紙の本
ちょっと読んでてしんどくなりました
2021/02/22 20:29
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投稿者:まなしお - この投稿者のレビュー一覧を見る
凄く重たい話です。ちょっと読んでてしんどくなりました。主要な登場人物がそれぞれ重いトラウマを抱えていて、それが徐々に明らかになっていきます。最後には、希望があるのですが。これって映画になるとどうなるのでしょう。
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タイトルの「ファーストラヴ」。
これが何を意味するのか。
由紀の大学時代のことか、と思った。
けれど、環奈とその母親の背景を知ったとき、一番最初に愛情をもたらしてくれる存在、もしくは、由紀の夫・我聞さんのような、一番の愛情をもたらしてくれる存在。
そういう意味合いが込められているのかなと。
この作品が、第159回直木賞を受賞した意味合い。
2018年という現代に、受賞した意味合い。
それに大きな価値があるのではないかと思って選評を見ると、ごり押しで受賞された、という感じではなかったようで、それはそれで、隣接している職業をしているわたしにとっては、ちょっと残念な気持ちにもなった。
朝井リョウさんが解説で述べているように「想像するしかないのだ」。
この作品の世界の中にあるのは、おそらく、がっつりとした共感、ではない。
曖昧でぼんやりとした、理解と合点。その理解と合点の程度は読者の想像力に拠るものなんだろう。
途中、わたしも物語のペースと想像のペースが合わなくなってしまった。こんな感覚に陥った直木賞作品は初めてだ。朝井氏は続ける。「簡単に理解できないものに出会ったときこそ、断絶を感じ距離を取るのではなく、想像するスイッチを授けられた幸運を噛み締めたい」。
曖昧なものに、境界線をつくり、そこに名前をつける作業。
対人援助職というのは、そういう仕事なのかもしれない。
臨床心理士という主人公の職業を目にした時、若干の不安を感じた。わたしは多くの素晴らしい臨床心理士を知っている。しかし、彼らが作品の中で描かれる時、とてもうさん臭く描かれてしまうことがある。今回、そんな不安がよぎりもしたけれど、作品全体として、その職業の専門性は伝わった気がした。
ネタバレ含みます。でも、この点に触れざるを得ないので、書きます。
全国にある児童相談所の相談種別の中で、性的虐待というのは、ダントツで認知・対応件数が低い。しかもそれは、性的虐待が児童相談所に発見され、対応された件数にすぎない。しかし、実際にはものごい数の性的虐待が、存在している。
スーザン・フォワードが、「毒親」という言葉を定義づけて約30年。
日本では、2008年頃から、信田さよ子さんや上野千鶴子さんによってその言葉は広められ、2015年頃からブームとなって、漫画や書籍などを目にする機会が増えた。(Wikipedia)
親の言動や行動に、どこか責められているような気持ちになったり、自分が悪いわけではないのに罪悪感を抱いてしまったり、親の機嫌にものすごく敏感になって大人の顔色ばかりを窺う。
違和感も、理不尽も、全部飲み込んで「悪いのは自分なんだ」と、そう思うことで、自分を納得させる。
そうした環境で育った人にとって、「毒親」という言葉の登場は救いになったのではないだろうか
近年、直接子どもが親に暴言を吐かれなくても、親同士が喧嘩をしている姿を目撃する、ということも心理的虐待として定義づけられるようになった。そういった状況もあって、近年の心理的虐待の認知件数は多く、身体的虐待、心理的虐待、ネグ��クト、性的虐待、全ての虐待種別の中で、心理的虐待が最も多く、数値としてもあらわれている。
子どもに「バカ」「死ね」というわかりやすい暴言を吐くのは虐待としては分かりやすい。
ではしかし、「あなたは決めるのが苦手だからお母さんが決めてあげるわね」という言い方はどうか。
この表現に、虐待性を感じるかどうか。
この表現は、子どもの主体性を奪っている。子どもが意見を言えないことを利用した支配。なぜ、意見を言えないのか。それは、意見を言ってもお母さんに理解してもらえないからだ。過去に、そういう出来事を体験しているからだ。その時学んだんだ。「この人にはわかってもらえない」と。だから、口をつぐむ。すると支配が続く。これが、子どもにとって、毒以外のなんだというのだ。心理的に支配しているという点では心理的虐待ではないのか。それなのに、上記の表現は、「子どもを思う親」としてとらえられがちで、虐待であると認識されにくい。
性的虐待は、親が子どもに性交を行う・胸や性器を触る、親同士の性行為を見せる、性器を見せる、とよくイメージされる。
しかし、以前テレビで見て気になっていた、わたしが思う性的虐待がある。
ある俳優さんの娘さんが、成人してからもずっと父であるその俳優さんとお風呂に入っている、という話をしていて、周りは驚きつつも笑い話のような雰囲気になっていた。このレビューを書くにあたって再度調べてみたら、父親の、娘の彼氏に対する拒絶感がとても強く、さらに彼女は父親が亡くなる直前に入籍をしていた。
わたしは、成人してからも娘とお風呂に入る、という出来事そのものを性的虐待だと思ったし、それを止めなかった母親も、子どもを守ることができない加害者だと思っている。そして娘の入籍が、父親が亡くなる直前だというのも、ざらりとした気持ちにさせられるのである。
あの時彼女は、どんな思いでテレビで暴露したのだろうか。SOSだったのではないか。笑って済ますことは、他に同じ状況下で苦しんでいる人たちの声も、閉ざしてしまうのではないだろうか。
こうした、人によって受け取り方が異なる曖昧な性的虐待は、ものすごい、ありふれた日常の中に埋まっている。しかもたくさん。
毒親、モラハラ、という比較的新しい言葉の登場。昔はそうじゃなかったことが、今はセクハラになる。
昔から、毒親もモラハラもセクハラも存在していた。しかし、日常の中にある、曖昧に呑みこんでいた出来事が取り出され、名付けられ、再定義されたのだ。
性的虐待にも、同様のことが言えるのではないか。
家庭内に存在する「なんか変だな」が、もっともっと名付けられるといい。そのためにはまずはそれらが取り出されなければならない。
「そんなことがセクハラなの?」「そんなことが性的虐待なの?」やった方としてはそうだったのかもしれない。時代背景もあったのかもしれない。でもそんなのは言い訳だ。いつの時代でも、嫌なものは嫌だ。それに名前があったか、なかったかの違いだ。起きていることは同じで、それが嫌なものは嫌。名付けようのない出来事や感情は、人を不安にさせる。自分が悪いような気がしてくる。
わたしがかつて、虐待対応の仕事をしていた頃。
寝室が父親と同室の、不登校の中学生女児がいた。
あくまでその時は、彼女が学校へ行けるようなフォローをしていたのだけれど。
未だに、どうしても消えない違和感が残っている。
そこには何もなかったかもしれない。でも、何かがあったのかもしれない。
部屋数の問題もあるかもしれない。だとしても。
「父親と同室で寝ている」
その事実だけで何かを断定できない。けれど、そこにある様々な人間関係をパズルのように組み合わせていくと、時折、性的虐待という事実が浮かび上がって来たり、欠けたピースに性的虐待を当てはめると、きれいなパズルが完成したりすることがある。
何かがある。そう感じた時の、うまく言葉にできない違和感。それを放置することの危険性。
その「何か」に、しっかり向き合った時、事実から芋ずる式に感情が吐露されることがある。それはとても曖昧で、不明瞭で、すぐには理解できないことがある。それはそうだ。たぶん本人もわかっていない可能性があるし、何よりもこれまで一度も表面化されていない感情なのだから。でもそれを、絶対に逃しちゃいけないんだ。その曖昧な輪郭の感情を、キャッチした大人はしっかりと向き合って、境界線を作らなくてはならない。その状況を無視したり、子どもの言うことを嘘だと断定する前に。しっかりと子どもの話を聴いてあげること。子どもの口を閉ざさないで。これ以上、子どもを苦しめないで。
わたしはきちんと彼女に向き合ったつもりだけれど、彼女を救えたのだろうか。
最後に。
わずかながら、児童相談所が対応する性的虐待の対応件数が増加している。
わたしも経験があるけれど、性的虐待の対応って、とにかく大変なんだ。
それが増加しているのは、児童相談所や自治体のソーシャルワーカーが、戦っている証だ。児童相談所は、よく敵とみなされがちである。でも、国の第一線で子どもの命を救っているのは、彼らなんだ。それを忘れちゃいけない。
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苦しいよ。苦しい。苦しいよ。とにかく、苦しかった。環菜も。由紀も。言葉にできない苦しさ、環菜が最後の最後で、自分の言葉で話せた。一筋希望が持てた。先日放送された、BSプレミアムのドラマも読了後に見ました。
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一気に読んだ!
そんなはずはない と思いながらどんどん先が気になり無心で読みました。
性犯罪のボーダーラインみたいなところも、すごく深く考えさせられました。
私自身、いままで受けて、自分の中でなかったことにしていた小さな性犯罪をしっかり性犯罪だと認識していいのだと思えて、心が軽くなるという思わぬお土産ももらえました。
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第159回直木賞受賞作。単行本の時に図書館で予約して借りたものの、時間が足りず読めなかった。去年文庫化された時にちょうど一時帰国だったので買ってきていた本。最近映画化だっていうから、積読からあさって読んでみた。
臨床心理士の由紀が殺人事件の容疑者である環奈の心を解きほぐすのが本筋ではあるものの、由紀自身、そして夫我聞、元カレ迦葉兄弟との関係も解きほぐす。
芸術家とその娘の関係ってことで、途中ドラマ「高校教師」を思い出しながら読んでいた。環奈が桜井幸子のイメージで、頭の中には森田童子の「ぼくたちの失敗」が流れていました。ちょっとオチは違ったけど。
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筆力がある。シャープな文章で抵抗なく読み進められる。初めて読む作家さんだけど他の作品も安心して読めそう。
でもこれは構成が惜しい、のかな。ここで終わっちゃうのかという残尿感。
環菜の心がどうして解けていったのかをもう少し丁寧に書いて欲しかった。由紀の闇は思わせぶりなままだし、環菜の母親は救われてない。迦葉は危なっかしい1面も描かれているけれど、我聞はスーパーマン過ぎるし脇役の北野も辻も聖山とか小泉とかに比べると聖人のようだ。
テレビドラマにも映画にもなったみたいだけど、色んな事足さないと締まらないだろうな。
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苦しくて胸が締め付けられる、でもこの作品に出会えてよかったと心から思える読了感。人は自分の気持ちですら明確にはわからなくて、他人の気持ちなんてもっとわからない。でもそれを諦めてはいけない。想像力を持って人と向き合わなければならない。そう思いました。あの頃流した私の涙は決して間違っていないし、同じように苦しむ人は絶対どこかにいる。
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思ったよりエンターテインメント性が強くて引き込まれたが、クライマックスの法廷場面はあっさりめ。人物造形や心理描写はさすがの直木賞作。タイトルに込められた意味が痛い。
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衝撃的で、圧倒的。
いろんな感情が溢れ出して、ちょっと、というかすごくやばい読後感です。
女子大生・聖山環菜は父親の勤務先で、父親を刺殺した疑いで逮捕された。
なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材にノンフィクションの執筆を依頼され、国選弁護人の庵野迦葉と共に、環菜の過去に迫るー
第159回直木賞受賞作。
「直木賞のすべて」で選考委員の意見を読むと、男性選定委員の評価が総じて高く、女性選考委員はそれほどでもないところがおもしろい。
高村薫さんが「『文章がいい』という声が多かった」と言っているが、まさしくそうだと思った。淀みなく心に入っていく。スマートにスムーズに。だからこそ「全体的に薄味な印象」(桐野夏生さん)に感じる人もいるだろう。
その一方で、「冷ややかな恐怖と閉塞感、作中で暴かれてゆく秘事への嫌悪感には忘れがたい」(宮部みゆきさん)ため、物語に浸ってしまうと、心の奥底が揺さぶられる。
文庫版には朝井リョウさんの解説があって、それも非常に良い。
朝井リョウさんはこの小説について言う。
「自分とは異なる肉体が歩む道を想像するスイッチを授けてもらえる…。男性の読者の中には『このシチュエーションでこれほどの精神的ストレスが生まれ得るものなのか』…狐につままれるような気持ちになる人もいるかもしれない。」
この小説は男性こそ、読むべき小説かもしれない。
とにかく素晴らしい小説!
なおこの小説、ドラマ化と映画化されるのだそうだ。
ドラマは2月22日放送。映画公開は2021年。
どちらも見なくては。
2021.2.11
映画見た。
「父親って気持ち悪い存在」と感じさせられ、とてもショックを受けた。
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なぜ自分が父親を殺害するに至ったのか解明してほしいという美しい女子大生環菜。自らも心に傷持つ臨床心理士、由紀が、環菜の複雑な家庭環境と心の闇を読み解き、環菜の心を解放していく。
国選弁護人として共に奔走する迦葉。
由紀と迦葉、そして我聞の心の移り変わりと、事件解明へのクライマックスとが相まって最終的にわだかまりが解消され、ひとつになる感が美しかった。
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【家族という迷宮を描く直木賞受賞作。ドラマ化&映画化!】父親殺害の容疑で逮捕された女子大生・環菜。臨床心理士の由紀が彼女や周辺の人と会ううちに浮かび上がってきた環菜の過去とは……。
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タイトルからして恋愛ものかと思ったが、全く違った。むしろミステリーテイストの心理劇といったところか。いずれにせよ登場人物が丁寧に描いてあり、好感が持てた。
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事件について調べていく内に知る環菜の過去。
タイトルのファーストラヴの意味。
由紀と迦葉の関係。
何より我聞さんの器が大きい…
映画化も楽しみ。
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最後の方になってファーストラブというタイトルの意味に納得した。
途中までの何か裏があるのを窺わせる所や、モヤモヤする所なども面白いと思う。
中心のストーリーに絡めている過去の話や手紙の部分などが良いアクセントになっていたと思う。
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恋愛ものではないので少し疑いつつ読み始めた自分を大反省。直木賞納得の作品で一気読みだった。
事件はなぜ起こったのか、環菜はほんとのことを話しているのか、環菜はどのような闇を抱えているのかを追いつつも、由紀や迦葉の抱えてきたものや、二人の関係、迦葉の恋愛?、親との確執など、普段なら話が多すぎるよと思いそうなのに、まったく無理なくそれより続きが気になって読み続けてしまうといった感じだった。
環菜がどうしてこのような言動を取ってしまうのかについて、やはり男性よりは女性のほうが受け入れやすいかもしれない。
最後には母親についても回収してしまうところが秀逸。
そしてやはり、由紀と迦葉の人間的な結び付きと、それを理解している我聞さんに、何とも言えず救われたようなほっとしたような、とても良い余韻を残した終わりかただったかと思う。