紙の本
不穏に次ぐ不穏
2016/12/05 23:51
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オオバロニア - この投稿者のレビュー一覧を見る
エヴンソンの短編集第2弾です。
まとわりつくような不穏さを感じさせる短編集で、不安と恐怖に苛まれる文章の連続が気持ち悪くて癖になりました。認識が崩壊していく「食い違い」、登場人物の誰もが現状を把握できない「トンネル」、自由に呼吸することを制限された「酸素規約」あたりが面白かったです。
しかし一番エヴンソン作品らしさを感じたのは「グロットー」。
謎の存在グロットーから逃れられない主人公の苦しみから目が離せなくなります。暗くて、血なまぐさくて、孤独で、不条理な環境から逃げられない。まさにエヴンソン作品の真骨頂といった印象を受けました。
前作に続いて、充実した短編集でした。
紙の本
安心の柴田元幸氏訳
2019/01/28 17:14
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
安心の柴田元幸氏訳、もし柴田氏が翻訳家でなかったならこの本を私は読めていなかったかもしれない。どの作品も闇の中を散歩しているような気分にさせる不思議なものばかりなのだが、表題の「ウインドアイ」が一番気持ちが悪い。外からは眺められるのに、中からは確認できない窓、それはウインドアイ(風の目)と呼ばれている、その窓に手を触れたとたんに妹の姿が消えてしまう。でも、妹など初めからいないと母に呆れられる。窓に触れたことによって妹の存在がなかったことにされてしまったのか、初めから主人公の妄想なのか。この手の夢をたびたび見ることのある私にとっては衝撃の内容だった。他の作品も夢なのか現実なのか気持ちの悪い世界の連続、それが私をわくわくさせる
投稿元:
レビューを見る
柴田さんの訳は素晴らしいけれど、英語でそのまま読めたらどんな感じだろうと気になりました。
「ウインドアイ」「ダップルグリム」「食い違い」「もうひとつの耳」「アンスカン・ハウス」が楽しめました。
同じ作者による短編なのに、全く頭に入ってこない物語もありました。
「食い違い」のマークの台詞がとてもツボにハマり、通勤の電車でニヤニヤしてしまいました。
Altmann's Tongueも読んでみたいなぁ。
投稿元:
レビューを見る
全二十五編からなる短編集。
ブライアン・エブンソン、待望の日本での二冊目。
僕はブライアンの日本での処女作「遁走状態」を、昨年読んだ中で一番面白い作品だと思っていたので、期待に大きく胸を膨らませて読み始めた。
そして読み終えた今、期待通り、いや期待以上の面白さに思わず唸ってしまった。
面白い、とは言っても、決して楽しく爽やかな内容ではない。
前作同様、きちんとした物語の背景説明がある訳ではなく、どうして登場人物たちがこんな状況に陥っているのかは、想像の範疇を出ることはない。
そんな「こんな状況」に翻弄される登場人物、あるいは「こんな状況」そのものに、どうしようもない面白さを感じるのだ。
存在の曖昧な妹や弟を探し出そうと足掻き続けたり、救うべき友人ではない「知らない誰か」を救ってしまったり、自分の死を他の誰かに確かめずにいられない人々がいたり、祖母の皮をかぶった少年(悪魔?)がいたり。
最後に収録されている「アンスカン・ハウス」のラストなんて、人間の闇の部分をくっきりと浮かび上がらせていて(その闇は自覚されている)、しかもそれが妙に納得が出来る闇であるために、心苦しく思えてしまう。
本書のアメリカでの出版は2012年であり、今年2016年にも新しい短編集が発表されているとのこと。
翻訳家の柴田さんには頑張ってもらって、早くその新しい短編集を読んでみたいと、今からウズウズしている。
投稿元:
レビューを見る
藤野可織がすんばらしい推薦文を寄せている。
「罠ではなくてただの仕組みで、私たちの内と外ははじめからそうなるようにできているのだと」
それを言い直せば、黒沢清のいわゆる「オートマチックな死の機械」。
付け足せば、視点の逆転。
言及されない陰惨な事件に関する、曖昧な記憶。
語りは悲劇を迂回することで不安を掻き立てる。
ひとがふたりいれば殺し合うのは必然。
近未来的ギミック、人体変容のモチーフ、の変奏。
投稿元:
レビューを見る
独特の世界観や空気感に最初は慣れなかったけど、馴染むほどに面白い感じがしてきた。
不条理な感じはマジックリアリズムにも近い感じがする。
ハーロックの法則まで読んだ。
投稿元:
レビューを見る
岸本佐知子編の『居心地の悪い部屋』で知った作家。読み進めながら違和感。『ささやき』の著者と勘違いしてた!『ヘベはジャリを殺す』『父、まばたきもせず』の著者か!「よくわかんないや」アーンド「えっ、オチは?」な話が満載。俺的には”奇妙な味わい”を通り越して、”頭ン中、どないなっとんねん!”系に認定。一気に一冊読むのはしんどかったけど、クセになりそう。
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに読み終わるのに難儀した本。
すごく質が高くておもしろいのに、なぜなの、この疲労感。げっそり。
読んでいると、めちゃくちゃHP(=ヒットポイントね)を削られる。
読みながら、ふぅふぅぜいぜい。
ああ、本を読むのが苦手な人ってこういう感じなのかも、と思った。
誤解のないように言いますが、話はおもしろいのよ! とってもおもしろいの! でも、1ページ1ページがべらぼーに重たいのよー。
ページをめくる、というただそれだけの行為が、雨と泥の中を行軍しているイメージと重なる。
収録されている25作品のうち、おとぎ話風のものは比較的読みやすく、怖さもシンプルでなかなか楽しい。「二番目の少年」とかすっごくおもしろい。「ウインドアイ」「グロットー」もこの類で、そこはかとないユーモアもあったりして、けっこう楽しんで読んだ。
だがしかし。
徐々に「狂人の夢」みたいな作品が増えてくると、ページがずっしり重たくなってくる。
地の文章がなんともいえないしつこさで絡みついてくるというか・・・ちょっと涙目になる私。
映画「シャイニング」でジャック・ニコルソンがずっと何かをタイプしているシーンを思い出す。
これ、もしかしてあの狂った作家が書いてる日記なんじゃないかしら、なんて気がしてくる。
作家のプロフィールを読んで仰天した。元モルモン教徒でブリガム・ヤング大学の元先生!?
作風からは思いもよらない経歴に、がぜん作家本人に興味がわいてくる。
いやぁ、世間ってほんとおもしろい。本人の肩書や経歴と書いたものの印象がかなりかけ離れている作家って意外に多いよなぁ、と思う。(そのまんまな人も多いけど)
一つだけ、他と作風が全く異なるものが含まれていた。ノンフィクション?で、ロックバンドAC/DCの元ボーカルで謎の死を遂げたボン・スコットについて書かれたもの。
私はこの作品がかなり好き。
事実そのものが非常に興味深いというのもあるけれど、同じことを別の人が書いてもこんな風には書けないんじゃないかと思った。
村上春樹もそうだけど、普段、シュールな作品を描くような人が、たまにノンフィクションを書くとすごく巧みでおもしろい。(そう言えば画家もそう)
まったくの想像の世界を作って描き出すことが、逆に事実を見る目を研ぎ澄ませるのかもしれないなと思う。
投稿元:
レビューを見る
いずれかの書評本からのチョイスだったかな。柴田元幸訳ってこともあって、読んでみようと思ったんだろう。しかしこれは、ただ辛かった。内容が辛いってこともあるけど、それ以上に自分的に苦行だった。ひたすら不条理な目に合わされる短編集なんだけど、これを読んで何を思うんだろう。世間とは、残酷的なまでに不条理なものだ。然り。ただそんなこと、日常生活の中で味わうだけでも十分じゃね?よほど途中で止めようと思ったけど、上記のごとく、苦行と思って耐え抜きました。他の作品は読まない。