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紙の本
この本の内容を1600字で紹介するのは不可能である
2007/07/12 23:58
15人中、15人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:悠々楽園 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「月と六ペンス」「人間の絆」は中学・高校の頃読んでいて、モームは好きな作家だったにもかかわらず、この本の存在をつい最近まで知らなかった。
これはものすごい本である。64歳、当時としては人生の晩年と意識せざるを得ない年齢を迎えた大作家が、心残りなく人生を終えたいと願い、彼の人生と、人生をかけて考え続けた思考を総ざらえして1冊の本に纏め上げた--すなわちサミング・アップ(要約)したものである。
したがって内容は多岐にわたる。まずは彼の生い立ち。それから劇作ならびに芝居の世界についての本音。そして小説論。最後に宗教、哲学について。
「人間とは何ぞや?」「世界は(宇宙は)どのように生まれ、これからどうなるのか」を知りたかったからこそ、モームは作家を目指したにちがいないのであり、こうした本を書きたいという野望に何の違和感もない。そして彼はそのための努力も怠らなかった。
まず、その知識、経験の豊かさに愕然となる。実際に携わったのはわずか数年だったが、最初の職業は医者だった。彼はそこで、悲喜こもごもの患者の姿を観察し、心の動きを見つめ、人間の感情や思考について学んだ。その後戦争にも進んで従軍したが、新たな経験を積みたいという明確な意図があった。また、演劇界での成功は世界中を見て回るために十分な経済的な余裕を彼に与え、モームは最大限にそれを生かした。数ヶ国語に通じ、医学生だった彼は自然科学の基礎も身につけていた。アインシュタインの相対性理論とハイゼンベルクの不確定性原理はこの本を書いた当時すでに発表されていて、モームも知っていた。その上で40歳を過ぎて、ほとんどの哲学書を読んだという。空いた口がふさがらない。
しかし、この本が本当にすごいのはその正直さゆえであると私は思う。「誰にも自分についての全てを語ることは出来ない。自分の裸の姿を世間に見せようとした者が全ての真実を語らずに終わるのは、虚栄心のせいだけではない」とわざわざ断ってはいるが、ここまで率直に語ってくれていれば、それ以上望むことはもうあまりない。
生きている人間や世の中について正直な意見を公に述べるのは、誰にとってもきわめて困難なことだろう。自らが命がけで掴み取った劇作や小説作法の核心をこれだけ正直に書き記すことも普通はありえない。ここに書かれているそれらのことは、どんな演劇論、小説論よりも真実であるにちがいないと私には思えた。年齢だけでなく戦争の予感といったものも影響していたのかもしれないが、後の人生は「もうけもの」といったような潔さを感じる。後世の読者にとっては奇跡のような贈り物である。
ところで、人生は無意味であるが人はなかなかそのことを認めたがらない、というのがモームの結論である。また最善の人生は農民の人生だと思うとも書いている。私はこの意見にまったく同感である。そこに漁師を加えてもよいとも思うけれど。
さらに、一般的に価値があると信じられている宗教、真・善・美について仮説検証を重ねた結果、人間にとって唯一価値があるのは「善」だけであるようだとも書いている。それが正しいかどうかを今すぐ判断できないが、第二次世界大戦勃発の前年出版されたこの本で、人類の発展がすでに下り坂に向かいつつあると看破しているモームの慧眼には敬意を払う。一方で、自ら語っているように彼はペシミストではなく、自分の人生を幸運の連続に過ぎないと考えている。私は、そうしたこの小説家の謙虚さに愛着を覚えるものである。
最後になるが、訳者である行方昭夫さんの翻訳のすばらしさに触れないわけにはいかない。原文も簡潔でわかりやすい、ユーモアと機知にあふれた文章だろうと推察するが、それを違和感なく正確に日本語に移し換えていただき、一読者として大いに感謝します。
紙の本
通俗的に語ることは必ずしも通俗的なことではない。
2007/07/02 23:53
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「モーム」と聞いて思い起こすのは、ある予備校の英語教師である。たまたま受講した夏期講習でモームについて名調子で語る故・奥井潔師の姿は、いまなお印象深い。おかげで、「現代文」の読み方が少しはわかった気になったものである。そのためか、モームと見ると、英文学には関心がなくとも、師の講義の余韻を求めてか、つい手が出てしまう。
回想録とも、創作論とも、作家・作品論とも、なんとも要約のつかない本書の一節こそが、その夏期講習で扱われていた文章であることに気がつき、なんとも懐かしい思いがした。訳者・行方氏による丁寧な「解説」によると、日本では戦後しばらくの間は、モームは盛んに読まれたという。加えて、大学受験にも盛んに出題されたため、本書も「対訳本」が出るなど受験生にはよく読まれたそうだ。その末端のさらにはじっこあたりに私もいたのかと改めて気がついた次第である。
ところで、それだけ盛んに読まれた作家だというのに、現在の書店の棚に占める割合は微々たるものである。この落差はなにゆえだろうか。ひとつには、彼の語り口にどこか「訳知り顔の大人」を見出してしまうからではないだろうか。(大人の)エンターテインメントとしては刺激が少なく、(若人の)人生教科書としての文学と読むには通俗的、と受け止められているのかもしれない。しかし、改めて本書を読んでみると、どんな人間も同じ、という彼の人間観が明快かつ具体的(いや、辛らつ)に記述されていて興味深かった。「同じだからつまらない」のではなく、「同じだから面白い」のである。
ちなみに、本書の中で自分の作品が将来も読まれるだろうかと心配する一方で、批評家の彼に対する評価を「二十代には残忍だと言われ、三十代には軽薄、四十代には皮肉、五十代には達者、六十代の今は皮相だと言われている」と要約してみせている。率直なようでいてそうでもない。なかなか食えない作家である。
紙の本
いやあ、作家がこうして出来るとは思いもしませんでした。それにしても、劇作家としてのモーム、っていうくだり、なんだかオペラ作家を見ているような・・・
2007/06/23 15:21
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
モーム、といえば学生時代に名前だけはさんざん聞かされはしたものの結局、先日『月と六ペンス』を読むまでは、手にすることも無かった作家です。ま、彼については江戸川乱歩などがスパイ小説作家として褒めていて、昔は東京創元社から世界推理小説全集15として『秘密諜報部員』という本まで出ていました。でも、日本を一時席捲したほどの人気作家だったとは、この本の解説を読むまでは全く知らず。道理で名前だけでも私が知っているはずです・・・
カバー折り返しの言葉は、
「サミング・アップ
劇作家としても小説家としても功成り名遂げ
た六四歳のモーム(1874−1965)が、自分の生
涯を締めくくるような気持で書き綴った回想
的エッセイ集。人間、人生、文学、哲学、宗
教等の多岐にわたる話題が、モーム一流の大
胆率直さで語られる。」
です。あっさり読むと、最晩年の作品のような感じがしますが、よくよく計算すれば、モームはこの作品を書いてから27年も生きています。もしかすると、自分でもそんなに長生きをするとは思ってもいなかったのかもしれません。一生を全うせずに終る作家もいれば、余生が延々と続いてしまう人もいる。人生、イロイロ・・・
カバーは、岩波文庫全般を見ているのでしょうか、中野達彦。扉には
THE SUMMING UP
First published 1938
と書いてあります。全77章の本文、「サミング・アップ」に、解説(訳者 行方昭夫)、モーム略年譜がついています。
親切な行方昭夫の解説に、全体のおおまかな構成説明があります。
私が楽しんだのは前半。殆ど辛らつといってもいい作家論も意外ですが、当時の案外簡単に医者になることが出来る、というのも発見でした。知らない、とは言え、モームが劇作家として名をあげていく場面も、それに付随して芝居をするものについて薀蓄を傾けるのも面白いものです。
内容的には面白くなかったのですが、モームの発言に思わず肯いてしまったのが哲学談義にあたる第63章—77章です。自分では役に立たない、とは決め付けたものの、せっかく学んだものだから内容を人に知らしめようとする。話は冗長で、役に立たないなら書くな!って思うほど。でもいいのは、時おり窺える本音です。特に68章ですが
「哲学者が悪について語るとき、例として歯痛を持ち出す人がかくも多いのは妙なことである。他人の歯痛は分らないと指摘するわけだが、まあそれはその通りではある。哲学者は人生の苦労など知らずに安楽な生活を送っているので、まるで歯痛が彼らの経験する唯一の苦痛ででもあるかのようである。」
「哲学者に大学教員として若者に哲学を教える資格を与える前に、大都市の貧民街で社会奉仕を一年やらせるとか、肉体労働で生活費を稼がせるとか、そういう義務を課せばいいと、私は何遍も考えたことがある。もし彼らが子供が脳膜炎で死ぬところを見たなら、自分が関心を持つ問題のいくつかに違った見方で付き合うことであろう。」
の発言には、思わず拍手。哲学オタク大嫌いな私は思わずニコニコです。それにしても若いときの一念を貫き通した人生だったのでしょう。ご立派・・・
紙の本
多岐に亘る分野のエッセイ
2019/12/31 21:58
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:岩波文庫愛好家 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読書や小説や哲学や宗教など様々な分野に対するモームの考え方や意見が述べられています。平易に記述されているので、分かりやすいと思います。
偏屈な意見ではないので、割とすんなり納得がいきます。読み手である自身が本書にあるようなテーマについて第三者の意見を知りたいといった時の参考に出来るのではないでしょうか。
紙の本
文に触れること
2023/07/26 07:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:哲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本を読んでいる中で私が一番印象に残ったのは、同じような人は少ないのかも知れないが、外国語の理解に関する文章だった。現地の民でないものはある程度以上の理解の水準に達することは極めて困難になるというもの。
私にとって文に触れるということは一方でその人の思想の普遍的な部分に接しながら、同時にもう一方でその人の生活の中で極めて個人的な部分が自分のとある経験の中にもあるような気がするという特殊の触れ合いである。
面白かった。