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紙の本
カウントダウン、ていう言葉にピンと来ない世代の方は、ベストテン、て読み替えてください。全世代(ま、70歳以上は別にして)対応型娯楽小説、ここにあり、です。
2008/10/13 17:21
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
人が才能を開花させているのを見ていると読者としても嬉しいのですが、私にとってそういう作家の一人が豊島ミホです。しかも、今を感じさせる。無論、言葉遣いだけではなく、取り上げる対象、それについての感じ方、周囲の受け止め方などについて、現代の息吹を伝えてくれる、それが大切です。
そういうとき、やっぱり若さは武器だな、って思います。50過ぎの作家が「カウントダウン」なんていっても似合わない。30代前半までなら滑り込みセーフ。豊島は1982年生まれですから、まだ26歳、洋楽ていうかJ-POP言葉を使うのが自然な世代。でも、これだけ書ける人はそんなにいないんじゃないでしょうか。伸びている、って実感させてくれます。
カバーもタイトルそのまんまヒガシ。design の岩瀬聡が選んだのでしょうが、photo Thomas Northcut/Getty Images も秀逸です。でも、このカバーだけみて、「これは10代の子が読む本でしょ」なんて思い込まないでほしいんです。若さを感じさせるからって、軽薄を売り物にしたり、同世代に媚びて年上の人が楽しめない、そんな内容ではありません。
気になるようでしたら「カウントダウン」ではなく、「ベストテン」て読み替えてください。それなら60代の人だって抵抗無く読めるでしょ。勿論、内容もそれに十分応えてくれます。そういう意味では、極めてオーソドックスな小説です。でも、今なんです。今を感じさせてくれるんです。それが豊島ミホです。
カバー後のランキング THIS WEEK BEST 10 が出ていますが、それが内容にリンクしています。バンド名も含めて今風です。
第1位 伊藤ありさ 「end of forever」 初登場
第2位 相葉ミリ 「brilliant tomorrow」 初登場
第3位 スモール・ロンドン 「雪が僕らに踏みしめられてた」初登場
第4位 コンペイトウスパーク 「MAGIC!」 ↓
第5位 シュガフル 「あなただけ21」 初登場
第6位 浅田真樹 「最後のドア」 >>
第7位 英絢子 「揺籠」 ↓
第8位 ウィンド・オア・ソングス 「オリオンの向こう」 初登場
第9位 アライブ・オン・ザ・エッジ 「君の声だけ」 ↑
第10位 沼倉雄介 「ラブソング」 初登場
早速、各話の初出と簡単な内容紹介に入りましょう。
◆あたしはいい子(「小説すばる」2006年11月号):伊藤ありさ、25歳、女性アーティストで、シングルチャート一位最多獲得記録保持者。歌もダンスも上手くはないけれど、自分をどう売り出すかについては自分で考え一生懸命働く。でも、自分が歌姫でいられる時代が終ろうとしていることは知っている・・・
◆ぜんぶあげる、なんでもあげる(「小説すばる」2007年3月号):引っ越す時、うちの近所の長屋に暮らしていた引きこもりの裕也と交した約束「裕也が手に入らんて思うなら、あたしがなんでも、持ってきたるよ」。22歳の相葉ミリはベスト盤発売に難色を示し・・・
◆話があるよ(「小説すばる」2007年1月号):スモール・ロンドンの結成は七年前、上京は四年前、デビューは二年前。二組に分かれて二人づつキャンペーンをすることもある。皆疲れ気味、中でも彼女に振られた智の調子が悪くて、サボりがちの仲間を罵倒することも・・・
◆楽園が聞こえる(「小説すばる」2007年5月号):僕の職業はエンターテイナー、肩書きはDJ、28歳、あだ名は北海道出身だから「まりも」。子供の頃から「楽園」を自分の耳の中に探していた。上京して、仲間に出会い、DJになり、メジャーデビューした。そして或る日・・・
◆きらめくさだめ(書き下ろし):普通の子だからと幸運にデビューした景こと私は、そんな自分のことをよくわかっている。そしてアイドルでいることの楽しさも。でも、グループでやっていれば仲間の気持ちもわかる、このままでいいんだろうか、普通の人になりたい、などなど・・・
◆きたない涙(「小説すばる」2007年7月号):路上ライヴでCD1000枚売ったらプロデビュー、事務所との約束どおりデビューしチャートインも果たした私は、二年前までは普通の、いや普通以下の高校生。不登校で引きこもっていた私が唯一好きだった歌、親の反対を押し切って始めた路上ライヴ、浅田真樹・・・
◆ピクニック(書き下ろし):今日はケンちゃんと娘の真子と三人で伊豆の住宅探し。若い不動産会社の社員は、時々、首を傾げて私のほうを見るが、私は軽く無視。ともかく、娘と私たちが満足できる物件探しが第一。案内された物件はどれにも癖があって・・・
◆永遠でなくもないだろう(「小説すばる」2007年9月号):25年前に一緒に歌っていた彼女・美鶴にチケットを送った俺は、急に自身を失った。20年以上つづけてきたバンド、ウィンド・オア・ソングスはヒットも少なくなり、俺自身、昔のような声も出せなくなって・・・
◆ラストシングル(書き下ろし):アライブ・オン・ザ・エッジ、4年前に結成したバンドは、オーディションで結成された。俺は20歳でオーディションを受けた。順調だった活動だったが、既に仲間には努力をする、という気持ちもなくなっていた。そんなバンドに事務所が下した結論は、解散・・・
◆絶望ソング大全集 (書き下ろし):学校でも苛められ続けられてきた俺は、自分の暗い歌を評価する人間が現れても、素直に喜べない。ただ、歌っていればいい、という沼倉にとってメジャー・デビューなんて考えるも嫌。まして、事務所の押しの強そうな人間が、昔、自分を苛めた男を思い出させ・・・
正直、出来にバラツキがありません。どれが好きか、と聞かれれば全部、としか言えない。無論、現在の豊島に舞城王太郎が登場した時のような時代を変えてしまうような才能の巨大さを感じるか、といえば否です。でも、三浦しをんや森絵都がゆっくりと、それでいてしっかりと自分の才能を伸ばして行った、その軌跡を感じさせます。
このまま伸びていけば、また一人早稲田大学文学部出身のかけがえの無い作家が生まれるでしょう。私はそれを楽しみに、豊島ミホを見守っていきたいと思います。そういう所にいる、そういう作家のメガヒットならぬスマッシュヒット、いつかランクインすることでしょう。