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五族協和という美辞麗句の空しさ
2018/10/01 19:22
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投稿者:親譲りの無鉄砲 - この投稿者のレビュー一覧を見る
類書に山室信一「キメラ」がある。これは名著であるがいささか歯ごたえがありすぎる。それに比べ、本書の歴史の語り口は軽快で読みやすい。「満州」入門書としてはお勧めだ。
経済学者による歴史本とあって、軍国日本によって支配される以前の「経済的」キーアイテムが「大豆」であったことを明快に示唆。このポイントは重要で、他書ではあまり触れられていない。小規模の労働集約型農業しか慣れていない日本人が入植しても経験・技術において先んずる先住の中国人に優位する農業経済を築くことはできない。机上で企画立案することに慣れている役人の視点が行き届かないところだ。植民地経済政策論の大家・矢内原忠雄が満州視察後、日本人による入植が絶望的であると警告していた。しかし、こういう慧眼ある人の言葉に耳を傾けることなく、政府及び軍部は、満州を中心とする中国大陸における権益拡大が日本の経済に大きく資するもの、そして五族協和の美辞麗句をちりばめて、侵略を進めていくことになる。また彼らは、奉天軍閥の張作霖・張学良による政治を前近代的なものと貶めていたが、実態はもっと進歩的なもので重工業推進等の特徴もあった、と著者は強調する。もちろん自動車や航空機等、欧米のキャッチアップ段階のものであったが、奉天軍閥政治でもとにかく推進していた。つまり、満州の近代化は日本の助けなしにも着々と進み得た可能性が高いという事。一方、日本も中国との戦争が泥沼化しおまけに対米戦にまで踏み込み、経済成長どころではなくなった。満州において日本が進めようと目論んだ重工業化計画も、結局は絵に描いた餅にすぎなかった。
ただし、石原莞爾が主導した満州産業開発5か年計画で示された統制経済はそれなりに目を引くものがある。ただし、彼らはこの計画を遂行する上で、日本が向こう10年は平和を維持する事が条件とみていた。石原は単なる戦争バカではなかったかもしれない。日本は226事件を契機に更なる軍国主義化と石原らの与する統制経済の道を突き進む。しかし歴史の皮肉で石原本人の謀略による満州事変のあと、二匹目の泥鰌を狙った武藤章らの主導した盧溝橋事件を皮切りとする日中戦争の泥沼に足をすくわれ、5か年計画は修正しながらもさらに予実が大きく狂うことになる。
本書は、棄民として戦後困難な帰還の苦労を重ねた満州開拓民たちの悲劇にも触れる。詳細について記述した他の良書もあるので、本書をきっかけに多くの読者がそれらに読み進められることを望みたい。 日本の軍国化路線の蹉跌は、歴史修正主義者たちが政権を牛耳っている日本という今の国民にとって、等しく本当に耳の痛い歴史として真摯に学ばなければならない、と思う。そして今、勝者として君臨している世界の暴君・アメリカにもよく学んでもらいたいような気がする。
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朴正熙将軍と金日成と官僚と外交官。
2008/11/23 00:35
9人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「満洲帝国」における漢人-あの時代風にいえば「満」人官僚達について詳しく書かれているのは参考になる。しかし、朝鮮人については問題がある。朝鮮人は日本人と「満」人の中間の地位に置かれたのは書かれていても、朴正熙将軍が「満」軍少尉に任官したのは昭和19年だが、抗日聯軍が壊滅して生き残りは投降するか、ソ連領内に脱出したのは昭和15年。彼が配属されたのは華北に派遣された部隊だから、どうやって「討匪」行に参加出来るの?八路軍の事じゃないだろうね?それとも朝鮮戦争の話?謝介石のような台湾人の高官はいても、朝鮮人が「満洲帝国」で、どのぐらいの地位までつけたのか、書いてほしいものだ。この本には台湾人は出てこないけれど。
抗日聯軍には金日成よりも高い地位にいた朝鮮人もいたのに、それも触れないと。あまり突っ込み過ぎると民生団事件について書かないといけなくなるだろうが。
官僚、といえば内面指導について全然触れていないのは、何故だろう?「満洲帝国」で官僚制度について書くには必要なテーマなのに。
この著者が汪兆銘政権について書いた本は、なかなかよかったのに残念だ。その本にドイツ軍の保護占領下にあったデンマークが汪政権と一緒に「満洲帝国」を承認した、とあるが、「満洲帝国」を承認した国についても一つ書いた方がよかったのでは?日本軍占領下で「独立国家」になったフィリピンやビルマ、自由インド仮政府及びドイツ軍等の占領下にあった一応主権国家という事になっていたクロアチア独立国とスロヴァキア国にも通じるものがある。あんまり、そういうテーマで書かれた本はないから、誰か書いてほしいものだ。
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タイトル通り、「満洲」の歴史を、日露戦争から終戦まで書いた本です。
2009/02/07 22:06
7人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:龍. - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトル通り、「満洲」の歴史を、日露戦争から終戦まで書いた本です。
太平洋戦争は、その真珠湾攻撃から始まり沖縄戦まで、戦史の中心となる出来事が多いため、たくさんの資料を見る機会があります。
しかし、満洲の場合、どちらかというとわき役的なイメージがあり、あまり詳しく知らない人も多いはず。
実際、歴史の教科書などでは、日本の傀儡国家として「満洲国」が成立した程度のことしか載っていません。
本書は、満州国の建国から崩壊まで、政治・経済・文化面から解説しています。
その中で、政治経済の中心となる組織は、「満鉄」と「関東軍」。
このふたつの組織を中心として国家が形作られています。
国家の理念は、「五族協和」。
日本、朝鮮、漢族、満族、蒙古族の協和を目指したのです。
しかし、実態は最も少ない日本人が常に優遇されていたようです。
理念と建前。満州国にかかわった政治家や軍人の中にも、大変優秀な人材は数多くいたので、もう少し計画的に国家運営ができていたら、あのような悲劇的な結末を迎えることもなかったのかもしれません。
理念を推し進める上で、武力を用いてもうまくいかないのは、古今東西共通しているのです。
龍.
http://ameblo.jp/12484/
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混沌とした (?!) 満洲のすがた
2009/03/05 20:43
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Kana - この投稿者のレビュー一覧を見る
従来の見方にとらわれず,さまざまな面から満洲国をとらえようとしている.張作霖,張学良などの奉天軍閥の再評価,日本から進出した農家や商人が商売上手な中国人に勝てずに失敗したこと,農業技術の革新ができなかったこと,最近の回想録の傾向など,いろいろ興味ぶかい.内容がさまざまなぶん感想もまとめにくいが,そういう道教的 (?) な世界だったということだろう.
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はっきり言って読みづらい。張政権の目指した近代政策と日本の目指した近代政策との軋轢を、植民・工業・政治といった複視眼的にとらえたかったのだろうが、ごちゃごちゃしていて何が何だか判然としない。最後の満州の職業人たちについて描かれた部分は良かった。
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[ 内容 ]
17世紀以降の変遷、20世紀・傀儡国家の壮大な実験と挫折を、第一人者が解く。
日本人のためのまったく新しい中国東北史。
[ 目次 ]
第1章 一九世紀初頭までの満洲―封禁の地の変容
第2章 東アジア激動の中の満洲―日露戦争から第一次世界大戦まで
第3章 奉天軍閥と対立する日本―第一次世界大戦から満洲事変まで
第4章 「満洲国」の時代―満洲事変から第二次世界大戦終結まで
第5章 「満洲国」は何を目指したのか―「満洲産業開発五ヵ年計画」と満洲移民計画
第6章 満洲に生きた人たちの生活と文化―「五族協和」の理想と現実
第7章 消滅した「満洲国」が遺したもの―引揚げと受け入れ、そして戦後の中国東北
第8章 満洲の記憶とその変容―引揚者たちの回想録をめぐって
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[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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いろいろなものが絡みあり、うねり、今も続いている、それが満洲。
一面からではとても捉える事が出来ないという難しさを知るための、分かりやすい本だと思う。
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1930年代(昭和初期)の日本の歴史には興味があったが、「満州国」についての本の中では本書が一番ではないだろうか。とにかく、詳細でありながら、読みやすく、わかり易い。
明治の日本と現在の日本とのあいだには大きな断絶があると思っていた。その移行のポイントが1930年代から1945年の敗戦の時代にあることは分かるのだが、今の日本に、その時代認識の広い社会的合意があるとは思えない。本書はその時代への理解を深めることができる良書だと思えた。
本書での「満州」の歴史的背景と、「満鉄」の成立への過程はもとより、当時の「激動の東アジア情勢」は単なる歴史的事実の羅列にとどまらず、その後の日本が中国へ進出していった背景をわかりやすく語っている。
1928年の「張作霖爆殺事件」はよく知られているが、本書での「奉天軍閥」の詳細な実態にはその巨大な存在に驚く思いを持った。当時の関東軍の「石原莞爾」の思想は有名だが、当時の「関東軍」と「奉天軍閥」等の妥協によって当時の満州国政府の統治機構が成立していた詳細は、興味深く思えた。
当時の満州国の「経済政策」の詳細も興味深かった。その社会主義のような「計画経済」政策はよく知られているが、「満州農業移民政策」の詳細には、これは政策モデルとしては、敗戦前にすでに失敗していたのではないかと思えた。
国家の政策として満州に移民した多くの人々が敗戦で大きな被害を出したことはよく知られているが、まともな農業モデルを構築しないままに移民政策を大々的に実行した当時の日本政府の無責任さを痛感する思いを持った。
「五族協和の内実」を読むと、当時の満州国の人口構成や民族別の階級構造がよくわかる。「日本人は一等国民、朝鮮人は二等国民、中国人は三等国民と差別され」る当時の実態には、現在の視点からはなんとも違和感を感じたし、やはり時代をつくるだけの普遍性のある体制ではなかったのだろうと思えた
それぞれの時代には、その時代特有の「空気」があり、時代が転換するとその「空気」はなくなってしまうため、その時代の常識は、あとの時代になるとよく理解できなくなると言ったたのは、司馬遼太郎だったか。
本書は、満州国の歴史的事実を知れるのみではなく、その時代の空気を知ることもできる良書であるとおもう。本書は面白かった。
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中国東北地区、満州国の通史、満州国における政策、満州国に住む人々の生活文化等々、満州についての概観を学ぶことができる良書。
「満州国」を単純に失政と評価するのは容易いが、満州国における産業育成政策、経済政策を立案した官僚等が戦後日本の高度成長時代に政策立案面を担っていたことを考えるとそこに歴史の面白さが見えてくる。
「五族協和」の理想は脆く失敗に終わるのだが、当時の理念は現在でも学ぶべきところがあるのではないか。
北朝鮮が何らかの形(崩壊後?)で国際社会に組み込まれれば、中国東北地区が経済圏としも重要度を増し、日本にとっても戦略的な地域になっていくのでないだろうか。
以下引用~
・戦前の満州での五カ年計画は、戦中そして戦後の高度成長政策に人的に連動していく。満州で五カ年計画を担当したのは総務庁次長の岸信介であり、その部下の産業部の椎名悦三郎らであった。
・この官僚主導で金融、物流、生産を重点部門に集中し、経済を活性化させる「日本型生産システム」というべきものは、1957年に岸が総理大臣に、60年に椎名が池田内閣の通産大臣に就任するに及んで高度経済成長政策として本格的に開化する。
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清朝時代から太平洋戦争後までの満州地域の歴史史。特に、張作霖による奉天軍閥の時代→張学良との権力併存時代→満州国時代の説明が濃い。満州に漢民族が住み着き始めたのは、露清の国境紛争後の戦力増強からで、日本が日露戦争後に関東庁を置いた時はまだ一種の拓殖民に近い自治組織が多い状況だった。それを馬賊の張作霖がまとめあげ奉天軍閥を築き、日本軍のバックアップのもと中央への進出を伺う状況になる。張作霖と蒋介石の対立後、日本は張作霖爆殺を行い、張学良に近い幹部は中華民国側へ、土着が強い勢力は関東軍に接近。ここに日本が満州に権力を築く土壌があった。満州国の正統性を精神的に支えたのは、旧清朝幹部による清朝復興の願い、満州馬賊の中華民国からの距離感などがあり、そこに陸軍がつけこんで成立していた。五族協和を唱えた満州も、実質的には日本人は1%強ながら支配民族として君臨。形式的な満州国には企画官僚はおらず、それは満鉄調査部が代替していた。満洲事変後、日本は満州と一体での経済5カ年計画をつくり、戦争を支える鉱工業の中心を満州においていったことが統計からわかる。戦後、日資は中国に徴収され中華人民共和国初期の鉱工業を支えたが、改革開放後に経済の中心は南方及び沿岸部に移り、近年に大連などに外資が集まる前は、東北は経済低迷地域になっていた。
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満洲の人口比を全く知らなかった。
日本からの入植者が開墾したような印象を持っていたが、大間違い。
日本民族は人口比で1%強、公務員・自由業では5.8%。つまり、日本民族の大部分は農業に従事していない。
それでも、農業を試みた日本民族は、水田以外の農業知識を持たず、現地の農法を模倣して既存農家との競争関係に入って敗れる。
北海道の農業知識を導入するまでにも時間がかかっているが、牛馬を使いこなせない入植民には高級過ぎた。
相当に無茶で、ほとんど失敗。
一方、検閲に遭って届かなかった手紙」がたくさん出てくる。それがなぜ入手できたのかわからない。
現代の日本の政府と違い、文書を記録に残す意識はあったか?
そして、本土のように、敗戦時に書類を焼却する余裕がなかった??
金日成と全斗煥がそれぞれ出てくる。
小澤開作の名前が出て来る。民意の汲み上げを企図する側だが、溥儀の対立勢力として出てきたので驚いた。
表の職業は、歯科医だった! そうだった。
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満州の歴史にフォーカスしているから仕方ないのだが、関東軍だけでなく、参謀本部や政府、宮中、国際関係の視点まで網羅しないと全体像はわからない。他著で補足・補強する必要はある。それにしても石原莞爾の修正能力の高さには感心するな。
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聞いたことはあっても実情についてはまったく知らないものは多いが,満洲国もその一つであろう.
ひとことで言えば清朝の最後の皇帝溥儀を擁した日本の傀儡国家といえるが,厳密に誰の傀儡かと言えば国策企業である満鉄とその警備を担当する日本軍である関東軍といったところか.満洲国では国籍について法制化がされておらず,日本国籍を持ちつつ満洲国民であることが可能であったという.現地に住む漢人も海千山千で移民してきた日本人をうまく扱うことも多かったようだ.
満洲在住者が日本へ送った手紙とかエピソード的なお話がいろいろあるが,実態はよくわからない.ネットなどを調べると本書で出てくる手紙等の出処の怪しさも指摘されていて結局もやもやだけが残る.
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図書館にて借りた。
満州人に関して興味を持って読んだが、中身は日本人・日本軍の視点が多く、期待とは異なっていた。
また地域上仕方がないが、第二次世界大戦前後の話が9割。
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軍事政治だけでなく産業社会文化などについても概観しているのが特徴。半世紀だけ存在した近代満洲という社会はやがて中国にも日本にも忘れられていく。中国史上にはこのように完全に忘却された小国が無数にあるのだろう。