イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ
2021/06/03 21:34
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
二つの中編小説が収録されている。
「イワン・イリイチの死」は、地方の一裁判官が病を得て死んでいくまでの心理的葛藤を描いている。「クロイツェル・ソナタ」は、妻が不倫をしていると妄想した貴族が、妻を殺すまでの心理を描いている。
どちらの小説も、「死」に向かう小説なのだが、特に後者の印象が大きい。後の時代から、一人の老人が過去に犯した殺人について回想するのだが、その老人が殺人を経て身に着けた「性欲に基づく結婚への反対」という思想が強烈。
さすがトルストイ、圧倒される
2017/02/01 21:42
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
イワン・イリイチの死:1882年のロシア、成功した官僚として体裁よく暮らしていた中年男性イワンが、ちょっとした事故をきっかけに体調を崩し、病み衰えて死に向かっていく。自分が死ぬとは(本心では)思えない「普通の人間」の心理状態の変遷が凄い。
解説にもあったが、現代の心理学の受容の諸段階をきっちり表している。
クロイツェル・ソナタ:冒頭の男女の結婚や女権拡大に関わる話題は、かなり現代的だと思った。
姦通を行った妻を刺し殺してしまった貴族の話を聞く形で、結婚の形をとる肉欲の怖ろしさが表現されていく。
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あんまり面白くなかったので、クロイツェル・ソナタは読むのをやめてしまいますな。古典って凄みがあるのもたくさんあるけど、イワン・イリイチの死はなんだか今ひとつでした。迫り来る死の恐怖とその孤独さにさいなまれるじいさんの話だけど、あまりにダイレクトすぎて、ひねりもないし、似たようなモチーフでもっと面白いのがあるよなあ、と思ってしまいましたので。
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死について、男女間の関係についてひとつの究極の問い詰めとなっている二作。読みやすい新訳。読み継がれるにふさわしい。
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生と死ですかね、テーマは。
どっちの作品もリアルです。
リアルに人が死にいく様、リアルに殺人に至る様が描かれています。
その感情の描写たるや、作者は一回本当に死んでるんじゃないか、人を殺しているんじゃなかろうかと思えるほどです。
「イワン・イリイチの死」は読み始めはてっきりシニカルな軽い話かと思いきや、どっぷり重い話でビックリ。
「クロイツェル・ソナタ」は雰囲気がいいっすね。列車の中=「銀河鉄道の夜」を思い浮かべてしまう僕は短絡的ですが。
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来るなら来い。どうせいつかは死ぬんだ。
やめろ、まだ死にたくない。
じいさんツンデレ!の一言では片付けられないほどの展開。ゆっくりと沈んでいく。
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死について葛藤する本を探しているという話をして、薦めていただいた1冊。ほんとに葛藤していました…人生ってこんなもんかって思って落ち込んだ。
クロイツェル・ソナタも落ち込んだ…誰とも結婚したくないって思ってしまった。
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『イワン・イリイチの死』
ロシアにおける一裁判官の死が題材となっている。
一般人としての起伏がありながらも、淡々と日々を過ごすイワンが死を意識したときの恐怖、そして後悔。
彼の今までの人生は塵芥と化し、彼の属している世界は劇的に変化してしまう。
死を抱いて生きる者の世界に対するある意味での誠実さ。
そこでは、ゲラーシムのような溢れんばかりの生命力と誠実さのみが許され、他のものは排斥される。
まさにニーチェの世界観。わかるものにはわかるという世界。
おそらく一般の人にはこれが特別なものとして映るのであろう。
そして一週間もすれば忘れてしまう。
最後に、イワンは「死の代わりに光」を受容する。これは一体何であろうか。
おそらく宗教的なものであるであろうが、そうであるならば今までのイワンの世界に対する誠実さは何であったのだろうか。もしくはそこまで考えさせる(わざと台無しにする)物語なのか。
『クロイツェル・ソナタ』
人間の言う「愛」というものの欺瞞さを描いている。または「愛」というものを信じている人間に対するアイロニー。
老人の起こした事件(これが違法性を帯びないというところに一般社会に対するトルストイの侮蔑を感じる)を通して、結婚生活における嫉妬(憎しみ)の苦しさを緻密に語る。
しかし、このような嫉妬という概念を有しない私にとっては、老人の行動は理解不能(私は恋人がいわゆる浮気をしてもなんとも思わないので)。
ちなみ、あえて言及すると、もし前述イワンの物語があえて台無しにする物語であるならば、同じ一冊の本の中にこの二つを入れるのはそぐわないのでは―編集者(もしくは一冊の中にこの二編を入れようと提案した者)の無能さを感じる。
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『イワン・イリイチの死』
医者と裁判官のアナロジー。
病んだ裁判官―イワン・イリイチが、医者の無機質な作業に没頭する姿に触れ、
かつての裁判官であった自分が、被告人にとっていた冷淡な態度を重ねあわせる。
人間は、代替不可能な生である。自らの病気や、死の予感に、耐えられない恐怖感と不安を味あう。
医者と裁判官は、そうした人間の生命を左右する職業だ。
イワン・イリイチが死ぬまでもがき続ける姿は、
まさに自分の死の予感への恐怖と不安である。
それに加えて、「原因が不明」な自己の病気を、
医者が淡々と日常業務として扱っていくことと対照的に描かれているように読めた。
医者や裁判官のように、人命を扱う職業専門家は、相当な社会的評価を与えられるのと引換に、
職務遂行に倫理性が求められる。心に秘めた正義感と、職務の事務的遂行との間に引き裂かれてしまえば、
もはや倫理的な高潔さを持ち続けることはできない。
そうしたストレス状況から、解き放たれる手段が「職業的威信への安住」あるいは「日常業務化」であり、良心が覚醒することを人間性を鈍麻せることで、ストレス状況から逃げているのである。
そうして、庶民の目を持たない職業になっていくのだろう。
『クロイツェル・ソナタ』
トルストイの時代ー1900年代前半―、の恋愛観・結婚観について。
今とまったく変わらない、男性中心の見解がおもしろい。
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イワン・イリイチは医学的な診断の自分の生死の問題に対する無力さ空しさに絶望する。一般論、成功談の類を耳にするときに感じないではいられない虚しさ。「イワン・イリイチの死」は、そのぼんやりとした感覚を非常に洗練された形で適切に表現している。
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決してハッピーな話じゃないので息が詰まる思いでしたが、ぐいぐい読めて「ははぁ」と思わされましたトルストイすごいなぁ。
私がもっと年を取ってからまた読むと良いんだろうな。
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善良な人生は幸福な死へとつながっていく。
「死は終わった」との表現に、時間軸としての生と死の概念を超えて、悟りの境地に至ったと思われる。
イワンは自らの死に臨み、何を見たか。
良書!!
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一見すると「死」をテーマにしているようだが、本当のテーマは「心の目覚め」だ。
主人公は病床で肉体的苦痛に苛まれながら、苦痛、死、人生の意味など答えのない自問が次々に湧き起こり、精神的にも苛まれていく。
死の直前になって、ようやく地位、名誉、世間体、経済的な富裕、他者との比較評価など、自分が当たり前のように信じていた人生の価値尺度が全て「間違い」だと気づく。
凡人を主人公にしたのは、この主人公こそわれわれ読者であり、他人事ではないという著者のメッセージだ。
死の間際に、まだ「すべきこと」ができると気づいた主人公は、息子が手にしてくれたキスで心が目覚める。
最後に自分のことを忘れて家族のことを思って、いまその瞬間にできることをして、息を引き取る。
心の目覚めた主人公にとって、「もはや死はない」のだ。
このメッセージは、裏を返せば「心の目覚めない人生は死んでいるのと同じ」ということかもしれない。
数々のベストセラーで知られる心理学者ウェイン・W・ダイアー博士も影響を受けたという示唆に満ちた短編小説だ。
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一人の高級官僚が些細な怪我をきっかけに死ぬことになっていくまでの心の描写です。トルストイのスゴイと感じるとこるは、死んでいくまでの間の心の描写を、自分が経験したかのように描いたこと。この作品から感じたが、この世のチープな出世、僅かな金銭、そんなもののために、命を削り家族との触れ合いを犠牲にして生きて行く愚かしさを気付くきっかけになった。世間で成功と持ち上げられているものは、死の前では無力だ。自分が死ぬ時にあの世に持って行けるものは家族との思い出だけだな。
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私の読んだ文庫は『イワン・イリイチの死』と『クロイツェル・ソナタ』の二篇が入っているが、どちらともトルストイ後期の重要な中篇小説。
『イワン・イリノチの死』は、実在の裁判官メーチニコフの死を知って着想を得たもの。
トルストイは、イワン・イリイチが、はっきりした死に向かうために生きている数ヶ月を驚くほどリアルに描写している。
トルストイはリアリティをもって人間の心の奥の穏然たる汚濁を表出させて小説を書く。
弱って立つことさえもできなくなって威厳もなにもなくなったときでも、妻には頼らず、ゲラーシムという下男だけには素直になり、感謝していた。イワン・イリイチは最悪の孤独をこの健康な下男によって最低限癒されることになる。
この小説の各所に配された隠喩に気付き、奥の奥を読み解くことを、訳者の望月さんがされて解説に書かれている。
『クロイツェル・ソナタ』とは、ヴァイオリニストのルドルフ・クロイツェルに捧げられたベートーヴェンのヴァイオリンソナタ第9番を指すものであり、トルストイはこの楽曲に感銘を受け、本作品を執筆した。
また、トルストイの『クロイツェル・ソナタ』に大いなる刺激を受け、チェコの作曲家、レオシュ・ヤナーチェクが、弦楽四重奏曲を同名で発表している。