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理に勝ります。社会小説とでもいうのかなあ?実在の人物、事件を題材にする『金閣寺』(未読)スタイルの作品です。徹底的な取材をもとに、明確なテーマを持って構築された作品世界はおそろしく完結しているのですが、面白さという点、美しさという点で、いつもの三島作品のように私を満足させてくれませんでした。昭和のおじさん文芸雑誌の香りがします。お父さんの昔の社員旅行の記念写真のちょっと色あせた光景が目に浮かんできました。
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三島の作品は何度も読み返しているが、その中でも再読頻度の高いものと低いものがある。この作品は後者だ。購入時に一回読み、その数年後にもう一度読み返したからこの本を手に取るのは今回で三度目。
しかし改めて読むとやはりとても面白い。自分が社会人に出て「会社」というものが身近に感じられるようになったからかもしれない。現代では駒沢紡績ほど劣悪な環境の会社は殆どないだろうが、こまごまとした点では未だ似たようなことはある。読みながら、何となく自社の社長の顔を思い出した。それにしても駒沢がどうにも憎めない人物になっているのが印象的だった。
ともすれば暗く重くなりがちなテーマを純文学作品に昇華している手腕は流石。
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地元のお話を大好きな三島が書いているというので、会社の人に貸してもらって読み始めました。
素晴らしい。
美しい。
特に素晴らしいと思うのは、房江の章。
「ああ、こういう人いる」と思わせる冷静な筆致と迫力。房江の肉感のある体までもが情景として浮かび上がってくるようでした。
実存とは誰で、空虚な人は誰だったのか。
また数年置いて読み返したい一冊です。
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三島さんの作品の中でもっとも好きな小説のひとつです。
若々しい正義感と、日本的家長的思考と、西洋的思考の対決。最後に勝ったのは…?
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どうかするとノスタルジックに語られたりする日本の「家族的経営」の実態を抉った作品。社員はみな息子・娘とみなすのは、言い換えれば決して一人前の人間扱いしないということ。
黒幕的人物がハイデッガーを奉じているというのがもっともらしい。
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ストライキや、理不尽な雇用形態に対する三島流プロレタリア文学(定かではありませんが)を、ハイデッガーの思想を組み合わせた哲学的な作品です。
雇用される側が「父」であり、、従業員が娘息子。それを三島のその時の思想に調和させた作品でした。ただ頭が足りないので理解できない部分もありこの評価です。
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大いなる慈愛の精神で社員を我が子と思い、
その愛によって厳しく訓育してると信じる社長と、
基本的人権を無視するような労働環境に声をあげる若者、
彼らを扇動し急成長しつつある会社を潰そうと画策する大手紡績企業。
1954年の近江絹糸争議を題材に旧来の家父長制的な父親像の崩壊が描かれている。
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三島再読第十二弾。
絹糸業の労働闘争をストーリーの幹にした作品。労働闘争を通じて、青年と壮年の世代闘争が描かれているような。。結局、どちらにも勝利はなく、ぶつかることそもそもに意味があるだけなのだが。。。
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近江絹糸の労働争議を題材とした長編小説です。
ある意味美徳とされてきた「日本的経営」の過酷な実態が描かれていて、自分がごく一面的な見方をしていたということを突き付けられた作品です。
何気なく手にとって読んでみたものですが、文章表現も美しく良い作品だと思います。
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三島には珍しい労働争議を題材にしたもの。しかも、争議そのものは、一応労働者側の勝利で終わっている。物語を影で進行させていくのは、ハイデガーの信奉者である岡野だ。彼は常に冷静沈着であり、人間心理の分析にきわめて長けている。しかも、ある意味では俗物の極みでもある。泥臭く、田舎っぽさを全身から溢れさせる駒沢よりも、かも知れない。「父と子」の問題が、たしかにテーマの主軸であり、労働争議を背景にした社会の大きな変動がこれに連動して行く。また、菊乃、房江、弘子の3人の女たちのそれぞれを書いていく三島の視点が見事だ。
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60年前に近江絹糸で起こった労働争議を題材にした小説です。
自分のやっていることに間違いはない、崇高な理念が凡人には理解されないだけだ…って思っている人が、客観的に見てダメダメってのは痛いな~って思いました。
この社長さんのそばには、行動を客観視して忠告してくれる人がいなかったんだね。
三島さんの文章は、美しいうえに考えさせられるなぁ~。
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人間の業、大人になると言う事は裏を知る事。裏を知らない純粋なものは結局敗者。最後のどんでん返しは受け狙いの三島らしからぬ終焉
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じっさいに起きた「近江絹糸争議」をモティーフに、労使間の対立を描いた作品。いまだに戦争小説はたびたび出版されているけど、さすがにこういう題材の小説はもうあらたに生まれることはないだろう。使用者側の主人公・駒澤善次郎は、一代で事業を急成長させたやり手の社長であるが、そのいっぽうで典型的なワンマン経営を行い、労働者の権利を極端に制約するなど、その非人道的な扱いからのちに労働争議を起こされるハメになってしまう。現代の感覚でいえば、さしづめ「元祖ブラック企業」といったところか。すくなくともわたしの年代(20代)の読者にとっては、使用者側の代表である大槻らに肩入れする以外の選択肢はないように思われる。結果的には使用者側の勝利に終わるのだが、じつはこの争議には黒幕がいて、それが岡野という男である。であるのだが……、どうにもこの岡野の役割というのが個人的にはつかみにくかった。労働争議というものにあまり馴染がないせいもあるだろう。このフィクサー的な人物が登場することで、作品をたんなる労使間の対立とは異なった趣に変えていることは間違いないが、その細かい意味まではうまく読み取れなかった。ただ、そういう難しい考えを抜きにして、単純に小説としてはおもしろかった。三島はなにを書いてもすばらしいのだなとあらためて実感した。
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超久しぶりに三島の作品を読んだけど、相変わらずおもしろかった。やけに社会派な内容だなと思ったら、実際に起こった近江絹糸の労働争議を題材にしたものだった。
駒沢紡績の社長駒沢善次郎(父)とその従業員(子)たちを父と子の関係で表し、会社というものを通して日本の父親の問題について扱った内容。
子に代表される従業員大槻と社長駒沢(父)との労働争議を中心としたやり取りのすえ、最終的には社長(父)が従業員(子)に滅ぼされていく過程は読んでいておもしろかった。
また、昭和の日本らしい家父長的な経営者駒沢と、ハイデッガーの思想に傾倒した西洋思想の岡野という、日本的なものと西洋的なものの観点からの明察がストーリーの中に繰り広げられていておもしろかった。
現代の観点からすると、本当に昭和的だと思ったけど、こういった会社は現代でも存在するんだろうな。何か和民とか近い気がした(笑)
最近三島の本を全然読んでいなかったけど、これを機に三島の未読の作品を読んでいこうと思った。
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実際の労働争議をテーマに、
経営者と労働者、そして父と子の関係性を描く。
読後、テーマを捉えられたようで捉えきれず、
解説に助けられた感あり。
でもこんな企業は今でもあるんじゃなかろうか。
そしてこの労働争議自体に興味が沸いてしまった。