紙の本
日本の私有地の20%は所有者不明
2017/07/27 21:35
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投稿者:つばめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
日本の私有地の約20%で所有者がわからない。これは九州の面積を超えている。本書のはしがきに、所有者不明化を中心とした土地問題を正面から扱った初めての書籍との記述がある。人口減少社会の到来とともに、土地を持つメリットのない地域が拡大、バブル期は土地の値上がりが問題となっていたが、世の中まさに様変わり。所有者が不明の土地が増加して、公共事業・農地の集約・森林保全等に支障をきたしている実例が、自治体へのアンケート調査の結果を交えて紹介されている。土地所有者の所在や行方がわからなくなる大きな要因に、相続未登記の問題がある。相続を行う場合、不動産登記の名義を書き換える手続きを行うことになるが、相続登記は義務ではなく任意である。相続登記が行われないと、不動産登記簿の名義は、死亡者のまま、実際には相続人の誰かがその土地を利用、時間の経過とともに世代交代が進み、法定相続人はネズミ算式に増え、登記簿情報と実質がかけ離れていく。国が土地を管理する基本情報は、「地図情報」と「権利情報」である。地図情報を整備する最も重要な地籍調査は、調査対象面積の半分しか進んでいない。権利情報の情報源は不動産登記簿であるが、上記のとおり登記は任意であるため、情報源としての役割を果たしていない。韓国・台湾・仏・独では地籍調査100%完了、韓国・台湾・独では登記をしないと権利の変動が成立しない。諸外国でできていることが、なぜ日本ではできないのか、本書の最後に様々な要因が挙げられている、法律に疎い一般読者には若干理解しずらい内容である。本書の肝の部分でもあり、もう少し紙面を割いて、かみ砕いた解説が望まれるが、最近はやりの人口減少問題を異なった切り口からとらえた著作であり、一読をおすすめする。
紙の本
驚きばかり
2017/07/31 22:08
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投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
所有者不明の土地が、この国にこんなにもたくさんあるのかと、驚きばかりです。現在の経済不振の状況も、見えてきます。
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全国に点在する所有地不明の土地。それが相続による移転登記をしていないことによるものであることは現代の日本社会から予想がつくが、あまりにも拡大し、建築、震災などの災害復旧などに際して権利関係の確認、地権者の了解取り付けがあまりにも大きな負担になっている。それは地方都市で顕著だが、六本木ヒルズの建築に際しても境界調査に4年も要するという大作業だった!同じように不動産登記が対抗要件であるフランスでは、地権者不明の土地はほとんど無いという!公証人制度の充実が大きいとのこと。そして「無主の財産は市町村に帰属する」との仏民法。日本の土地政策の無策を痛感する。解決を急ぐべき課題でありながら、これが社会問題として騒がれることは今後とも無いであろうことが、ますます問題を難しくしているようだ。前橋市総社町の神社の一角の碑が象徴的。「明治19年に54戸の連名登記から119年を経て権利者は380余名になり、沖縄から北海道まで拡散。87.4㎡の提供に際して全員の実印・印鑑証明書・登記申請書を17年の歳月と600万円の経費を要した。総会の結果、… 寄贈していただいた。」とは2004年に記念として建てた碑文。田舎の山林などは当人が相続していることも知らない土地があるのだろう!これからは地方での人口減少が加速化していくことが想像されるだけに急務だと思う。
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相続等で現在の土地所有者が不明な状態が全国的な課題となっている中、本書はそうした状態の生じている背景・理由と解決策を解説した書。現在の土地制度の勉強になるのがまずもってよかったのと、現在の職場で林地台帳の整備の仕事なども関係してくるので、土地所有者不明問題が本当に深刻なんだなということが概観だけでも理解できた。今後、さらに土地の法制度について勉強を深めたい意欲が湧きました。
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土地の所有者不明化問題を中心に据えた課題研究を上梓したもので、政策提案がすぐに行政の変革に繋がらないもどかしさを感じる。現在の土地登記制度が税制と切り離され、相続登記が義務化されていない現状を変えるには、相当な荒療治が必要かと思う。業務用の参考図書を読んできたことで、本書の内容の理解が進んだ。
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少子高齢化が進む現代における土地の「所有者不明化」の増加問題について様々な視点から論じている。
特に現行の不動産登記制度についての問題点(相続登記が申請義務無し等)は大きな課題と思う。先延ばしにせず、早急に国として改善検討すべきだと思う。
正直、国家として土地についての統一的なデータベースが無いというのが信じられない。我々市民の認識が薄いことも一因なので、本書は非常に有用な気づきを与えてくれると思う。
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空き家問題に興味を持っていたので手に取った。主に不動産登記にかかわる「所有者不明」問題について、制度的、構造的、歴史的な視野を踏まえた問題提起、また全国888自治体への調査で事態の切迫さを織り込みながら、漸進的で現実的な解を模索する。200頁弱とは思えない内容の充実さにおどろき、そしてその問題の重さに身をつまされた。必読。
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「土地に対しては利益となる場合よりも負担(毎年の税金)になる場合が多いので、相続人も引き受けたがらない」(1万人未満)、「相続人が地元に残っていない。山林・田畑について、所有する土地がどこにあるかわからない人が多い」(1万人未満)、「過疎地で固定資産の価値も低い上、所有者の子が地元に帰ることがますます少なくなり、固定資産に対する愛着がなくなってゆく」(5万〜10万人)など、土地に対する相続人の関心の低下を指摘する記述があった。(p.72)
地籍調査も相続登記も、自治体や個人の判断にもとづいて行われるものであり、国が強制するものではない。しかし、土地の境界の確定や相続登記がなかなか進まないという、日々の小さなことが積み重なって、いざというときの地域の円滑な土地利用の支障となっていく。土地の「所有者不明化」問題の根底には、こうした制度上の構造的な課題があるのだ。(p.120)
「空き家バンク」
新たな仕組みを検討するうえで重要なのが、先述のとおり、「利用を前提としない保全のあり方」を考えることである。
今後の急速な人口減少を考えると、住民や行政の目の行き届かない低・未利用の土地が増えていくことは避けられない。土地の需要が減少すれば、移住促進や空き地の愛利用など、利用促進だけでは解決できない課題が増えてくるであろう。(p.155)
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少し前に自宅用の土地を購入したが、その時にいろいろ疑問に思った土地のことについて知りたいと思い手に取った。
本書の重要な指摘は2点。
一つは、利用されない土地をどう管理していくかが問題になるという指摘。もう一つは、土地管理の大前提となる土地情報の集積の問題の指摘。
最初の点。土地はこれまで希少なリソースをどう分配するか(現有者を保護しつつ利用を促進するか)という問題だった。これからは、それに加えて誰も欲しがらない、利用されない負のリソースをどう分担していくかの問題になる、というもの。
この点は実は今後の取り組み課題として提示されるだけで詳しくは書かれていないけれど、大きな転換点で行先困難なことは間違いない。
二つ目の点。こちらが本書の主題で、帯にもあるように、すでに国土のうち九州に匹敵する面積が所有者不明になってしまっており、今後も改善の見込みがないなど、今後の政策を進める上で大きなボトルネックになるという。
土地を売買した経験がある人は「そんなことない、ものすごく煩雑な書類を書いた」と思うはず。私もそう。
本書の指摘は、1)登記が義務ではないため放置されること、2)土地台帳が目的別に分散していて土地そのものを管理するデータベースがないこと、が根本にあるという。
2)はたしかに致命的。今のところ固定資産税用が一番網羅的なのに、それが1)の問題によりどんどん陳腐化しているという。
それで誰がどう、困るのか?売買する本人だけならまだ民間の問題、個人の問題だったが、東日本大震災のあとの再開発や移転先の決定や建築が「所有者不明」のために遅延するなど公共の問題になってきているという。また、所有者不明=管理者不在=荒廃にもつながる。先日の新聞にも、裏山が土砂崩れを起こして自宅の一部が損壊したが所有者不明のため賠償請求もできないし修復工事もされないし大変困っているという記事を見かけた。
政治家の仕事はこれまでは富の再分配だったが、これからは負の再分配も範囲、という政治家がいて素晴らしいと思ったことがあるが、この所有者不明、管理者不在という土地もその一つになるんだろう。
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■問題1
・行政が現在の土地の権利者が誰なのか把握できておらず、徴収できたはずの固定資産税収入が失われている
・土地開発の際に現在の権利者が分からず、その調査が難航するため土地の整理や開発が進まない
■事例
・六本木ヒルズの開発時、対象となる六本木6丁目は権利未確定の区画も多く残っており、境界調査だけで4年を要した。
■原因
・相続手続きをするメリットが殆ど無い一方で、手続きが非常に煩雑である
・権利者が死亡した際、死亡者が所有する土地の所在地の自治体に通知されず、また個人情報保護の厳格化のため戸籍上の自治体への問い合わせも煩雑化している。また何世代も前から登記がそのままだった場合、相続資格者全員の確認が必要になるが、明治の代まで祖先を遡って現在生存している権利者全員とコンタクトを取る必要があるなど、法制度が現実的でない。
・権利者が海外在住であったり、投機目的で外国人から別の外国人へ売買されていたりと、権利者が多様化しており現在の権利者を調べようにも追い切れない。外国人も権利者になりうるのでマイナンバー制度で一元管理するわけにもいかない。
・特に地方では自治体側に調査する余裕が無く、調査結果として得られるであろう固定資産税の増収はそれほど多くはない。
■問題2
・権利者が不要な土地を手放したくても引き取り手がいないため、固定資産税を払い続けなければならない
■原因
・利用価値の低い土地は売れない上に、自治体も不要な土地は払い下げる傾向にあるため寄付を受け取らない
■解決事例
・ランドバンク:各地域で権利者が不明な土地や権利者が不要に感じている土地を積極的に取得し、地域内で有効利用できるように支援する機構
■その他
・土地の権利者を確定させるために明治期まで祖先を遡って、相続権がある子孫全員とコンタクトを取る必要があるとなったら、その土地を取得することにどれだけメリットがあっても諦めるよなあ。
・地方だけでなく東京など都市部にも多く見られる問題らしい。
・日本は諸外国に比べ土地の私的所有権を強く認めており、土地の公共的性格に基づく所有権の制限をしづらい雰囲気があるらしい。
・手続きが面倒臭い問題、相続とかで調査コストが肥大化してしまっているについては法制度の改正で解決するしかないし、土地に対する私権をもう少し制限する方向で運用しても良いんじゃないかなあ。
おしまい。
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私有地の約20%で、すでに所有者がわからない。地価下落による相続放棄や空き家問題の本質であり、行政も解決断念する実態を描く
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所有者不明の土地がなぜうまれ、何が問題なのか詳説している
そもそも日本の法律では土地に対する財産権などの観点から所有者の権利が強く
所有者が同意しないと公共の目的であっても利用は難しい。
その一方で登記の手続きは煩雑であり、また特に地方では土地の価格はタダ同然のところもあり
登記が義務ではないこともあり相続に伴う登記が行われないこともままある。
登記が行われない場合には土地は相続人により共有され
2代、3代と登記されないまま土地が相続されると所有者の数は鼠算式に増える場合もある。
上述のような問題の解決としては
登記の手続きの簡素化、手続きコストの引き下げ
土地所有者に関するデータベースやネットワークの整備
所有者不明や所有者不在の場合に地方自治体や国が公共の目的のために
効率的に土地を利用できるための権利関係などに関する法整備などが必要である。
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東京財団の研究員による所有者不明土地等、現在の土地の管理に関する問題について述べた本。国による不動産登記制度に問題があるため所有者の管理が不完全となっており、納税、災害対策、再開発等の行政や事業に不具合が生じている。しかしながら、個人の利益や権利とも大きく関係するため誰も改革しようとしないことが、最大の問題点であることがよくわかった。
「固定資産税は、市町村税収の約4割を占めている」p52
「(アンケート結果)土地の納税義務者数に占める死亡者課税の人数比率は、6.5%。約200万人と推定される。免税点未満も含めると7.4%、280万人」p63
「公共事業目的以外で土地の寄付を受け付ける自治体はないことがわかった」p83
「(受け取らない土地事例)「公的利用が見込めない」「個人の都合によるため」「権利関係に問題あり」「維持管理が負担になる」「原則として受け取らない」」p85
「(地籍調査のまとめ)国土管理の基本情報で「地籍図」と呼ぶ。不動産登記法第14条1項に基づくため「14条地図」とも呼ばれる」p95
「(地籍調査進捗率(2016年))全国52%、京都8%、三重9%、東京23%、大阪10%。沖縄、佐賀は99%」p96
「(2010年4月1日現在)全国法務局に備え付けられている図面は約681万枚。うち284万枚は「地図に準ずる図面(多くは戦前の土地台帳の付属図で、明治時代に作成された和紙に毛筆で書かれたものもある)」」p98
「(筆界未定)合意が取り付けられていない土地の界で、地番が「+(プラス)」記号で表示され「筆界未定地」と記載される。筆界未定地は分筆できないため、不動産物件としての価値が下がる」p102
「売り手と買い手が合意すれば、測量をせずに公図の面積でも売買は成立する。売買契約書には「公簿面積とする」と記載」p105
「土地売買は、農地以外は売買規則はない。農地については、農地法に定めがあり、所有権の移転に当たっては事前に農業委員会の承認が必要」p121
「市街化区域と市街化調整区域は、それぞれ国土面積の4%と10%にすぎない」p123
「利用の見込みがなく、買い手もつかない土地は、手放そうにも「行き場がない」のだ」p155
「(土地の所有者等の情報)不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳、さらに国土利用計画法にもとづく売買届出などによって把握されている。しかし、台帳間の情報連携はない」p166
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土地の所有権の登記が怠られている結果、所有者不明の土地が多数存在する。
その根源には、地籍調査が一向に進んでいないことがある。特に都市部の地籍未調査面積は40%近い。
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空き家問題から派生して、この本。
空き家対策の解決が難しい理由の一つとして、日本における登記制度の不完全さがあるのです。
それは、日本における不動産所有権の登記は効力要件ではなく対抗要件にすぎないことから、相続時における名義変更が義務ではないこと。
そんなことから、50年以上名義が変更されておらず、登記簿上の所有者がこの世にいないということは珍しくありません。
また、自分がそういった土地を相続されていること自体を知らなかったり、自治体の固定資産税事務の担当者も、不在地主の相続人を探すことに費用と時間がかかってしまいます。
そしてこの問題は、解決の糸口がないままどんどん拡大していってしまうのです・・・
この本で言いたいことは「第4章 解決の糸口はあるのか」でまとめられているので、そこを読むだけで本書の意図は伝わります。
自治体アンケートの結果は、その基本知識に厚みを持たせるためのもの、という位置づけでしょうか。
ワクワクするような話題ではありませんが、こんな問題が日本に残ったままでは、地方創生の足かせになることは自明であると感じました。