紙の本
中身は、どう考えても村上春樹のほうが上でしょ。でも、装幀とカバー画となると・・・。思い切って村上もクレストブックで出してみたら・・・。話は変わりますが、このお話に出てくる政治はリアリティないですよ
2006/10/21 20:10
6人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
村上春樹さん、2006年のノーベル文学賞を逃したこと、残念でした。とまあ、そんなことを書いたのは、今回の本のあとがきでは全く触れられていませんが、クルコフの名前を世界に知らしめた前作『ペンギンの憂鬱』のあとがきに、彼が村上春樹のファンだ、と書いてあったからです。そして、たしかに前作には春樹ふうのスメルがプンプンとしたのですが・・・
それにしても、Illustration by Junzo Terada Design by Shinchosha Book Design Divisionと表記されたコンビによるカバーは素晴らしいですね。相変わらずのレトロタッチで、いい意味で50年以上の時間を潜り抜けた感じがします。Junzo Teradaの原画を見たいです。画集が出たら買うこと必至です。
で、クレストブックには、カバーの後、あるいは折り返しに内容紹介や海外での書評の抜粋が沢山でていますので、まず写しておきましょう。まず、内容紹介。
「女の子を追いかけてばかりいた男が
ウクライナの大統領に!
政争の中、移植手術を受けた心臓の「持ち主」と名乗る謎の女が現れて・・・・・・。諧謔を込めて飄々と描かれる闇の世界。
『ペンギンの憂鬱』著者の最新長篇。」
評ですが
「この長篇は、青年と壮年と老年という一人の人生の三段階を同時進行で物語り、初めは三重奏として、そして最後はすべての音楽が一つに繋がり、壮大な円環を閉ざす交響曲のように、「私」の深い孤独を全編に響かせる。飄逸なユーモアは健在だ。ミステリー仕立ての巧みな語り口にも、思わずうならされる。だが『ペンギンの憂鬱』の作者はこの新作で、より奥の深い世界に足を踏み入れたように思える。ユーモアが悲しさとほぼ同義語になり、一人の作家の実感が世界の客観となるような想像力の境界線を、クルコフは今も歩いている。」
長岡秀俊(ジャーナリスト)の文ですが、ちょっと違うかな、って思います。まず、お話の三つの流れですが、それを青年と壮年と老年とするのが、無理です。それから、最後に三つの話が一つになる、というのも違います。それに、交響曲って円環を閉ざすもの?とも思います。
しかも、ミステリー仕立というのは、最後のほうになって突如でてくる話で、全体の4/5くらいはそのような気配もありません。飄逸なユーモアというのも、どちらかというと影を潜めた感じで、これを「より奥の深い世界に足を踏み入れた」とはいわないでしょう。むしろ、一層軽くなり、読物になったというべきでしょう。
次の評の「移植手術を受けた彼の心臓の「持ち主」と名乗る謎の女性が現れる」というのも嘘。だって、この女性の素性はすぐに明かされて、謎にはなっていないんです。最後の評の「嘘のような、しかし実にリアルなストーリーだ。」も、ねえ。肝心の、普通の男以下でしかない、まさに女と金以外に興味がなく、しかも、それすらドーデモイイ、っていう感じの自堕落な男が大統領になる、っていうのがリアルじゃないわけです。
それ以外、例えばウクライナの置かれた状況、ロシアとの関係、行政の硬直、ソビエト連邦崩壊後の混乱、或は政府内部の抗争などは、リアルなんですが、キモの部分が、ありえないわけです。ブッシュもクリントンもコイズミもブーニンほど愚かではない。いや、世界の歴史においてブッシュ、コイズミっていうのは最低線でしょ。で、ブーニンというのは盛りの付いた動物でしかない。それが政治家、というのならまだしも、大統領はない。それをユーモアとして見るなら私たちにはドンガバチョがいるんだから、こんなおとこのしようもない話を読まなくたっていい、そう思ったりします。これで村上春樹と比べちゃ、春樹さんが可哀想。だから、前田和泉は訳者あとがきで、村上との比較をしなかった、そう思ったりします。
紙の本
一人の男の半生を体験できます
2007/05/01 22:01
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:石曽根康一 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読み終わったあとの感想をなかなかどういっていいのか分からない。
長い小説だった。
三つの時間軸が、交互に語られていくという斬新な構成で、長いながらもなんとか読み通すことができた。
一つ一つの要素は短いので、短篇小説をいくつも読んだ気になる。
そして、それらは、互いに緩やかに連関しあっている。
『ペンギンの憂鬱』も一つ一つの項目は短かったから、この作者の得意な書き方なのかもしれない。
惜しむらくは、僕が、ウクライナの政治情勢などをまったく知らないということ。
そういうことに詳しければ、この小説はもっと楽しめたのになと思う。
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一人の人間の中の、三つの時代の物語が同時に進んでいく。近未来の大統領時代、現代の大統領前夜時代、ソ連崩壊時のそこらのオニイチャン時代。この仕組みを理解して楽しめるようになるまで、物語に乗れず、長いブランクを経ての読書再開。その後ぐいぐい引き込まれて数日で読了(読み応えのある631ページ!)。東ヨーロッパ独特の不条理・暗さは覆い隠されて入るものの(舞台はウクライナ)、やはりこの設定や展開は日本やアメリカでは不可能。暗殺やら賄賂やら宗教やら軍隊やらが、一般庶民の生活にまで深く関わりあっている国ならでは、の物語だからだ。極東の島国の一市民としては、リアリティのあるおとぎ話として非常に興味深く読ませてもらった。
2006.10.17-2007.05.23
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かなりよい。
現実をそのまま捉えるのが好きな人には、たまらない本。すごく面白いです。
3つの異なる時間が共に流れて、ずっとその三重奏が続く。深くて、時にテンポよく、時にゆっくり進んでいく。後味実にさわやかです。
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ごく普通の若者セルゲイがなぜか40年後にはウクライナの大統領に…1975年〜の若い頃と、ウクライナ独立直後の大人になった時期、心臓移植手術を受けたばかりの近未来の2015年まで、三つの時系列が交互に描かれます。恋愛遍歴が中盤ややこしいですが〜どんな女の子にもついて行ってしまう明るかった若い頃とは別人のようなくたびれた感覚、でもやはり根が素直で受け身なんだけど気が良い〜通じる所もあるあたり〜面白い作品でした。
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ハッピーエンドなのかな?
なんだか最後がとんとん拍子にうまいこと行き過ぎていて、主人公が騙されているんじゃないかって気がしてきたけれども。
3つの時間軸が同時に展開していく作りも、面白いんだけど、ちょっと見辛かったかも。
だけどウクライナの現代史が凝縮されているような感じでとても面白かった。
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[ 内容 ]
セルゲイ・ブーニンは孤独だった。
22歳で結婚に破れて以来、どの恋にも空しさと悲哀がつきまとう。
ソ連崩壊後、政治の世界に足を踏み入れ、遂に大統領にまで昇りつめたが、真の愛は手に入らない。
だが、政敵との闘いの日々、移植手術を受けた彼の心臓の「持ち主」と名のる謎の女性が現れると、運命は過去と交錯し、大きく動き始める。
[ 目次 ]
[ POP ]
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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冒頭からしばらくははなしに魅了され愉しめますが、だんだん中だるみし、後半ともなれば筋を追うだけの読書となりました。『ペンギンの憂鬱』には、圧倒的スケールで劣ります。長編ですが、もっとコンパクトにしたほうがよかったのでは…というのが読後感。忙しい人が合間をみつけて読む、というのには相応しくありません。読むのなら、時間をつくって一気呵成に。。
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大作。3つの時代を主人公が躍動する。いずれの時代も、底辺に流れている精神は、東欧的メランコリーとでも言おうか。なんとなしに陰鬱でありながらも、生けていさえすれば何かに巡り合って人生は(良くも悪くも)変わるだろうという、割と消極的な姿勢。それでいて、その姿勢を肯定的に自分の中に位置づける。だから、自分の立場がゴロツキであろうと、国家元首に位置する大統領であろうと、主人公のメランコリーは消えない。
けれども、なんとなく、人生って面白い。そんな予感を漂わせながら終わるラストシーンも良い。
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自分でもなんだかわからないうちに大統領にまつりあげられていた男の、悲哀と孤独が感じられるけど、クルコフならではの乾いた文体であまりしめっぽくなっていないのがさすが。
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ソ連~近未来のウクライナにかけて、大統領になる主人公の、若者時代、中年期、壮年期がモンタージュ気味に語られる物語。
600ページと長いし、オチがないのだけれど、ユーモアと皮肉、諧謔に溢れたクルコフ節はやはり魅力的でした。
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外国の作家さんを読むのは本当に久しぶり。
600頁に及ぶ長編を、さて読み終えることができるかと、
多少の不安がありましたが、すらすらと読み切れました。
主人公の人生が、3つの時系列で書き進められていて、
その時代時代で、主人公が何を考え、何に心を動かされていたのか
よくわかります。
悲しいことも、楽しいことも、たくさんあるのですが、
どれもみんな自分の一部であって、
そのどれが欠けていても、今の自分ではないのだと、
気づかされるとともに、時間が解決してくれる膨大なことに、
感謝したくなるような、作品でした。
これは40台くらいで読むのが良いのかも。
歳を重ねることも、いいねって、思えるから。
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ウクライナという不穏な空気を舞台に繰り広げられる、家族と青春の1975年~、最愛の妻と喪失の2002年~、仕事と陰謀の2015年~、という主に3つの時間軸である男性の人生が語られていく。
1975年の時間軸は、精神を患った弟の世話が大変なものの主人公セルゲイの青春があちこちに感じられて爽やか。
2002年~の時間軸は大人のセルゲイの恋と悲しみがずしずしと迫ってくる。
2015年は心臓にヤバい機械が取り付けてれてる!?(しかも大統領の!)という現実だったらハードでしょ?というシーンもクルコフなので軽妙に描かれている。
3つの時間軸の話が交互に語られていくという手法は、2004年の重々しい雰囲気から2015年の軽妙な話に、とこちらの気持ちもすっと切り替えられるようになっていて、引きずられることがない。この切り替えのおかげで、636頁、読み切りました。
個人的には、主人公の大統領セルゲイ・プーニンとなぜか忠実な部下、大統領府長官コーリャ・リヴォーヴィチとのやり取りが面白すぎて笑ってしまいました。リヴォーヴィチはいつ寝てるんだ。
定価が2800円なのに絶版なので中古だとAmazonで6500円~という涙目になってしまう価格。新潮クレスト・ブックスさんには電子化を検討してもらいたい。切実。
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<ウクライナの大統領に!>
3つの時間軸ですすむミステリアスな物語。
ウクライナの生活描写でも楽しめるはず!
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そもそも「ロシアのウクライナ侵攻」に暗澹たる気持ちになり、せめても「ウクライナの国の小説は?」と検索、もう20年以上前に『ペンギンの憂鬱』でベストセラー作家となっていたクルコフに、たどり着いたのでした。(例によって知らないことのなんとおおいこと!ゴーゴリもウクライナ出身とか)
前田和泉氏翻訳の600ページ越えの分厚い本で、複雑なれど一気読みするくらいおもしきユーモアに富んだ物語。
複雑というのは、解説にもあるがこの作家が「ロシア語で執筆するウクライナの作家」なるが故にウクライナという国の政治事情や社会情勢における立場が浮き彫りに。そしてこの小説構成の重層化(青年期、中年期、老年期のパートにわかれて章が進む)が、最初は少々ややこしいのですが、慣れてくるとそれがなおおもしろくしているのだとわかる。
語り手のセルゲイ・ブーニンという主人公、女好きで吞み助でチャラチャラしているけれども、本当は母子家庭の母親や障害のある弟思いの正直真面目な好青年で、ウクライナという国の歴史に沿って生きていく。ソ連時代から崩壊をへて建国に遭遇、大統領にまでなってしまったのに、身辺の寂寥は埋まらない…というのがストーリー。
フィクション好きなら、なるほどウクライナの複雑難儀な事情が解ろう小説だ。そう、おもしろうてかなし。主人公は普通に幸せになりたい。普通に幸せとはなんだ?国があって、食べることが出来て、住む家があって、愛する家族が泣いていないこと。人間は身の丈だけしか要求してはいけない。そうしなければ普通の幸せは来ない。