紙の本
スリリングな対談。明日は見えるか?
2012/04/19 16:02
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:moriji - この投稿者のレビュー一覧を見る
わかりにくい書名に戸惑ったのですが、冒頭にこんな説明がありました。当初予定していたものは「日本の王道」といったものだったようです。(これもまた、わかりにくいのですが)それ以後に3.11が起こった。3.11であらゆる意味での「文脈」が大きく変わってしまったので、急遽変更した。とのことです。
当時、その予兆はあったのですが、3.11で、あらゆる矛盾がはっきりと露呈されてしまった。あらゆる意味でのパラダイムの変換が言われた。それなのに、政治、経済をはじめとして、いつか旧態依然の姿が「復興」されているというそのような姿に、日本独特の「文脈」という性格があるのではないか、そんな思いがこの書名にあらわれているようにも思います。
そのような意味で、この本は日本の文化全般にわたっての「文脈」をめぐる、実に興味深い対論になっています。特に興味を喚起されたのが、例えば「贈与する人が未来をつくる」という言葉。かつて「民主主義」は、先人の血のにじむような努力をもって獲得されてきた制度なのですが、そこには「民主主義が効果的に機能するには、血を流してこのシステムをつくった人が現にいるのだという切迫感、その人たちから贈与されたものであるという非贈与の感覚があってこそだと思うんです」(内田)とか、「本来は政治の根っこのところに贈与性があります」(中沢)あるいは「医療・教育・宗教はサンクチュアリとして(ビジネス席捲の世から)保全しておかないといけない」(内田)という発言には、“なんでもあり”。教育・福祉・医療でさえも市場原理(金儲主義)に取り込まれた、疑似民主主義(新自由主義)社会への警告となっています。また、人口減少については「行き詰まった民主主義、資本主義に対する、一種のソリューションではないか」という常識を取り払った視点を持ち込んでいます。以上はこの本のごく一部の紹介です。
対談にはこのほか、武道と呼吸法、チベット仏教からユダヤの思想、レヴィストロースとプリコラージュの思想、今こそ重農主義へという主張、東洋の学び、日本人の自然観などなど、実に多彩な話題をめぐり、それこそ自由閣達な対論が展開されています。
その、一つ一つの話題が、「これからの日本にほんとうに必要なものは何だろうか」という大きな問題提起に収斂されていきます。基本的な原点に立ち返って、3.11以降の「今」を考えるための格好の書といえましょう。
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投稿者:るう - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本人とユダヤ人の対比など興味深い話が多かった。
一番刺さったのは収束しない福島の原発を荒ぶる神といたこと。
...人間の愚かさが祟り神を作ったという事実はひたすら重い。
紙の本
インパクトあり。
2017/04/15 12:16
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投稿者:たまがわ - この投稿者のレビュー一覧を見る
鋭い。深い。濃い。
お二人の話はかみ合っている。
世界の見方とか深さとかが、お二人は結構近いようだ。
対談だから、話題がどんどんスピーディーに飛んでいったりして、面白かった。
結構刺激になるというか、インパクトを与えられる本。
文章が決して分かりにくく書かれているわけではないんだけど、
同じ文章を何度も読み返したりすることも多かった。じっくり読んでいく感じ。
そして読後に、またこの本をいつか読み返したい、と思った。
二人はお互いに内容を理解しあって話が展開されていくんだけど、
読んでいるこちらの方は、その話題の深さについていけてない、
というようなこともあった。
読んでいて、お二人は知の巨人だな、と感じたりもした。
全7章のうち、4章分が公開の場での対談を元にした文章のようだ。
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中沢氏(内田氏を称して)「とても弾力のある言葉」p23
【ブリコラージュ】
「ありもの」で用足しをすることをレヴィ=ストロースは〜と称した。p61
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「希望論」で感じた足腰の弱さ。
それは時間的スケールの短さがその原因なんだろう、
と、本書を読んで思った。
本書は、
「希望論」と似たような結論に至っているのだけれど、
反面この二人の人間の原初を見つめるまなざしは、
強靭な身体性を伴って確かな実感を与えてくれる。
ここで言われている「男でおばさん」というのは、
わたしが昔から思っていた「中性的」であろうとする構えと似ている。
もしかしたら、
レディオヘッドやジェフ・バックリーやシガー・ロスや七尾旅人の音楽に惹かれるのも、
こういういった志向と無関係ではないのかもわからない。
また、
ドラクエにおいて、メガンテよりもメガザルが好きなのも、
メガンテの「自己犠牲による敵の殲滅」という攻撃的(父性的)なものより、
メガザルの「自己犠牲による味方の救済」という包摂的(母性的)なものに、
より価値を見出しているせいかもわからない。
なんにしろ、
様々な問題の最先端を行く日本の動向が、
世界の道しるべになるということを肝に銘じておけば、
案外毎日機嫌よく過ごせるような気もしている。
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僕らは当たり前な生き方をとり戻すために『大きな物語』を必要としている。小さなひとつひとつの物語を大切にしていきたい。
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amzから届いて即読、2章まで読んだところでフライングコメント。
最近、価格を抑えようとして表紙や本文の紙質がかんばしくない流れと感じていたけど、この本の紙質の「麗しさ」にまずうっとり。
著者以外の作り手の方々の意気込みをずしりと受け取る。「読まなくなっても大切に置いといてね」というメッセージが表紙の裏側とかに書いてありそう(書いてないけど)。
いま(2月3日)のところ、草薙くんのくだりに爆笑。
僕もいつか内田さんとこういう会話をしてみたい(「昨日の、しゃべくり007見ました?」みたいな)。
あーおもしろい(2012/2/3)。
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相変わらずの内田節に、ちょっと神秘主義の気があってあぶなそうな中沢新一さんの対談集。
途中で参加している平川さんに中沢さんってちょっと神秘主義であぶなそうじゃないか、とまじに聞かれている。(p227)
でも、アタマが休まるというか、元気がでる発言多し。
(1) 内田:学問的なテーマでも日々の生活でも、わくわくを選択していくとなんとなくいいことが続いておきる。(p117)
(2)中沢:NHKの龍馬伝をみていたら、龍馬が「わしらなにもいらんき」といっていた。(p222)
龍馬は日本をまもりたいという志だけで、一銭もいらないという発言。自分も劇の中の発言だとしても、その志には心打たれる。
(3)内田:東洋的な学びが目指しているのは、正解ではなく、成熟だと思う。(p258)
なんとなく、読後に元気がでるのは、こういう、筋のあまり通っていないけど、現状も否定しない、ふにゃふにゃした言動が心に平静を与えるのかなと思う。
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右でも左でもなく
上でも下でもなく
黒でもなく白でもなく
原理主義がちがちでもなく
どっちつかずでもなく
ほどよい
(ぬくもるお湯のたっぷりある)
いい加減さが
すばらしい
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内田樹先生と中沢新一先生の対談本.3年前のものから始まっている.同じ年齢で同じ時代を生きてきた両先生ではあるが,勝手なイメージで考え方が大きく違うと思っていた.実際は考え方が似ているようである.震災後の対談は他と違って緊張感があるように感じた.内田先生の本やブログを読んでいる人にとっては既読感があるかもしれない.
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場所を変えて行われた内田先生と、中沢氏の対談。二人の大学入学年度は私が生まれた年。ま、内田先生はいつもの話し。贈与論。相手に「価値の分からないもの」を贈ることによって、その価値に迷いながら「お返し」を贈る。それが繰り返されることが大切。内田先生の贈与論の肝は、贈与の中身ではなく、贈与によって「あなた」が必要であることを確認する作業、ということを改めて知る。
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「3.11」以前、以後のいくつかの鼎談をまとめた一冊。
面白かったなあ。すっきりする。言語化できていないけれど、確かに感じる「その何か」を言葉にしてくれている感覚。
手元に残存するメモより(一部抜粋)
・人間だけが感謝をする
・オーバーアチーブで得るのは報酬ではなく報酬のやりとりという構造全体についての知
・ほんとうに新しいものはまだ現象しないで、地下に伏流している
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内田樹好きなので一応読了。中沢新一との対談集。中沢新一って意外とかわいい人なんだなぁ、と思い嬉しくなりました。
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内田樹と中沢新一の対話集。2009年4月から2011年10月5月の間に交わされた8回分が収められている。ともに1950年生まれで、1970年に東大に入学、キャンパスで顔を合わせているはずなのに、出遭う機会がなく、60歳近くなって意気投合、対談集の刊行に至ったという経緯も興味深い。
話が噛み合いすぎて、時に馴れ合いに近くなり、「この対談は面白いけど、もう一人加えて鼎談とした方が良かったんじゃない?」などと茶茶を入れたくなるほど。とは言え、300ページを超えるボリュームで、二人の会話は弾み、中身もなかなかに濃い。
読み進めていると、二人を深いところで繋いでいるのは、レヴィナスとレヴィ=ストロースであることが浮かび上がってくる。レヴィナスの「始源の遅れ」の概念は自分は遅れてこの世界に参入した存在であるという自覚である。私という存在は神からの贈り物なのであるという思いは、必然的に何かお返しをしなければという反対給付へと人を突き動かす。一方、レヴィ=ストロースのブリコラージュ(使い回し)の概念は、日本の文化の見直し・使い回しを促す。
こうした文脈の中で、農業の再評価が話題になるのも自然な流れである。「太陽からの贈与としての農業」が語られているが、これは、農業従事者である私も日々実感しているところ。農業や林業・漁業といった第一次産業のみならず、インターネットの技術革新にも人類学的贈与が関わっていることに気付かされる。存在論と文明論を深く考察するためのヒントに満ちた対話である。
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内田樹と中沢新一の対談集。「贈与」などをキーワードに語り合う2人はやはり切り口が面白く、予想どおりの展開ではあるが予想どおりに面白い。
内容はまぁこれまで2人が著書で語っていることの繰り返しなんだけど、脱力な会話で魅力は増している。ちょいとトンデモなこと言っててもね。
しかし、期待していた原発などへの言及は最終章にとどまる。そうか、ほとんどの対談は震災前に行われていたんだね。