紙の本
著者の文章の美しさ、見通す目の確かさに、魅了された
2011/12/03 21:44
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yukkiebeer - この投稿者のレビュー一覧を見る
『絶頂美術館』で西洋美術が描いたヌードの史的変遷を平易に語ってみせた著者が、今度は芸術家が体験した恋愛の数々がそれぞれの作品にどのような影を落としているかを綴った一冊です。
おそらく本書が描く芸術家の恋—と呼ぶには少々生々しく、性愛と呼ぶ方がよりふさわしいもの—は、美術史に詳しい読者なら既知の情報かもしれません。
モディリアーニが若くして病死した直後に窓から身を投げて後追いした身重の妻ジャンヌ。
年齢差の離れた師ロダンとの恋愛の果てに精神の均衡を失ってしまったカミーユ。
次々と愛人を作り、その愛人同士の取っ組み合いの喧嘩を喜々として眺めていたピカソ。
そのどれもが大変に知られた史実です。
しかし著者はこうしたエピソードのひとつひとつを、品格と深みある達意の日本語で綴っていきます。既に見知った史実も、話し手の語り口調ひとつで二倍にも三倍にも、涙ひきしぼる物語へと形を変えていくということを強く感じます。
そして芸術家たちの生きざまを通して著者が人生の真意について指摘することに、心衝かれることが一度ならずありました。
「性には、年齢に応じたありようというものがある。乳児が立って歩けず、老人が俊足では走れないように、性もまた成長と成熟に見合ったかたちで変容していく。(中略)
問題は、こうした快感の変移を『衰え』とみなす身体観が存在することにある。
『老成』というものに肯定的な価値を見出さない限り、これに伴う性欲や食欲の自然な変容は『衰え』としか認識できないことになる。」(52~54頁)
「人は、その思いのほとんどを語らぬままに生涯を終える。
思いの大半の、その真の苦しみや哀しみを、ほとんど語らぬまま生を全うしていく。
(中略)
芸術というものが、かりにその存在を許されるのならば、その使命は、まさにそうした他者の痛みや苦しみに思いをいたすための、一助となり得る場合のみではないだろうか。」(264頁)
二度、三度と読み返したい、そう感じさせる魅力的な一冊でした。
紙の本
モディリアーニ
2019/10/21 14:13
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
モディリアーニの死後、妻が自殺してしまったとは本当に悲しくてやりきれないです。それを知って絵を見るとまた感じ方が違ってきます。
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芸術家の制作源泉となっている"情愛(+性愛?)"についてのストーリー。
11のエピソードが前後しながら関連していき、読んでいて感情を増幅させられる丁寧で上手な構成。
舞台となる19~20世紀の時代背景、芸術家にとって放蕩が才能・霊感の源泉となると社会的にも許されている、ということから生まれる赤裸々な、核心的なエピソードたち。この価値と犠牲は今でも変わらない。
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ひとりひとりの芸術家に焦点を当て、物語が展開してゆくのだが、いつの間にか最初の話は後半に取り上げられた作家の作品の影響を受けていたことが分かり・・・という重層的な構成になっている。
「美」を求めるひとの根源とは何か、という答えを芸術家たちが直面した様々な局面(酷かったり、陽気だったり、業としか言えないような苦いものだったり)を集め合わせ、その重なり合いによってひとつの振動となって読者の胸を打つ。
ルノアールの「初恋の相手」の物語りは本当に素晴らしい。
----僕、この絵好きだ---
その純粋な気持ちの裏にまるで運命としか言いようのない歴史があったなんて!
やはり美神は存在するし、その顕現を目指して人は美を求めるのだろう。
手元に置いて、なん度も読み返したい一冊。
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モディリアーニで始まりモディリアーニで終わる感じ。このタイトルどうなのかなぁって思ったけど、つい手にとってしまったから、思惑通りなのかも。内容はとても面白い!そしてわかりやすい!
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プロテスタントの隆盛が、キリスト教の肖像画や人物画を禁止したことにより、風景画や静物画が始まり、先行するオランダの風景画に憧れて、初期のフランスの風景画は、モンマルトルの風車を描いたものが多いなど、恋愛以外にも、興味深いエピソードが満載で楽しい。もちろん、芸術家たちの激しい恋愛話は読み応え十分。芸術家毎に各編がまとめられているが、カミーユ・クローデルの彫刻が、ジェロームの「ピグマリオンとガラテア」に影響を与えたのではなど、編間のつながりもあり、絵画や彫刻の鑑賞が、更に楽しく感じられる。
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「人は皆、魂の磁石を持っている。知らず知らずのうちに、自身の向かうべき先を示す英知の指針というものを、自身の内の深くに秘めている」P170より
だとしたら、悲恋も、貧窮も、惨めな死も、本人が求めたということ?と思える悲惨なエピソードも出てくる、芸術家たちの恋愛模様―モディリアニ、ピカソ、印象派の面々、ムンクほか―。
個人的には、世相、ムード、芸術家がおかれていた立場のほうがおもしろく読めた。19世紀、近代化で人々の暮らしも意識も変わったこと。ブルジョワに対する清貧と自由の象徴になった芸術家とか。イタリアやフランスのような美術大国には、大きく遅れていたイギリスだけど、産業革命により列車内で読む本が流行り、挿絵は盛んだったとか。「不思議の国のアリス」「ハリーポッター」など、イギリスといえば、おとぎ話の国なのは、こういう経緯も関係あるのかな、とか。
この本では、史実や出来事だけでなく、著者の人間観や感想も述べられているが、同じ時期に読んだ「印象派という革命」木村泰司著は説明に徹していて好みだった。
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2021年 1冊目
「恋愛小説を読むように絵画を読む」というコンセプトは良かったものの、いざ読んでみると実際には歴史的事象や想像の範疇を出ない事柄の羅列であり、冒頭のコンセプトには合致してないと言える。
著者の、丁寧と言えば聞こえはいいが要はまわりくどい文章の書き方も自分にはハマらなかった。
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いま、自分が興味あるので、
美術関係の本はほとんど面白く感じる。
でも、やはり、
「恋愛」でくくるのが一番面白いですね。
ゴシップ的になることなく、
それぞれの画家の個性が理解できました。
絵もちゃんと載っている点も良いと思います。
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絵画、彫刻の「恋愛にまつわる物語」をまとめた一冊。
恋愛を描いた名画の物語もあれば、名画を描いた画家自身の物語も。
著者の西岡文彦さんは、版画家、多摩美術大学の教授でもあり、沢山の美術本を書かれている方。
また、『日曜美術館』、『世界一受けたい授業』、『芸術に恋して』、『誰でもピカソ』、『タモリ倶楽部』等、様々なテレビ番組も手がけているようです。
西岡さんの本を読むのは二冊目。文体としては、中野京子さんに比べると真面目な印象だけど、主観をあまり入れないので、俯瞰で美術の世界を見ることが出来る。
だからといって堅すぎもなく、バランスが絶妙です。
収録作品は、モディリアーニを最後まで献身的に支え続けた若き妻を描いた「ジャンヌ・エビュテルヌ 」、
恋多き天才画家、ピカソの「抱擁」、
自分の作りだした彫刻に恋をしてしまうギリシャ神話の名場面を描いた、ジェロームの「ピュグマリオンとガラテア」、
印象派の年長者ドガの描いた「アプサント」、
イタリアの詩聖ダンテの運命の女性との出会いを描いた、ヘンリーホリデイの「ダンテとベアトリーチェ」、
印象派の後輩夫妻を描いた、マネの「モネ夫妻」、
華やかな表現で描き続けたルノワールの「ムーランドラギャレット」、
恋愛、飲酒に苦しみ、終盤は孤独に過ごしたムンクの「吸血鬼」、
ロダンとの宿命的な恋愛で知られる彫刻家カミーユの「ヴェルチュムとポモナ」、
素朴な人柄でみんなに愛されたルソーの「詩人に霊感を与えるミューズ」、など。
この前、メトロポリタン美術館展でジェロームの「ピュグマリオンとガラテア」(写真はその時購入したポストカードです)を見てきました!
ジェロームは、印象派に対抗し、アカデミックなテーマ、描き方を続け、「芸術の名に値しない」と当時は酷評されていたとのこと。
この絵は惹かれるものがある。ギリシャ神話が好きというのもあるけど。
ジェロームの他の絵も見たけど、断然この絵に吸い寄せられる。後ろ姿でこんな見入ってしまう絵は他にあまり無い気がする。
(いや、他にももっとあるかもしれない。調べてみます)
切り口も面白く、それぞれのエピソードも断片的ではなく、その時の時代背景も書かれている。
勉強になる一冊でした!
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美の本質は恋愛にある。なにものかを恋い求める際に激しくかきたてられる感情。モディリアーニ、ピカソ、ジェローム、ドガ、ベアトリーチェ、マネとモネ、ルノアール、ムンク、カミーユ・クローデル、モンマルトル、モンパルナス。アーティストの人生と作品の背景を語る。
貴族からブルジョア、ルネサンスから近代絵画・近代都市への移行期。貧困や悲恋、恋愛遍歴、自由放浪のボヘミアンなアーティストたち。現代とは違う論理倫理構造だからこその作品群。