紙の本
やさしく清らかな物語
2007/12/11 18:06
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:紗螺 - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年七月に逝去された河合隼雄先生。その心のあたたかさ、人徳をしみじみと思わせる一冊である。
平易な文章で綴られる笹山での少年時代の話は、清々しくのびやか。自伝小説が陥りがちな、極端な甘さ、或いは逆に自己韜晦や卑下といったところがなく、読み心地がとても気持ちよい。男ばかりの六人兄弟の五番目のハァちゃん。兄弟の名前は、漢字だけ変えてあるようだけれど、中にはあの先生だな、とつながる名前もある。しかし、そんな現実とのからみなど問題ではない。物語を読んでいれば、ハァちゃんがどんなに心温まる、素晴らしい家族の中にいたかがわかるからだ。厳格なようでどこか剽軽なお父さん、包み込むようにやさしいお母さん、それぞれ個性あふれる四人のお兄さんにまだ小さな弟。この家族の中で、ハァちゃんはどんな存在やったんやろ…。自然に、そんなことを考えたくなる。ハァちゃんが喧嘩して帰ってきた時に、怒られるかと思ったら兄弟揃って喜んでいるくらい、おとなしいことで心配されていたようでもある。けれど、将棋に強かったりしてしっかり者と思われているようでもある。もちろん、一番重要なのは表題にもあるように泣き虫、という点だろうか。
ハァちゃんは本当に泣き虫で、読んでいても(あ、また泣いてる)と思うくらいだが、それにまつわるエピソードで最も印象的だったのは、『どんぐりころころ』の歌を歌っていて、(どんぐりはどうなったんやろ)と思ったハァちゃんが泣いてしまうところ。見つけた一番上のお兄さんが「どないしたん」と声をかけると、ハァちゃんは「あの、どんぐりさんが池にはまってな」と泣くのだ。お兄さんは《温かい目で》ハァちゃんのことを見るのだが、お兄さんならずとも温かい目になると思う。繊細でやさしい心を持った男の子なのだ。なんだかこちらもほろりと涙をこぼしたくなる。どんぐりは木になるんやで、と教えられ、ハァちゃんが《晴れやかな顔》になって、こちらもああよかったと胸をなでおろす。この場面では階下で別のお兄さんが《男らしくよ 涙を棄てよ》と歌っている。たまたまであり、それを非難するというわけでもないところに、「人の価値観は様々なんだよ」という作者の声を感じるようである。
他にも、お母さんが「泣いてもええんよ」と言う場面や、お友達との別れの前に撮った写真で泣かないように怖い顔をする場面や、いいところがいっぱいある。ひとつひとつ挙げていくと切りがないので、実際に手にとって読んでみていただきたいと思う。
家族から少し離れると、学校の話ももちろん多く描かれている。秘密基地や黒頭巾ごっこなど、生き生きとして新鮮だ。けれど、楽しいことばかりではなく、ハァちゃんは反りの合わない先生のクラスになってしまう。その先生とのエピソードは、笑えるような気の毒なような…。『平家物語』の話の途中に、「『源平盛衰記』に書いてありますね」と言ったら睨まれた、とか。猿が人間の祖先だって聞いて「じゃあアマテラスオオミカミが一番猿に近いんですか?」と訊いたら怒られた、とか。ハァちゃんは決して悪くない。猿の話など、むしろ、ハァちゃん、冴えてる!と言いたくなる。先生のほうにしてみたら困る質問ではあるだろうけれど、そういうのを認められる先生でなかったのは、ハァちゃんにとって不幸だったろうなと思った。
脳梗塞で倒れられ、執筆半ばで終わったということは本当に残念だ。ただ、終わり方は決して知りきれトンボではなく、知らなければこれで物語は完結したのだと思う終わり方だった。
ところでこの本では、絵も重要な役割を担っている。たくさんの温かいタッチの挿絵が、話の雰囲気にぴったりなのだ。また、最後に谷川俊太郎氏の詩がよせられている。この詩が真情にあふれていて素晴らしい。
紙の本
心温まる
2021/12/16 14:36
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
2007年に亡くなった、河合隼雄さんの遺作。
自身の子どもの時代を、子どもの目線から描いた自伝だ。
執筆途中で亡くなられたそうで、幼児~小学4年生で終わっている。河合隼雄さんが生きた時代は戦争とも重なるが、その空気や家族関係、学校の様子をほのぼのと伝え、温かな挿絵も相まって、心がほっこりする。
最後には谷川俊太郎さんによる河合隼雄さんに捧げる詩も掲載されている。
中学受験の国語で頻出の物語でもあるそうだ。
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購入者:清水(2007.12.10)心配性ですぐに泣いてしまう主人公が、自然の中で生活をしていることと、人・モノ・様々なことに興味を持つことから、章ごとにどんどん成長していく姿がよくわかる本でした。ちょっと顔がにやけたり、ともにジーンとしたり、読みやすくオススメです。読まれる方は、始めの主な登場人物は必ず読んでください!
貸出:釜井(2007.12.18)返却:(2008.3.11)
登場人物を把握するのに時間がかかりました・・・
「はぁちゃん」はとても愛着がわく主人公です。
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心理学者の河合隼雄さん最後の著作(連載中であった)が、自身をモデルに描いた童話であったことは象徴的。温かく聡明な両親に慈しまれて育つ5人兄弟の下から2番目のハアちゃんは多感な心を持っ男の子。生れてはじめて感じる「自分ひとり」である孤独や厳しい自立の体験、友との交流、社会への疑問、かけがえのない少年の日の思い出が河合先生の慈愛深い眼で語られる。谷川俊太郎さんの河合先生へたむけた詩がいい。「あなたの新しい物語の中で/あなたとともに生きようとして/あなたの魂の吹く笛に誘われて/ふたたび私は取り戻す/空に憧れ木と親しみ人を信ずることを」
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ハァちゃんこと河合隼雄さんを隼雄さんたらしめているものが何か、がよく分かった。よく泣くのは、それだけ感受性が豊かな証拠だし、自分の心の痛みも相手の心の痛みも分かるってこと。お父さん、お母さん、お兄ちゃん、友達。みんなみんな魅力的だった。
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大好きだった河合隼雄さんの絶筆になってしまった「泣き虫ハアちゃん」。
河合隼雄さんの幼少期の思い出がいっぱい詰まったお話です。
我が家の子育てのバイブルは「子どもの宇宙」でした。
いかにおとなの物差しによってこどもの世界が狭められてしまうのか、
常識を強要されることがいかにこどもにとって苦痛なのか、
河合隼雄さんのたくさんの著書から多くのことを学ばせていただきました。
もうあの暖かい笑顔に会えないと思うと寂しくなります。
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[hyahya MEMO]河合隼雄さんの遺作。泣き虫ハァちゃんの幼少期から小学4年生までの話。高学年のハァちゃんも、中学生のハァちゃんも読みたかった。子どもの頃の微妙な心の揺れが書かれていて、とても懐かしい気持ちになった。『窓ぎわのトットちゃん』を思い出した。(2008年3月26日読了)
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河合先生の最後の作品。こころがほっとあったかくなる。泣き虫ハァちゃんみたいに、ところどころでホロリとする。感受性が豊かで愛情いっぱい受けて育ったハァちゃん。子供のころ感じた、不思議なことやわからないことに周りの大人たちが真剣に答えてくれる。ホントいい話だなぁ。子育て中のお母さんたちも読んだらいいなと思った。
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「ほんまに悲しいときは、男の子も、泣いてもええんよ」「兄弟ちゅうもんはええもんや」。両親の温かい愛に包まれて、故郷、丹波・篠山の野山を、五人の兄弟たちや同級生と駆け回り過ごした幼い日々。感受性が豊かですぐに涙が出てしまうハァちゃんの、泣き虫ぶり成長ぶりをエピソード豊かに描いた、心温まる物語。
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素朴で心温まるエピソードがたくさん盛り込まれていました。
「ハァちゃん、ほんまに悲しいときは、男の子も、泣いてもええんよ。」というお母さんの言葉が暖かくて心に染みました。
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(2008.01.15読了)
昨年(2007年7月)に亡くなられた、河合隼雄さんの遺作です。
「家庭画報」に2006年2月号から2007年1月号まで連載されたものということです。
脳梗塞で倒れたのが2006年8月ですので、書き溜めてあったものを連載できたが、意識が戻ることはなかったので、未完に終わってしまったことが残念です。
兄の、河合雅雄さんは、草山万兎の筆名で多くの物語を書いています。子供時代の思い出的なものも書いています。隼雄さんらしき弟も登場するので、今回、弟から見た雅雄兄について、読むのを楽しみにしていたのですが、・・・。
主人公は、ハァちゃん(城山隼雄)で、幼稚園の頃から、小学校4年生までが書かれています。男だけの6人兄弟の5番目です。悲しいとき、悔しいとき涙が流れます。泣き虫なのです。
お母さんは、「ハァちゃん、ほんまに悲しいときは、男の子も、泣いてもええんよ」といってくれます。
歌の好きな一家で、お母さんのオルガンで、みんなで歌を歌います。
「どんぐりころころ」を歌うとハァちゃんは、どじょうと遊んだどんぐりがお山が恋しいと泣いたあと、ちゃんとおうちに帰れたんだろうかと心配です。
ハァちゃんは、いろいろと、自分で考えることのできる子供です。
鉄くず集めで、先生にほめられたり、秘密基地遊びでしかられたり、いろいろやってくれます。立派だけの子供ではないので、楽しく読めます。
四年生のとき、先生が、生物進化の話をしてくれました。人間の先祖は猿だったという話を聞いたハァちゃんは、「先生、ほんなら天照大神は、日本人の中で一番サルに近かったんですか」と質問したら、先生にしかられ、後ろに立たされてしまいました。
(論理的に考えると、正しいと思われるのですが、なぜしかられたのか分かりません。)
同じ学年の川崎さんを好きになって、毎日学校で見かけるのを楽しみにしていたのですが、転向してしまいました。
成長に合わせて、いろんなエピソードを入れながら、子供の精神的成長を描きたかったのかもしれません。
カラーの挿絵がたくさん入れられています。小学校高学年から読めるのではないでしょうか。大人にも、子供にもお勧めです。
本の帯に、的確な、小川洋子さんの推薦文があります。書店でぜひ手にとってお読みください。
(2008年1月16日・記)
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河合隼雄さんの自伝的小説。児童書じゃないかもしれないが、児童書としてもすばらしいお話だった。ところどころ、隼雄氏ならではの鋭い心理描写が光る。感受性豊かなひとりの少年の物語をとても平易な語り口で豊かに描いていて、さすが。
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河合さんはこういう子どもだったんだなーと温かい気持ちになる本。
「子どもは大人のミニではない。全くの別の感性をもった人。」を改めて確認できました。
みんな昔は子どもだったのに、忘れてしまう、「ハアちゃん」のような思い。
ときどき思い出せるように(思い出すと現実の子どもにいらいらするのが小さくなります)、子ども視点の本を読むといいかも。
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懐かしい感じがするのは、父と同年輩だからか。
河合先生の温かい言葉、愉快なほらがまたきけたらいいのに。
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河合さんの子どものころを描いた作品。
大家族のところや、友達との件。
優しくいお母さん・・・
読んでいると心が和みます。