紙の本
技術の話から政治の話へ
2008/12/23 00:36
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:くまくま - この投稿者のレビュー一覧を見る
オンリーワンの技術を持った会社の御曹司であり、才能ある技術者でもある祐機は、十二歳の時に会社の買収という憂き目に会う。仕掛けたのは、世界生産に関する一般協定事務局(GAWP)。彼らは世界の生産性を向上させるための国際機関であり、親会社の生産性を向上させるために、祐機の実家の買収を促したのであった。それから5年、少女投資家のジスレーヌからの支援を受けることに成功した祐機は、自己複製機能を持つ作業ロボットの製造に成功する。彼の夢は、人類を義務的生産から開放し、自由な創造活動を行える社会を実現することである。
GAWPの推進するグローバル化や、生産性の向上の名の下に行われる資本の集中に批判的な祐機だが、新しい技術を導入することは古いシステムを淘汰することにつながり、古いシステムに従って生きている人の生活を圧迫するし、新しい技術を開発するためにはお金を集めなくてはならないので、やっていることはGAWPの活動と大差ない。このため、中盤くらいまでは気分悪い感じで読み進めていたのだが、終盤に近くなり、GAWPの失敗に学んで少しやり方が変わってきてからは、さわやかに読めた。そうなるとこの作品は、「導きの星」や「風の邦、星の渚」で描かれた超越者が社会のあり方に干渉する構造を、対等の立場で、現代社会に置き換えたように見えてくる。ちょっとの違いなのに、非常に生々しく、国際支援のあり方を問うた物語に変わってしまう。
結局、人類社会を変革するような活動には、莫大なお金がいる。そのお金を、GAWPは民間企業から集めるし、祐機はジスレーヌの投資活動から得る。現実の社会で各国政府が行う活動は、税金という形で国民から徴収する。投資者はROIの向上を求めるから、活動から何らかの利益を得る必要がある。逆に言うと、(短期的)利益が得られない活動はできない。だから、拙速に、押し付けがましい行動になってしまうのだと思う。
ただ、長期的視野にたって行動することが出来れば、短期的には損をするかもしれないけれど、いずれは利益を得ることが出来るはず。そのように考えることが出来るならば、これまでにはない様な活動が出来るのだろう。最後に祐機が行った活動は正にそうだと思うし、ジスレーヌの母親のオービーヌが行った投資はそういう活動から利益を得ようとする選択だと思う。
紙の本
世界を作る一人一人
2009/01/04 23:29
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:にい - この投稿者のレビュー一覧を見る
非常に深いテーマを持つ興味深い物語です
まず結末から書き、そこに至る展開を描き出したような感じ
世界を変えるということ・世界が変わるということの、善悪やその意義ではなく、ただ方法論的な形を見せようとしている気がします
政治的・経済的な問題点を描きつつも、それらはある意味根底から覆さなければどうにもならないほど行き詰ったモノでしかないのでしょう
人のあり方・個人のモチベーション・好奇心を持つこと・自分に自信が持てること・自分を変えようと思えること・可能性を信じれること・スタートラインに立つこと、そういったものに帰っていくのかもしれません
ただ食料問題は、収穫できる食料が増えても人口も増えるので土地が痩せる一方で解決しないという面もあるでしょうし、一方的な「善」ではなく色々考えさせられる物語です
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カテゴリをラノベにするか、SFにするか迷ったけど、
SFで。とらのあなで買ってきたんですけども。
著者コメントの、
「地球はもういっぱいだ、やることなんて残ってない。
そう感じている人はこの本を読んでください。
行く場所もやることもまだまだたくさんあります。」
ッてコメントはウソではなかったです。
技術が進歩して、映像で世界のあっちこちを見ることはできますが、
それは行ったことにも、見たことにもならないんですよね。
世界にはいろんな境遇の国があって、
そこにはいろんな人がいて、困ってる。
それを助けることができて、かつお金儲けにもなるのはいいなと思います。
本来仕事というのは、そういったものだったはずなんですが、
グローバル化してから、変わったのかなと。
プログラマなんてやってると、これが誰かの役に立つのかと不安になったりします。
ぶっちゃけテレビやレコーダーなんか、なけりゃなくていいですし。
さて、この小説では、生産性と、創造性がキーワードになっています。
おりしも、世界的な大不況。そんなことになった原因とか、考えて読むといいかもしれません。
ぶっちゃけ、第1世代ラノベファンには向かないラノベかな。
仕事をしてるラノベファンなら、たぶん気にいると思います。
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てっきりアイツが裏切るかとおもったら最後までイイヤツでした。
表紙の子よりもこいつがメインヒロインですねこれ!
SFというかジュヴナイルというか、ソノラマ文庫! って感じですね。そりゃそうか。
最後の最後で乱丁…というかコピペミスがあったのが残念。後の版では直ってますように。
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工学系天才少年(チビ)の祐機と、軽佻浮薄のイケメンプレイボーイの大夜というコンビが、将来性を読むという特殊能力を持つ投資家の少女ジスレーヌの資金を得、自己複製型ロボットでこの不完全な世界にけんかを売る。
けんかというか、世のため人のためという側面もあるので誰かにけんかを売っているわけではなくて、「不完全である」ということ自体に挑戦しているわけだが。祐機がやりたいのは、人が創造に注力できるように、生産はロボットに任せるということ。祐機の作った子馬は、あちこちに行って沈んでしまいそうな国土を保全したり真水を作ったり農耕したりする。子馬を不正コピーして作ったロバが紛争に使われたりもしてしまうのだけれど。
結局、世界は不完全だし、どのみち完全とは何かというのは人によって考えが違うし、というか、完全という言葉自体がもう不完全だよね、バランス感覚を持たねば、という結論になるのかな。とにかく、明るい未来を提示してこそ、SF。
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対象年齢層を低めに抑えた感のある、小学校の図書館が似合いそうな一冊
作者本来のSF思想は抑えめ
青春物語としてはまぁ面白いが、実現性(いっちゃおしまいだが)を言い出すときりがない
メインストーリーに絡むところで残念な点を上げるとすれば
SFで有りながら、基本的には夢と努力で前に進む主人公に対し
ヒロインは天才(実質超能力)というのもなんだかなぁと思う
終盤の展開も悪くはないが微妙、子供向け
エンディングはベタで美しいんだけどなぁ
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自己複製可能な機械(VNマシン)を発明した少年祐機は人や物事の将来性、成長性が見える少女ジスレーヌに見出され世界各地の生産の在り方を、VNマシンによって少しずつ変えていく。
しかし、人の創造性に重きを置く祐機は、世界の生産性向上のみを追求するGAWPという国際組織と対立を深めていく、やがてソマリアにてGAWPは軍事・治安目的のVNマシンを送り込み平定しようと試みるが祐機は・・・
細部にはこだわらず楽観的に過ぎるかなと思えましたが、少年向けライトノベルということなら良いのかも知れない。答えが明確に提示されたわけではないけど悪くない終わり方だったと思います。
けれど、本格SFという点で物足りなかったので評価はこれくらい。
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著者の本はこれが二冊目。前に読んだ「天涯の砦」とは大分毛色が異なる。(http://booklog.jp/users/yokozawa/archives/4152087536)
こちらはSFファンタジーといった内容。
天才少年と天才少女がタッグを組み、世界を席巻する活躍をし、厄介な敵が現れて・・
結構ありきたりでカバーイラストのように、そのままアニメになりそうな設定だとも言えます。
といっても後半になるにつれ社会的、政治的な話題も出てくるのでそれなりに読み応えがありました。
マストな一冊とは言えませんが、少年少女の王道的な設定が好きな人には楽しめる一冊だと思います。
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12歳にしてモノを創る事に目覚めた少年。
このままいけば好きなように創っていけるはずだった道を
ある日簡単に壊してくれた人物。
それに対抗するのに、少女と出会い、再び創る事に没頭していったのですが…。
創る事にしか興味がない主人公と、その『友人』をしている少年と
お金を出す担当の少女。
面白いくらいにまったく性格が一致しない3人組です。
一番いらっとくる発言者は『友人』なのですが
一番見当ハズレの事を言って笑えるのも『友人』です。
相手にしなくてはならないのは一人の人物であり
世界であり、アメリカであり…。
きれいに終わっている最後も、特に違和感なく
面白かったですw
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自己増殖型の汎用機械を考案した少年が、人の潜在的経済価値を見抜くという特殊能力を持った少女に見出され、その汎用機械と未来を切り開いていくお話。
労働力の自動化がある程度進んで、
一人がある程度働くと、10人分ぐらいの全消費をまかなえるようになって、その生産物品の配分に眼の色を変えなくてもすむようになってくると、世界は一段階幸せな方向に進むのではないだろうかというのは、
私の思索の一つのテーマなのだけど、それを上手に組み立ててくれたお話。
小川一水先生の構成力って素晴らしいです。
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ラノベ的表紙と題名に思わずヒいたが、読んだらすごく面白かった。創造することのワクワクとトキメキを感じさせる素晴らしい作品!(『第六大陸』と同じ感想だな(汗) ラノベ的演出仕立てはたぶん10代向けを意識したのかも。そしてぜひ若い子に読んでほしいね!
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読んでいて、何かがしっくりこないと感じた。ライトノベルにはそぐわないものを、無理矢理ライトノベルの文法で書いているというか。
ライトノベルだから深刻な主題は描けない、というわけではないのはよくわかっている(つもり)だから、ライトノベルにそぐわない主題を扱ってるから、なんていう安易な言い方はしたくないんだけど、印象としてはまさにそれ。この著者は、ライトノベルも、アダルトも両方ちゃんと書きわけられる人だとこれまでの作品から感じていたから、なおさら、この作品にはなぜそんな印象を感じてしまうのか、自分でも不思議に思う。このストーリーは、アダルトなSFで読んでみたかった。
あと、Uマシンの話に、ジスレーヌの特異能力の話を絡める必要があったのだろうか?「他人の将来性が視える」というアイデアが、単にこの小説を回すための「道具」としてしか使われていないのが惜しい気がする。この能力のことはこの能力のことで突き詰めれば、面白い短編でもできそうな気がするのだが。
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35:SF風味のライトノベル。時々急激にSF度が高くなることもありますが、口語交じりの地の文でよみやすかったです。物足りなさと表裏一体なわけですが。
世界を変えるという意味では「復活の地」に通じるものがありますが、レーベルがレーベルだからか、表面を撫でて終わってしまった感じなのがちょっと残念。