紙の本
われら橋の子
2007/01/15 23:51
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Tabby - この投稿者のレビュー一覧を見る
淀屋橋、日本橋、肥後橋、天満橋、京橋、鶴橋、長堀橋、四つ橋、心斎橋など、
大阪の地下鉄で「橋」のつく駅は多いが、すべての橋が現在も残っているわけではない。
大阪南部の繁華街、いわゆる「ミナミ」の大動脈となっているのは、
難波の高島屋百貨店を南端とし、中間地点は戎橋、そして北端の心斎橋交差点まで続く
アーケード街である。人と車の往来が昼夜せわしない心斎橋交差点は、
交差点の中央に橋の欄干をあえて残していることで、かつてここに川があったことを
思い起こさせる。
『この街の今は』の主人公に倣って、心斎橋の由来を調べてみると、
橋を作った岡田心斎にちなんでいるらしい。人名から橋の名前へ。
やがて橋がなくなり、地名だけが残っている。
もう一つ、この小説の主人公の行動範囲も、大阪の都市地図で調べてみると、
日中は、本町と堺筋本町と心斎橋のどこからも中途半端な距離にあるカフェでアルバイト。
オフのときは、南は難波、北は心斎橋と、「ミナミの大動脈」を中心に、
1キロメートル四方あるかないかの区域をせわしなく移動している。
移動のさなか「鰻谷」、「周防町」など、刻みつけられる地名の数々。
人との出会いと別れを繰り返しながら、大阪という街で生きること。
そのプロセスにおいて、主人公の心の中で、人と地名のそれぞれが「固有性」を持つ
のだろう。人と街とは、互いに分かちがたいものとしてあるのだ。
人や地名だけではなく、建物の「固有性」も、この小説には描かれている。
時代とともに消えゆく建物、建築中の建物、そしてまだ見ぬ建物。
かつてあった建物のたたずまいは、映像、写真、さらには人々の記憶に残るもの。
主人公が地名や建物に並々ならぬこだわりがあるのも、街の来し方行く末を、
できるかぎりわが記憶にとどめたいという衝動にかられてのことなのであろうか。
人と土地と建物、それらをまとめた街こそ、変化し続ける生き物なのかもしれない。
紙の本
大阪弁ってほんまは優しいんよ
2006/11/28 15:33
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
会社が倒産してフリーターとなった歌。大阪の心斎橋近くの小さなカフェでアルバイトをする彼女を通して、友達や新しくできたボーイフレンドや、元カレ、店の常連さんたちとの他愛ない会話を映し出す。
彼女は大阪の古い写真を集めるのが趣味。白黒写真が語りかける街の風景はしっかりと止まっているのに、なぜか、現在の大阪まで続いている不思議な感覚。それは、その時、別の場所にいたはずの人々までも想像を呼び起こします。
言葉にしてしまえば虚ろになりがちな素材ですが、心のどこかでしっかりと生きようとする彼女の姿があるので、安心感があります。そして街を大切にし、愛する気持ちが読み手にも移ってきます。
ゆっくりと街を歩きたくなります。ゆっくりと人生を味わいたくなります。
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常に主人公の属性が一緒だと思う、柴崎さんの小説の主人公ってのは。柴崎さんの小説読んでると、大阪の街が頭の中に浮かんでくる。いや、大阪じゃなくても柴崎さんの文章からは何か街の風景が感化されてくる。保坂さんの小説も風景が浮かぶけれど、柴崎さんは街専門なんだよな。そこが特徴だと思う。気になったのは、本当にカラスって100年も生きるんですかね?そういう会話があるんですよ、話中に。ま、その話中でも、嘘だろ。いやいやほんとだって。みたいな感じなんだけど。実際、どうなんだろうか。(06/9/30)
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大阪弁が何とも言えない。ぼくはこの作家さんが好きです。時間の流れがとてもゆったりしてるし、何だか癒されます。
何の事件も起こらないし、突飛押しもないことも起こりません。でも、引き込まれる文章です。会社を首になったOLのありふれた日常です。
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登場人物の関西弁と、風景の描写がたまらなく好き。感じることを綴り続けて物語が進む。当たり前のようでなかなか難しそうなこと。生活ってそういうことだよなーと思う。
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作為的にみえないところがいい。プロットがプロットらしくないというか。使い古された言葉でいうと自然体というか。芥川賞候補作(受賞願う)
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ずっと同じ場所に居ても、20年前と今では建物や空気は全く違う。でも、人はきっと同じような悩みを持ったり、喜びを抱えて生きていたんだろうな・・・と思うと、昔の薗場所のことを想像するのはとても楽しいこと。そんな本です。この人の文章は、なんでもない日常を描いているのに、時間がゆっくりで癒されます。
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9月の暑さがのこる大阪の街。
大阪の古い写真を見るのが好きな主人公、カフェバイトの28歳。
どうでもよさと一期一会な感じがブレンドされた合コンの描写も、
一方的にふりまわされても好きな人に会いたくなっちゃう気持ちの描写も、絶妙。
古い映像や写真にうつる人々を見るときのあの気持ち、とてもわかる。
良太郎からメールがきて、テレビを見ながらやりとりするシーン、すごくよかった。
あんな風に出会って、時間を重ねていけたらいいのになあ。
07.01.28
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さらりとした本です。大阪という街から、時を含め俯瞰して描く。Themaとして主人公の心情描出とのバランスが難しいのかもしれませんが、「さらりとした本」との感想に行き着いてしまいました。
僕自身の読解力のせいとは思いますが、読んでいて文意を掴むのに躓いたりしてしまうし。若い感性の若い文章です。
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あれ?前もなんかさ、昔の写真っつーか昔の町並みがすきな女の子のんがあったような気がする…ぜんぜんちゃうやつかな?まあいいや。さらっと読めました。だからどう、ということではなくて。へー…と読めました。
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大阪でミナミと呼ばれる心斎橋・難波界隈は自分の庭だという人なら、描写されてる風景が完璧に想起できるでしょう。主人公・歌子の、過去から現在へ流れる見えない時間の流れに思いを馳せる気持ちは、けっこう共感できる。しがない自分もその一部でしかないんだとか、過去の人も自分と同じような気持ちで何かを築いてきたんだろうか、とか。舞台が大阪だからこそ、この温もりが表現できたんだと思います。
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こないだ読んだ『また会う日まで』がよかったので、今度はこちらを読んでみました。主人公が自分と同い年だったので親近感をこめて読めましたね。でも年齢のわりにガツガツしてなくて、なんか「こんな感じでもよいのか」とホッとしたりしました。あいかわらず時間がゆるくて、日常の一端を切り取ったような内容がよかったです。実際、日常というのはよくある小説のように劇的な変化なんてそうあるもんじゃなく、こんな風に自分でも気付かないほどに少しづつ変化していっているものなのかなと思いました。このオチがないかんじが気に入っております。
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28歳の主人公の女性が大阪の町ですごすなんて事のない日々。
いきなり合コンの失敗から始まったのでなんやなんやと思ったけれど、
ゆっくりとした時間が流れていく。
もうじきくるだろう一人暮らし、そして良太郎との関係などを残しながら
終わった。
ふ〜んで感想は終わる。
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28歳のカフェでバイトしてる女性の、何ていうこともない大阪の日常の話です。特別なことが起きるわけでもなく、感動することがあるわけでもないけど、ちょっと爽やかで好感がもてました。
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馴染みのある風景がいっぱい!いいじゃん恋。コイ。こーい。と久しぶりに思いました笑日常のなんでもないことのなんでもなさを忘れてしまいたくないものです。