現代的現象である全体主義
2017/10/10 08:06
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ニッキー - この投稿者のレビュー一覧を見る
全体主義は現代的現象である。アーレントはそう警告する。つまり、ナチスだけでなく、現在も身の回りに全体主義の危険があると言うことだ。
資本主義の発達は、帝国主義となり、それを基盤に西洋では新たな反ユダヤ主義が台頭した。それを影響としてナチスなどの全体主義が沸騰していく。しかし、全体主義と呼ばれるものはファシズムだけではない。スターリニズムもそうである。現在、思想、信条的に窮屈な時代になりつつあるのだろう。アメリカでは、アーレントの全体主義の起原が、最近良く読まれていると言うことだ。彼女は、ナチスにドイツを追われたユダヤ人であるが、それは出自に過ぎない。彼女は、人間という立場で、ユダヤ人問題や全体主義を俯瞰する。
投稿元:
レビューを見る
ローベルト・ライの言葉からの引用。「イデオロギーは「教えられるものではなく」「学ばれるものでもなく」、ただ「訓練され」「練習される」ものである。…納得。頭を使わせないように、思考停止状態を作ることか。日本の戦前、戦中、戦後のことを知っていたら、アーレントはどのように表現するだろうか。
投稿元:
レビューを見る
全体主義の起原〈3〉全体主義 (1974年)
(和書)2011年11月12日 15:40
ハナ・アーレント みすず書房 1974
かなり僕にとって貴重な作品だった。読めて良かった。
図書館で借りたのですが、新装版を自分で購入したい。
エピローグ P306
「・・・テロルは運動法則の実現である。その第一の目的は、自然もしくは歴史の力がいかなる自発的人間の行為にも妨げられずに自由に人類に浸透できるようにすることである。だからテロルは、自然もしくは歴史の力を解放するために人間を〈静止〉させようと努める。この運動の結果特定の人類の敵が選び出され、彼らにむかってテロルの暴威が揮われる。そして人間の自由な反対もしくは共感が、〈歴史〉もしくは〈自然〉の、階級もしくは人種の〈客観的な敵〉の排除を妨げることは許されない。・・・」
僕は僕と言う人間を〈静止〉させようとする、または特定の人類の敵として選び出され、激しいテロルの暴威を揮われた過去を持つ。
この本を読んでいて大変為になり、どういうことなのか理解に役立つものだった。大変素晴らしい作品で、こういった本を読める機会があったことを幸せに思います。
投稿元:
レビューを見る
序文でヤスパースが全体主義から読んだ方がいいと書いているので、言われた通りに読んだ。
ヒットラーの全体主義よりもソビエトの全体主義を述べているところが多い。具体的な場面はほとんどない。全体主義についての論文を書くのであれば、引用の有無にかかわらず、読んでおくことが必要であろう。
投稿元:
レビューを見る
国家は権威・忠誠を与える根源的な場(共同体)であり、個人はその外部においては無意味である。ジョヴァンニ・ジェンティーレGentile(1875-1944)
全体主義。階級社会が崩壊して、根無し草の大衆が生まれた。量が多く、政治的に無関心・中立、階級意識を持たない、組織化されておらずバラバラ。公的な領域で他者と連帯して活動をしないで、孤立している。全体主義はこれら大衆を上手く動員した。全体主義は自由な行為の空間を限りなく減らして孤立している大衆をさらに孤立させ、それっぽい観念・イデオロギーを強制させる。大衆は自分で考える力を無くしてしまう。全体主義体制は大衆によって支えられている。▼全体主義の特徴。独裁的な指導者に率いられた単一政党支配、人々に公定イデオロギーを強制、思想・文化・経済を強制的に画一化、市民の自由を極度に制限、意見・利害の多様性(議会政治)を否定。例)ナチスドイツ・ソ連スターリン時代。ハンナ・アレントArendt『全体主義の諸起源』1951
全体主義の背景には伝統・権威の崩壊がある。教育は伝統・権威なしにはありえない。ハンナ・アレントArendt『過去と未来の間』1963
全体主義の特徴。単一イデオロギーによる支配。単一の独裁政党による支配。秘密警察と恐怖政治。権力によるマスコミ独占。武器の独占。経済を中央が統制。カール・フリードリヒFriedrich&ズビグネフ・ブレジンスキーBrzezinski『全体主義的独裁と専制』1956
全体主義の特徴。国家公認のイデオロギー。経済活動は国家に服従。経済活動は国家の活動であり、経済活動の誤りはイデオロギーによって判断される。単一の独裁政党による支配。マスコミ(強制と説得の手段)独占。レイモン・アロンAron『デモクラシーと全体主義』1968
民主主義体制でも全体主義体制でもない。権威主義体制。多数の個人や団体が自由に活動できない(民主主義体制ではない)。かといって自発的な団体が禁止・抑圧されているわけではない(全体主義体制ではない)。国家によって認可された個人・団体に限り、限られた範囲で政治参加が認められる(権威主義体制)。▼思想の自由はない(民主主義体制ではない)。かといって単一イデオロギーの宣伝・教化が行われるわけではない(全体主義体制ではない)。伝統で結び付く感情的な思考や心情によって体制が維持されている。▼自発的な政治参加は求められない(民主主義体制ではない)。かといって体制への広範で徹底した政治動員が行われるわけではない(全体主義体制ではない)。限られた政治動員と民衆の脱政治化(無関心)に依存した体制(権威主義体制)。例) スペイン、フランコ政権(1939-1975)。開発独裁(韓国の朴正熙、フィリピンのマルコス、インドネシアのスハルト)。フアン・リンスLinz『全体主義体制と権威主義体制』1975
投稿元:
レビューを見る
ヤスパースの助言通り第三部から読んだ、全体主義の特徴として挙げられる首尾一貫した偽りの現実とかテロルの意義とかもすごく面白いのだけれど、そもそもそういったものに溺れてしまう大衆の弱さとか収容所に入れられたひとびとが存在しなかったことになってしまう残酷さとか、人間の孤独や存在の脆さが浮かびあがってくるあたりで泣きそうになってしまう、アーレントの冷徹さの奥には限りない愛の眼差しがあると思う、あと大事なことは何度も言ってくれるのでわかりやすい。