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紙の本
ベッキーさんシリーズの第一作。細部まで行き届いた緻密な構成の日常ミステリーを満喫できます。英子とベッキーさん、どちらが探偵訳かあるいはワトソン役か微妙なところが2人の魅力をより際立たせています。
2009/08/04 17:40
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
北村さんの決して良い読者とは言えない私であるが、好きなシリーズを述べよと言われれば間違いなく『スキップ』『ターン』『リセット』の「時と人シリーズ」をあげます。
心が澄みわたるような気持にさせてくれる作品群であり、ジャンルとしたら文芸作品と言えるのでしょう。
そしてミステリーシリーズものとしては次の3シリーズがあります。
『円紫シリーズ』『覆面作家シリーズ』そして本作を含む『ベッキーさんシリーズ』。
先日直木賞を受賞した『鷺と雪』は北村薫のベッキーさんシリーズの第三作にあたります。
そして今回手に取った第一作にあたる本作『街の灯』、当初単行本が出たのが6年前になります。
そう言えばこの作品は単行本発売当時は“本格ミステリーマスターズ”から出たのですね。
さて本作、歴史の勉強だけでなく雑学が身につくという感じの作品ですね。
舞台は昭和初期の東京の上流階級の世界。
ヒロインは「わたし」こと花村英子で某財閥系列の商事会社社長令嬢で14歳ぐらい。
そしてそのお抱えの運転手として花村家にやっててきたベッキーさんこと別宮(べっく)みつ子。
ベッキーさんの登場からこの物語は始まります。
この物語はいわば二段構えとなっていて、そこが読者をひきつけるのだと思えます。
まず各編それぞれの細部まで行き届いた緻密な構成のミステリー仕立て。
そして何よりもミステリアスなのはベッキーさんが、なぜ運転手となったかですね。
読者は後者に関する興味を持ちながらめくるページを止めることができません。
ベッキーさんという名前は19世紀の英国作家であるサッカレーの『虚栄の市』の主人公の名前から取ったもので、冒頭の中編は
北村さんの作品の登場人物の特徴はやはり品格があるということでしょうか。
それはまるで北村さんの文章の美しさが乗り移った感がしないでもないのであるが、大きな期待を本作に抱いて読むと肩透かし食らうかもしれませ
んね。
ただ、本好きも十人十色で、北村さんに何を求めるかによって本作に対する満足度って違ってくると思います。
たとえばスケールの大きな感動的な話をと期待されると苦しいですよね。
そのあたり私的には少し不満な点もあるのはありますが、割り切って読まれる方、あるいはミステリ好きな方は堪能できると思います。
本作は殺人事件が二件も勃発しますが、通常北村さんや加納朋子さんが描く世界は“日常ミステリー”というより“日常ミステリ”と呼ぶ方が的を射た言葉なのでしょうね(笑)
かつては覆面作家として活躍された時期もあった北村さん、本当に女性の主人公を描かせたら天下一品ですよね。
本作の英子の好奇心旺盛で感受性豊かだけども、良家の子女っぽさを損なわない描き方は、やはり時代が昭和初期だから余計に巧く描かれているように感じられました。
全三編からなる一作目ですが、いろんな出来事が登場します。
服部時計店の時計台、チャップリンの無声映画、本当に懐かしいですよね。
もっとも印象的だったのは表題作でしょうか。
これは北村さんらしからぬと言えば失礼かもしれませんが、女性の悪意を描写している部分がありハッとさせられますね。
私的には主人公の英子ちゃんじゃなかってよかったと胸をなでおろしたのですが、他の読者の方はどう感じたのでしょうか。
英子=素直な少女、同級生=したたかな少女、2人のコントラストが見事だと思います。
本作においてはどちらがホームズでどちらがワトソンかといえばちょっと微妙ですよね。
ベッキーさんの方が、立場上控え目で助言的な役割を演じていることには変わりないと思いますが。
物語はベッキーさんといろんな経験をすることによって英子が成長して行くと言えるのでしょうね。
付け加えておきたいことがあります。
それは巻末に記されている参考文献の多さです。
これには正直驚きました、作者に敬意を表したいと思います。
そしてなにより清潔な文章が特徴である北村さん、安心して読めますよね。
次作も2人の活躍を楽しみにしております。
紙の本
探偵とも助手とも言えない、そんなベッキーさんに一目惚れです。
2010/07/05 01:21
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みす・れもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めて手にした北村薫氏の作品。
舞台は昭和初期の東京。
主人公「わたし」は社長令嬢の花村英子。
そこへ、新しい運転手として雇われてきたのが別宮(べっく)みつ子という若い女性だった。
まだまだ上流階級の女性はお供無しで外出することもままならない時代。女性の運転手というのも珍しい。英子の父は優秀な経営者らしく斬新な思考の持ち主だったのだろう。
英子は別宮に初めて会ったとき、たまたま読んでいたサッカレーの「虚栄の市」のヒロインの名前が頭に浮かび、以来、彼女を「ベッキーさん」と呼ぶことにする。
ミステリーはそれなりに読んできたが、ベッキーさんのようなスタンスの人物は珍しい。探偵というわけでもなく、かといって助手というわけでもない。ベッキーさん自身が謎めいていて、「何者なんだろう」という興味をかき立てる存在なのだ。
世間知らずのお嬢様(賢くはあったと思うが)である英子を、少しずつ交わす言葉で徐々に教育していく様は、読んでいて気持ちがいいほど見事である。
昭和初期のお嬢様方の会話や街の雰囲気、なんだか緩やかな空気が感じられて、それもまた心地よかった。
本書は「ベッキーさんシリーズ」の第1冊目。
「虚栄の市」「銀座八丁」「街の灯」の3作品が収められている。
第2冊目は「玻璃の天(文春文庫)」。
第3冊目は、直木賞受賞作である「鷺と雪」。
「鷺と雪」で「ベッキーさんシリーズ」は最終巻となるらしい。
早く一気に読み切ってしまいたいものだ。
紙の本
持っているものと、持っていないもの。上流階級から見た帝都、東京。ある意味、現代への警鐘ともとれる深い余韻の残る作品。
2010/03/08 23:23
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よし - この投稿者のレビュー一覧を見る
ベッキーさんシリーズ3部作の第1作。
舞台は昭和初期の東京。主人公の英子は、財閥の社長の令嬢。通っている学校は、代々武士の家や貴族など、当時の上流階級のお嬢さんが通っている。英子のお抱え運転手としてやってきたのがベッキーさん。そして2人で謎を解くことに。
この作品の面白さは、北村作品ではすでにおなじみ。様々な本ですね。ベッキーさんの名前の由来にもなっている『虚栄の市』なんて、読みたくなりますね。巻末にはちゃんと参考文献もあるし、これまた本好きには楽しいですね。
ベッキーさんは父の「知っている人の娘さん」というだけで、その素顔は謎を秘めています。運転の腕だけではなく、武術も射撃もすごい。ボディガードでもあるんですね。おまけに頭脳明晰なんです。ベッキーさんに助けられて3つの謎を解いていきます。
新聞の変死事件の謎に挑む「虚栄の市」。英子の兄が友人から出された暗号とは…「銀座八丁」。映写会の上映中に遭遇した知人の死の真相とは「街の灯」。
わたしが好きなのは「街の灯」ですね。これは、あの映画名です。その内容にもそっていて、当時の社会を浮き彫りにしています。持っているものと持っていないもの。当時の社会も今の社会も結局、同じ形態なんですね。いつの時代もそうなのでしょうが、当時の上流階級の視線から語られているところが、この作品の狙いどころだし、うまい。ベッキーさんの語りが冴え、はっとさせられます。決して当時だけでなく、現代に対しても警鐘しているところも感心させられますね。
街には軍人の姿もあり、不穏な空気が押し寄せています。
幸せな日々も崩壊することを読者は知っています。そうした時代の中で、ベッキーさんと英子が解く謎と歴史の大きな渦。
ベッキーさんの謎も秘めて、第2作に続きます。
深い余韻の残る作品でした。さすがの北村さんです。