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紙の本
後悔しませんよ、多分
2009/10/13 08:44
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:空蝉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
厭と嫌。どちらもイヤと読めるがそれぞれ「厭ましい(いとましい)」「嫌い(きらい)」とも読め、微妙なニュアンスの違いに過ぎないとおもわれがちだが、2つはあきらかに別物だ。
本書は題名からもわかるとおり、前者の「厭」である。そして後者の「嫌」が「厭」に比べてどれほどかわいいものか、全章を通して、それこそ厭というほど思い知らされるだろう。
<1> ある会社員が同期の愚痴にうんざりしつつ、夫婦間に溝が出来た妻の待つな自宅へ帰るとそこには不気味な見知らぬ子供が出迎えた。とにかく厭なその子の幻覚と、存在を否定する妻と、現実の間で発狂していく。
<2> ある主婦は異常な行動をとる同居人、おそらく義父であるはずの、老人を、そのたまらない嫌悪感から殺した・・・はずだった。
<3> 失業しホームレスとなった男はある不思議なホテルの一室で先泊者を殺して1年の幸福を得た。必ず一年後ここに戻るという必然条件の上で・・・そして1年後、再び訪れたこの部屋で男は同じ経験を、する。
<4> 後輩から無理やり仏壇を預かるよう押し付けられた男は友人にその後の不思議な体験を語る。彼は仏壇の扉を開きそこに「ぎっしり詰まった」モノ・・・人でも死体でもない、モノがじっと自分を見続けていることを知ってしまった。
<5> ある男は厭なことだけを徹底して繰り返す悪意のない彼女が厭で辟易してしまい、終に殺してしまった、はずだった。
<6> ある家主は厭な経験と感覚だけがループし続ける厭な自宅で、その最期まで繰り返されることになった。
メインとなる奇妙で厭なストーリーの脇に、私たちも誰もが経験して不快だということを知っている一般的な「厭なこと」が転がっている。何のために?きっと意味などない、この本が「厭な小説」なのだから、厭なことが満載なのは当然といえば当然だ。
例えば電車で右へ左へ転がり続ける目障りな空き缶。
床に落ちている、つまんでもつまんでもつまめない髪の毛一本。
雨の日に靴の中に染み込んで、歩くたびにブビュッ、キューッとなる水。
逆さ睫毛、ホクロに生えた毛、深爪、口内炎、ガラスのキーキー鳴らす音。
そんな他愛もない小さな厭なことが、ところせましと散りばめられているのだ。気持ちいいはずがない。
「厭」ということ。それは理由がなくても成り立ってしまう嫌悪感であり恐怖し逃げ惑うほどのこと。
触れることも感じることも見ることも聴くことも、あらゆる感覚、五感で感知したくないモノ、逃げるしか出来ない(それでいて不可避な)対象に出くわしたとき、私たちは「厭だ」と言い、逃げ出すだろう。
他人に容易に理解してもらえればまだしも、本書のように他人には理解の及ばない不可思議さが加われば八方塞がり、
理解の範疇を超えている説明の付かない意味不明のもの、しかもソレが永遠に繰り返される・・・これほど「厭なこと」はない。
嫌いなものには立ち向かうことも出来る、手を加えて改善することも制裁を与えたり倒すことも出来よう。
けれど厭なものは・・・。
厭なものは面と向かいたくもないのだ。ガラスの擦れるキーキー音がすればその音源に近づいて止めるよりはその場から離れる方を選ぶだろうし、何よりまず、耳をふさぐだろう。そんな感じだ。とにかく、まず、逃げる。
しかしそんな厭なことばかりが満載のこの小説から私が逃げたかといういうと、そんなこともなく読破してしまった。要は「厭」じゃなかったのだ。
著者は照会文で
「一読、後悔必至の怪作、ここに誕生! “ゲラを読んでいて、重い気分になっちゃいました」
なんて書いているけれど、きっと読めば解る、後悔はしないだろう。重い気分にはなるかもしれないけれど(笑)、ほんとに厭~なイヤな話ばかりで救いなんて一つもないけれど、それでも厭な気分には、ならないと思う。多分。
紙の本
あまり書くことはありません。ともかく、読後感の厭な小説ばかり入ってます。しかも、それが繋がっているっていうのが、なんとも不快。いやはや、京極夏彦はえらいです、こんな変化球なげるなんて・・・
2009/11/11 19:38
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本の装幀は表題作からきているようですが、成功していません。まずカバーの紙質が少しも古くない。無理やり絵で古さを表現していますが、これがうまくありません。それと小口に色をつけて紙が色あせた感じを出そうとしているのでしょうが、これが少しもらしくない。
いわずもがな、ですが家にある古い雑誌や、名前を挙げて恐縮ですが古い文春文庫の汚く色あせた小口と見比べてください。似ても似つかないものです。今までみている松昭教デザイン事務所の仕事としては、もっともらしくない仕事ではないでしょうか。とはいえ、小林東雲の手になる題字は凄いんですが・・・
で、早速、祥伝社のHPを訪問、出てました、内容紹介。
*
悪寒、嫌悪、拒絶……あらゆる不愉快、詰め込んだ日本一のどんびきエンターテインメント登場――
知りませんからね 読んで後悔しても。
“ゲラを読んでいて、重~い気分になっちゃいました”って、著者が語っていいのか!?
「厭(いや)だ。厭だ。厭だ――」
感情的パワハラを繰り返す馬鹿な上司に対する同期深谷(ふかたに)の、呪詛(じゅそ)のような繰り言にうんざりして帰宅した私を、マイホームの玄関で見知らぬ子供が迎えた。山羊(やぎ)のような瞳(ひとみ)。左右に離れた眼。見るからに不気味だ。なぜこんな子が、夫婦2人きりの家に? 妻はその子の存在を否定した。幻覚か? 怪訝(けげん)に思う私。だが、これが底なしの悪夢の始まりだった……(「厭な子供」より)。「恐怖」と「異なるもの」を描き続ける鬼才が繰り出した「不快」のオンパレード。一読、後悔必至の怪作、ここに誕生!
*
『南極(人)』のようなお笑いユーモア不潔小説を期待していた私ですが、予想とは傾向が違っていました。どちらかホラーです。京極のことですからユーモアはあるのですが、不快さと恐怖、それに隠し味として笑い、と言ったほうが分かりやすい。古典とかを題材にしていない分、読みやすいんですが中身が中身だけに手放しで楽しめないのが辛いです。
各話について、初出とともに紹介しましょう。
・厭な子供(『小説NON』1999年2月号):「厭(いや)だ。厭だ。厭だ――」
感情的パワハラを繰り返す馬鹿な上司に対する同期深谷(ふかたに)の、呪詛(じゅそ)のような繰り言にうんざりして帰宅した私を、マイホームの玄関で見知らぬ子供が迎えた。山羊(やぎ)のような瞳(ひとみ)。左右に離れた眼。見るからに不気味だ。なぜこんな子が、夫婦2人きりの家に? 妻はその子の存在を否定した。幻覚か? 怪訝(けげん)に思う私。だが、これが底なしの悪夢の始まりだった……
・厭な老人(『小説NON』1999年8月号):自分に見せつけるように排泄を繰り返す、その排泄物を洗濯物にこすりつける、そして他人の飲み物に入れる、そんな老人と暮らす羽目になって・・・
・厭な扉(『グランドホテル』1999年3月号(廣済堂文庫アンソロジー)):そこに泊れば幸せになる、そんなホテルに誘われたホームレスの男が用意された部屋の扉のむこうに見たものは・・・
・厭な先祖(『小説NON』2002年10月号):部下の男が恋人と過ごすのに邪魔だからと押しつけてきたのは、その男の部屋にあった仏壇。仕方なくそれを寝室に置くことになった上司は・・・
・厭な彼女(『小説NON』2008年12月号):恋人が「あれは厭だ」といえば、次には必ずその厭なことをしてしまう、その次にはさらにそれをエスカレートさせてくる、そんな女がいたとして・・・
・厭な家(『小説NON』2009年2月号):人がうらやむような家、妻を亡くした男は決してそこが嫌いではない。ただし、問題がないわけでない。厭なことが繰り返し起こる、物理的には起きていないことも、なぜか男にだけは繰り返し肉体に影響が出る・・・
・厭な小説 (書き下ろし):皆に嫌われている上司と出張することになった男は新幹線の中で、その上司に声をかけられるのを恐れながら手にした本を読み始めると、そこには・・・
個人的には、「厭な子供」と「厭な彼女」が「厭」です。読みながら「厭だな」と思います。是非読んで、厭な気持になってください。最後に、主な登場人物を書いておきますが、さらりと読んでおいてください。ちなみに、人間関係はウロボロス的に繋がってはいます。本当に「厭」な連中ばかりですが・・・
深谷:亀井に嫌われている部下。
亀井:皆に嫌われる45歳の独身セクハラ部長。なぜ、こんなにも無能でダメな人間が部長職についていられるのか疑問。彼のおかげで優秀な社員が何人も退職している。
高部:深谷の同期で、なぜか亀井に気に入られていた男。
窪田:深谷の同僚で、奥さんが入院中。
河合:深谷が営業部で仲の良かった男で、婚約中。
郡山:深谷の大学の後輩で、恋人と上手くいかなくなって悩んでいる。
木崎:深谷の高校の同級生。事業で失敗し自ら離婚を選ぶ。
殿村:深谷の会社の、昨年引退した本部長。
紙の本
厭なことが延々と続く不条理小説
2009/11/21 12:46
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
本当に厭な小説。
7つの連作短編で、それぞれに厭なことが起こり続け、
結果、廃人となったり、失踪したり、再起不能になったり。
その「厭なこと」が本当に厭なこと。
厭な風貌をした子どもが突然見え始めたり、
同居している老人が人間としてどうしようもなかったり、
預かった仏壇から厭な臭いがもれてきたり、
恋人に、厭だと思うことを延々やり続けらたり、
家のなかにいると、厭なことが繰り返されたり。
この厭なことを延々と考え出し、
延々と書き続けた京極夏彦がすごい。
楽しそうでいて、実はとっても厭なことだったのでは?
厭なことに共通しているのは、厭な臭いは我慢がならないこと。
そして厭なことが繰り返されると、
本当に厭になってくること。
さらに、本人が一度厭だと思うと、
それが繰り返される傾向にあること。
このへんになってくると、もはやエンタメ小説から派生した
純文学か、自己啓発書かといった雰囲気が
小説から醸し出されてきます。
それぞれの小説のハブ的役割に
深谷という中年独身男性がいるのですが
最初は酒場で同僚に愚痴を連ねる厭なヤツだったのですが
友人の心配をしたり、果ては葬式を出したりと
人の世話をするいいヤツとして、
ちょっとずつ印象が変わっていきます。
そして本当に厭な上司の亀井が
最後まで厭なヤツなんですよねー。
不条理な世の中を感じます。