紙の本
アメリカの歴史を見事に寓話化している
2023/05/28 14:44
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトルから寓話的なものを思い浮かべるであろうし、まさに寓話である。同時に寓話は現実の、歴史の反映でもある。アメリカの歴史を見事に寓話化している。
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投稿者:igashy - この投稿者のレビュー一覧を見る
語り手の男性はいったい誰なのだろう。
スー(という名前にしておこう)がなぜああいう状態になっていくのか、それはうまく書き、語られているとも、逆に白人男性である作者が勝手に思い描いているとも思えた。
しかしどちらにしても、心に残る声であることは確か。
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残酷で痛々しい出来事なのに、淡い夢の中の風景のようにぼんやりしてなんだか輪郭も定かでない。それなのに、大きな年代史のようでもあり、ボルヘスを連想させるようでもあり。。。
スーがつらい出来事の時に体から心を離してしまうように、残酷で痛々しい日常を遠いところから眺めてぼかしているのかもしれない。
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黒人であること奴隷であることが、実感のない私にはわからない所もあるのかもしれない。
虐げられる者が他者を虐げる様が、そしてその罰を受ける様が、淡淡と描かれる。
後半の娘達の視点が興味深かった。
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南北戦争以前、横暴な夫のもとに騙されて来た女性が、二人の娘たちと暮らし始めるとー。
奴隷制の問題が核にある物語でありながら、大きな事件や史実は出てこず、主として妻ジニー・ランカスターの視点から語られる物語。支配する側とされる側。興味のあるテーマでしたが、どうしても直訳の様な文体(ひらがな多用)が馴染めませんでした。
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優しかろうが、時代だろうが、鬼は鬼。と、結論づけてまう私は人間の経験も想像力も足りてないんだな、と。再読はタイミング選びたい一冊。
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『でもわたしには、頭上の青空と雲を、けっして起きるべきではないのに起きてしまったことの目撃者以外のものに仕立てることはできなかった』ー『ロウソク物語』
問わず語りで進む話には、語られない物語がたくさん潜んでいるということは明らかで、そのことはきっと一番語られなければならないことなのだろうと読み始めて直ぐに理解する。だから幾つかの独白めいた物語の終わりで、ある事実が明かされた時、なるほどと思うと同時に、こういう形でしか過去の歴史的罪というものは問うことが出来ないのだなと妙な府落ちもする。何故なら、その瞬間に起きた幾つもの合点は、物語の最後で初めて意味を持つものであって、過去の物語が語られるその時に全てが明かされていたのなら読み手に穿った先入観を与えてしまっていたであろうから。語られるべきことは語られなければならないけれど、語られるべき時にこそ語られなければならない。そういうことなのだ。
過去は現在から見れば常に未熟であるように見える。しかしそれは現在を生きる自分達もまた未来から見れば未熟な存在と映りかねないということでもある。未来の視座を正確に予想することは出来ないだろうし、その為に自分の行為を律するというのも何かしっくりとはこない。けれど、宗教の違いを越えて共通する、お天道様が見ている、というような感覚はきっと過去を未来から振り返ってみる視点を意識させることとほぼ同じ倫理観を人に植え付けるように思う。そんなことをぼんやりと思いながら物語の最後を読む。
ああだからこの女は鞭を使ったのか、ああだからこの二人は女を物置小屋から出してやらなければならなかったのか、ああだからこの男はそんなにも非道な振る舞いをすることが出来たのか。そんな幾つもの、ああだから、の後からずしりと襲ってくるものは、不浄を洗い流す筈の水さえ忌み逃れようとする人間の業。自身の価値観などいうものは如何に状況に流されてしまうものか。「夜と霧」の読後感を弥が上にも思い起こさせる。結局、お天道様から問われているものとは何なのか、と。人が信仰に頼らざるを得ないのは、きっとそんな弱さがあるからなのだろう。願わくば未来の自分から見放されないように、と強く思う。
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不思議な気持ちにさせられる、耳元に語りかけられるような小説。南北戦争という歴史と照らし合わせると登場する姉妹の哀しい物語でもあるし、若くして嫁いできた娘の痛々しい回顧録でもあるし。暴力と時代背景に彩られた貧しさがたびたび描かれてはいるけれど目をつぶると広がるその情景はなぜか美しい。
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学生時代に読んだ、アメリカの文学作品を思い出した。
ケンタッキー州の山の中、楽園と名付けられた土地に、騙されるようにして連れてこられた少女(妻)。
二人の少女とひとりの男性の奴隷。
力が世の中を支配する、貧しいアメリカの田舎。
逃亡、そして再訪。
語られる内容は、ひどく残虐。
しかし、言葉は選ばれており、語り口は静かで平穏。
本書に挿入されている、ピンホールカメラの画像のイメージが、その空気を表現していると思う。
話は徐々に進み、幾人かの語り手をとおして語られる。
読者は、その言葉をたよりに、前にかかれた物語を補完し、その全体像がつながっていく。
読み返すことによって、より世界がはっきりしていくと思う。
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まだ子どもと言ってもよいくらいの少女が
騙されて農場主のもとに嫁ぐのだが
待っていたのは夫が君臨する恐ろしい「楽園」だった。
冒頭、平易な独白である男が若い頃を回想したかと
思うと、ふいと少女の話になり、そして次には、…
語り手が違ってくると見えてくる世界も違うのは当然の
こと。学問を受けていない語り手たちの、だからこそ
詩のような語りを見事に日本語に移している。
ただ、物語は複雑。
再読必至。
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ひとのレビューを読んでも、どこにそんなことが書かれていたのかすら分からなかった。
自分のあたまの悪さを痛感。
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19世紀から20世紀にかけての米国南部が舞台。もちろん人種絡みの話なんだけど、語り手や時代が錯綜するせいか、誰の肌が黒いのかがかなり後半までわからなかった。私って、かなり鈍い⁇
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かなり衝撃を受けた。
物語は、昔の時代や奴隷制度の黒い部分を背景としている。そして、現代でも人種差別は、依然として根深い問題である。
「楽園」でのジゴクのような日々が、あくまで静かに叙情的に語られる。
人間は、残酷であると同時に美しくもあるのだ。
それを切々と訴えかける。
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重く、深く、残酷で孤独。差別の激しかった時代の南部アメリカ。負の連鎖から逃れられないかのように、優しさと残虐さと懺悔が交錯する。その描写は激烈であるけれど、と同時に風景画のような美しさと温かさを感じる不思議な文章でした。時系列と視点がコロコロ変わるのでゆっくりと読み進めなければ理解が難しい。再読必至。
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時系列と登場人物の相関に混乱、空をつかむような読後感。だったので、一気に2回読んじゃった。2回目で糸がほどけたようにスルスルと理解できた。理解できたら、なんという物語なんだと、ため息が出た。
14歳で騙されるように「楽園」と呼ばれる農場に連れてこられたジニー・ランカスターは、ライナス・ランカスターと結婚し、2人の黒人の少女たちと4人での暮らしを始める。独裁的な夫は3人にとって加害者であり、ジニーは2人の少女たちにとって加害者であり、2人の少女たちはライナス、ジニーにとっての加害者となる。淡々と描かれる支配される側・支配する側がパタンと回転する様は不気味以外のなにものでもない。
あとがきにて訳者はこう述べている。
『支配する側・される側の両方に語らせることを通して、奴隷制の悪を「告発」するというような姿勢は作者にはない。といってむろん、奴隷制を肯定しているわけではまったくない。夫との関係においては被害者であり、奴隷との関係においては加害者であるジニーについて、被害者でもあったことによって加害者であったことが相殺されるわけでは決してない、とハントは強調している。』
こういう図式は世界そのものにも当てはまるのかもしれない。ハントのように、静かで謙虚な目で世界を見つめたい。
私は、私だけじゃなく多くの人は、言葉で正解を求めすぎるけれど、言葉になる前の何かをそのまま受け取ることだって尊い。ジニーの語りは拙いけれど、綺麗な言葉じゃないからこそ響くものがあった。