紙の本
おめでたい
2008/01/22 15:55
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
年が明けた。なには兎も角、おめでたい。今年は平成になって二十年だという。人間でいえば、成人だ。成人式には晴れ着で着飾り、政治の世界に清き票を投じ、経済社会の未来をつくる。そんな年になったのかと思えば、これほど目出度き年もない。景気が悪かろうが、政治が閉塞しようが、干支は精励勤勉な子(ねずみ)なんだから、くよくよしてても仕方がない。まずはいい年であれと願わずにはいられない。
今年最初に読んだ本が、川上弘美の『ほかに踊りを知らない。』で、読書好きには、おめでたい話だ。先の『卵一個分のお祝い。』もほのぼの系のシュールな作品だったが、今回も同様な雰囲気がいい。書名の最後の「。」がおめでたい感じがでていていい。ほらほらと、人にこすりつけたくなる気分。それが作品全体にあって、人と人との距離感を微妙に演出してくる。川上弘美の技量といえる。相撲技でいえば、「内無双」みたいで、読者がおっとととと転がりこむ姿が、春らしい。手をうち、おめでたいと叫びたくなる。
趣味の欄に「読書」と書くのは平成二十年ともなればおめでたい話かもしれないが、本を読まない「読書」趣味は戴けない。せめて堂々と私めの趣味は「読書」といえるくらいの本は読みたいものだ。おめでたい年の初めに、青少年のような誓いを立てる中年男はみっともないかもしれないが、そういうおめでたい人間がいてもよい。この本の「あとがき」に川上弘美は「近く幸いが訪れますように」と書いているが、読み終わった今、まさに巫女のご神託のようで、おめでたい、おめでたいと胸震わせている。
経済がどうあれ政治がどうあれ、こんなおめでたい気持ちが、『東京日記』の三冊目が上梓されるまで続けば、どんなに幸せだろう。おめでたい春の始まりである。
紙の本
読んでいて笑いが止まらなくなった… 東京日記 2
2008/02/13 14:52
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 なおこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美さんの「東京日記」の第二弾だ。
あとがきに「あいかわらず、中の五分の四くらいは、うそみたいですがほんとうのことです。」
とあって、またまた嬉しくなる。
弘美さんの小説は読むとなんだか不思議な世界に引き込まれてしまうけれど、
日記を読んでも同じような感覚になるのだ。
それがたいそう気持ちいい。
しかし、今回は読んでいて笑いが止まらなくて困ったことになった。
おりしも、娘の家庭教師がやってくる日の晩、
キッチンに続くダイニングのテーブルで娘と先生が算数の問題に取り掛かっているところだった。
私は夕飯の準備をほぼ終えて、あとは焼くだけだったり、皿によそうだけだったり…下準備を完了させてから、キッチンの片隅でこの本を読んでいたのだ。
と、私は笑いのつぼにはまってしまって、笑いが止まらなくなった。
笑いをこらえるにも限度があって、あわてて洗面所に駆け込む。
そこでひとしきり笑ったあとで、またキッチンに戻った。
どうやらダイニングテーブルの二人は私の様子にはちっとも気づいてなかったようで、それだけが良かった。
で、その箇所とは…。
八月某日 曇
夏休み最後の日の日記である。
川上さんが道を歩いていても、子どもの姿が見えないなぁと思っていたら、
団地のほうから子どもの声が聞こえてきた。
「休みがおわるのはいやだー」
「いやだー」
「ほんとうにいやだー」
まるで掛け合いのように団地のあちらこちらから聞こえたそうだ。
そして五時半を過ぎるとその叫び声がぴたりとやんだそうだ。
叫ぶ子どもの気持ちも、
そんな子どもを持つ親の気持ちもよ~く分かる。
淡々と描かれた弘美さんの日記の行間から
笑いのつぼが私にせまってきた。
これを読んでちっとも笑えない人もいるだろう。
おおかたの人がそうかもしれない。
しかし、私はお腹の皮がよじれるほど笑った。
あ~苦しかった。
でもすごく面白かった。
門馬則雄さんのイラストがまた弘美さんの日記にぴったり合っている。
どれもまねをしたくなるほどかわいいイラストなのだが、
やはり一番と言えば、裏表紙のカエルだよなぁと思う。
東京日記2を読んだばかりなのに、もう東京日記3が読みたいと思う。
それくらいに弘美さんの日記は面白い。
紙の本
「五分の四はほんとうのことです」
2011/03/16 10:06
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:K・I - この投稿者のレビュー一覧を見る
『東京日記2 ほかに踊りを知らない。』を読んだ。
この本に収められている文章は「東京人」という雑誌に発表されたものだが、川上弘美さんの「東京日記」は2011年の今も続いていて、今は平凡社のサイトで連載されている。
「あとがき」で「中の五分の四くらいは、うそみたいですが、ほんとうのことです」と書いてあるが、本当に、「日記」を読んでいるというよりも日記体の小説を読んでいるという気持ちになる。
適度に肩の力が抜けていて、それでいてユニークな観察もあったりして、読んでいてあきさせない本だった。
文章に添えられた絵も雰囲気にマッチしている。
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川上さんの日記を集めたもの第二弾。十一月二十日に出たばかりの本で、この本を書店で見つけなかったら、第一弾も知らなかったでしょう。一巻よりも、文章がほんの少し長くなっています。普通の日常が文章にしてみると、すこしぶれているようなそんな感覚が返って心地よい気分にさせてくれます。
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カワカミさんの東京日記第2弾 相変わらずのです。 ほわほわでは無い、ふらふらでもふわふわでもへろへろでもない、なんだか不思議な日記です。
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相変わらずおかしみたっぷりで、しみじみ明るい気持ちになる。流しに出現する「ぬる」のくだりが特に好き!そして装丁が本当に本当に可愛い。絵をすごく活かしてて。絵:門馬則雄 装丁:祖父江慎 08.02.09
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川上さんの、ウソのようでホントのようで、ウソもちょっぴり混じってる日々の日記。読み始めたときは落ち込み気味だったのに、くすりくすりと笑ううちに、すっかり元気になってしまいました。
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07/13/2008読了
川上弘美の日記。
どこかつかみ所のない、なんとなく漂うシュールさ。
完全なフィクションのように感じるできごとの、五分の四は本当のことだそうです。
もしかしたら、日常は思っている以上にシュールな出来事が沢山あるのかもしれない、と思ってしまう。
『赤ちゃんのおことば』に、思わず微笑む。
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椰子・椰子の日記そのままのエッセイ2冊目。
本当か嘘か分からない、独特な世界に生きている
その日常がうらやましい。
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2009.06.30. もう、どうしようもなく、好き。
2008.04.21. ここのとこ、集中力が全然なくて本を最後まで読みきれず、今月に入ってやっと2冊目。貴重な本は、川上さんの日記。肩の力が、ゆるりと抜ける。なんか、「人生を満喫してる!」とかそういう風じゃないんだけど、川上さんらしく毎日をゆるゆる過ごしてるんだなあと思うと、幸せになる。東京音頭、知らなくて残念。★★★★★
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他人の日常って不思議。
同じ文化圏で同じ言語を話して暮らしているのに自分とは全く異なる気持ちになる。
人に読まれることを前提としていないような、メモのように個人的な日記ほど面白くて好き。その点この本は満点!
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このひとの淫夢は大量のひよこにぎゅうぎゅうのしかかられる夢だそうで。。
それってきもちいい。。のかな?
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川上さんの毎日はきっと私達のと大きく変わらないのだろうけれど(変わるかもしれないけれど)謎めいている。この第2弾も。
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川上弘美の書くものへの惹かれ方は我ながら尋常ではないと常々思っているのだが、好きなものは仕方がない。会社の帰りに「東京人」を探し出して(何故か、この雑誌の置き場所はは時々変わる。置き場所が変わるといえばもう一冊立ち読みを決め込んでいる「Ku:nel」も、女性誌のコーナーに入ったり、料理のコーナーに入ったり、最近はロハスなコーナーに落ち着きつつあるけれど、これも立ち位置によって大きくぶれることのない川上弘美の為せる技かしらと時々思ったりしています)、いつも東京日記だけをぐんぐん読んでさっと棚に戻す。
月に一度保育所でもらっていた肝油ドロップをなめた後のような気分のまま勢いよく扉を押し開けて店の外に出る時の感じ。すっきりでもなく、くよくよでもなく、高揚した気分でもなく、名残惜しい気分でもなく、何となく名状し難い何かが残る感じ。その想いが幾つも幾つもまとまった東京日記の単行本化は、であるからして、うひゃあな感じなのである。
そもそも川上弘美の妙な諧謔性にしびれるのだ。例えば、ひよこにのしかかられて迷惑なのかと思いきやうっとりしたり、髪型のことでうじうじした後で怒りに気付いたり。もちろん全てが素の川上弘美の描写であるはずはないと思うけれども、感情のベクトルをひょいと曲げてみせる変化球に空振りさせられることの喜びが川上弘美の文章を読むことにはある。
それにしても時間の経つのは早い。この前の一冊は海外赴任中に発表されたもをまとめたもので、休みの度に少しずつ読んだもの(余程のこと、この文章のためだけに定期購読しようかと思いましたが)読めなかったものの集まりだったのだが、今回の集成は帰国後の時間の流れと重なったもののまとまりで、もうそんなに経つのかという想いが一入。特に、くぜさんのコトは改めて思い出した。その時、川上さんが朝日に寄せた文章と、東京日記がその時だけ少し違うトーンだったこと、馬がくるくると灯りの周りを回った。人間、いいことも悲しいこともどんどん忘れるものなんだなあと思いつつ、いやいやふとしたことで何も忘れていないことにも気付かされてなんて厄介なことなんだろうとも、改めて思う。
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(2008.12.02読了)(2008.11.30借入)
「東京人」に2004年5月号~2007年4月号に掲載したものです。3年分の日記です。
書いてあることの「5分の4くらいは、うそみたいですが本当のことです。」と「あとがき」に書いてあります。
川上さんが日々どんな生活をしているのかの一端がわかります。
副題の「ほかに踊りを知らない」とは、何のほかに知らないかと思ったら、東京音頭でした。(83頁)東京音頭のほかに踊りを知らないのだそうです。僕の場合は、ほかには不要で、踊りを知らないで済むのですが。
●作務衣(さむえ)(115頁)
電車の、横の席に座っている男の子二人の会話を、盗み聞きする。
片方が、アルバイト先の居酒屋の制服について、説明している。
「ほらあのさあ、浴衣みたいな感じの」「浴衣って言っても、下はもんぺみたいで」「じじいとかがよく着てる感じのやつ」
(「さむえ」というのだそうです。知りませんでした。神さんに聞いたら知ってました。)
●耳そうじ(130頁)
耳鼻科に行く。耳そうじをしてもらうためである。
(耳鼻科の先生に、「絶対に自分で耳そうじしないでください」「すればするほど、奥に押し込まれてしまうからです」と言われているそうです。)
●来年の目標(93頁)
年賀状を書きながら、来年の目標を考える。二つ、思いつく。
一つは、「よくうがいをする」。
もう一つは、「靴下を裏返しに履かない」。
とても難しい目標だけれど、守れるよう頑張ると、強く決意する。
疲れて難しい本は、読みたくないという時に手に取るといい本かもしれない。
☆川上弘美さんの本(既読)
「古道具 中野商店」川上弘美著、新潮社、2005.04.01
「東京日記 卵一個ぶんのお祝い。」川上弘美著・門間則雄絵、平凡社、2005.09.23
「此処彼処」川上弘美著、日本経済新聞社、2005.10.17
「夜の公園」川上弘美著、中央公論新社、2006.04.25
「ざらざら」川上弘美著、マガジンハウス、2006.07.20
「ハヅキさんのこと」川上弘美著、講談社、2006.09.29
「真鶴」川上弘美著、文芸春秋、2006.10.30
「風花」川上弘美著、集英社、2008.04.10
(2008年12月2日・記)