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渡辺淳一センセーも昔はこんなに真剣に書いていたんだ、と驚きます。そして今も変わらぬ日本人の愚かさに呆れるのです
2006/06/20 21:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「嫁ぎ先で、夫から性病をうつされて子供を産めない体となった荻野吟子は、1人俵瀬村の名主である父の住む実家に戻る。慢性化した病の治療のさなか彼女が決心したのは、日本発の女医となることだった」伝記小説。
嫁いだ先の川上村の豪農 稲村家の長男 貫一郎は決して遊び好きな男ではありません。でも、金持ちが女遊びに現を抜かすのは、今も昔も変わらないというのが俗な真実。しかも運がいいのか、夫は少ない遊びで淋病になってしまいます。あろうことか、それを気づかずに妻にうつしてしまいます。しかし、婚家は誰一人吟子に同情しようとはしません。うーん、なんていうか犯罪者の家族なんてこんなものだよなあ、あのふてぶてしさ、なんて思います。
怒った彼女は実家に戻り、離婚を決意します。名主の娘とはいえ、離婚が不名誉とされていた明治時代。周囲の目を意識して家に閉じ篭るのに飽いた彼女は、病の完治を目指して上京し、医師の診察を受けるのですが、若い女が男の医師たちに秘所をさらす屈辱は、彼女に医者への道を決心させます。
しかし、医者といえば男であることが不文律であった明治時代。学業では他を寄せ付けない吟子ではあっても、彼女の前に門戸は閉ざされたままです。役所の壁、常識の壁に何度も煮え湯を飲まされながら、吟子は彼女の力を知る人々の助けで道を切り開いていくのです。
美しい彼女を、嫁に求める声を拒否し、病を押し隠しながら続ける医学修行。閉鎖的な官学、男たちの意地悪、セクハラ、不文律。それらを乗り越え、やっと手にした日本初の女医の称号。そうした彼女を待っていたものは。大衆がみせる常識という名の根拠なき思い込みでした。
女性運動家として有名になり、キリスト教の受洗を受けることで、彼女の人生は捻じ曲がっていきます。私は女医の第一号といえばシーボルトの娘おいね、と思い込んでいたのですが、この本を読むと、おいねは国家的な資格を得ていたわけではないそうです。壁を乗り越えて、真の資格をもった女医一号の吟子。彼女の苦難の一生を、俵瀬村、東京、北海道と舞台を変えながら描いて行きます。
そうか、あの渡辺淳一もこんなに真面目な小説を書いていたんだ、と驚きます。それにしても、この小説に見る男たちの狭量さ、官の世界の閉鎖性、大衆の無知、今も昔も変わんないじゃん、と思うのは私だけでしょうか。
紙の本
不屈の闘志に感服する
2022/04/22 20:34
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投稿者:カレイの煮付 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本初の女医となった荻野吟子の生涯が、よく理解できる。当時の彼女の置かれた社会的状況と、不屈の闘志で女医になる迄と、その後の生き方とが書かれている。血を吐くような苦労を重ねた彼女に感服するばかりである。
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日本人初の女性医師、荻野吟子の物語。月並みですが、何でも初めての何かになる人は大変ですね。この人の場合はまず制度から変えていく必要があり、そのために色んな人の助けを得ながら医学の道を歩んでいきます。人に相談できるのも、相談できる関係になれるのも一種の才能ですね。頭がいいだけではこうはいきません。女性は男性に隷属するものであった時代に、男女の壁と戦った人。医師というより女闘士のようなイメージが残りました。自分はここまで頑張っただろうかと後ろめたい気持ちにさせられます。
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日本初の女医の生涯ってことで読んでみたけど、やっぱ、女で医者を目指すとなると、それも日本初となると、並ならぬ根性と偏りがあるみたい。すげー、美しいばかりじゃない、これが人の一生というものかも。
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日本で初めて女医になった荻野吟子の一代記。
「女」が全然認められていなかった時代、そして男しか医者になっていない時代に医者をめざすというところがすごい。女が医者になってもいい、という発想ができない時代なんだもの。
女の強さ、というより荻野吟子の強さを感じる小説。ぐぐぐぐうっと勉強にのめりこんでるあたりが読んでておもしろかった。
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渡辺氏の作品といえば正直、オッサン向けって感じがしてイマイチとっつきにくかったりしたのですが、この「花埋み」はむしろ10代〜30代女性が読むといいかもしれない作品と思います。
これは明治の初期、医学の道を志し日本最初の女医となった荻野吟子の生涯を描いた作品です。
夫に性病をうつされ屈辱的な気持ちで治療を受けざるを得なかった吟子。それもそのはず、当時は男性の医者しかいなかったのだから。
「同性の医者がいればこんな思いをしなくてすむのに....」。
多くの女性たちはここで「......だったらいいのになぁ」で終わっていたのでしょう。
しかし、彼女の場合は「じゃあ、自分が医者になって同じ苦しみにあえぐ女性たちを救えるようになろう」と決心し、さまざまな偏見や障害を乗り越えて必死で勉強し医師免許を得るところまでいくのだからすごい。
当時は医学生も男性ばかりで女性といえば吟子一人。偏見からかなりいじめられたようで、その様子も描かれています。作中からのみ解釈すると男性のイジメもたいがいえぐいです。時代が時代だから「女のくせに」とあからさまにいじめてるし。男社会に単身で乗り込んだ女に対する扱いのあまりのえぐさに背筋がぞくっとしました。
さて、そんな苦難を乗り越えてでも夢を叶えた女性の話なので、読むと元気がでてきます。特に、受験生や資格試験を受ける勉強をしているものの、なんとなく気が乗らない、けど何とかしなきゃ、と思っている方向き。
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内容(「BOOK」データベースより)
学問好きの娘は家門の恥という風潮の根強かった明治初期、遠くけわしい医学の道を志す一人の女性がいた―日本最初の女医、荻野吟子。夫からうつされた業病を異性に診察される屈辱に耐えかねた彼女は、同じ苦しみにあえぐ女性を救うべく、さまざまの偏見と障害を乗りこえて医師の資格を得、社会運動にも参画した。血と汗にまみれ、必死に生きるその波瀾の生涯を克明に追う長編。
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日本初の女医、荻野吟子。
女性が学問をする、ましてや医師になるなど狂気の沙汰といわれた時代、彼女に待ち受けていた数々の障害とは。
励まされるというよりは、私に発破をかけ、学ぶことへの感謝の気持ちも思い起こさせてくれた本。
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日本で初の女医『荻野吟子』の伝記。
高校生の頃、読書感想文にと手にした本。
時代背景と共に
女性の立場、生き方、全てに衝撃を受けました。
大人の女性に是非とも読んで頂きたい一冊。
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初婚相手にうつされた膿淋がはじまりだった。
男医者に恥部を見せる屈辱が忘れられず、女は医者を志す。
荻野ぎん、のちの荻野吟子という日本人女性初の医者が誕生するまでと、それからを描いた長編。
家族の反対を押しきり
師匠のプロポーズを断り
男性だけの学校で執拗な嫌がらせを受けたり
彼女が挫折する要因はその人生の中で幾度も幾度もあった。
しかし、彼女は医者になる。
「男から受ける側の女である性」と立ち向かいながら、彼女は女である私たちに励ましをくれる。
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著者の代表作だと、私は思う。これが唯一の作品でもよかったぐらい。荻野吟子という名前とその生涯を、これで初めて知った。「明治の女」の代表の一人として、もっと誰もが知っていいのに、とも思う。これを著した当の本人が、後年、まさか失楽園して愛ルケまで流れて行ってしまうとは……。どこで禁断の実を食べてしまったんだろう。それにしても7〜80年代の文庫の紙の傷み方といったら酷い。私が死ぬまでには文字さえ読めなくなるのだろうな、それはそれでいいかも、な。
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日本初の女医、荻野吟子さんの生涯。
明治初期に、今では想像できないくらいの苦労をかさね、高い志と折れない心を持って、ついに女医として開業した吟子。
その姿は、自分には到底できないものであり、時代の先駆者とはこういう人かと、偉人伝を読むような感じだった。
それだけに、後半彼女が選んだ道とその末路は、残念な気がしてならない。
結婚して、結局は「女」であることに甘んじてしまったような、燃え尽きてしまったような。
彼女がそれで満足してたなら、いいが…
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渡辺淳一さんの本は生々しいエロスがというイメージが強かったのだが、この作品でイメージが変わった。日本で初の女医さんのお話。男尊女卑が強い時代に医学を学ぶということがどれだけ大変だったかということをまざまざと突き付けられた。主人公の葛藤しながらも突き進む姿に同じ女として勇気を貰えた。やっぱり女はどの時代でも強いね。
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日本最初の女医、荻野吟子の生涯。苦難を乗り越え、女医と社会活動家として確固たる地位を一旦は築いた。明治という時代の風潮に抗するパイオニアである反面、ひたすらにその頑固一徹さが、時代に翻弄されたといってもよい。果たして、本人にとって満足な一生だったのだろうか。11.12.10
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女だから悲しい、くやしいこともあるけど、吟子が最後にやっぱり男の人に愛される幸せを感じられたのがよかった♡吟子は極端だけど、かっこいい、お茶大出身の意地で吟子くらい頑張りたい!