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予想を上回る悲劇的結末に意気消沈。
2021/11/17 21:39
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
予想を上回る悲劇的結末に意気消沈。敷島四兄弟のなかで生き残ったのは最も軟弱に見えた四郎のみ。どんな状況に陥ろうとしぶとく生き残ると思われた間垣徳蔵まで死んでしまうのだから容赦ないですね。日本人だけでなく世界中の人間が理不尽な運命に翻弄された時代。何があっても不思議ではない時代の一個人の運命なんて実に儚いものでした。さて本作の価値は、小説としての面白さもあるが、その歴史的価値の方に私は着目した。敷島四兄弟と間垣徳蔵はその歴史の案内人的存在でしかなく、主役は歴史の壮大な流れである。私しも常に一連の流れの中で、日本は何処で間違った道に入り込んだのかを見つけようとしてたが、混沌とした世界情勢の中での複雑怪奇な流れに困惑するばかりであった。結局、私の視点も1941年~1945年の太平洋戦争だけを切り離して見ようとしてしまうのだが、その象徴的事態は、1930年頃から始まった満州を軸にした実質的戦争状態から、1941年の太平洋戦争に至る長い時間をかけて醸成された結果だったと改めて思い知らされた。そしてその長い年月の中で、軍部や政府の暴走もあるが、それを多くの国民がむしろ支持・支援して戦争拡大の方向を目指したと思えてならない。未だに世界中で戦争の絶えない今こそ多くの人に読んでほしい作品ですね。
紙の本
変わってないね
2016/11/10 23:12
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投稿者:Zero - この投稿者のレビュー一覧を見る
読了。いろいろ考えさせられた。ロシア人の鬼畜ぶりは現代クリミア半島でも繰り広げられているのだろうし、シナ人の出鱈目ぶりも変わってない気がする。ということは大和民族も本質的な部分では変わっていないのだろう。一度決まってしまうと間違っていても方向修正できない点は豊洲新市場の問題とかと一緒だとおもった。
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満州国演義 最終巻
敷島四兄弟の中、状況に引きずられる官僚の「太郎」と、満州に生き、満州と共に滅びた「次郎」、軍人として死地に向かった「三郎」が亡くなり、一般人の「四郎」だけが戦争の惨禍に巻き込まれた子供をつれて帰国するところは、その時の日本の状況を表わしている様に思える。
シベリアに連れて行かれ、過酷な環境の中ですこしでも生き延びる可能性を大きくするために行動する日本人捕虜達が、ぎりぎりの環境の中で、保つ「誇り」とは何か?徳蔵や太郎の行動も改めて考えてみたい。
(以前読んだ 井上ひさしの「一週間」を思い出した)
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とうとう読み終えてしまった。
船戸与一がまさに命を削って書き上げた満州国演義、完結です。
「小説は歴史の奴隷ではないが、歴史もまた小説の玩具ではない」
船戸与一は自らのこの言葉通り、膨大な資料と格闘し、歴史的な事実関係は変えることなく、その中で想像力を駆使してこの壮大な物語を書き上げました。
満州国については、かつて多少は勉強したつもりでいましたが、知らない史実がたくさん出てきました。
この本を書いてくれた船戸与一さんにあらためて感謝です。
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1928年~1945年の17年間の満州の歴史。登場人物4兄弟の視点で語られる。満州事変から第二次世界大戦終結までの流のなかで、南京事件、張鼓峰事件、ノモンハン事件、葛根廟事件、通化事件と有名な事件が次々と起こり、4兄弟それぞれの立場で事件と向き合う様子が描かれる。満州の歴史を詳しく知らなかったので、勉強になった。何が正しくてなにが正しくないのかなんてだれにもわからないと感じた。
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ついに帝国は崩壊の日を迎える。敷島四兄弟もまた、歴史に翻弄されながら抗えない運命にその身を窶し、この「満州国演義」から一人、また一人と退場していく。それら全てが夢の跡、朽ち果てた夏のようにただ茫漠と過ぎ去っていくこの寂寥感。間垣徳蔵は最後に矜恃を見せた。歴史の激流に只々圧倒された全9巻。船戸先生、安らかに。
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船戸与一さんの遺作。新潮文庫版で5500ページを超える大作。読了するのに2ヶ月かかりました。
題名の通り、本書は満州国を舞台に張作霖暗殺(1928年)から終戦後のソ連軍の侵攻、シベリア抑留までを描きます。
主人公は架空の敷島四兄弟。長男は東京帝大出の外交官、次男は大陸に渡った馬賊、三男は憲兵隊の花形将校、四男は元無政府主義者で後に関東軍の嘱託として情報分析に従事。我々読者は、それぞれ職業や活動地域の違う四兄弟の見たこと、聞いたこと、考えたことを通して、その時代を知ることができます。本書の中で、四兄弟の役割は歴史の傍観者であり、かつ凄まじい影響を受けた「日本人」のサンプルです。彼らは歴史を動かす事件に直接的に関与するわけではなく、もし我々が同時代にいたら考えていたであろうことを代弁してくれます。
例えば、226事件のシーンでは、奉天で参事官を務める長男は刻々と入ってくる情報を追い、同僚らと事件の影響について議論、分析します。そして、それは著者自身の226事件に関する視点、考察です。
第9巻末に参考文献リストには300冊を超す文献。本書は、フィクションでありながら、戦争論に関しては、話題になった「失敗の本質」に匹敵するほどの充実ぶりです。
昭和恐慌で鬱憤をためていた日本人がいかに大陸に憧れ、いかに米英を憎み、太平洋戦争初戦のハワイ・マレー沖海戦の戦果にいかに狂喜し、大本営発表をいかに盲信したかが理解でき、戦争の愚かさを再認識できます。
そして、本書はエンターテイメントとしてもよくできています。南京事件、ノモンハン事件、インパール作戦の描写は凄まじいものであり、大陸で馬賊として暴れまくる次男の姿は「山猫の夏」を彷彿とさせます。また、四兄弟の周りに数々の事件が起き、やはり読み始めると本を措くのが難しかったです。
船戸与一さんは本書の完成後、2ヶ月後に他界しました。大好きな作家さんでしたが、船戸さんの新しい冒険小説が読めないと思うとさびしいです。本書は、文句なしの★★★★★。ただし、読み始めるには相当の覚悟が必要と思います。
船戸さんの作品を読んだことのない方は、「山猫の夏」をまずお読み頂ければと。
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平家蛍の灯
波浪さらに荒々しく
鉄格子の向こうから
シベリアの妖雲
嵐が収まったあと
過ぎゆきし夏
未明の点滅
著者:船戸与一(1944-2015、下関市、小説家)
解説:井家上隆幸(1934-、岡山県、文芸評論家)
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血と歴史は必ず連続する。それが人であり、民族であり、国なのかもしれない。ただ、その繋がりは、単に事実の積み重ねだけではない。事実の隙間を埋める感情が、暗黙の了解となり、虚構という歴史像をまた結ぶのだ。
わずか13年という短命に終わった満州国は、上記をこれでもかと凝縮した歴史を放った。そこに生きた4人、いや5人は、それぞれ闇を抱えたまま、ある者は生を閉じ、ある者は行く当てもなく歴史を彷徨う。ただ、彼らの血もまた次へと繋がっているし、彼らの歴史はまた血と関係なく続いていくのだろう。その始まりの寸前で小説が終わることで、満州国の、歴史の、人の、儚さと連続性が浮かび上がってくる。
船戸与一、見事なり。
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大長編をとうとう読了。満州や昭和1ケタ代というロマンあふれる背景に始まったこの物語。エロチックなシーンもずいぶんあったものだけど、最後は日本軍の至らなさを見せつけられるばかりで何ともお粗末な様相を背景に幕を閉じた。
敷島4兄弟も前巻で世を去った次郎に続き、敗戦を迎えた三郎と太郎も相次いで死んでいった。三郎は昔とほぼ変わらぬ性格・気性のまま命を落としたけど、太郎はいつのまにかずいぶん卑屈になって最期は自ら生命を断った。四郎だけが生き残り、日本に引き揚げたんだけど、兄3人が悲惨ながらも人生を総括し覚悟を決めて死んでいったのに対して、四郎が死ななかったのはそこまでの覚悟がなかったからといえるかもしれない。最後まで危なっかしい末っ子・四郎くんだった。