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紙の本
小さな双葉がしめした希望
2009/03/28 09:34
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
困った。
本書の副題に「歳月と読書」とあるのに、「身震いするほど本が読みたかった」という本好きには堪えられない宣伝惹句があるのに、なかなか「本の話」が出てこないのだ。困った。
作者の紀田順一郎は今までにも「読書」についての著作を数多く書いてきているので、この本では自身の少年時代の思い出とともに氏の「読書」経験も楽しめると期待していたのに、じれったいといったら、ありゃあしない。
やきもきしているうちに「第一部 戦時下の横浜少年」が終わり、「第二部 横浜少年の戦後」が始まる。それでも、「本の話」は出てこない。
ページがさらに進んで、ようやく「第二部」の「第二章」で、本の話「小学生の古書店まわり」にたどりつく。
今ではおしゃれな都会のイメージが強い横浜であるが、この物語の舞台となった第二次世界大戦中と敗戦後まもない頃は「海沿いの漁村を土台として急速に膨張した都市であり、本質的には庶民の町」(165頁)だったという。
空襲のあと焦土と化したその町で紀田少年は小さな生命に目をとめる。
「焦げ茶色の土の中から小さな双葉が一つだけ、芽をふいているのを見出した際のおどろきと感動は、いまだに忘れることができない」(139頁)
この文章のあと、「本の話」が始まるのである。
おそらく紀田氏と本との出会いは、この小さな生命を見出した時よりも遡ることはまちがいない。しかし、紀田氏はこの文章をはさむことで、本によって生かされていく自分を明確に認識したことを表現したかったのだろう。
この時の「小さな双葉」は、子供から少年への、一本の道標だったにちがいない。
敗戦後まもない頃の多くの少年にとって当時の「少年倶楽部」がどれほど人気があったか、紀田氏も本書で実体験として書いている。
今の漫画週刊誌というよりも、恋愛も冒険も友情もゲームも戦いも物語もなんでもある、インターネットの世界に近いかもしれない。
「少年時代の読書について、私が何を求め、何を得たかということを一口に概括するのは難しいが、いまとなって整理してみると、情報希求という要素と、それとはまったく裏腹の現実逃避ということが浮かび上がってくる」(159頁)と、その時から六十年という「歳月」を経て紀田氏は冷静にこう記している。
「本好きな少年」だった紀田氏はやがて「映画好きな青年」へとまた変容していく。
同じ著者の『昭和シネマ館』とセットで読むのも、またいいだろう。
◆この書評のこぼれ話はblog「ほん☆たす」で。
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