの思い込みの羅列に過ぎない(「ハア?」ボタン20回分!)、」
そもそも米国のように巨大で多様で日々進化し拡大している世界一の超大国を「米国とはこうだ」と捉えようとするところに無理がある。たまに見た米国映画をネタに「米国そのもの」を論じるようとするが、私には映画を言い訳にしながら、ただ反米ナショリストである内田が、その思いのたけをぶちまけているだけにしか見えない。少なくとも論たる論になっていない。
内田は現在の日本の状況を「対米従属」と看做し、それを情けなく思っている。一体「対米従属」のどこがいけないのだろう。「対米従属」の結果、日本は有史以来最高の繁栄を手に入れ、我々はかつてこの日本列島に住んだどの人間よりも幸せな状態にあることを、内田はなぜ素直に喜ばないのだろう。現在の繁栄は吉田が選択した「対米従属」外交の成果である。これを吉田は「近道」と呼んだ。しかし左翼出身の「反米ナショナリスト」内田はこれが我慢なら無いらしい。そこから論を出発するから、何を論じても「穴」に落ちている。これで大学教授をやっていられるのだから日本という国はつくづく内田にとって住みやすい国だと思う。
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トラブルが起きたときに、自分の責任はとりあえずなかったことにして、声高に「責任者出てこい」と怒鳴る他責的な人々が急増しているという印象がある。
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アメリカを論じたという印象よりも、アメリカのシリアル・キラーや訴訟問題、ジャンク・フード、アメコミ、キリスト教などを話しのタネにしてそれらの話題について広汎にわたって論じているという感がします。アメリカを結構批判的に描いています。
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中国論よりも先に出ていたんだね。中国論のあまりの面白さに、続けて買ってしまった。こっちの方が軽く読めてしまう。子どもの虐待のくだり(映画を引き合いにしているところ)では、ものすごーく納得してしまった。だって、チャーリー〜はあまりにもシュールな映画だもん。言われてみると、あの虐待のされようはないよなぁ…。このシリーズの続編に期待!
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アメリカに伏流する様々なエートスを分析している。特に「子ども嫌いの文化」「被害者意識の強い文化」など、日本にとっては自動的に海外の代表とされるアメリカと言う国が、実に特殊な国であることを論述しており、知的な興奮に満ちている。
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図書館で借りる
内田さんの文章は理路整然としていて本当に読みやすい かんなりいい
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「原因とはうまくいかないものにしかない。これはジャックラカンの至言です。原因が何かという問いを立てるのは原因がわからない時だけ。例えば殴られてなぜ殴るは聴くがなぜ痛いとは聴かない」(33)
「ドイツイデオロギー、フランスにおける階級闘争、ヘーゲル法哲学批判序論」(82)
「国民の大多数がカラスは白いと言ったらそれでいいんじゃないかという、ある意味クールでシニックな統治システム」
「ユダヤ人陰謀説」
「『福音派』と呼ばれるキリスト教徒は一般に、キリストによって生まれ変わったという自覚、すなわち『ボーンアゲイン』体験を有し、主として新約聖書の言葉を文字通りに解釈し、その教えと権威を強調して、積極的に福音を説き、迷える人々の魂を救うとともに、社会全体の救済にも関心を寄せる人々を指す」(221)
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私はわりと好きです。ちょっと理屈っぽかったり、まわりくどかったりする文章が(笑)まえがきのアメリカはなぜ靖国参拝を抗議しないのか?いつも中韓ばかり気になってて考えたこともなかったな。あと何気に辛口なところもいい!
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日本とアメリカの関係性のねじれとその病識を示した一書。
樹先生の本はいつも非常に知的興奮を覚えます。
中身を僕なりに要約すると、
「アメリカ人は、あたま筋肉」で、「日本人はその愛人」といったところでしょうか。
日本を占領したマッカーサーは、アメリカを大人とし、民主主義的に未熟な日本を「12歳の子ども」と呼んだことは有名です。しかし、自分が熱いコーヒーを股にはさんで、蓋を開け、こぼしたことを、お店のせいにするくらい、甘ったれの「涙の訴訟社会」なわけです。
裁判で勝ったから正しいじゃんって言う人いますが、そりゃどうですか。
でも、こんな人周りに増えてやしませんか。
やっぱりアメリカ化(あたま筋肉化)しているのかもしれません。
自分も含め(笑)
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歴史学的思考が、過去から未来に向かって、一直線に進む「鉄の法則性に貫徹された」歴史の流れを想定するとしたら、系譜学的思考はその逆に、現在から過去に向かって遡行しながら、そのつど「分岐点」をチェックして「どうしてこの出来事は起きなかったのだろう?」というふうに考えてみる事です。「起きてもよかったのに起きなかったこと」について「それがなぜ起きなかったのか?」というような問いを問いを立てる習慣が重要である(p56)
私たちが「伝統」とか「固有の」とか思っているもののかなりの部分は伝統的でもオリジナルでもなく、ちょっと前にどこかから入ってきたものです。その歴史的経緯を忘れてか、知らないふりをしてか、社会集団の純血性とか文化のオリジナリティとかを言い立てるのは、あまり品のいいことではないように思います。(p68)
アメリカのような国はアメリカ以前には存在しなかった。これはアメリカを論じるときに忘れてはならない基礎的事実です、・・・アメリカという国の特徴はまさにこの「理念先行」「完成型先行」という順逆の狂った在りかたに存すると言っていいでしょう。(P100)
基本的な事実として、現状日本という国のアイデンティティはアメリカについて考えるということなしには立ちいかない。つまり必須な知の一つであるということだ。
他、魅力ある卓見が敷衍されているので一読の価値あり。
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根拠に乏しいところも感じられたが、あまり語られないアメリカの姿、暮す人々の考え方などはとても興味深いものでした。物事は現実よりもまず理想ありきと言う主張には納得。
柔らかい言葉で書いてあるので、読みやすかった。
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なんでアメリカ論?と思いながら読み始めたけど、まえがきにその理由が書かれている。
わりとさくさく読める。
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日本は戦後、外交を含んだ政治的側面のみならず
『ナショナル・アイデンティティ』そのものを、アメリカを真似る、あるいは相対化して見る、ということで築いてきた、ということを様々な側面からアプローチしたもの。
そしてその『アメリカ』風の価値観ないしは歴史観のあれれ?な部分をトクヴィルの著書を多々借用しながら解説していく。
ただそれにしても(面白く)気になったのは、現在のパックス・アメリカーナを崩すものが反ユダヤ主義ではないか、という議論。
それから今や同盟的友好国となったかつてのカタキであるロシアとアメリカとのおそろしいまでの歴史的共通点(そこにもユダヤ人がからむ)。
確かにアメリカ=外国という錯覚のもとに暮らしているのは事実であり、しらずとその価値観に染まってはいるのだろうけれど、それがまあここまで歪み切ったものだとは知らなんだ…。
面白がりながら反省できる本でありまする。