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人が記憶を辿るとき、強烈な事件を必ず最初に思い返すとは限らない。それは母がふと立ち上がる瞬間であったり、父の喫う煙草の煙の色であったりと、記憶とは必ずしもその出来事の重大性の順に現れたりはしない。ましてや時系列を追って行儀良く並ぶことなどあり得ない。こういった点において、オースターは実に誠実に本書を書いた。
もちろん、記憶を喚起するのに道具を使うことは有効だ。それが本書の場合は引っ越した家にナンバーを振ることであったり、商品名を羅列することであったりする。これらは技巧というよりは、やるべきことに適切な道具を用いる誠実さの現れと解釈した方が心地良く読書を愉しめるだろう。
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ポール・オースターのことを今まで知らなかったが好きな本屋さんがオススメしていたので読んでみた。人生にドラマを感じる1冊だった。
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後半に出てくる“君が子供のころ愛した食べ物”がどれも美味しそうでたまらない。
“アイスクリームこそ君の若き日の煙草だった”
は名言だと思う。
家族を乗せた吹雪の中のドライブの話も良かった。
戦争を経験された、寡黙なお義父さまの雪道のアシストもウィンクも、どれも素敵なシーン。
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これまでの作品(特に「ニューヨーク三部作」などの初期作品)においては、ポール・オースターという名前や存在を装置として活用することで新たな文学を切り拓いてきたオースター。
そのような作者が人生の老いという冬の時代にさしかかり、身体をめぐるこれまでの出来事を赤裸々に語っています。長年の喫煙や過去のセックスなど、あまり言及されてこなかったトピックも含めたエピソードが時系列に沿って、それこそ「日誌」のように語られています。
個人的には、「これ!」というような箇所にはあまり遭遇しませんでしたが、そこはオースターの文体と名訳者による訳文ですから、するすると通読できました。