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ローマ人の物語の第12シリーズ目の3分冊。ローマ帝国が凋落に向かい,明らかな下降線をたどり始めることが誰の目にも明らかになる三世紀を描いた作。
ローマはこの時代,ゲルマン民族に何度も簡単に,帝国領内への侵入を許し,しかも屈辱的な講和を何度も結んでいる。「平和は最上の価値だが,それに慣れすぎると平和を失うことになりかねないという『パクス・ロマーナ』の逆説的な現象が,現れ始めた」と書かれているが,現代日本でも同じである。平和が当たり前のことであるという社会は素晴らしいが,それはあくまでも平和維持の種々の努力の上に成り立っているに過ぎない。
皇帝が頻繁に変わることによる政策の一貫性のなさ,それによる国力の無駄遣い。まるで今の日本をそのまま言い表しているようである。また,大衆は数人のアジテーターがいれば簡単に煽動できる,ということも頻繁に語られているが,これも然り。ローマほどの影響力はなかったかもしれないが,それでも大国であった,しかし今は下降線をたどる一途の日本。今までのどの巻よりも,現代日本への示唆に満ちているような気がする。
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長く読んできたローマ人の物語も大分、終盤になってきた。
この本を通じて、皇帝という概念が変わった。
血族で恵まれた人だと思っていたが全然ちがう。
終身制の大統領で不信任の時は殺されて解任。
かなり酷い扱いを受けた皇帝もいて、どちらかというとメリットよりデメリットが多く、責任感がなければ引き受けられない。また、皇帝として実績があってもあっさり暗殺されてしまい危険な職業になっている。
なった時点で自然死は望めない。
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軍人皇帝時代の後半、ヴァレリアヌス虜囚(260)の後、ガリエヌス体制からの混乱の三世紀後半を書く。ガリエヌスは父を見捨てゲルマン民族迎撃に奔走する。対ペルシャ戦線では、通商都市パルミラのオデナトゥスが敢闘したが、ローマに忠実だったオデナトゥスの謀殺後、息子を傀儡とした妻ゼノビアの体制となり、中近東一帯やエジプトまで吸収して勝手に独立してしまう。また、ゲルマン戦線では、鹵獲品の分配でもめた軍団同士が、どさくさでガリエヌスの子供を処刑してしまったので、皇帝の配下にいられなくなり「ガリア帝国」の建国となる。かくして帝国三分となった。ガリエヌスは、現実的視点からゼノビアもガリア帝国も静観し、対ゲルマン防衛の軍制改革を行い、重装歩兵を中心とした部隊から騎馬兵主体の遊撃戦部隊に転換した。また、軍隊をスペシャリスト化し、元老院と切り離した。これによって国家のエリートは軍務という実務を経ないことになり、政治家から批評家に堕した。この法は人材育成的にはカラカラの勅令以後、第二の崩壊の引き金となった。経済的には、このころはスタグフレーションで、物価の高騰と金利の低迷である。要するに、生産しないから物資不足で物価が高騰、平和が崩壊したので産業投資もへり金利は安くなり、金の行き所がなくなり、タンス貯金にまわるというありさま。蛮族に略奪された農民は都市に流入し、コミュニティーと社会福祉の崩壊から、キリスト教拡大の温床となった。帝国三分の状態を収拾したのが皇帝アウレリアヌスでセルビア辺りの人、父母の名も定かでないが、ローマンスピリットは持っていた。ガリエヌスに見込まれ、騎馬隊長から出世して皇帝になった。彼はまずゲルマン民族を積極戦法で叩き、トライアヌスが得た属州ダキアを放棄、つづいてゼノビア体制を攻撃、ペルシャをあてにし傭兵ですましていたゼノビア体制はもろくも崩壊し、返す刀でガリア帝国に進軍、トップ会談で和解し、ガリア帝国は再びローマの傘下にもどった。また、アウレリアヌスはローマに現在も残る城壁を築いた。久しぶりにローマに凱旋したのも束の間、叱責された秘書の陰謀で謀殺された。空位となった皇帝位にだれをつけるかで、元老院と軍団の間で五ヶ月も押し付け合いがつづき、結局、75歳のタキトゥスが即位、対ペルシャ雪辱戦に進軍途中、病没してしまった。これをついだのがプロブスでゲルマンと転戦、蛮族同化政策などを通し、帝国の再建につくしたが、基地視察中に謀殺された。これを次いだのがカルス、対ペルシャ雪辱戦に勝利するが、砂漠で落雷にあって死んだ。ヌメリアヌス・カリヌスがつぐが謀殺され、一人残ったのが、ディオクレティアヌスである。
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三世紀後半に入り各地でリメスが破られ、今までの平和で繁栄を極めたローマ帝国が変容をさらに加速させていく。蛮族は地続きの侵攻だけでなく、海からも略奪をはじめ、内海の平和すら失われる。そんな状況にありながら、ローマ皇帝は決定打を打てない。打ち始める皇帝もいたが、身内の裏切りによってその命を絶たれ断続的な打ち手になってしまう。
ローマ人らしいローマ人が姿を消しつつあるこの時代は、ここまで読んできた自分としては非常に哀愁を感じてしまう。このあと、キリスト教が入り込みさらに変容を遂げていくだろうが、やはりそこにも哀愁を感じてしまうのだろうか。
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侵入とローマ帝国の崩壊が続く。アウレリアヌス帝の内政改革、パルミラとガリアの三分割の帝国統治の時代。皇帝は終身職のため、うまくいかなくなると簡単に謀殺されてしまう。巻後半のキリスト教普及に対する著者の考察は一読の価値あり。
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クラウディウス・ゴティクス、アウレリアヌス、タキトゥス、プロブス、カルス、ヌメリアヌス、カリヌス。疫病、自然災害、蛮族侵入など危機的状況。パルミラ、ガリアに三分、再統合。
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アウレリウスがキリスト教のトップはローマの司教と決めたことが、現代においても踏襲されていることが興味深い。
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ローマ帝国が再度統合される。再統合を実現した、久しぶりにローマ人らしい実行力のある皇帝アウレリアヌスは全くつまらないことで部下に殺されてしまう。その後も、実力派の皇帝、プロブスも部下に殺される。塩野七生は、統治する側と統治される側の距離が、限度を越えて短縮していたことを示している、とし、リーダーは親近感をもたれながら、距離感もいだかせる必要がある、と書いているが、駄目になっていく帝国の不安感の現れのようにも思われる。
最後の、ローマ帝国とキリスト教、の考察は興味深い。
これから、キリスト教がどんどん台頭してきそうな気配…
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皇帝の多さと部下に殺されることになる皇帝の多さ。
一時的にせよ、3分割されたローマ帝国を再統合したアウレリアヌス帝。首都ローマに、新たな城壁を築く。高さ6m。見てみたい。こういうのも、結局は城壁を築かねばならないほど、蛮族の侵入があったということか。
この巻の後半は、本題から外れて、キリスト教とローマ帝国についての話。キリスト教の信者には悪いけど、一神教が退場していたら、どんな世界になってただろうか。少なくとも宗教争い(からくる紛争・戦争)は減るだろうし。幸せにする人の数と不幸になる人の数がどっちが多いのか微妙なのが、一神教ではないかしら。寛容がそこになければ争い起きるけど、一神教はそのレゾン・デ・トールが他の神の排除。土台無理な話なんでしょうか。
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ヴァレリアヌス帝がササン朝ペルシアに捕らえられてから,ローマ帝国の三分裂を経て,ディオクレティアヌス帝の登場までの物語です。まさにタイトル通りの「迷走する帝国」の最後の迷走までの時期です。ローマが迷走した原因には,外的要因と内的要因がありますが,この時期の話を読んでいると,いろいろと考える要素があります。その中でも,指導層に要求される資質については,混迷の時代だからこそ何が必要なのかを考えさせられました。
また,最後の第二部第三章の「ローマ帝国とキリスト教」の記述は,塩野さんが,日本人としてローマ通史を書いた意義,と書くと大げさかもしれませんが,その意味合いには,このテーマをこの内容で書いたと言うことがある程度果たしているのではないかなと考えています。決して軽いテーマではありませんが,ローマ人の物語が英訳されて出版されることになったこともあり,何故,キリスト教が誕生から300年を経て無視できない勢力となり,ローマ帝国を「乗っ取ること」になったのかという記述は,「ローマ人の物語」の核(コア)の1つだと考えています。
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疫病の流行や自然災害の続発、そして蛮族の侵入といった危機的状況が続く中、騎兵団長出身のアウレリアヌスが帝位に就く。内政改革を断行するとともに、安全保障面でも果断な指導力を発揮し、パルミラとガリアの独立で三分されていた帝国領土の再復に成功。しかし、そのアウレリアヌスも些細なことから部下に謀殺され、ローマは再び混沌のなかに沈んでいく。のちに帝国を侵食するキリスト教も、静かに勢力を伸ばしつつあった。
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古代ローマの死因は無能な皇帝でもキリスト教の台頭でもない。
ローマは老いて疲弊し、老衰で最期を迎えたのだ
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第三章のローマ帝国とキリスト教が興味深い。宗教も人間が必要として生まれたものなのか。「寛容」は宗教に限らず、人間関係の中で重要なキーワードだ。
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ゲルマン民族の来襲下、パルミラ王国、ガリア帝国に3分割されるローマ帝国。
皇帝アウレリアヌスによる再統合。
社会不安とキリスト教の浸透。
中東の歴史の中でよく出てきたパルミラ女王ゼノビアがここで登場。
しかし、作者は彼女を不誠実なお調子者と見ていたようで、評価は高くない。
蛮族の侵入、疫病と戦争、内政不安の中、ローマ帝国は衰退を続ける。
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★2008年12月7日 96冊読了 『ローマ人の物語34 迷走する帝国(下)』塩野七生著 評価B
混乱の3世紀後半をガリエヌスからディオクレティアヌス登場まで描く。蛮族の北からの侵入、東からの圧力、ガリア帝国の成立、パルミラ王国の成立など従来の広い版図を誇った帝国が分裂の危機に瀕し、ギリギリの所で踏みとどまるも既に全盛期のローマ帝国とは比べものにならない体制に陥り、次々と軍人皇帝が擁立されては、謀殺されていく歴史はこれまで知らなかった側面を知らされる。