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開高健の1960年から1965年にかけての記録文章(本人の言い方)を集めたもの。
題材は、例えば、ベトナムおよびベトナム戦争、共産中国、安保、東京オリンピック、エルサレム、東欧、東西ドイツ、コンゴ、三井三池炭鉱....、開高健の興味の広さが分かる。
しかし、さすがに1960年から1965年にかけての「記録文章」を強い興味を持って読み続けるのは限界がある。その時代の雰囲気や、もっと直裁に、起こっている/起こった事実そのものや、使われている言葉の文脈の中での意味が捉えずらいことが多いのである。1960年と言えば50年前。第二次大戦が終わって15年が経過し、東西冷戦の枠組みが完成し、ベトナム戦争がピークを迎え、日本では本格的な経済成長が始まろうとしていた時代である。
50年を経て、それでも開高の文章は色あせない、と言っては嘘になる。例えば、「東西冷戦構造を前提とした同時代に対する考察」(この本の中の開高の文章がそうであると言っているわけではない)というものがあったとして、それが現在どんな意味を持ち得るのか、と問われれば、それは難しいだろう、と答えるしかない、ということだ。