電子書籍
そして世界は閉じられる
2019/08/21 10:05
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ワシ - この投稿者のレビュー一覧を見る
時折り現れる、断崖の集落と対岸をつなぐ「赤い橋」。
外界から訪れる人も、脱出を願う人も橋を渡らずにはどこにも行かれない。
そして、橋が出現してもなおそこに留まることを願う人々。
橋の気まぐれで幽閉されたのである。そこに理由や必然性はない。
世界の理と、道の気まぐれに翻弄される人々。
他作にも見られるこの構造は、恒川作品に普遍的なものだ。
本当の主人公とはあるいは…。
そして、廃墟団地で”ハーヴ栽培”に血道を上げる桑田。
読んで頂いた通りの「人間のクズ」なのだが、実にこの手のイカレた弱い人物を描くのが実にうまい。
トバムネキ・英語教師の韮崎・沸点の分からない宗岡。そして、そうした壊れた人物になぜか魅了されてしまう人々。
だからこそ、ラートリーのように強く人徳をそなえた人物も描けるのかも知れない。
「おいでラートリー!」
「およびですかカイムルさま!」(違
紙の本
恒川光太郎のエッセンスが集約
2017/02/07 20:02
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この短編集で恒川光太郎に初めて出会う人は幸せだ。どの物語からも、今までの著作に向かえる機会を得られる。また、「夜市」以来のファンにとっても、恒川光太郎の“今”を再認識できる贅沢な本である。これは現時点に於ける集大成とも言える作品集。
ホラーテラー(こう表現するのには抵抗があるが)としてだけでなく、「金色機械」や「スタープレイヤー」で驚かせてくれた、この人の力量を、これでもか、と見せつけてくれるようだ。面白い、実に楽しめる作品集だ。
多彩なテーマに合わせた自在な語り口で展開される物語は、時間を忘れる読書の醍醐味をも味わわせてもらえた。しかも「カイムルとラートリー」では、また新たな一面を披露してくれ、今後の作品が、また、楽しみになってきた。
紙の本
恒川ワールド原点回帰の短篇集。
2017/05/26 23:48
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
ノスタルジックホラーの書き手、恒川光太郎さんの短篇集です。
至近はSFもどきのシミュレーションゲーム風作品だったので、
どうなるのか心配していたところ素晴らしい一冊が出てきました。
全六篇の短篇集です。
この世から少し外れた生き物たちが描かれています。
表題作の無貌の神はこんなお話です。
世界から見捨てられたような小さな集落にわたしは
住んでいました。深い森に数軒の茅葺きの家が軒を並べ、
陰気な人たちが、獣のようにのっそりと生きていました。
川の水を飲み、川魚をとり、山菜をむしって食べました。
ただひたすら無気力だったのです。
道の先に古寺があり、そこに顔のない神が坐していました。
のっぺらぼうで、輝きを放っています。
傷を負ったり病になったりした場合、神のすぐ近くによれば、
傷は癒え病は治るのです。しかし神は、像のように坐して
いても、生きていたのです。
神は何者なのか。なぜ傷か治るのか。
神はどうやって生きているのか。
次々と浮かぶ疑問を、こういったものであると納得させてしまう
話術にからめとられます。それこそが恒川ワールドと呼ばれる
所以でしょう。
神、天狗、死神、悪魔など、章のタイトルを眺めるだけでも
想像力がかき立てられます。SF的なものはありません。
怪異でもない、パラレルワールド的な摩訶不思議さに
包まれる世界が待っています。
運命を扱った作品などは、なるほどと思わず膝を打ちたくなる
展開でした。ホラーは苦手という人にこそお薦めです。
この作品をきっかけに恒川さんの世界に入る人が
増えればいいなと思います。
投稿元:
レビューを見る
短編6作。
ページを開くとあっという間に取り込まれ、物語に入り込みその世界をとても近くに感じる。
ダークで哀しみに渦巻く世界に、一縷の光を見る。救われるのか救われないのか、それはまた別の話。
投稿元:
レビューを見る
短編集。相変わらずの恒川節。でもやっぱ、中長編のほうが個人的には好みです。表題作と、最後の虎と人の交流の話が気に入りました。
投稿元:
レビューを見る
貌のない神は、喰う――。赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような禁断の地にさまよいこんだ私。
かの地の中心には、顔のない神が坐して、輝きを放っていた。万物を癒やす力を持つその神には、代々受け継がれている秘伝の奥義があった。そのことを知った私がとった行動とは?(「無貌の神」)デビュー作『夜市』を彷彿とさせる表題作ほか、生きることにつきまとうやるせなさをあぶりだしながら、時代も国籍もジャンルも縦横無尽に飛びこえ、自由闊達、神話的な語りの境地をみせる傑作ブラックファンタジー全6作!
投稿元:
レビューを見る
久々の恒川サン♪ なかなかよろしいw
「カイムルとラートリー」だけ、ちょっと異なった趣だったけど、それもまたよしw
この世ならざる和風情緒が漂う表題作ほか、流罪人に青天狗の仮面を届けた男が耳にした後日談、死神に魅入られた少女による七十七人殺しの顛末、人語を話す囚われの獣の数奇な運命…暴力と不条理にあふれた世界に生きるやるせなさを幻想的にあぶり出す、大人のための暗黒童話全六篇♪
投稿元:
レビューを見る
短編集。時代を越えて、世界を越えて、この世ならざるものの未知なる力を感じます。表題作「無貌の神」の循環が無情。「カイムルとラートリー」が好き。獣いい。
投稿元:
レビューを見る
恒川さんの本はいつだって飛びつくように買う。
スタープレイヤーも楽しく読んでいたが、今回みたいな雰囲気は久しぶりな、ホーム感がある。
青天狗の乱、死神と旅する女、カイムルとラートリーがお気に入り。
でもやっぱり和風長編が読みたい。欲を言えば風の古道みたいなやつ
投稿元:
レビューを見る
貌のない神は、喰う。赤い橋の向こう、世界から見捨てられたような禁断の地で、代々受け継がれている奥義とは? 暴力と不条理にあふれた世界に生きるやるせなさを幻想的にあぶり出す暗黒童話全6篇。
最近作風が変わってきた恒川光太郎だけど、この短編集冒頭の表題作はかつての作品を髣髴とさせる暗い、救いのない短篇で、「これは私の好きな恒川作品に近い!」と感じさせるものだった。他の作品も怪談専門誌「幽」に連載されたものだけあって、どれも趣のあるものだった。
(A)
投稿元:
レビューを見る
伝奇ホラー短編集。幻想的で美しい雰囲気を持ちながらも、案外と残酷で凄惨な物語が多いです。でも嫌な感じよりもむしろ神秘的な印象が強いかも。
お気に入りは「死神と旅する女」。一見とてつもなく恐ろしい物語のように思えたのだけれど。「死神」の目的を考えてみると、こういうのがあってもいいのでは、と思えてしまいます。フジの成長も読んでいてすっきりさせられるし。
表題作「無貌の神」も印象が強い作品。「神」も怖いのだけれど、なんの疑問も持たずに暮らしている人たちの姿がとても怖く感じました。でもこれは、現実に当てはめてみてもあることなのかもしれません。
投稿元:
レビューを見る
「スタープレイヤー」シリーズも楽しんでいますが、作者の神髄といったらやっぱりこういうホラー系統の話、だと私は思っているので、今回の短編集はとても楽しみで、かつ読んで大満足でした。
日常と非日常がひそやかにまじりあっている世界観、グロテスクばかりではなく、大きな暗い穴を覗きこまされているような茫漠としたおそろしさ。一見淡泊な文章に紡がれたその奥行き知れない異世界が、とても魅力的なのです。
表題作の人知を超えた無慈悲さ、死神と少女の奇妙な旅道中、とらわれた獣と少女の半生…短編で描かれるのはどこもこの世にはないものであるはずなのに、気が付けば情緒を感じ、この世界の裏側にひそやかに佇んでいるような、そんな質量を感じました。
とても素敵な、そして恐ろしい、お話たちでした。
投稿元:
レビューを見る
★2017年3月18日読了『無貌の神』恒川光太郎著 評価B+
短編6作品 それぞれの関連性はない。やはり表題作が出色か?!
恒川氏らしいミステリアスで良質な作品が並んだ。彼の作品は、高レベル安定。ただ、前作のスタープレイヤーやヘブンメイカーのような新境地も積極的にさらに広げていって欲しい気がする。
1.無貌の神 戦中から戦後の田舎にあった貌のない神様に支配された村
2.青天狗の乱 江戸時代の伊豆諸島流刑地に現れた青色の天狗が悪役人に天誅を下す。
3.死神と旅する女 死神の手先となって約束の77人を殺害したフジとその死神が描いた未来図とは?
4.12月の悪魔 影男に自分の思い出を食われた男女は、実は社会から抹殺された無期懲役または要注意人物だった。
5.廃墟団地の恩人 風に戻れなくなったサブロウは、唯一の人間の友達裕也を助けて犯罪者の肉体を乗っ取る
6.カイムルとラートリー 人の言葉を話す崑崙虎のカイムルと彼を誕生日プレゼントとして貰った第三皇女のラートリーのお話
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに初期の頃の恒川さんみたいな雰囲気を味わえて良かった。
どこかにありそうで、やはりない世界。今の世界と同じようで、違う世界。
破滅的になるのか救いがあるのか、緊張感がたまらない。
表題作の「無貌の神」、「死神と旅する女」「廃墟団地の風人」「カイムルとラートリー」が好み。
投稿元:
レビューを見る
閉鎖的な村の神の存在をめぐる表題作ほか、全6編を収録した短編集。現実と異界との境が曖昧な、ホラー要素が漂う。
人間のやるせない哀しみ、喪失感をまとった異世界は、作者のデビュー当時からの大きな魅力だ。
少しだけ軸がずれ現実と隣り合わせに存在するような世界に、神や死神、架空の動物などを登場させているが、決して奇想天外ではない。現実の情け容赦のない無力感や暴力を背景に描くことで、ホラー要素が浮き上がることなく見事に溶け込んでいる。
やりきれない読後感のものが多いなか、最後の一編で救われる。それを考慮しての作品の並び順なのだろう。
本を閉じたあと、ぼんやりと余韻をかみしめたくなる一冊だった。