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紙の本
愛情物語
2017/12/25 03:11
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:コアラ - この投稿者のレビュー一覧を見る
浅田次郎はオヤジを泣かせるのが上手である。自分がオヤジだからかツボを心得ている。まさかとは思ったが,今回も軽く落涙してしまった。しかし今回は主人公は蘇生する(のだろう。そうは書いてないけど)。鉄道員よりも進歩している。主人公を蘇生させながら読者を落涙させるのは難しい。それだけ巧者になったということか。しかしこのひとの小説には複雑な親子関係というのが多い。本人の家庭も複雑だったらしいので,その影響なのだろう。いずれにしても平成29年のクリスマスイブの晩のいい思い出になりました。子供たちを大切にしたいという気持ちが蘇りました。ありがとうございました。
紙の本
地下鉄という舞台が語らせた物語
2017/12/25 09:58
4人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『鉄道員』では元炭鉱路線の駅が、本作『おもかげ』では、地下鉄が舞台となる。地下鉄という舞台が語らせる物語。浅田次郎さんは、鉄道に対する愛があるのだろう、とつくづく思う。送別会の帰りの地下鉄の中で倒れた主人公が体験する、様々な体験、たどられる過去。『君たちはどう生きるか』が流行っているが、本作にもそうしたテーマが流れているように感じた。生きていてもいいんだ、そう思わせてくれる読後感が心地よい。
紙の本
私たちが生きてきた時代
2020/12/03 16:03
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
65歳の定年退職の送別会の夜、竹脇正一は地下鉄新中野のホームで倒れ病院に運び込まれる。
集中治療室で治療を受ける主人公。そのもとを訪れる友人、妻、娘の夫、幼馴染。現実のそんな人々よりも主人公の意識に入り込んでくる謎の女たち。
彼らを通して、主人公の生い立ちが明らかになっていく。
竹脇正一は両親を知らない。
生まれて間もなく捨てられ、名前も無理やりつけられた。もうすぐクリスマスイブという夜だった。
養護施設で育ちながらも大学まで進み、大手商社に入社。右肩上がりの経済の中、彼もまた商社マンとして活躍していく。
妻もまた事情を抱えていて、両親は離婚。夫の正一と大差ない環境で育った。
そんな夫婦にも危機があった。最初の男の子を小さい時に亡くしている。
それでも正一は65歳まで実直に勤め上げたというのに。その夜に斃れてしまうなんて。
戻らない意識、しかし正一の中では喪ったものを探し出すことに一所懸命だ。
読者はそんな主人公の切ない旅をともに往くことになる。
そして、たどり着いたのも地下鉄の中。
正一だけでなく読者もまた驚くべき光景を目にする。
誰かの声、「人生はまだこれからなのよ、だから泣いちゃだめ」。
毎日新聞に2016年12月から翌17年7月まで連載された長編小説に、涙した読者も多かったのではないだろうか。