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紙の本
ベッキーさんシリーズ三部作、第一弾。只のスーパーヒロインものにあらず、ミステリーの要素は満載。
2009/11/03 14:08
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぜのぱす - この投稿者のレビュー一覧を見る
北村薫は好きな作家のひとりです。
以前に落語家の『円紫師匠』と女子大生から社会人に至るまでの『わたし』が織り成すお話のシリーズが好きで読んでいました。もちろん、その他の作品も好きで読んでいましたが。
海外に住んでいる関係で、暫くは、北村薫作品とは遠ざかっていましたが、今年の直木賞受賞のニュースを聞き、先日、日本に帰省した際に久々に北村薫を数冊買って来ました。
と云っても、肝心の受賞作は単行本で重い(し、それに値段が高い・笑)の で迷った挙げ句買わず、文庫本ばかりですが。
知らずに買ったのですが、どうやらそのうちの2冊は、まさに、その受賞作に続く、新しいシリーズものでした。
時代背景や登場人物は全く異なりますが、円紫師匠とわたしシリーズを何故か彷彿とさせます。
第一作となるのは、街の灯。昭和初期の設定であり乍ら、主人公のひとりは上流階級の花村家の『女性』お抱え運転手の別宮(べつく)みち子。別宮の主な仕事は、もうひとりの主人公、花村家の令嬢、英子の学校への送り迎え。英子は二人きりの時は、彼女をベッキーさんと呼び、色々な相談事をする中でもある。故に、ベッキーさんシリーズと呼ばれているらしい。
このベッキーさん只者ではない。剣術に秀でており無頼者を追い払ったと思ったら、射撃の腕も可成りのもの。通学の行き帰りに、英子が相談に持って来る日常の謎に対し、的を得たヒントを控えめにさり気なく出して、英子の推理を正しい方向へ導いて行く才気。具体的な記述はないが、美人に違いない(笑)。
こう書くと、只のスーパーヒロインものかと思われるかもしれないが、そこは北村薫、ミステリーの要素は満載である。
街の灯には、「虚栄の市」、「銀座八丁」、「街の灯」の三篇が収録されているが、因に、英子はサッカレーの『虚栄の市』のヒロインにちなみ、彼女をベッキーさんと呼ぶ、と云う設定になっている。
個人的には、この中で、「虚栄の市」が、上に述べたベッキーさんの渾名のくだりもそうであるが、話の流れ上時代背景の説明の為に登場しているとばかり思っていた江戸川乱歩作品の記述が、後に実は謎解明の鍵となっていた、など工夫された構成が上手いと思った。
幸いシリーズ2冊目、『玻璃の天』は手許にある。只、未だ、勿体なくて読み始めていない。3作目の直木賞受賞作も買わなければ・・・。
紙の本
ミステリーとしてだけではなく、昭和初期の時代の雰囲気も楽しめる作品です。
2010/05/19 03:06
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:依空 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は『ベッキーさんシリーズ』の第1作目にあたり、このシリーズの第3作目の『鷺と雪』は第141回直木賞を受賞された作品です。
北村さんの作品はどこか品のある文章と、優しく柔らかい眼差しが魅力だと思っています。本書の昭和7年という時代と、女子学習院に通うお嬢様という設定が、北村さんの魅力とマッチしていて、とても好みの世界観でした。
本書は『ベッキーさんシリーズ』と言われていますが、本書の主人公は女子学習院に通う花村英子。花村家は士族出身で、英子の父は日本でも5本の指に折られる財閥の系列の商事会社の社長であり、英子はその令嬢です。そして英子の専属運転手として現れたのがベッキーさんこと、別宮みつ子でした。
本書を読む前は、『ベッキーさんシリーズ』と言われていることもあり、ベッキーさんがホームズ役として謎を解いていく役だと想像していました。ところがページをめくってみれば、実は謎を解明するのは英子で、ベッキーさんはさり気なくヒントを出して英子を導く役となっていました。ただ、ベッキーさんはただ謎を解くきっかけを作るだけではありません。英子は上流階級の箱入りの令嬢らしく、無垢な少女です。英子が様々な謎を通して感じ取ったことや、身分差で生じる生活の違いに対し思ったこと。それらの上流階級の令嬢らしい、時に傲慢な視点に対し、ベッキーさんは静かに英子を諭すのです。英子は様々な謎やベッキーさんとの交流を通して、世の中を知り多くのことを考えるようになりますが、本書はそんな彼女の成長物語でもあるのでしょう。
そしてベッキーさん。彼女は眉目秀麗な上、博識で、さらに武道にも長けているというスーパーウーマンです。なんでも出来てしまうということは時に嫌味にもなりかねませんが、彼女の使用人として常に一歩引いて控える態度と、時に必要とあらば主人を諭していくあたりには好感が持てる女性です。彼女の謎めいたところも魅力の1つですね。英子の成長と共に、ベッキーさんの正体が気になるシリーズです。
3編の短編が収録された本書では、北村さんらしい日常の謎が1編、人が亡くなる事件が2編の構成になっています。ただミステリーとは言っても、ストーリーの半分ほどは時代の描写と上流階級の暮らしぶりが中心となっていて、園遊会や軽井沢の別荘、銀座の夜店や服部時計店、資生堂パーラーなど、昭和初期の雰囲気をたっぷりと味わえるようになっています。緻密で丁寧な時代の描写に、ミステリー小説を読む以上の楽しみがある作品です。