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ブルーバックスのラインナップの中でも異色の一冊になるのではないか。「元寇」「秀吉」「大和」の三題で、歴史上の「通説」を、エンジニアリングの眼で、ロジスティクス、プロジェクトコントロール、ストラテジーなどの観点から、物理法則に則った数値シミュレーションで検証するもの。古今の英雄譚も、人やモノを実際に動かすにあたって必要なカロリーや時間を真剣に評価してみれば、別の解釈が浮かび上がる。人文畑の研究者には一般的でない視点であろうが、教科書や人の話を鵜呑みにせず、自分の頭で可能な限り検証することの大事さを若い世代に伝えるこのうえないテキストだ。
終章を読み終わって、つくづく思い出されたのは、いろいろな危機に際して「できることは何でもやれ!」と安易に吠えることがリーダーだと勘違いしていている人が多いということ。この本に示されたような考え方の基本を身につけていない、勢いだけの人や熱意だけの人では、真の危機は乗り越えることはできないだろう。
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最近歴史の調査が進んでいることもあって、以前にがっこうで習った有名な事件の真相が一般の本でも紹介されるようになってきました。とても興味深く読んでいます、それらを読むと当事者である武将も、私が理解できる考え方や行動をしていたことが徐々にわかってきました。
さて、この本は新聞か何かの広告で見つけて興味を持ったものですが、海上自衛隊で船の設計などに関わった方が、サイエンス(様々な計算など)を通して、歴史上の有名な3つの事件、事柄(3つ目な戦艦大和の存在意義)について述べています。
どれも素晴らしい視点で歴史の事件を捉えていていますが、本人は歴史学者じゃないのでと謙遜していますが、本を読み限り、歴史書もかなり詳細に研究されているようです。特に、第一回目の元寇である文永の役にて、日本の騎馬武士たちも集団戦法を使って戦っている絵(p58)は驚きともに、なんだかホッとした安心感がありました。最初はともかく、最後まで名乗りを上げた戦いをしたなんて、信じたくなかったので。
この本は著者である播田氏の一冊目のようですが、今後も続編を是非出して欲しく思いました。
以下は気になったポイントです。
・高麗は元からの命令(6か月後に軍船建造)を間に合わせるために、伐採・輸送に大人数をかけて期間短縮をし、かつ原木の乾燥を省いて生木のまま加工を始めた、生木を使うと曲がりや歪みが生じて水漏れの原因となるが(p25)
・実際に戦ったのは蒙古兵の中の、雇われ高麗兵が多数混じった寄せ集めの歩兵集団で、騎馬兵は指令官クラスで3%程度、いまでも対馬、壱岐には「モッコリ(蒙古)」「コックリ(高麗)」と言うと子供が泣き止むという伝承が残っているといわれる(p38、39)対馬海峡を横断するには海流の2倍の速度(2−3ノット)は必要となる(p45)
・竹崎季長は肥前の御家人・白石勢のおかげで九死に一生を得た、日本の武士団はけして一騎討ちに固執していたわけではなく、むしろ集団騎兵による突撃戦法を多用していた、白石勢の騎馬軍団が蒙古軍を蹴散らしている絵はほとんど知られていない(p59)
・蒙古軍の上陸地点が息の浜でなかったとすると、文永の役の全容も全く異なってくる、宮崎宮は炎上したものの博多の街は燃えなかった可能性がたかい、博多の街は何度も燃えているので発掘からはどの時代のものか判別が難しい(p63)
・近年の研究では鎌倉時代でもじつは一騎討ちなどは稀であり、ほとんどが集団で戦っていることが明らかになっている(p76)
・蒙古軍5000と武士2000人の日本武士団は集団騎馬攻撃で武器効率をあげるランチェスター第一法則に基づいた戦略で戦ったことにより、歩兵5000人の蒙古軍と互角に対抗した。蒙古軍の死者は半数の2500で壊滅状態、日本武士団も半数の1000を失ったが、騎馬は740が残存という結果となる、日本側の文献と数字が合う(p82)
・二重構造の日本刀は振り降ろして相手の剣に当たった時に、硬鋼の部分は圧縮力が加わることで大きな衝撃、軟鋼の峰部分は延びて引っ張り力が働き���衝撃を吸収する、軽量ながらよくしなって曲がらず折れずよく切れる日本刀は接近戦最強の武器となった(p85)
・世界の剣の多くは単層の硬鋼製で、衝撃で折れなくするため、刀身は厚く、重量は重く、おもに突きと、腕力で叩き切るために使うが、湾曲した日本刀は引き切る力が主体で、突きも可能。湾曲している日本刀は馬上から振り降ろしても食い込んで落とすことはない(p86)
・蒙古軍は上陸に時間がかかって全軍が一度に進軍できず、小刻みに兵員を増やすという最悪の逐次投入となって失敗した。博多の戦いで蒙古兵の戦死者を5000とすると、全体の約19%となり軍事セオリーからは撤退しかない(p87)
・蒙古軍が恐れたのは日本軍に援軍がくることと、北西風が吹き始めること、旧暦11月になると吹き始める季節風で、これが吹くと玄界灘は大荒れとなり当時の帆船では渡れなくなる、高麗国王の死により出撃が3か月延びたことが決定的な遅れとなり、これが謎の撤退の直接の理由である(p88)
・戦国時代の部隊は、上級武将を指揮官とする部隊(100名程度)を一つの単位として構成していた。馬上侍10、長槍20、旗指物20、弓10、鉄砲10、小旗1名、小荷駄隊(食料、武器を馬で運搬)20−30、2万の兵隊ならこれが200組(p105)
・英雄と呼ばれる人々には、決してギャンブルに運命を委ねず、リスクを小さくする努力を最後まで怠らない共通点がある、桶狭間の戦い、関ヶ原の戦いも準備は周到極まりなかった(p144)
・砲弾の威力は砲弾の容積で決まり、それは弾径の3乗に比例する、なので41センチと46センチ(18インチ)では、威力は1.41倍となる、パナマ運河を渡る必要から運河の幅を考慮すると、アメリカは41センチ(16インチ)の主砲が最高であった(p159、165)
・戦艦大和の貢献として、1)日本の重工業や機械工業の基盤作り、造船業はあらゆる製造業が集約した総合産業、造船が戦後に興隆したのは、大型ドックとブロック工法による、2)大和の巨大な測距儀は、レンズから機械式計算機を使って距離を計測するもので、カメラ、精密機器の発展に貢献した(p219)
2020年10月8日作成
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エンジニアの視点から歴史を読み直す。ブルーバックスの異色のテーマ。日本史とサイエンスのコラボから生まれた傑作。
筆者は艦船設計の技術者。映画「アルキメデスの大戦」では製図監修を担当している。
・蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか。
・秀吉の大返しはなぜ成功したのか。
・戦艦大和は無用の長物だったのか。
日本史における謎をエンジニア視点から考え直した一冊。縦割り行政と同じように学問を縦割りでなく横糸から見ると今までと違ったしかも説得力のある理屈が生まれてくる。
元寇についていえば、蒙古軍の船の隻数や建造に必要な材料、人足の数。実際の運用、錨泊位置など専門的な視点から見つめ直し、神風が吹いたからという偶発的な理由ではない撤退の理由を論じている。
中国大返しも同様。秀吉の兵力数、必要な糧食とさらにそれを運ぶ人足、道程と兵の疲労など、具体的な数値を挙げて検証している。
戦艦大和については筆者の正に専門分野。最先端の技術と戦後日本への貢献について、また日本海軍の艦船に共通の設計上の欠点などを述べている。
何より絶品なのがそうまとめの章「歴史は繰り返される」。数字のリアリティの重要性、ものづくりの力。日本人が陥りがちな目的と手段の乖離など、筆者の経験も踏まえて語る。この章だけでも次回の著作を期待したい。
本書を通じて流れる筆者の思想は科学的な視点の重要性。理科の授業や理系教育が次第に減っている日本の現状。単に歴史ファンの作品でなく、歴史を繰り返さないため未来を見た視点が結論の作品。
ブルーバックスとしては異色の作品。今後同様な分野の作品が増えることを期待したい。
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歴史の疑問を現実的数値から読み解いていくのはとてもわくわくしました!証明問題は苦手だったけど、こういうのはいいと思います!
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サイエンスと言いますか,工学的な知見で,日本の歴史上の主な三つの出来事について書かれている本です.特に秀吉の大返しについては,本当にそれが現実的に可能であったかを,様々な観点で数値的に見積もり,真偽はともかく,興味深く読める本でした.歴史は,古文書だけを頼りにするのではなく,このような工学的知見での検証も,有用なのかも知れません.
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数字という嘘のつけない根拠を基に、歴史上の伝説とも奇跡とも思える通説に疑問点を投げかける本作。理工系の老舗新書のブルーバックスから、何故日本史の本が?と思ってたが、読んで納得の内容。
鎌倉時代の元寇、戦国時代の秀吉の中国からの大返し、第二次世界大戦の巨大戦艦大和の存在意義についての3本立て。
どれも日本史における大きなポイントではあるが、共通点はなかなか思いつかない。
それは、著者は、長年の造船に関わったエンジニアという経歴によって明かされる。
歴史学者では無いが故、通説と言われた内容でも、実現不可能なものを客観的に疑問に感じての検証となったのだろう。なるほどなあと唸る内容。
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日本史サイエンスを読んで思った事を以下に記載する。
播田安弘様のことは存じ上げておりませんでしたが
、今回の本を読んで衝撃を受けました。
・蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか
タイトルの内容に対して物理学、気象学、統計学を用いて、いかに数字的に難しかったか理解できます。
・秀吉の大返しはなぜ成功したのか
秀吉がどのようにあらゆる戦略を練って、物理学の観点からシュミレーションをして不可能に近い事を成し遂げだ知恵や、卓越した分析能力に驚かされます。
とにかく、昔の有名な武将は、最後まで戦略を練りに練って、不確実要素を排除してきたか分かります。
・戦艦大和は無用の長物だったのか
同じく大和自体が無用ではなく、その後の日本経済の発展として造船技術にどれだけ貢献したのと、それだけすごい物を造れる技術が日本にあることがどれだけ日本人の精神的な支えになったの理解できます。
最後に、播田様も仰っていますが理科系の能力は落ちてきてると思います。私も、今後の科学技術日本を復活するために、数理系の授業時間は増やした方がいいと思います。
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船の専門家の立場からの、元寇、中国大返し、戦艦大和の検証を試みた本。いずれも数字を交えて実現可能性を考慮しながらの考察ですんなりと受け止められた。面白い本なのでおすすめ。
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著者は造船の一流エンジニアであり、「アルキメデスの大戦」にも助言をしている。そのレベルになると、専門外のことでも視点が幅広く指摘は的確になるのだなあと感じた。
港の深度分布から上陸地点の推定をしたり、兵站の見積もりとそれの運搬にかかる馬や食料の増分を検討したり、撤退の判断をするに適当な被害の大きさを他の戦と比較したり。まだまだたくさんのことを検討している。
言われてみるとそうだよなあ、実際どうしたのだろう、と考えることばかり。
それでいて、歴史家ではないと言い、その領域には踏み込まない自制も利いている。
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蒙古襲来、秀吉の中国大返し、戦艦大和の話し。
それぞれに面白く興味深く読んだ。
戦艦大和は、海軍の秘密事項で一般に広く知られるようになったのは1952年だという話しが「へぇ~」だった。
著者によると、これらは船がテーマになっているという話しだが
歴史のインパクトは、その当時やその後の人々に影響を与えるように思う。
もっと大きな目で見ると、蒙古軍が持っていた火薬を使う「てつほう」のトラウマが、時代を下って種子島に伝来した鉄砲が10年後には世界一の鉄砲生産国になったのでは?とか
ペリーの黒船の衝撃が、時代を下って大鑑巨砲を極めた大和になったのでは?とかの感想を持った。
なかでも
終章 歴史は繰り返す の一節「大和は2度沈むのか」で世界の国々が科学教育に真剣に取り組んで理数科教育を強化している中で、日本では理科教育を大幅に減らしている。
なんと高校の理科教育は50年前の7分の1まで減少し、すでに技術系の大学生数は中国より一桁少ない数になっているという。
これは個人的な妄想かもしれないけど、太平洋戦争での敗戦、広島長崎での原爆のトラウマの影響なのかなあ、と。
歴史的な大事件は後世へのトラウマとなって、その国の進むべき道を決めてしまう。
それがどんな結果になるか?そんな事まで考えさせられる読書だった。
Amazonより*******************
蒙古は上陸に失敗していた! 秀吉には奇想天外な戦略があった! 大和には活躍できない理由があった!
日本史の3大ミステリーに、映画『アルキメデスの大戦』で戦艦の図面をすべて描いた船舶設計のプロが挑む。
リアルな歴史が、「数字」から浮かび上がる!
【謎の一】蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか?
最初の蒙古襲来「文永の役」で日本の武士団は敗北を重ね、博多は陥落寸前となったが、突然、蒙古軍が船に引き返したのはなぜか?
【謎の二】秀吉はなぜ中国大返しに成功したのか?
本能寺の変のとき備中高松城にいた羽柴秀吉が、変を知るや猛スピードで2万の大軍を率いて京都に戻り明智光秀を破った「中国大返し」はなぜ実現できたのか?
【謎の三】戦艦大和は「無用の長物」だったのか?
国家予算の3%を費やし建造された世界最強戦艦は、なぜ活躍できなかったのか? そこには「造船の神様」が犯していた致命的な設計ミスが影を落としていた――。
小さな「数字」を徹底して読みとり、積み重ねていくと、
大きな「真実」のかたちが見えてくる!
各界からも絶賛の声!
「面白かった! 歴史を科学的・客観的データで捉え直すという学際的なアプローチは素晴らしい」
大隅典子さん(神経科学者・東北大学副学長)
「結論として、秀吉の大返しは常識的な行軍ではほとんど不可能だったということになる」
藤田達生さん(三重大学教授/『本能寺の変』(講談社学術文庫)著者)
「排泄物の量まで計算して秀吉の不都合な真実を暴き出すとは! 物理という刀で斬り込んだまったく新しい歴史書だ」
山崎貴さん(映画「アルキメデスの大戦」「STAND BY ME ドラえもん2」監督)
「文献だけでは歴史は解明できない。理系の光が史実を照らし出す!」
溝上雅史さん(国立国際医療研究センター研究所)
「戦艦大和は決して無用の長物ではなかった。戦後の日本の造船、電機、機械産業の発展の礎となったのだ。面白くて一気に読んだ」
加藤泰彦さん(前日本造船工業会会長 元三井造船会長)
読者の声
「秀吉の大返しには、ファクトデータに基づかない通説に疑問を抱いていた。事実を検証する犯罪捜査のような手法は見事」
(男性 70歳代)
「無味乾燥な数字の羅列のなかに、歴史に翻弄された人たちの喜びや哀しみが感じられて切なくなった。不思議な読書体験でした」
(女性 30歳代)
「この本を読んで、大河ドラマ『麒麟が来る』を観る視点が変わった。科学の眼で謎解きすれば歴史は刺激的だ」
(男性 50歳代)
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造船技術者の目から、日本史上の伝説?を検証してみた本。
蒙古襲来についてはとても納得できる。
秀吉の大返しは、手段としての海路はそうかなと思うが、信長の悲報から即座に行動できた背景については本書の対象外とされてしまった。
戦艦大和(や当時の軍艦一般)の構造的欠陥について専門的視点からの指摘はされているが、本項での著者の問題意識はむしろ戦艦大和の戦略的使われ方にあるようで興味深い。
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鎌倉時代に、900隻の大船団が押し寄せ、すぐさま全軍上陸して、武士団をさんざん打ちのめし、謎の撤退をして日本は救われた・・・そんなわけあるかい!ということから検証した結果、どうなのかは本書に譲るとして、神風、奇跡などは心地がよくロマンはありますが、古書・伝説・伝承の通り実行するならこういう条件が必要なはずだ、その条件は満たせるとは到底思えない、だから本当の歴史は○○と推察される、という姿勢が必要という指摘はその通りだと思います。
著者は、長年、船に関わる仕事をしてきて趣味も古船というオタクであると告白し、船への興味から、蒙古襲来について調べ、海洋関係者の集まりで発表してみた結果、本になったとのことで、船にまつわる話題として、秀吉の中国大返し、と戦艦大和を題材に推理のごとく進んでいきます。
ブルーバックスらしい切り口で興味深かったですが、各話題をもう少し短くして、ネタを増やしてほしかったな、と思いました。他の著者でもいいので新しい歴史の捉え方として、日本史サイエンス”シリーズ”みたいな感じで続巻を期待したいところです。
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最初の二つの事例(蒙古襲来と秀吉の大返し)は物理をもとにした歴史の「重み」が感じられた。これらに比べて最後の大和はちょっと趣が違う。いわゆる説明に終わってしまっている。
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個人的には元寇の話が一番面白い。
大和の話は日本社会のあり方批判に繋がっている点がイマイチ共感できず。
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理系の見方というのはなかなか面白い。
日本は理科教育の時間を大幅に減らしてきたという告発もその通りだと思う。しかし日本は文系だとて容赦はしない。
ようするに、科学などへでもないという人間どもが政治をやっているのだ。
播田さんの分析は楽しい。が人間は大切にされているのかと疑問も持った。