紙の本
なんと作者と同名の探偵と小説家が登場!
2009/12/16 14:19
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
ポール・オースター著「ガラスの街」を読んで
照る日曇る日第317回
アメリカの人気作家の処女小説を柴田元幸氏の翻訳で読みました。この推理小説仕立ての物語は、以下のような特徴を持っているようです。
1)本文の英語はいざしらず、文章が春の小川のようにすいすい流れ、物語の推進力と話柄の転換が自在であり、作者は卓抜な構成力を持っていること。
2)なんと作者と同名の探偵と小説家が登場して、作中で重要な役割を果たすこと。
3)推理小説としては破綻しているが、推理小説という形式をとった純文学小説としては成功を収めていること。あるいは推理小説という形式の必然性を持った純文学小説であること。
4)登場人物に仮託して、作者は新しい言語の創造と人類の再統合を夢見ていること。また「ドンキホーテ」という小説の成立と作者セルバンテスの関係についてユニークな考察を行っていること。
5)事件の真相はまったく解明されず、読者は唐突に放り出された地点が物語の結末になるのだが、その不条理な感覚こそが作者の狙いであること。
最後にこの小説のとても印象的な箇所を引用しておきましょう。
「それはit is raining 、it is nightと言うときitが指すものに似ている。そのitが何を指すのか、クインはこれまでずっとわかったためしがなかった。あるがままの物たちの全般的状況とでもいうか。世界がさまざまな出来事が生じる、その土台であるところの物事があるという状態。それ以上具体的には言えない。でもそもそも、自分は具体的なものなど探し求めていないのかもしれない。」
ふむ。なるほど。しかしもっと気になるのはマイケル・ジャクソンのthis is itです。「さあ、いよいよだぜー」などという口語いったい何がitで何がthisだと、はたしてこの希代の踊亡者にはわかっていたのでしょうか。
♪this is itこれがそれそのitってなんじゃらほいMr.マイケル 茫洋
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探偵は何ひとつ解決しない
謎は外でなく自分の中にある
人生が進んでゆくにつれ、われわれは自分自身にとって
ますます不透明になってゆく
言葉にそんなたくさん意味を持たせることが
できるのか どうか―――
3部作なので他も読んでみたいと思います。
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20年越しのオースター、の
柴田さんの翻訳を待ってしまって、
10年越しでニューヨーク三部作読了。
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▼「街の句読点と化した」という日本語は実にいいなあ。格好いい。
▼好きだなあ。ポール・オースター。何が好きってことかわかんないんだけど、文章がいいのかな。ビビットがある。あと、ひとつの不可思議な謎が、ずっと同じ味を保ったまま、長いこと続く。
▼「さらにまた、恐れずに言うなら――どこでもいい、この世界の外であるなら」。
▼読了。いい気分。とにかく面白かった……謎は解けなかったけど、それがあるべき形だと思った。
▼言葉の意味が移り変わる、意味をなさなくなる、不透明になると、一番に戻ってくるのは五感に支配された世界なのかなあ、と思った。(09/12/21 読了)
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ニューヨークの本質とでも言えばいいんでしょうか。そんな印象の話です。
不可解な話に不可解な話が重なり、すべてはあの街の路と公園で形になる。そしてあの街の中で自分が消えていくと感じる。
私はあの街に暮らしたことはないけれど、仕事ではそれなりに長い時間を過ごした。ひとりであの街で過ごしているとすごく無力だと感じる。どれだけきちんと仕事をしたところで外国人の私にあの街は詰まるところ無口だったなと思った。この本を読んで思い出したのはそういうこと。無力なのではなく、存在すらあやしいのだ。
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一人の人物に何人もの名前。
なりゆきで探偵のまねごとを始める主人公が
幾重ものガラス板に囲まれ、微妙な屈折で
本来の自分の姿を手放していく様は恐ろしさを
感じる。
事件自体は全く解決せず謎のままである。
非常にユニークな一冊だと思う。
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ほぼ完璧なんじゃないかと思える小説。足りない部分もないし、余計な部分もない。ニューヨークの地理について詳しければより楽しめるのだろうけど。
別の訳者の翻訳を初めて読んだのは15年以上前だと思う。
言語についての哲学的考察が楽しい。
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ニューヨークという大都会の孤独感、自分が自分であることの危うさ、物が物として機能することの意味、そしてすべてを覆い尽くす喪失感。
最後まで判らないところがいっぱいあった物語でしたがとても素敵な小説でした。
文章の素晴らしさこれは訳者の力が大きいんでしょうか?
「シティオブグラス」と読み比べてみたくなりました。
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面白い。あれよあれよと一日で読了。結末をみて、なぜどうしてこうなったのだろう、と読み返してみてもやっぱり今読んだままの物語があるだけで、見落としをした訳でもなく。様々な事柄は片付けられることなく気づけば結末には変わり果てた主人公が残っている…。私にとって、何回でも読みたいような、もう二度と読みたくないような、二つの気持ちに不思議に揺れ動く本です。でも、たぶんまた読む気がします。
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渋谷のパルコで表紙があまりに綺麗で購入 ポール・オースターって私の中のイメージはカポーティーみたいな人だと思っていた 勝手な想像だけど この小説はポール・オースターが奥さんと出会わなかったら自分はこうなっていただろうという思いを込めて書いたんだって 内容は私には上手く説明できないけど 「さみしさ」はよくわかった
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もともと角川文庫から既訳が出版されていることを知らずに、柴田元幸氏の訳であるということで(本当は文庫か新書サイズが良かったのに)迷わず購入した、この本。ペーパーバックとオーディオブックを読んだ後、どうしても日本語でも味わってみたかった。本文以上に、「訳者あとがき」がまた感慨深い。原作の面白さを訳者と共有する感覚が味わえます。それに「訳者あとがき」にある注釈(訳者によって厳選された)。これを読んでいなかったら、原作の内容を理解できないまま、放置するところでした。
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図書館の本
内容(「BOOK」データベースより)
ニューヨークが、静かに、語り始める―オースターが一躍脚光を浴びることになった小説第一作。
ああ、こうなるのか、という展開。
これは目からうろこでした。とてもおもしろかった。
このポール・オースターは続けて読んでみたくなりました。
新しい言語ね。すごいなぁ。
そして人体実験。
それが探偵を介した物語になるんだなぁ。おもしろい。
ニューヨーク3部作続けてよみたいと思います。
City of glass by Paul Auster
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これはたぶん、探偵小説にみせかけた、実験小説だ。
作者が登場しちゃう…なんて、ある時代の日本の漫画みたいな小技(?)が飛び出つつも、スタイリッシュで謎めいた雰囲気を持った小説。柴田元幸先生の翻訳が、ハードボイルドでカッコいい。
装丁のおしゃれさもあって、つい「ジャケ買い」ならぬ「ジャケ読み」してしまう一冊です。
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柴田元幸氏の再翻訳版。
探偵小説の枠組みを使って書かれた、
ポストモダンで透明感のある迷宮に迷い込む。
自己の存在の不確実性、不条理、喪失感を描いたメタな作品。
イイ作品、イイ作家である。
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柴田さんのトークイベントに向けて読んでみた本第二弾。装丁があまりにも綺麗で。すごくヒット、というわけではなかったけど、なんだか不思議な面白さだった。終わりに向かってどんどん失って、閉じていく物語。けど余計な文章はないのがまたお見事。作中のポール・オースターの家庭を訪ねるところが妙に印象に残った。よくわからない事件を追っているのに、クインにとっての現実を見せられたようで。せつなくて。