紙の本
実話なのである
2024/05/26 14:05
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
シカゴを代表する建築家となったエリック・バーナムはシカゴ万博を取り仕切ることになった。まさにその頃シカゴにやってきたホームズ医師の周辺では女性が次々と姿を消していく……というと小説のあらすじのようだが、なんとこれは実話なのである。
紙の本
やっぱりパリ博覧会ですよね、有名なのは。でも、アメリカではシカゴ博のほうが愛国的にも知名度が高い。ま、外から見ると今も昔もシカゴはマイナーな存在なんですけど
2006/07/09 23:33
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
表紙はちょっと見にボンデージスーツを纏った女性が足を開くという何ともいかがわしい雰囲気のものですが、よく見れば女性曲芸師が単に仰向けになって足で机を回しているだけのもこの本の中身もエログロ皆無のシカゴ万博を描くノンフィクション。
ちなみに、ちょっとアブナイ雰囲気のカバー写真は Stev Pyke/photonica/amana、装幀は坂田政則だそうです。造本はともかく、洋書のムードがプンプン漂ってきます。
扇情的なところ皆無の読みやすい翻訳は野中邦子。あとがきにある読み始めたら止まらなくなったという彼女の発言は、読んだ人だけが共感できるものかもしれません。理解を助けるために巻頭に著者の言葉と、主要登場人物二人の文が出ているので引用しておきます。
「十九世紀末のシカゴ、工場の煙と汽車の喧騒のさなかに二人の男が住んでいた。二人ともブルーの目をしたハンサムな男で、ともにみずから選んだ職業に並みはずれた腕前をもっていた。(中略)一人は建築家で、ニューヨークのフラットアイアン・ビル、ワシントンのユニオン・ステーションなど、アメリカの有名な建築を数多く手がけた。もう一人は殺人犯だった。その後の歴史において何度も登場することになるアメリカの原型の先駆ともいえる存在、すなわちと会の連続大量殺人犯である。」 エリック・ラーソン 物語を始める前に
「けちくさい設計図を描くな。小さなプランには人の血を沸きたたせる魔法がない」 ダニエル・H・バーナム 一八九三年シカゴ博覧会建設総監督
「私のなかには生まれつき悪魔がいた。どうしても人を殺さずにはいられない。詩人が霊感を得て歌わずにはいられないように」 H・H・ホームズ医師 一八九六年の告白
話が展開する1890年頃とは、どのような時代だったのでしょう。有名なジャック・ザ・リッパーの五件の連続殺人事件が起きたのが1888年です。その翌年、1889年にはパリの万博が行なわれ、特に、その目玉である高さ300メートルを越える鉄製の塔エッフェル塔は、フランスが建造物の分野における世界一の座についた証として、アメリカを圧倒しました。ちなみに、この年、日本では大日本帝国憲法が発布されています。
そして翌1890年、シカゴの人口は百万を越え、アメリカでニューヨークに継ぐ第二の都市になっていました。この時、主人公の一人ダニエル・バーナム43歳、建築事務所の共同経営者で途中で亡くなることになるジョン・ルート40歳。もう一人の主人公ホームズことハーマン・ウェブスター・マジェット30歳。シカゴ万博に景観設計で参画したフレデリック・ロー・オームステッド68歳。そして危険な男パトリック・ユージン・ジョゼフ・プレンダーガスト22歳、とりあえず以上が重要人物です。
そして1893年の万博を迎えるまでの3年間で、彼らの人生はシカゴ同様大きく変っていきます。ある人は道半ばにして病に倒れ、あるいは成功して富を得、はたまた身分を偽り罪を犯し、名声を失い人を転落をし、騙され捨てられ、事故や事件で命を落とします。そして翌1894年には、日本は日清戦争に突入していくのです。
張りぼてでしかなかった万博の実態は今も昔も、洋の東西も変わりはありません。遅れる工事、運営者たちの足の引っ張り合い、開場当初の入場者の少なさと、経営危機、危険と隣り合わせのイベント。面白そうだとなれば、事情など無視して押し寄せる群集、暴利を貪ろうとするホテル業者・・・。それらが淡々と描かれていきます。
本の案内の多くは、この作品があたかも連続大量殺人犯シリアルキラーを描くものかのように謳っていますが、それは実際とは違います。あえていうならば、主人公はシカゴ万博、といっていいかもしれません。
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舞台は19世紀末シカゴ。躍進する新興商業都市には野心を抱いた者たちがひっきりなしに流れ込んでくる。混沌としたエネルギーが渦巻く欲望の大都会。田舎にいては手にすることのできない力や快楽を夢みて男も女も集まってくる。肩を聳やかす摩天楼のはるか下方、饐えた臭いの漂う運河には腐敗した馬の死体が浮かび、ウィンディシティと呼ばれるシカゴ名物の風に乗って大規模精肉加工場から絶えず流れてくる悪臭が街を覆っていたとしても。
1889年に開催されたパリ万博は大好評のうちに終わり、博覧会を象徴する鉄製の優美なエッフェル塔は、それまでいくつかの建築物により鉄と鋼鉄の分野における第一人者を誇っていたアメリカの自尊心をいたく傷つけた。この痛手から恢復するにはパリを超える博覧会を開き、エッフェル塔が霞んで見えるモニュメントを打ち立てるより外はない。コロンブスのアメリカ発見400年を記念して大博覧会を開くというアイデアが生まれた裏にはそんな理由があった。
ニューヨークを抑えて開催地に決まったのはアメリカ第二の大都市シカゴだった。常々ニューヨークに劣等感を抱いていたシカゴの名士達は、これを機会に食肉加工の街というイメージを払拭したいと考えた。その栄誉を担うことになったのが、バーナムだった。すでに盟友ルートと共に数々の建築をこなしてきたバーナムだったが、開催まで二年あまりしかない時間との闘いは、はじめから絶望的に見えた。
この物語は、バーナム達が次から次に襲いかかる数々の困難を乗り越え、後にシカゴ大博覧会と呼ばれる一大イベントを奇跡的な成功に導くまでの労苦と獅子奮迅の働きぶりを、バッファロー・ビルやドライサーなどの多彩な登場人物によって立体的に描いてみせたものである、と言いたいところだが、ちがう。この奇妙な小説はベンジャミンゴムの木のように、はじめから二本、或いは三本の幹が捩れて縺れ合うように仕立てられているのだ。
博覧会という植木鉢から生じた三本の芽の一つは、到底実現不可能に思える博覧会を可能にする魔術、今ひとつは殺人、そして狂気である。殺人者の名はホームズ。英国に登場した名探偵の名を借りた偽名である。青い瞳と物柔らかな会話、そしていかにも自然に触れてくる手が印象的なハンサムな青年医師。人心を籠絡させる天性の魔力は逮捕後、看守たちでさえその虜になったほど。
彼は、持ち味の人誑しの力を遺憾なく発揮し博覧会会場近くの一等地を手に入れると、ガス管を引き、窯を据えた。板ガラスを焼くのだと言っていたが、請け負った職人には火葬場の窯そっくりに見えた。博覧会開催が近づくにつれ多くの人が集まってきていたシカゴでは地方から出てきた女性が行方知れずになっても、騒がれることもなかった。
ホワイトシティと呼ばれることになる博覧会場がしだいに形を表してくるのと、呼応するように殺人犯は次々と女性を殺していく。その手口の巧妙さと、人の命など歯牙にも掛けない非情さは、奇妙なことに、次々に襲いかかる自然災害や人為的な災害に毅然として立ち向かうバーナムと重なって見える。成し遂げることの価値はともかく、その達成にかける熱意と、不可能を乗り越えてゆく手並みの鮮やか��故に。
荒れ地に魔術のように現れたホワイトシティは、記録的な入場者数を誇り、閉会する。一人の狂人の手で暗殺された市長の葬儀という恰好の幕引きの場を得て。壮麗さを誇った建築群は、閉会後、職を失った労働者たちのねぐらとなって荒廃していく。アメリカを大恐慌が襲おうとしていたのだ。
タイタニック号の遭難現場に駆けつけるオリンピック号の船上から始まる小説は、読み始めると一気呵成に最後まで読まされてしまう。交互に展開される二つの物語のどちらも息をつかせぬ面白さでぐいぐいと読者を引っ張っていく。しかし、作者に言わせると、この小説はフィクションではない。登場人物の言葉や手紙の文面は、図書館や文献に残された資料から忠実に引用されているという。作者の構成力には舌を巻くしかない。
強風に砂埃が舞い、馬車に踏みしだかれる泥濘のシカゴの街がまた好きになった。
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1893年のシカゴ万博と同時期にシカゴで起った連続殺人事件を並列して取上げたノンフィクション小説なんだけども急ピッチで進んでいくシカゴ万博の工事に内包される圧倒されるパワーとシリアルキラーの持つ冷たい情熱対比が本当に光と影という感じ引き込まれた。
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題材としては面白い話のはずなんだけど長いだけでイマイチ面白くなかったのは著者のせいか訳者のせいなのか
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HHホームズを期待すると、ちょっとあてが外れるかも。1893年のシカゴ万博と同時代のシカゴの、光と闇(闇成分多め)。
万博の立ち上げから、「アメリカを変えた」と言われる数々のイベント、そして想定外の幕切れまで。万博の喧騒の裏で、一人の凶悪犯が営業していた…
エジソンからテスラ、バッファロービルからヘレンケラーからフランクロイドライトからフランクボームから、当時のアメリカの有名人が総浚えで出て来るあたり、世紀の大イベントだったんだなあと。ウォルトディズニーまで名前出て来る!
ホームズについては、むしろ人間関係が中心で、犯行の場面はほとんどないし、あの館の解説もなし。ただ彼がどういう生いたちで、どれだけモテモテで人を欺す技術に長けていたかと語られる。結局、彼は営利が第一だったんかねー。
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1800年代シカゴで開かれた歴史的な博覧会。
その博覧会を現実のものとして成功させるために奔走した建築家たちの物語と、それと並行して密かに行われていた恐怖の連続殺人事件。
時系列に沿って、建築家バーナムと殺人鬼ホームズの物語が語られる。
博覧会への盛り上がりと、ホームズの殺人の享楽へののめり込み方がリンクして描かれる。
建築界にとって、このシカゴ博覧会は信じられないような偉業であり、後生まで語り継がれるべき仕事であるのだろう。
ホームズ事件もまた、類を見ない凄惨さで信じられない事件となり、現在まで語り継がれている。
人の生き方は、なぜこうも違ってしまうのか。
あの時代、あの場所にたまたま居合わせたひとたちの運命とは何と他人に左右されやすいものか。
実話。
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アメリカ人の知人に薦められて手に取った。
同時期に起きた2つのアメリカ史上に残る出来事を綴ったノンフィクション。
不可能に思えたシカゴ万博の成功、猟奇的な連続殺人犯。
それぞれ題材はとても良いのだが、文体が淡々としており抑揚がなく、記載も細かいのであまり引き込まれず読んでいてとても疲れた。
英語で読めば良い本なのかもしれない。
ドラマ化される予定らしいので、そっちで見た方が楽しめそう。