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紙の本
村上龍氏が贈る近未来小説です!
2017/06/13 09:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、村上龍氏の近未来小説です。以前に『半島を出よ』を読みましたが、それにも勝る超大作だと思います。内容は、日本の社会が「棲み分け」によって平和と平等を維持すると大義名分のもと、下層民たちと上層階級の住む地域が分断されていきます。主人公の少年は下層民として、九州の「新出島」で暮らしていましたが、ある日、その島を脱出し、日本社会を変えるために、権力者と交渉しようと、その権力者の居所を探し求めます。これは知識人であった父の遺言でもあるのですが、新出島を出た途端、さまざまな事件に巻き込まれていきます。果たして、主人公の少年は権力者に会えるのでしょうか?
紙の本
「22世紀版神曲」の遍歴が、いま始まる。
2011/01/19 17:25
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:あまでうす - この投稿者のレビュー一覧を見る
同じ村上でもハルキさんが大活躍なのにライヴァルのリュウさんはつまらん経営者PRテレヴィにばかり出ていったい何をしているんだろうと思っていましたら、どっこいすんごい小説をひそかに書き続けていたんですね。
つねに時代の最先端で揺曳する政治、経済、社会、文化問題の本質にずぶりと切りこんで、愚かな私たちをあっと言わせて蒙を啓いてみせてくれる著者ですが、今回は22世紀の日本および日本人をテーマとする気宇壮大な超未来ファンタジーを繰り広げてくれました。
紀元2022年のクリスマスイブに、グレゴリオ聖歌を歌う推定1400歳のクジラがハワイ沖で発見され、そのクジラちゃんの細胞から不老不死の機能を備えたSW遺伝子が発見されるところからこの希代の空想とリアルが合体された物語が始まります。
私は第1章の38頁に書かれたこのらちもない記述にあきれ果て、「フィリップ・K・ディックならもっと巧みな導入をするぞ!」と叫んで、本書をゴミ箱に投げ入れ、およそ1週間放置していましたが、どうにもその先が気になってまたまた手に取ったのですが、著者が入念に仕掛けたはずのこの種の強引な設定に乗れないまま、読書を放棄する読者もさぞ多いことでしょう。
さて長年の夢をついに叶えた人類は、一方ではノーベル賞受賞者や高い知能・才能の持ち主の寿命を延ばすとともに、大量殺人者や凶悪性犯罪者あるいは反社会的人物の老化を促す医学的刑罰を下して現世からの急速な退場をもくろむようになります。
この物語の主人公のアキラの父親も、SW遺伝子処分を受けて幽閉され、処断された「新出島」の住民なのです。亡き父親がアキラのICチップに書きいれた秘密指令を実行するべく、身体障碍者のサブロウと共に厳重に隔離された「新出島」を脱出することに成功した2人の少年を待ち構える、異様な世界の異常なピープルの正体は果たして何か?!
読者はたちまちキッチュでポップなジェットコースターに乗せられ、どこへ連れられて行くのかまったく予測不可能な旅に拉致されてしまうのです。著者が予告する「22世紀版神曲」の遍歴は、いま始まったばかりです。
けふも悲しい顔をしておった不老長寿の老人 茫洋
紙の本
「2022年のクリスマスイブ、ハワイの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された……。」これだけで読みたくなります。壮大な空間と、時間的な広がりを巧く表現。でも、小説は後半がちょっとダレたかな・・・
2011/08/13 23:14
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
読書界だけで見てみれば、春樹に押され気味の龍の新作。女性読者の心を掴むような作品であるか否かが大きいのでしょうが、私は両村上作品、出ればとりあえず読むことにしています。で、です。この本、書店に並んだ時、かなりインパクトがありました。上下巻本なので一冊のページ数はさほどではありません。にもかかわらず造本のせいでしょうか、ボリュームを感じます。
そして黒と白、水色の大胆な使用。クジラを上手に取り入れたイラストとカバーの紙質。存在感があります。おまけにタイトル、どんな話なんだろうって思います。小技を使ってはいるのですが、なにより大技が目立つブックデザイン。カバーイラストレーションは柳智之、表紙オブジェは青木美歌、表紙撮影は高橋和海、そして装幀は、おなじみ鈴木成一デザイン室です。
で、どんなお話かといえば、出版社のHPの言葉を借りれば
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それは、絶望か、希望か。
22世紀の『オイディプス王』『神曲』『夜の果てへの旅』を書きたかった。――村上龍
2022年のクリスマスイブ、ハワイの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された……。そして100年後の日本、不老不死の遺伝子を巡り、ある少年の冒険の旅が始まる。
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となっています。ともかく「2022年のクリスマスイブ、ハワイの海底で、グレゴリオ聖歌を正確に繰り返し歌うザトウクジラが発見された」がいいのですが、ちょっと物足りない紹介。〈歌うクジラ〉、もうこれだけでワクワクしてしまうのですが、村上はこう書いています。
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SW遺伝子が発見されたのは二〇二二年だ。教科書に書いてあるので島の人もその年を忘れることがない。二〇二二年のクリスマスイブにアメリカ合衆国海軍の潜水艦がハワイのマウイ島近くの海底付近でグレゴリオ聖歌の第二旋法の中の一つの旋律を正確に繰り返し歌うザトウクジラを発見した。水中音響装置から聞こえてくるメロディは通常のクジラの音階ではなく、間違いなくカロリング朝フランク王国で九世紀初頭に作られたグレゴリオ聖歌だった。しかもそれはクリスマスの夜中に歌われるための入祭唱と呼ばれる曲で、潜水艦はそのザトウクジラを追跡して皮膚組織と神経組織、それに血液サンプルを採取した。皮膚組織の表面にはクジラ自身のものだと確認された石化物が付着していて、年代測定を行った古生物研究所は、信じがたいことだがそのクジラの年齢は最低でも一四〇〇歳だと推定されると発表した。
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なんて、もうハードSF、小松左京かダン・シモンズか、それとも伝奇SFの半村良、いえいえ山田正紀? なんていう大御所の名前が頭を過ぎります。ともかく、掴みは完全にOKで、上手いものだなと感心します。しかもです、お話の鍵を握るのが少年、というのがいい。とかく、最近の小説は売れることを期待して、人数も多くお金も持っている老人、団塊の世代に媚びて年寄りを主人公に据えるものが多い。
マーケティング的には正しくても、はっきりいえば小説における老害。やはり物語の王道はビルドゥングス・ロマン。老人が成長していくことは殆ど考えられないので、王道を歩むのは結局若者になる。その基本を村上龍はしっかり抑えている。そして、村上が主人公にしたのが流刑地「新出島」に暮らしていたタナカアキラです。
医学的刑罰を受け、一日に十五年老化するようDNAの修復機能を低下させられ、34歳にして皺だらけの顔と骨と皮だけの身体にされ、衰弱している父親ヒロシによってICチップのデータを体内に埋め込まれた15歳の少年タナカアキラは、島を出て本土にわたり、アンジョウを探し出してヨシマツという人間に渡すことを命じられるのです。
アキラの特徴というのが、なんとも面白くて、それは彼が父親から敬語の使い方を教えられ、それを自在に駆使できるということ。SFを読むほうではありませんが、敬語が操ることが武器というか、存在価値であるなんていうお話は始めてです。で、その少年が島を出るのを助け、その旅に同行する人間が出てきます。それがサブロウであり、アンです。
これはもう、冒険小説、あるいはファンタジーには不可欠の設定で、それがわざとらしくないのがいいです。サブロウは、身体に突然変異の特徴を持つクチュチュの一人で18歳の若者です。クチュチュには身体から毒性のある体液を出すという特性があり、彼は武器としてグリースガンを携え、アキラと行動をともにします。
そして、お話に花を添えるのがアンです。年齢はわかりませんが、島を出ようとするアキラとサブロウを助け、同行することになる若い女性です。前半は、アンという女、という表現で登場することが多く、自分の裸身をさらすことにあまり抵抗感を抱きません。といって、性的に放埓であるかというと、それともちがいます。戦闘少女の大人版というのが近いのですが、決してスーパーではないところがミソかもしれません。
で、アキラが最初に見つけなければならないアンジョウですが、彼は流刑の出島の管理者で、島に住む子供や若者を性的行為の奴隷として老人施設に斡旋もしていて、現にアキラはアンジョウの斡旋でサツキという120歳を越える老女に売られたこともあるのです。そのアンジョウは、幼女を誘拐して売っていたことが発覚して、本土に逃亡しています。
そして、ヒロシが希望の星、と考え、アキラに探すことを命じたのがヨシマツです。彼は三十番台でSW遺伝子を組み込まれた権力者ですが、この社会に残った数少ないリベラルの闘志と言われています。アンの父サガラの言葉を借りれば「ヨシマツで移民反乱に終止符に打たれた、ヨシマツでニッポンとわれわれを結びつけることはできる人物だ、唯一を希望をヨシマツだ」ということになります。
少年「タナカアキラ」が、父親の依頼で人を探して世界を旅する、読み方によっては極めてシンプルな冒険SF譚になりますし、構えて読めばアンチユートピア小説にもなります。トールキンの旅の仲間たち、ではありませんが、アキラはその使命を果たす過程でクチチュの男のサブロー、難民の家族達、そしてその娘のアンと出会い、行動をともにします。そして、恋心を抱いたりもする。
ここまではかなり面白いのですが、仲間と分かれ単独行に入ったところで話は一気に失速します。アキラの動きが止まると同時に話そのものから動きがなくなります。もともと設定自体がさほどユニークなものではないので、仲間が消え、ロマンスの要素も失せると、それらによって隠れていた構造の普通さが目立つ、とでもいいましょうか。
悪くはないけれど、ダン・シモンズが『ハイペリオン』で示した世界を超えたか、といえば遥かに及ばない。SFや冒険小説を読む気で本を手にする人は、その部分で期待をしないほうがいいかも。『半島を出でよ』のほうが完成度は高かった、そんな気がします。初出は「群像」2006年3月号~2010年3月号連載(但し、06年6、8、10、11月号 08年1、2月号 09年5月号休載)