電子書籍
若い人たちは知らない天安門事件
2018/11/30 10:38
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:qima - この投稿者のレビュー一覧を見る
こういう本が必要だったと思うし、今までこういう本が出なかったことがものすごく残念。作者さまには、ぜひ今後もがんばって欲しいです。
紙の本
天安門事件を今の中国から考える貴重な資料
2020/01/14 18:21
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年、発生から30年ということで、ニュースに取り上げられることも増えた天安門事件。日本では「中国共産党が民主化運動を武力で鎮圧した事件、すなわち悪」とした取り上げ方が大半です。この事件で天安門広場を占拠した当事者に、30年を経過した今の視点から当時の運動を再評価してもらうインタビューをまとめたのが本書です。
天安門事件の当事者は北京周辺の大学に通う当時の大学生が主体でした。30年前の中国で、北京に住んで大学に通うというのは相当なエリート予備軍です。彼らにすると、自らの既得権益を守ってくれる政治体制に対する反抗という位置づけになります。差別された貧困層が蜂起したわけではないのですね。
そういう背景もあって、様々な見解が引き出されています。当時のエリート層は事件後に器用に生きる術も持ち合わせている人が多いので、現在も経済的に成功した地位にある人が多く「あのまま共産党体制が倒れていたら、今の繁栄はない」と肯定的にとらえている人が多いのには驚きました。ソ連や東欧諸国の体制が崩壊して相当に国内が混乱し、国際的な地位や影響力が低下したことを引き合いに「ああならなくて良かった」と考える人が多いのです。
一方で、当時の考えをそのまま抱き続けて社会運動を継続している人(当然、現在の習近平体制では相当に厳しい監視がつけられている)、知識層の大学生の運動を「知識人の知識人による知識人のための運動」と冷めた視線で見つめていた庶民の存在も描かれています。
中国共産党は天安門事件の存在自体を否定するような教育を進めている状況で、天安門事件を意味する「八九六四」という数字を想起させる「六四」元や「八九六四」元のスマホ決済ができないというほどにネット上の規制をかけています。語る事さえタブーとされる今、「この取材は今では無理。天安門事件の最後の記録となるだろう」との本書の帯の文言は、決して誇張でないと思います。
天安門事件の当事者は30年前の大学生。すなわち私と同年代です。当時のニュース報道を思い出しながら、興味深く読みました。第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞のしっかりした内容のノンフィクションです。
電子書籍
歴史書
2020/02/14 11:03
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投稿者:Masaru_F - この投稿者のレビュー一覧を見る
さまざまな視点を持つ人の意見を一覧できるのは役に立つ。
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天安門関係者に話を聞いて回った著書。ステレオタイプではない生の声が満ち満ちている。転向し出世した者、一貫して反政府の態度を貫き続ける者、後年にネットで「覚醒」し活動をはじめたことで人生を狂わされた者、日本人の目撃者、元リーダーとしての十字架を背負い続ける者と十人十色。
これだけたくさん話を聞くと散漫な印象に留まりがちだが、著者の豊富な知識に基づいた思考が、地の文としてところどころ記されているため、大変に読みやすい。
ワンテーマで何かを記そうとするとき、書き手はイタコとしてふるまうだけではなく、話し手の思考をしっかり理解し、分析しながら、書き進めること。それがなにより大事なのだということを知った。同業者として、今後の作品作りに大いに参考にしたい。
本の帯には「この取材は今後もう出来ない」と記されているが、聞き手の安全は担保されているのかが気になった。著者は最早、中国に入国することは無理かも知れない。
ネット検閲が強まる2015年(2014年と記していたかも)より前に取材を終えて、ギリギリ書き切ることが出来たと記しているが、確かに中国のネット検閲はエグい。それは私も取材を通して感じている。
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1989年に天安門広場に集まった大学生たちは、国のエリート候補である自覚を持ち、親である共産党政府に甘える子供のような気分だった、というのはわかる気がする。
それを打ち砕き、近代史に残る事件としたのは、共産党内部の権力争いの結果だった。
集会に参加したエリート候補たちは、その後、中国政府の幹部となった者、民主化運動を貫きアウトロー?化したものとさまざまだが、「言論の自由はないが豊かになった中国社会」に対する想いには複雑なものがある。
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天安門事件をめぐる同時代人の回顧録。多くの人の振り返りが紹介されていて、当時の運動への感情、現在の中国への目線が赤裸々に綴られている。
相反する二つの考えがあるとすると、かつて追い求めた理想と今の現実、前者は運動を弾圧する政府に怒りを燃やし、運動へ邁進したが、後者-経済発展が進んだ中国-を目の前にし、それを受け入れる、そういう感情を持つ人が多く、まあそうだよなと納得。
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数々のインタビューに基づいて,六四天安門事件を描き出した好著。
左右双方から距離を置いた紋切り型でない取り上げ方がとても良かった。さまざまな思想背景,さまざまな人生遍歴が見えてくる群像劇。事件に少しでも興味のある人は必読だと思う。
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悲しい副題:「天安門事件」は再び起きるか
売るためには仕方がないか。
『論語』子罕:子貢曰:有美玉於斯,韞櫝而藏諸,求善賈而沽諸。子曰:沽之哉!沽之哉!我待賈者也。
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1989年6月4日に発生した中国の天安門事件。中国の正史上、なかったことにされており、口にすることはおろか、6月4日が近づくとWeChatPay等の送金アプリで8964元・64元という金額を送金することすら禁じられるこの事件について、政府に立ち向かった学生運動家や市井の住民、逆に政府側として鎮圧に関与した警察学生など当時を知る人々や、天安門事件以降の世代として香港の反政府デモである「雨傘運動」に関与した一連の運動家など、60名を超える人々へのインタビューをまとめた大型ルポルタージュ。
まず一読して、歴史的事実として認識している天安門事件(私自身は幼少の時代であり、ほぼこの事件に関する記憶はない)について、実際の現場で何が起きていたのかということを自分が何も知らなかったということを痛感させられた。本書では、事件当日、軍部が発砲を無闇に繰り返すことで流れ弾で死ぬ市民の存在など、メディアでは公にされない激しい流血の様子が複数人のインタビューから克明に浮かび上がってくる。
習近平就任後の中央集権化と抑圧的な諸政策は、近年の経済成長を背景として、現在のところは何とか国民の不満を抑えることに成功しているように見える。一方でこうして天安門事件を今振り返ると、経済成長が失速したときに何が起きるのか、薄ら寒くなるのも事実である。
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【紅き乱宴の後に】1989年に起こった天安門事件によって何らかの影響を受けた人々のその後の人生を取材した作品。当時のリーダーは,民主活動家は,そして血気盛んな学生をかばった教授たちは,今いかなる思いを抱えて生活しているのか......。著者は,中国に特化したルポライターとして活躍を続ける安田峰俊。
個人のレベルにまで降りていき,天安門事件の内幕を語らしめた記録としても評価できる一方,大志破れた若者たちがその後どのような道のりを辿り得るのかを,痛切な実例と共に教えてくれる一冊でもありました。中国現代史に興味を持たない方にもオススメしたい作品です。
〜大志を抱いた孫悟空の人生は,実は筋斗雲を降りてからのほうが長かったのだ。〜
当時の実質的なリーダーであった王丹の独白を引き出したのはすごい☆5つ
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いや、素直に面白かった。僕より一回り近く若いこのノンフィクション作家の作品は、初期の「和僑」というのしか読んだことなかったのだが、それが今一つというかどうも口に合わず、その後読んでなかった。この作品はひょんなことから手に取ったのだが、取り上げた題材と切り口がうまく当たったのか評価一変。天安門事件を知ってる世代の人も知らない世代の人も、一読の価値ある。
僕は天安門の時高一で、当事者以上に何も判っていなかったけど真剣にみていた。25年後の雨傘革命はまさしく現場でみた。それでも何か引っかかる思いがあった天安門と今の中国、香港への理解について、この本は良い助けになる。個人の感想は挟みつつも、基本的には当事者のインタビューで構成されているのが良かったか?
この本でも明確にされているように、天安門は過去のことになりつつある。けれど、今の香港と中国のフラストレーションを理解するには知っとかないとダメなんだな。色々整理されました。僕に取っては自分の人生に関わってくる部分でも有るので良いタイミングだったかも。半ば食わず嫌いだったけど他のも読んでみようか。
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天安門事件に対し、中国人の見方はさまざま。「民主化すべきだった」という意見に、「あのとき民主化すれば現在の繁栄はなかった」という意見。デモの参加者もどこか牧歌的だったところはあるし、子が親に反抗するような、そんな感じのデモだったという。多くの中国人が出てくるが、聞きっぱなしや書きっぱなしではない。しっかり著者の考察が入っており、ジャーナリズムの鑑だと思う。
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著者の別の本をたまたま読んだ流れで本書も読んでみた。なかなか読み応えがあるルポ。
彼の国ではタブーなこのタイトルの数字にピンとくる日本人は、よほど時事に詳しいか、極端に左か右の人でしょう。
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気がついたらノンフィクションで複数の賞を取ってしまい、なかなかレビューしづらくなってしまった。著者の得意とする「足で情報を稼ぐ」という古典的とも言える方法と、ネットを使った情報収集が組み合わさった結果として得られた傑作である。
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今年、発生から30年ということで、ニュースに取り上げられることも増えた天安門事件。日本では「中国共産党が民主化運動を武力で鎮圧した事件、すなわち悪」とした取り上げ方が大半です。この事件で天安門広場を占拠した当事者に、30年を経過した今の視点から当時の運動を再評価してもらうインタビューをまとめたのが本書です。
天安門事件の当事者は北京周辺の大学に通う当時の大学生が主体でした。30年前の中国で、北京に住んで大学に通うというのは相当なエリート予備軍です。彼らにすると、自らの既得権益を守ってくれる政治体制に対する反抗という位置づけになります。差別された貧困層が蜂起したわけではないのですね。
そういう背景もあって、様々な見解が引き出されています。当時のエリート層は事件後に器用に生きる術も持ち合わせている人が多いので、現在も経済的に成功した地位にある人が多く「あのまま共産党体制が倒れていたら、今の繁栄はない」と肯定的にとらえている人が多いのには驚きました。ソ連や東欧諸国の体制が崩壊して相当に国内が混乱し、国際的な地位や影響力が低下したことを引き合いに「ああならなくて良かった」と考える人が多いのです。
一方で、当時の考えをそのまま抱き続けて社会運動を継続している人(当然、現在の習近平体制では相当に厳しい監視がつけられている)、知識層の大学生の運動を「知識人の知識人による知識人のための運動」と冷めた視線で見つめていた庶民の存在も描かれています。
中国共産党は天安門事件の存在自体を否定するような教育を進めている状況で、天安門事件を意味する「八九六四」という数字を想起させる「六四」元や「八九六四」元のスマホ決済ができないというほどにネット上の規制をかけています。語る事さえタブーとされる今、「この取材は今では無理。天安門事件の最後の記録となるだろう」との本書の帯の文言は、決して誇張でないと思います。
天安門事件の当事者は30年前の大学生。すなわち私と同年代です。当時のニュース報道を思い出しながら、興味深く読みました。第50回大宅壮一ノンフィクション賞受賞のしっかりした内容のノンフィクションです。