紙の本
戦国時代を中心に、戦場での実際の戦いの姿
2016/01/24 22:16
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投稿者:さえもん - この投稿者のレビュー一覧を見る
鶴翼の陣、魚鱗の陣など。戦国時代の合戦でよく知られた鉄砲、騎馬、槍あるいは旗などを細かく配置した図でお馴染みの、これら陣形を当時の戦国武将たちはどの様に運用したのか。合戦とはどう戦われてきたのか。これまで定番化して示されてきた有名な合戦の配置図に疑問を呈し、はるか昔、律令の時代にまで遡り時代と共に変化する合戦の実際を、資料を解釈し直して再提示してゆく。テンポ良く読み易く、現代的な例えも分かりやすく楽しませてくれる。現代人がイメージする戦場の本当の姿を武者達の勝利への執念が産んだ試行錯誤を、図も用いて丁寧に示して解説している。近年戦国合戦の解釈が大きく変わりつつある中で、これらを踏まえた上での著者独自の解釈は十分説得力有る物と思う。
紙の本
この本すごいです!
2016/02/26 10:53
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投稿者:aratakadowaki - この投稿者のレビュー一覧を見る
陣形の話もさることながら、前段階の古代、中世、戦国期の軍制について解りやすく説明されています。
中世と違い戦国期の軍制は、一人の騎馬武者が弓、鉄砲、槍などの10人の兵を連れてきても、一旦バラバラにして兵種別の各隊に編入することが可能になった。それによって兵種別の五段構えの陣形が、村上義清→上杉謙信により確立され、やがて全国に広がった。陣形とは基本的にこの一種のみ。という説明はいろいろ腑に落ちます。
筆者は在野の研究者のようですが、今後この分野に多くの研究者が参入してほしいと思います。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
陣形についての考察ははっきり類書がなかっただけに秀逸。
電子書籍
鶴翼は強いはずだ、という気持ち
2024/01/30 00:52
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投稿者:象太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
鶴翼と言えば、私が名前を知っている唯一の陣形で、古代カルタゴの名将ハンニバルがローマ軍を打ち破った戦形と記憶していた。塩野七生著『ローマ人の物語・ハンニバル戦記』を読み返してみる。確かナイキのマークのような図解を用いて鶴翼を説明していたはずだ、と。
パラパラめくると「これから述べるのは、日本の防衛大学校ではどうか知らないが、欧米の士官学校ならば必ず学習させれるという、史上有名なカンネの会戦である」との記述に再会する。そうだそうだ、ここの部分だよと読み返してみる。結果、中身は鶴翼のことを書いていたと思う。しかし、ついぞナイキのマークのような図解も「鶴翼」の言葉も見つけられなかった。
陣形に関して、そんなあやふやな知識しかない私が『戦国の陣形』と題した本書を読む前に抱いたのは、日本の戦国武将は当然、「鶴翼」をはじめとする陣形に関して研究に研究を重ね知悉していただろう、ということだった。
しかし、実態は違っていて、武将たちの間でも何となくこんなもんだろうぐらいのイメージで使われていたらしい。本書は、歴史を遡り日本の合戦の実態を浮き彫りにした。強いて言えば、武田信玄が山本勘助の上申を受けて使ってみた陣形というものがあっただけで、それも実戦では有効ではなかったようだ。
関が原の戦いの布陣図を見たドイツのメッケル少佐が即座に「西軍が勝ち」と言った話は有名だ。西軍が鶴翼の布陣を敷いていたからだとされる。しかし、関が原の布陣図が発行されたのはメッケル少佐の帰国後だったそうで、この話が本当かどうかは怪しいらしい。実際の関が原の合戦は、両陣がしっかりと配置を終えてから激突したのではなく、部隊が動く中で勝負を決した可能性もあるという。
鶴翼の陣形が強いという話をするために、メッケル少佐が使われたか。陣形とは戦に必勝形を見たいという後世の人の気持ちが生んだものなのかもしれない。
電子書籍
陣形の史実
2023/11/01 06:04
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投稿者:福原京だるま - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドラマやゲームなどでは戦国時代の陣形が出てきて陣形同士の相性なども語られるが実際はそんなものはなかったことがわかる。魚鱗や鶴翼といったワードは史料に出てくるが実際は集まるや分散するなどの大雑把な陣形であった。机上の空論としての陣形について盛んに議論されるのが江戸時代の軍学者や戦後社会といった実際の戦争から遠ざかった時代である点が面白いと感じた。
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とても面白かったです
2016/02/08 22:32
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投稿者:ヒケシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
一般にこう思われてるが実は違った、という歴史の話が大好きなので、この本はとても気に入りました。
陣形は律令時代に既にあったとか、蝦夷との戦いでは役に立たなかったとか、村上義清が隊形を編み出し、それを上杉謙信が受け継いだとか、三方ヶ原の戦いで魚鱗対鶴翼なんてなかったとか、とにかくとても楽しめました。大満足です。
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前書きでは「陣形の面白さを伝えたい」といっているが、陣形の面白さを伝えることよりも、如何にこれまでの陣形論が間違っていたかを述べる方に主眼を置いた本。
「鶴翼の陣がこれまで考えられてきた隊列とは異なる」など著者の主説はわかるが、それが正しかったからといって、歴史学者でもなければ何の意味があるのか?
自説のうえにそれによって得られる付加価値を述べて欲しいと感じてしまう。
長々と歴史考証を重ねた上で最後に「兵法の真髄は空っぽだった」と締めるのも興ざめ。
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明快に陣形の歴史を概観できた。といっても陣形らしい陣形はなく、鶴翼のばっさり、魚鱗のびっしり、くらいしかなかった。たしかに小領主が自分の一族郎党を率いた舞台の集合体に細かく指示できるわけでもなく、兵種も混合しているので、ただ個人の武勇や物量で勝敗が決まった。戦国時代、新たな戦陣を編み出そうとしたのが武田信玄と山本勘助。だが、これも捨て身の村上義清に破られ、義清の陣形を取り入れた上杉謙信に敗れで、機能しなかった。結果、村上義清が信玄の首を取るためにやけっぱちで編み出した五段階の陣形が上杉謙信、武田信玄、北条氏康らに取り入れられる。大名が強い権力とお金を持ち、強力な馬廻を組織できて可能になる。織田信長は明智光秀が取り入れた可能性があるくらい。豊臣秀吉以降、全国に広まり、朝鮮でも猛威を振るった。江戸時代はこれが定型となる。シンプルに鉄砲、弓で敵陣を崩し、槍で押し込み、騎馬と刀の白兵戦で決着をつける。石高に応じた馬と槍と鉄砲と人数を軍役として課すことで均一な軍隊が誕生した。八陣などは風后の神話を諸葛亮が推測して八陣を考えのが日本に伝わり、信玄が創造し直したがやはりうまくいかない机上の産物だった。しかし江戸時代、実戦がない中で信玄の八陣が蘇り、甲州流軍学として後世に大きな影響と誤解を与えた。
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「天と地と」を読んだとき、車懸りの戦法はものすごい運動量ですぐバテてしまうだろうにと思った。
本書の内容なら納得。
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日本の陣形の歴史について。
鎌倉時代から戦国時代まで。
面白かったかといえば微妙だし、歴史的な考察もどれほどの信頼性があるかわからなかった。
2度読むかと言われればわかりません。。
以下基本的にネタバレ。
中国では、孫武の登場などによって、古代より戦略、戦術の研究が盛んであったが、その後孔明にもあるように八陣などの定義もおかれている。
日本では、孫武の存在も知られており、知識の輸入もあったところであるが、奥州のゲリラ戦の反省から、陣形というものの効果が認められず、その後力自慢が仲間を引き連れ、士気や個人の武力、機を捉えて戦うといった戦術が発展していった。
本格的な戦術は、武田信玄の登場を待つが、その後も一般化されることはなく、鶴翼、魚鱗など大きく広がる、密集する程度の認識であったとのこと。
作者は指摘される日本の陣容についても、関ヶ原の鶴翼など、誤りを指摘しており、ついに日本では陣形は発展しなかったとのこと。
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なるほどとうなずけるか所も少なくはないのだけれど、我田引水なところも目立つ(白峰旬氏の関ケ原短時間決着説とか「五段隊形」へのこだわりとか)。あと、図表の説明が大ざっぱすぎて、途中でわからなくなるところも散見。
伊藤潤氏推薦とか絶賛とかの物件には要注意ってことか?w
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“時代モノ”のファンを自認する人の中には…「無制限の制作費」を投入して、勇壮でリアルな、そしてドラマチックな戦国時代の合戦場面を映像で再現してみたいというような、傍目には莫迦らしいかもしれないようなことを夢想する人が在るのかもしれない…実は私自身にもそういう傾向が無いでもないのだが…本書に触れて、恐らく著者はそういう傾向をかなり強く帯びているのかもしれない等と思った…
本書の文中でも触れられているが…戦国武将等が「○○の陣」等というモノを用いていたらしいというような事柄に関して、実は然程深い研究は行われていない…本書は、そういう「○○の陣」というようなモノに関して、「“戦”というモノが辿った経過」を考えてみることを積み上げて考察している。或いは非常に画期的な内容を含むのが本書である。
本作は、限られた紙幅の中で、なかなかに深く考察を展開していて、非常に面白かった!!
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タイトルは「戦国の陣形」だが、要点としては日本の戦国時代には実態としての「陣形」なんてなかった、という本。
会戦に際し、兵の集団を決められた形に配置して運用する(それができるよう訓練する)陣形は日本の場合、大陸との戦闘を想定した律令制下には一時、存在したものの、結局大陸との大規模戦闘は白村江以降の古代では発生しなかった。
蝦夷勢力等と戦う上では会戦を想定している陣形は有効ではない(相手が集団ではなく散兵であるため)。
騎馬に乗った武士は運用としては散兵に近く、鎌倉~室町も陣形らしい陣形はない。魚鱗の陣・鶴翼の陣みたいな表現は出てくるが、密集せよ・散開せよくらいの意味できちんと決まった形はない(そもそも、領主ごとの集団や、「俺についてこい!」「おう!」みたいな固まりで戦闘してるので、司令官の下で秩序だった展開なんてしていない)。
きちんと形の決まった陣形を導入したのは武田信玄・山本勘助であることは確からしいが、その陣形も有効に機能した記録はない。
むしろ信玄に一矢報いるために村上氏が生み出した、旗本の下に兵種ごとに一定数の兵を揃えて、それを組み合わせて運用する(その組み合わせの力で一点突破して信玄を攻撃する)先方の方が有効で、その戦法はそのまま上杉氏に取り入れられた上、北条・武田にも波及し、後に豊臣政権⇒徳川政権にも取り入れられる(領主ごとに、各兵種を決められた数拠出することを義務付ける⇒それを兵種ごとにわけて再編成して運用する)。
江戸時代以降に「なんか陣形ってのがあったらしい」と机上で研究が進むが、日本でそれがまともに機能したことなんてなかったらしいぞ、と。
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日本に陣形がもたらされたとされる時代から有名な八陣(鶴翼、魚鱗、雁行、長蛇、偃月等)について論じられる。
はじまりは律令制の時代、7世紀からだった。源平合戦にも陣形とは呼べないが隊形や戦略などは存在していた。そして時代の移り変わりとともに集団戦が重要視され戦国時代に武田信玄によって八陣はマニュアル化されるものの、実演という形では現世まで見られることはなかったのではないか。それが著者の考察である。
様々な参考書物をもとに書かれており、なかなか戦略が好きな自分にとっては面白い部分があったが、とくに何かが得られる!といった本ではないので星3つ
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戦闘、特に陸戦が実際にはどのように行われ、何が勝因・敗因となるのかということは、戦争を知らない私には中々理解できない。そういう疑問に何らかの答えが与えられるのではないかとの期待を持って本書を読んだ。
結果的には、その答えは本書にはなかった。その上、近代以前の日本の戦闘には、戦術的な陣形は実際には存在しないも同然ということで、古代中国から移入されたらしい陣形の名前だけが一人歩きしていたというのが結論だった。様々な陣形の名称も、いわば机上の空論らしい。なぜそうなったのかは、古代から近代までの武士・兵士の成り立ちの歴史に沿って説明されており、ここが本書の最も面白いところかもしれない。