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「恩讐の彼方に」
このテクストは語り手によって人物の恩讐が語られることで物語が進んでいく。主人の市九郎に対するうらみの一太刀で物語は始まり、市九郎が主人を「兇悪な動物」と見て殺害したことで物語は展開していく。
市九郎はお弓に浅ましさを感じお弓のもとから飛び出し、浄願寺で得度して了海となる。物語冒頭より市九郎の恩讐の心情が語られていたのが、段々と恩讐の心情が語られなくなり、行為の描写が増えてくるのもこの頃からである。
それでも市九郎に対し「復讐の一義を、肝深く銘じた」実之助の登場により物語は続く。しかし、物語の最後で「二人は其処に凡てを忘れて、感激の涙に咽び合うた」様に人物の恩讐が語られなくなったことでテクストは終わる。
恩讐が語られることで物語は始まり恩讐が語られなくなって物語は終わる。したがって、このテクストは恩讐の非継続性について語るテクストであり、それがこのテクストの題名が「恩讐の彼方に」である所以である。
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短篇集です。「恩讐の彼方に」が、一番好みでした。最後の描写がなんとも感動的です。最後の「俊寛」も良かったです。どちらの作品も、どのような場所であれ、自分の役目と信じたことを貫き通すことで、認められたり、幸せが来るのかなって思いました。
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いつかは読みたいと思っていた「恩讐の彼方に」を目当てに購入。10篇の作品がどれもびっくりするほど読みやすく、予想外に楽しめました。
特に「蘭学事始」「入れ札」「俊寛」面白かったー。
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「ある恋の話」読了。
ラジオで聞いて興味を持ったので読む。
普段はハッピーエンドのフィクションを好んで読むが、こういった明治だとか大正時代の恋愛小説とも言えないような微妙な小説は、何も起こらないで終わるものが一番面白く感じる。
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菊池寛氏の歴史物10編を収める。吉川英治小説の解説によれば、これらの作品によって、菊池氏が封建思想の打破に努めていたことがハッキリするとある。そんな思想は抜きにして、読みやすいし、面白かった。『恩讐の彼方に』、何十年ぶりだろう。
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歴史物の短編10篇おさめる。昭和45年の第一刷であり、作品自体の古さはあるが、どの作品をとっても、読んだことはなくても何処か懐かしく、登場人物の苦悩を中心とする心象描写に、一定の安定さを感じた。
そこに安定さを見出したことは、ともすればこれらの作品により、自分自身が今まで見た作品のある雛型として成り立っているのかもしれない。
個人的には「忠直卿行状記」「形」がお気に入り。「形」は最も短編なるも、何処か人の真実味に迫るエッセンスが凝縮されているように思えた。