紙の本
時代を上手く描いている
2018/05/31 20:31
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投稿者:たあまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
中島京子『イトウの恋』を読みました。
イトウ(伊藤)とは、開国から間もない日本にやってきた英国人女性冒険家に随行してその通訳をつとめた青年です。
この作家は、直木賞受賞の『小さいおうち』もそうだったけど、その時代のことをよく調べて、うまく描いているなあと思います。
まるで、その時代を生きた人が書いたように思えるほどです。
電子書籍
ロマンを感じる
2017/05/14 16:25
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
イザベラ・バードの紀行文はまだ読んだことがない。少し読んでみたくなった。伊藤はどのように描かれているのだろう。確かにかの時代、通訳は必要だ。イザベラの通訳として淡い恋心、慕情を抱く伊藤鶴吉視線の話。手記、日記、書いている当時はなんてことないただの雑文でも50年、100年経つと価値が出てくる。その重要性がよく分かる。記録というのは面白いものだ。歴史の隙間に埋もれている事柄を掘り起こし、未来の直接関わりのない人間に感動やら勇気を与える。言葉、文字がある限り続く現象であり時間が持つ雄大なロマンでもある。
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会ったこともない自分の先祖がどんなことをして何を考えていたのかなんて、それこそ手記なり資料なりがないとわかりません。だけどその人が苦しんだり知恵を働かせたり楽しんだり泣いたりしながらも生きてくれた、その結果自分が今ここにいられるんだと思うと、人の営みの流れの大きさを感じずにいられません。今自分が生きていることも、何世代かあとになって何かしらの影響や効果を生み出すかもしれない。特に大きなことをしなくたって、人と関わる中で残っていくものがあるかもしれない。次の世代へのバトンを渡すこと。直接じゃなくでもその大切さや逞しさに頭が下がる思いでした。
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言葉を超えて文化を超えて年齢を超えて大切な人。
この情熱や敬意や恋が確かに自分を支えているという実感。
僕は誰のようにもなる必要はないんだね。
僕自身の不可思議な人生を生きるんだね。
共に旅に出よう。
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中学校の郷土部の顧問になった主人公久保耕平は、明治時代の通訳伊藤亀吉の残した書付の一部を亡くなった祖母の家で発見し、その続きを探して伊藤の子孫である女性劇画作家田中シゲルや郷土部員の赤堀真とともに奔走する。
伊藤の残した書付には、彼がイギリス人の女性旅行家I・Bの通訳として同行した、東京から北海道までの旅の記録とともに、その旅を通して徐々に募っていく伊藤のI・Bへの思いが綴られている。
物語は、久保やシゲルが書付の続きを探すストーリーと、書付に残された伊藤とI・Bの旅のストーリーの2つで構成されているのだが、その2つのストーリーの文体が、見事に使い分けられている。
特に、書付の文体は(物語に登場するのは、書付を久保が現代語訳したものなのだが)いかにも昔の文章を訳したという雰囲気が醸し出されている。
そして何よりも、伊藤のI・Bへの純粋で生々しい思いに心打たれる。
シゲルがどんどんと2人の物語に引き込まれていく気持ちがよくわかる。
読んでいる自分もまた、シゲルと同様に2人の物語に引き込まれていき、また伊藤と同様にI・Bの美しさに魅せられていく。
久保やシゲルと伊藤とは、あまりにも遠く複雑な縁で結ばれている。
その縁について深く考慮しなくとも、この物語を充分に楽しむことはできる。
久保やシゲルが、他人のようで他人でない、自分と不思議な関係にある伊藤やI・Bに思いをはせる様子や気持ちは、読んでいてしっかりと伝わってくる。
けれども、久保やシゲルの、伊藤との関係を含めたそれぞれの境遇を考慮に入れながらじっくりと読んでみれば、この物語はさらに味わい深いものとなるのではないかと思う。
少なくとも自分は、物語を読む時、登場人物との接点を発見し、共感したいと思いつつ、読み進める。
この世に唯一無二の自分が抱いている他の誰とも共有できるはずのない固有の気持ちを、本の中の人物が同じように抱いている、それを知った時たまらなく嬉しくなる。
久保やシゲルも、きっとそんな気持ちで伊藤の書付を読んでいるのではないかと思う。
だからこそ、久保とシゲルのストーリーにも、ひいては伊藤とI・Bのストーリーにも、引き込まれていくのだろう。
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ネットを通して初めて知った作家さんで、
これが3冊目になるのかな。
良い話だと思った。
亀吉が描く手記の中で、
「誰かが読むのだろうか?」
「自分のためだけに書いている」としながらも、
書かずにおくことがあったり、かといって、
うまく美しいことばかりを書いているわけでもなく、
それがリアルに感じられて良かった。
前を振り返って、自分のすべてを客観的に受け入れることは、
今はないけど、いつかそうなるんだろうな。
それは今次第。
シゲルのパートも独身女性のことを、ありきたりではなく
書かれているように思えて、独女ものにある、
目をそらしたくなる感じがなくてよかった。
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情熱は人を動かす。
そして歴史は、語られるべき「時」が訪れる日をじっと声を潜めて待っている。
作者の人物チョイスが絶妙で、うんうん唸ってしまった。
からりと乾いた爽快感。
そしてしっとりを潤された満足感。
どちらも味わえて良かったです。
数十年前の青年が胸に宿した思いが、現代の主人公たちにじわじわと変化を齎す。
それもまた、彼らのために用意された「時」。
「真実は時の娘」という言葉が思い浮かぶ作品でした。
歴史とは個人の私生活を覗き見することであり、
時間が経過したからといって軽はずみに公開していいものでもない。
だが場合によってはその決断によってこれまでの世界観が一変することだってある。
だから目が離せない。
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どんどん読み進めてしまう本。勝手知ったる横浜が舞台なのも深く入り込めた要因かもしれないけど。
現代の人が過去の人を好きになって受け入れていく感じとか、過去が現代にも受け継がれている感覚の表現とか、とても自然で良かった。
にしても「ようよう広くなりゆく~」のくだりには吹いてしまった。あの軽妙な文体が楽しい。
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シゲルの先祖の恋の話。今と昔のストーリーはタイムスリップをした感覚にさせてくれる作品。ちょっと廻りくどい設定が読み手側には混乱するかな。
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イザベラ・バードからみだし、あれだけ話題になった本だもの。文庫になったら読まなきゃ。買うのが遅くなってしまった。
ーーーーーー
登場人物も魅力的。重層的で思うことはあれこれ有るのだけど自分にはまとめる力がない。例えばDという女性の存在、一種の巫女というか魔女のような存在なんだけどこの物語での意味がよく掴めない。
イザベラ•バードの紀行ではロッキー山脈行ではロマンスの匂いがかすかにするが、ハワイ、日本版では想像すら出来なかった。
著者の発想に敬服する。ハワイ版で訪問される側にたった物語が存在して居るか確認してみよう。(モデルとしてホラーの登場人物になったものは有るけど)
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最後、山田さんが誰の子なのかとか分かりにくい気がした。ただ結構凝って書かれてたが、もっとイトウの話が読みたかった。
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お得意のパラレルワールド!
どっちの世界も描ききる筆力すごいです
パチパチ
しかし、田中シゲルの系譜がいまいち混乱してしまって・・・
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おもしろかった!中島京子でなければこんなにいい作品になりっこない、と思わせるほど中島京子はうまい。イトウの手記の部分は自由な想像だけれど、イトウの若さと真っ直ぐさに、引きこまれることウケアイ。
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実際にいた人物をモデルにして書かれた本ですな。
伊藤が「イトウ」となっているので、この本を読む前、「どうぶつの森」をやっている私としては「イトウかぁ…。あれを釣ったときの喜びはでかかったなぁ」なんて思ってしまってました。
この本には、高野秀行さんの「辺境の旅はゾウにかぎる」の書評からたどりつきました。
明治初期の横浜……。
きっとものすごい趣があって、素敵な街並みだったんだろうな。
横浜の近くに住んでいるくせに、まったくそういうことには関心がなかった。
今度「昔の横浜が残る場所ツアー」でも企画しようかしら。ひとりで。
しかしこの時代に、日本の北の方へ旅をした外国人女性がいたとは。
この方の視点から書かれた本も、ぜひ読んでみよう。
そこにはイトウがどんな印象で書かれているのかな?
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明治初頭に北海道を旅した40代後半の英国人女性と、通訳兼ガイドとして彼女に同行した横浜出身の17歳の日本人少年の間の「恋」を描いたフィクション。日本人少年通訳が晩年になって記した手記をたまたま発見した高校教師が現代語訳した手記を、その通訳の子孫である女性(元モデルの劇画原作者)が読んでいくという重層的な物語構造。漫画原作者の女性と高校教師が段々親密になっていくプロセスも同時進行する。複雑な時間構造・プロットを、ややこしい背景設定がされた登場人物が謎解きをしていくにもかかわらず、飽きさせない。個々のキャラクター描写も細かくて良い。