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紙の本
描く世界をどんどん広げていく豊島ミホには感心します。今度は東京に大地震を起しました。これがとっても渋い。「いのりのはじまり」なんて映画にしても絶対にいいです
2008/02/22 23:26
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
てっきり堀川理万子さんの画だと思ったんですよね、このカバー画。筆の感じ、色合い、描く対象物。温か味があってセンスがいい。思わず子供のころに帰りたくなるような、そんな雰囲気。でも外れでした。注を見ると、装画 中川貴雄、装幀 大久保伸子、とあります。うーむ、完敗・・・
さて、豊島ミホ、最近よく本を出しています。ついこの間も『リリイの籠』という連作集を読み終えたばかりですが、これも面白かった。私にとって豊島作品のいいところは、彼女の描く世界が我が家の大学一年長女のそれとカブルからです。年齢的にも近いのですが、周囲との距離の取りかたも結構近い。でも、今回のタイトルはあまり彼女らしくありません。
イメージだけでなんですが、写真家の手になるフォト・エッセイふうじゃありません?少なくとも小説集とは思えない。ま、中川貴雄の装画を見れば、エッセイでないことは明らかなんですが、でもねえ、タイトルだけならば何だか川本三郎『ミステリーと東京』を思うわけですよ、私は。これが『神戸・地震・たんぽぽ』だったら、絶対にノンフィクションでしょ。でも豊島のこれは書き下ろし短篇集。
背景に東京の地震を置いた連作集。ただし、基本的に主人公が共通する、っていうことはないわけです。ま、最後のほうで???となりますが、あえて原則を破る必要はなかったんじゃないか、私はそう思います。むしろ、人物が繋がらない、それでいて地震を共通体験にした人々のスケッチでは何故いけなかったんだろう、そんなことも感じます。
遠回しの言い方ではイメージできないでしょうから簡単に各話を紹介しましょう。
・僕が選ばなかった心中、の話 :僕・政明23歳、地学科の大学院に進んだケーキ好きの友人小山、小学生の時顔に怪我をした美少女加藤、小山の忠告で実家に帰ると・・・
・空と地面のサンドイッチ :下町の中にある、空が見える大きな公園。そこが好きで遊びに来る私・ちいちゃんと七つ年上の恋人でカメラマンの靖之。ピクニック気分の公園で・・・
・ぼくのすきなもの :4年生の僕・理希が大切にしているのは自分で作った蝶の標本、でも母さんの同級の紗椰香さんも理解してくれない・・・・
・くらやみ :夫の康隆は最近少しも家庭を顧みない。二歳になる娘の舞の面倒だって見ようとしない。私はブログの中では良いお母さん・・・
・ぼくらの遊び場 :地震後の避難場所の体育館はなんとなく楽しい。彩音とのおしゃべりも、一ノ瀬とのトランプも。だって六年二組の被害者はゼロだから・・・
・ついのすみか :グループホームにだって地震はくる。震災後、殆どの入所者は家族が引き取りにきたけれど、マツさんだけは息子がやってくる様子が無い・・・
・宙に逃げる :私が住む高層マンションは、免震構造もあって被害は少ない。25階に住むあすみの部屋も殆ど無傷。マネージャーの元木さんに連絡が取れて・・・
・だっこ :私がいるのは病院?顔を覗き込んで、あき、と声をかけるのは母親?弟の順一は?
・どうでもいい子 :避難所の仮設トイレの前でリカが出会ったのは蓮賀英里花。小学校時代に教師に歯向かい、みなを扇動して苛めをやらせていた元同級生・・・
・夢を見ていた :保険会社勤務の康隆は、妻と娘が待つ家に帰ることより震災後の会社に居ることを選んだ。二年目の片山華絵も立候補したくちで・・・
・出口なし :おれとマヨが三原さんから命じられたのは、二軒の家に火をつけること。震災で倒壊した家も多い中での放火なんかしたくない・・・
・復讐の時間 :14歳の私が言い出したのはボランティアに名を借りた復讐。自分を苛めて学校に居ることを出来なくした蓮賀と、それを止められなかったリカ。彼らの住む東京に乗り込んで・・・
・パーティにしようぜ :避難所生活は音楽一つない。オカンと連絡とれた安田が真鍋とやろうとしたのはイベント・・・
・いのりのはじまり :綾香は震災でなくなった優基のことがいつまでも忘れられない。甘いものを嬉しそうに食べる姿が好きで付き合い始め、あの時まで一緒に暮らしていたのに、なぜか大学院にすすむ彼と意見が合わなくなって一人で故郷にもどった時の地震・・・
好きなのは「ぼくのすきなもの」と「ついのすみか」「宙に逃げる」です。この三篇には身につまされるところがあります。「ぼくの」ですが、コレクターというものの哀しさ、切なさを感じます。オタク、が世界に通用する言葉になったようですが、周囲の目というのは基本的に変わっていません。ましてそれに異性からの視線が加われば・・・
「ついの」については、やはり年齢的なっていうか、つい昨年末に母親をグループ介護の施設にいれた私の、人間としての感心があります。「宙に」はまさに現代的なお話。主人公の職業もですが、彼女が住んでいる建物というのも、今でこそでしょう。目の前に像が結ぶ、という点で映像的な作品で、SF的ともいえます。
豊島の作品をいくつか読めば、描かれる世界が毎回のように変わるのに気付きます。豊島の面白さは扱う世界が多方面にわたることですが、それでいてどこにも豊島がいる、と感じさせる主人公のものの考え方や文章、登場人物の若さが特徴です。大学の先輩で作家としても先輩にあたる角田光代を思い出します。一時は三浦しをん風っていうのもありましたが、今は角田風。これを抜けると豊島は大きく化けますよ、きっと・・・
紙の本
都会人に送る新時代の啓蒙書。
2009/02/18 19:17
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
東京に起こった地震をモチーフとした書下ろし短編集。
先日読んだ『ぽろぽろドール』と同じく、ちょっと奇妙なテイストの作品集だが、本作の方がひとつひとつの話の中で繋がりがある部分があって、それを見つけることを楽しみにして読める面もあって楽しいかもしれないなと思う。
ただ、そんなに感動的な話はなくどちらかと言えばビターな味わいのするところが予想通りというか予想に反してるというのか。
そこが豊島さんのいいところなんだろうけど。
たとえばこんな読み方もできるのであろうか?
地下鉄サリン事件。舞台は東京でした。だから関西人はあんまり実感が湧きません。
阪神大震災は逆に神戸を中心とした出来事。
東京に住んでる人は漠然としかわかりませんね。
だから敢えて東京を舞台とした地震小説を書いたんでしょうか?
この作品は地震の怖さを描いたものではありません。
地震を題材として、いろんな人生があるよということを読者に知らしめたものですね。
それも淡々と描いているところが豊島さんらしいのであろう。
都会であるからこそ感じる孤独感・閉塞感。
東京であるからこそありえる14人14通りの生き方。
すっかり都会っ子に染まった豊島作品と言えそうだ。
非常に微妙なところだけど、やっぱり関西人は素直に喜べない一冊だとも言えそうですね。
フィクションとして済ませれない部分がいまだに付きまとっているのですね。
怖くはないけど辛く感じるんだよね。
ただ、ひとつひとつの短い物語で綴られる作者の想いはとっても儚く読者に伝わる。
もっとも印象的な話は「くらやみ」で閉じ込められた主婦がブログに助けを求めるのであるが、その主人が「夢を見ていた」で登場。
ちょっとした都会人の心のすれ違いを描写しているところが巧みで心憎いのである。
豊島さんサイドに立って考えれば、本作は非常に意欲作であると言えよう。
常に物事が“ひとごと”であると思ってることをベースとしている都会人に、“ひとごと”じゃないんだよと肌で感じさせる効果はあったと思います。
地震という非常事態を舞台にしてますが、描かれているのは“そこはかとなく生きている都会に生きる私たち”なのである。
そう、豊島作品“登場人物すべてが読者の分身”なのである。
そこを“地震”よりリアルに感じ取れればもう立派な豊島ファンと言えるのであろう。
等身大の登場人物が豊島作品の最大の魅力なのだから。