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生きるってたいへんなんだ。でもそうでもないんだ。
2007/04/28 19:51
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:かつき - この投稿者のレビュー一覧を見る
「命」をテーマにした9編の短編は
それぞれ最後にどんでん返しを用意していたり
しみじみ、人との生き別れを味わわせたり。
さすがに宮本輝なのです。
特に表題作の「五千回の生死」は
悲しみと滑稽に満ちています。
「一日に五千回くらい、死にとうなったり、
生きとうなったりする」男と出会う。
優柔不断のような彼が残したものは
実は決断力だったのかもしれません。
トマトを欲しがる、死に間際の労務者「トマトの話」。
白髪の母がなぜか眉墨を塗って寝る「眉墨」。
公園の老人に辛くなったら子供の頃を思い出しなさいと言われる「力」。
酒場で同僚と組合について語り合う「アルコール兄弟」。
高校時代の友人と再会する「復讐」。
金物屋に就職した大学卒の奮闘「バケツの底」。
長屋の女の死と北朝鮮人にまつわる「紫頭巾」
死にかけた友人を異国で思う「昆明・円通寺街」。
9編の短編からは「生きる」というメッセージを感じます。
時には強烈に。
腐敗ゆく赤
2001/04/05 02:17
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:belfa - この投稿者のレビュー一覧を見る
トマトはヒトの体と同じだ。柔らかくて、赤くて、みずみずしくて、皮一枚破ったら液がドッと、流れ出す。
若きころの余熱をくすぶり続けている男の回想で話は始まる。大学生のころにアルバイトとして行っていた工事現場に、九州訛りのある、今にも死にそうな中年の男がいた。
その男に、語り手は二つの頼みごとをされる。手紙の投函と、トマトを買ってくること。それはきっと、人生と生の象徴なのだ。
そのトマトの赤いこと!芥川龍之介の『花火』のような鮮烈なカラー!
時にぼくらは、色の中に、悲しみを覚える。映画などで、回想シーンはセピア色に描かれるが、本当はきっと、思い出の方が色鮮やかだろう。現実こそが、セピア色なのだ。
悲しみに明け暮れ、色に騙され、それでもぼくらは呼吸する。
この本の最初に収録されている「トマトの話」は全篇モノクロームな中にあってトマトの、むしろ腐敗していく途中だからこその鮮やかな赤が印象に残る。