紙の本
概念でなく、事実の集積を。
2022/02/07 21:12
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投稿者:雨宮司 - この投稿者のレビュー一覧を見る
まあ、題名で全てを言い尽くした感があるが、とかく概念でガチガチになりがちな日本の史学を、このままではいけないと、穏やかな口調ではあるものの、かなり厳しく批判している。いつの時代の研究からその傾向が顕著であるかも明らかにしていて、その努力や知識の集積には頭が下がる思いだ。左翼っぽい道も歩まれたそうだが、概念ではなく事実の集積から語られる内容は、非常にラディカルだ。どうして当然のことが受け入れられない現状があるかという疑問は一貫していて、その意味では非常に好感が持てる内容の対談だ。
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どうしていまこの本が文庫として登場したのか。もともとは20年以上前の雑誌の対談。それを10年たって単行本にし、また10年して文庫になった。そしてまた、こうしてこの古い対談を物好きにも読む人間がいる。鶴見先生は、私が何度か現代風俗研究会に顔を出したときに、近くでお目にかかったことがある。穏やかな語り口であったことしか思い出せない。けれど、思想的にはけっこう過激だったのかもしれない。網野先生にしてもどうやら若いころは左翼系の運動をされていた様子。まあ、そういう時代だったということだろうか。さて、前半の対談、どうも二人の会話がちぐはぐな感じで、上手くついていけなかった。これは編集の仕業かもしれないが。それに、だいたい昔話でたくさんの人物が登場するのだが、私の知った名前が少なく、感情移入がしにくかった。ということで残っているのは、歴史をもっと生活に密着したものにしていこうとする動きがあるということ。ふすまの下張りを読みとくことで、まったく見えていなかった事実が浮かび上がってくる。おもしろいことである。こうした歴史の研究スタイルは今も受け継がれているようで何よりである。
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網野と鶴見という今は亡き二人の1993年の対談である。鶴見に引き出されて、網野の天皇制への主張の核がはっきりと示されている。内なる天皇制などとは言わず、生活の各層に潜む天皇制の在りようをつかまねばならないとする意志が明確である。平成が終わる今、以下の発言を記しておきたい。
「王は自分に独自の力があるから王なのではなくて、まわりが王と思うから王になれるのだ、といわれますけど、全くそうだと思うんです」「権力は社会の合意があって初めて維持し得るので、その合意が崩れるような事態が起こり、それを多数の人民が意志として表現したらあっという間に消し飛ぶと思うんです。人間は断じて力だけで押さえつけられる手いるものではないという見方を、もっと徹底してわれわれ自身のものにしていかないと、古代から近代に至る日本史のとらえ方は、ホンモノにならないのではないかと私は考えています」
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知の巨人が対談というと大袈裟かもしれない。
対談なだけに話が飛ぶ飛ぶ。同じ時代を語っても
様々な思想家、歴史家の観点が織り交ぜられて
万華鏡のようにコロコロと色彩が変わっていく。
だが、それがこの対談の最も大きなテーマだろう。
冒頭で鶴見氏は「ものは自分の視点でみるしかない。
だが別の何かを気配で感じれる。それが感じれるか
どうか」という投げかけが、まさにそれだ
基本的に内容は現在を形作った近代史が軸である。
明治、戦争、高度成長。さらに視野を広げて江戸時代、
また庶民の生活などスコープが様々に変わる
だが、この二人が軸にしているのは間違いなく
現代で、そこからの未来を見つめている。
明治に様々な単語が作られたことは知っていたが
それらの言葉に重層がない、意味が薄いという点で
文化性が欠けているということまで思いつかなかった。
シンプルであることは、当然覚えやすいが、物事は
単純ではなく、定義できない何か(気配)がある。
それを読み解くことが日本人はできなくなって
しまっている。それは明治が作られたシステムに
現在も乗ったままだから・・・等、興味深いテーマ
が点在している。
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軍国主義の日本が太平洋戦争へ突き進む時代に生まれ育った2人の対談。網野氏は『日本の歴史をよみなおす』を読んで、その歴史観に感じ入った人。マルクスに関することや、天皇制に関する対談を読むと、左寄りの人なのかと思ったが、最後まで読めば、素直に日本の歴史、それも通史を考えている人であることが理解できる。ただ、自分には対談を読み理解するのが苦手なんだと痛感した。
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-国史なんていっていると、いかに精密にやったって、国家と国旗が日常生活と連動しちゃうんです。そこが困るんですね。日常生活には国家の支配しきれない領域がある(鶴見)。
国家の支配しきれない領域の存在を、海民や職能民の歴史を通じて解き明かそうとした網野善彦。本書は、哲学者・鶴見俊輔との対談。
網野史学(と呼ばれるのを本書では拒否しているが)の仕事を、思想家の立場から解析すると何が見えてくるのか、というところが読みどころ。
少々、年寄りの繰り言のようなページも目立つのだが、現代は「戦前、戦中にはなかった特別の鎖国状態にある」という指摘は頷ける。
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網野善彦さん、
その歴史観に圧倒的な刺激をもらいました。
鶴見俊輔さん、
その思想に大いに触発されました。
そのお二人の対談集
面白くないわけがない
この本が世に出るまでのお世話をされた
中川六平氏に力いっぱいの拍手と感謝を贈ります