紙の本
真夏の死
2021/03/18 22:33
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
ごく初期の短編「煙草」や実際に起きた事件を元にかかれた表題作「真夏の死」、三島らしさあふれる言葉遣いで書かれた「貴顕」などが収録されている。個人的には容貌が似ている男たちによる共犯とも呼ぶべきアルバイトを描いた「花火」が良かった。作者自身による各作品への解説もついており、それによると、三島は「雨のなかの噴水」が好みらしく、意外だった。
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著者自身による解説付き、1946年~1963年に発表された短中編、
全11編。
バラエティに富んでいるが、いずれもどこかシニカルな味わい。
収録作は
煙草(1946年)
春子(1947年)
サーカス(1948年)
翼(1951年)
離宮の松(1951年)
クロスワード・パズル(1952年)
真夏の死(1952年)
花火(1953年)【再読】
貴顕(1957年)
葡萄パン(1963年)
雨のなかの噴水(1963年)
以下、特に印象深い中編について。
「春子」
新任の運転手と駆け落ちしたものの、彼が戦死したため、
残されたその妹・路子を伴って佐々木伯爵邸へ戻った春子、
すなわち語り手の青年「私」の叔母(母の異母妹)について。
語り手の性欲と、それを見透かして誘惑してくる春子、
及び、彼女と特別な間柄の路子との三角関係が描かれる。
春子と路子、双方に惹かれ、
彼女らの間に割って入りたいと思う「私」は、
そのために与えられた女物の浴衣を纏ったり
化粧の真似事をしたりして、女に近づくことを要求されるのだった。
基本設定がまだるっこしいが、
それも春子と関係を持ったり路子を想ったりして悶々する
「私」=「宏(ひろ)ちゃん」(19歳)の揺れる心情を
表現するのに必要だったのかもしれない。
「真夏の死」
有能で高給取りの夫・勝と三人の愛児に囲まれて
何不自由のない暮らしを送る生田朝子(ともこ)は、
子供たちと子守り役を務めてくれる夫の妹・安枝と共に
伊豆の海岸付近の宿に泊まった。
しかし、朝子が昼寝している間に長男・長女が溺死し、
助けようとした安枝も心臓麻痺を起こして帰らぬ人となった。
愛児を失った悲しみと罪の意識に苛まれつつ、
周囲からの慰めの言葉に自分への思いやりが足りないように感じて
不満を覚える朝子と、そんな妻を持て余す勝。
だが、無事だった次男に過保護に接して暮らすうち、
朝子は四番目の子を懐妊。
桃子と名付けた新しい娘をも伴って、
何故か忌避すべき問題の海へ再び赴こうと言い出す朝子。
人は幸福に慣れると新しい刺激を求めるように、
不幸から立ち直りかけると更なる痛手を欲するものなのか。
治りかけた傷を覆う瘡蓋を
痛むとわかっていてわざわざ剝がそうとするかのように。
とはいえ、個人的な悲劇に陶酔し、
自分をより過酷な状況に追い込もうとするタイプの人物も
確かに存在する。
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三島由紀夫の文章にこの本で初めて触れたわけだが、私の求める小説はここにあったか、と陶酔に近い感動を覚えた。それなどは作中の治英などにとって見れば鼻で笑われるに相応しい感想だとは思うが、それはそれで趣があろう。
作者の三島由紀夫自身、加えて津村記久子氏による解説はどちらも作品への理会を深めてくれる良い文章で、これも含め私は一気に三島由紀夫のファンになってしまった。
好き嫌いはあるにしろ、一昔前の小説とはこうであるべきだと言える婉曲な言い回しやら漢字の使い方、文章構成など、どれをとっても素晴らしく賞賛に値するものであると感じた。
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三島由紀夫の自選短編集のその二。『花ざかりの森・憂国』に続き、自選というだけあって、楽しめる作品が多かった。
「春子」
レズビアニズムがテーマの一作で、『鍵のかかる部屋』の「果実」に引き続き、こちらも好きだった。
春子と路子の一場面をのぞき見するという安定の?構図は、とはいえその筆遣いでなんともなまめかしく美しく、いっとう好きな場面である。どの一文がということはないのだけど、女性同士の色事が、男性にとって永遠に手の届かない花園であることを意識せざるを得ない、そういった香りが、なんと誇り高く香ってくることだろう。(『禁色』とは違う、香りである)
「サーカス」
…彼女は知っていた。彼女はこの暗い、星一つないぼろぼろの天空から、煙草と人いきれの靄を透かして凡ての生起を克明に眺めていた。眺めていたというより知っていたと謂う方が正確だ…下方の群衆がつくっている輪の真央に、少年の胸の見馴れた緋の百合が、一瞬まぶしくきらめいて彼女の目を射た。…―何も知らない群衆の頭上に、一つの大きな花束が落ちてきた(p.94-95)…
悲劇の若い男女を花にたとえることは、あまりにも短絡的に見えることもあるだろうに、そうは全く感じさせない作品の雰囲気が、私はとても好きだった。
「翼」一番好きな作品でした
従兄妹同士の二人が、お互いに翼があることを確信している話。二人だけの秘密、二人だけの美しい翼、といいつつ二人の秘密と翼は邂逅することはないのだが、それをそうと見られる読者の幸せ。
…おのおのの肩のあたりで或る溌溂たる別の力が動いているような心地がした。翼ではあるまいかと二人は思った。隠され畳まれた翼が、じっと息をひそめている気配がある。というのは、時折強く触れ合う背中位に、敏感すぎる甚だしい羞恥が感じられたからである。翼を隠しているのだとすれば、こうした羞らいは理に叶っていた。今時そんな崇高な代物を隠し持っていることは、われわれをはにかませるに足る理由である。(p.102)
…葉子は彼が沢山の翼を作っているところを想像した。彼は工員たちに製品見本を示す必要に迫られるだろう。そうしたら、自分の肩の巨きな真白なきらきら光る翼を示せばよい。その次には性能の実験を迫られるだろう。そうしたら、彼はほんのすこし飛んでみせるだろう。空中に止まってみせるだろう…(p.110)
…葉子の首は喪われていた。首のない少女は地にひざまずいたまま、ふしぎな力に支えられて倒れなかった。ただ双の白い腕を、何度か翼のようにはげしく上下に羽搏たかせた…(p.116)
それからこんなところにもくすっとしてしまった。
…お祖母様はちょうど午寝からお目ざめになった。枕許には初版本の鏡花の小説が伏せてある。木版の芙蓉の大輪の美しい装幀である…(p.112)
どの作品なのだろう、来年また一堂に会するだろうから、見つけたい。
私が夢想している世界、思い浮かぶ思考といったものがここにはある。
「真夏の死」表題作。とても好きだった。
エピグラフの「夏の豪華な真盛の間には、われらはより深く死に動かされる。ボオドレエル「人工楽園」」で、既に白旗を挙げていたかもしれない笑
…朝子は気づいていなかったが、彼女は人間の感情の貧しさに絶望していたのである。一人死んでも、十人死んでも、同じ涙を流すほかに術がないのは不合理ではあるまいか?涙を流すことが、泣くことが、何の感情の表現の目安になるというのか?人の目に映っている彼女自身は一体何者なのか?そうかと云って内部に目を移すと、この比倫を絶した悲しみの実質が、いかにも曖昧模糊としていることに、別の絶望を感じるのであった。(p.198)
…はやく夏がすぎればいいと朝子は思った。夏という言葉そのものが、死と糜爛の聯想を伴っていた。かがやかしい晩夏の光には糜爛の火照りがあった。(p.201)
朝子にとっては子ども二人と義妹を亡くした夏だからこそ、死と糜爛の聯想を伴った部分もあるだろう。だが夏自体が持つ、あの死を連想させるかなしさ、寂しさが、読者(私)と朝子を繋いでいる。
…なぜこんなに愉しい気持で目をさましたかがわかったのである。今朝はじめて、死んだ子供たちの夢を見なかった。毎晩欠かさずに見ていたのに、昨夜はそれらしい夢がなかった。見たのは何か気楽な莫迦々々しい夢である。それに気づくと、今度は自分の忘れっぽさと薄情がおそろしくなって、母親にあるまじきこんな忘却と薄情を、子供たちの霊に詫びて泣いた。(p.205)
朝子の気持ちが痛いほどにわかる
…あれ以来、朝子が味わった絶望は、単純なものではなかった。あれほどの不幸に遭いながら、気違いにならないという絶望、まだ正気のままでいるという絶望、人間の神経の強靭さに関する絶望、そういうものを朝子は隈なく味わった。人間を狂気に陥れ、死なせるのには、どれだけの大事件が必要なのか?それとも狂気は特殊の天分に属し、人間は本質的に決して狂気に陥らないのか?
われらを狂気から救うのもは何ものなのか?生命力なのか?エゴイズムなのか?狡さなのか?人間の感受性の限界なのか?狂気に対するわれわれの理解の不可能が、われわれを狂気から救っている唯一の力なのか?…(p.229)
…妻は時々放心しているようなこんな表情をする。それは待っている表情で或る。何事かを待っている表情で或る。『お前は今、一体何を待っているのだい』勝はそう気軽に訊こうと思った。しかしその言葉が口から出ない。その瞬間、訊かないでも、妻が何を待っているか、彼にはわかるような気がしたのである。勝は悚然として、つないでいた克雄の手を強く握った。(p.242)
何事かを待つようになった朝子。それは再びの悲劇であり、再びの死であり、狂気であるのだろうが、それは三島にとっての終戦と重なるのだろうということは強く意識せざるを得なかった。
さて、この本には三島由紀夫自身の分かり易く親切な解説がついているので、あえて他のものを夾雑物として入れなくてもいいのではないかと思ってしまう。
「貴顕」は「女方」の、「葡萄パン」は「月」というどちらも『花ざかりの森・憂国』に掲載の二作品と対をなしているのだという。「貴顕」よりも「女方」の方が好きであったが、「月」よりは「葡萄パン」の方が好きだ。自分の部屋で行われる他人のセックスを手伝わされながら、自分は美しいマルドロールの歌をそらんじている、その状況に対する感情をなんと言い表せればいいのだろう。
ごくふつうの少年少女を描く「雨のなかの噴水」に対しては、少年少女の可愛らしさには「残酷さと俗悪さと詩がまじっている必要がある」のだと。リラダンの『ヴィルジニーとポオル』読んでみたい。
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【オンライン読書会開催!】
読書会コミュニティ「猫町倶楽部」の課題作品です
■2022年9月22日(木)10:15 〜 12:00
https://nekomachi-club.com/events/cc06171b8b72
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けっこう、わかいときに、きんかくじをよんだ!おとこのこは、とうじ、これもいいだろう?と、のりきに、このほんもすすめだが、むずかしそうだったので、よめなかった!しかし、きいしよでかいてあるか、かんごがつかわれているかけひきくらいは、すっいして、あながち、たんじゆんに、なにものも、とわれやすく、くちするめそうのように、あしかせ、すぼめせちがらくとらえやすすぎてはだめなんだと、がっかりした!にんげんの、にんじゆつせいやら、きもったまのあたまうちおごやら、ないがしろに、ないりにしきのにたんらくわほうにどくさいだめ
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【煙草】★★☆☆☆
煙草吸ったのがきっかけで周りの世界が変わる。自分は吸わないけど、子供のころに大人っぽい何かをしたら、周りの世界が一変する感覚を味わった経験あった気がするなぁ。
【春子】★★★★★
序盤は歳上の叔母と年下男の情事、AVみたいな展開で興奮した。中盤から寝言で春子が「路子」とつぶやいたことから一変、恋の対象がレズビアンだと知り、主人公が翻弄される様がドキドキして面白い。
両手に美人の主人公がうらやましい...が好きな相手がレズビアンだったら私なら諦めちゃうかな。男としてみてくれないなら好きになっても意味ないし。春子と路子の情事を見たのに最後路子に会いに行く根性すげー。
「この唇ではない、この身体ではない」すごく共感できた。私も女とキスや身体を重ねた時、相性が悪いとこんな風に思うことがある。なんかフィーリングで一瞬で分かっちゃうんだよね。
【サーカス】★★★☆☆
2人の少年少女の事故を願う団長がドSっぽい。下で死んでる少年と群衆の中に、自ら飛び込む少女の度胸がすごい。悲劇も含めて一つの作品になった感じ。団長は大満足だろうなぁ。
【翼】★☆☆☆☆
互いに相手に翼があると信じてる発想がよく分からなかった。小さい子供がそう言うなら分かるけど、2人とも子供ってわけじゃないから違和感。
爆撃された葉子が両手を羽ばたかせる動作が絵画のようで美しい。首がないのにグロさを全く感じない場面。
【離宮の松】★★★☆☆
子連れってだけで恋愛のチャンスを失うよね。もし陸男と出会った時に子供いなかったら、恋人になれた可能性もあるだろうし切ない。
最後美代が子供を陸音に預けて遠くへ逃げるのは清々しい。背負うもの彼女の人生はこれから始まりそう。
【クロスワードパズル】★★★★☆
最後は読者に想像させる終わり方。奥さんは回想の女と同一人物なのか別人物なのか気になる。奥さんは不細工で、過去の女は美人な雰囲気だったから別人なのかな。それに一ヶ月返事しないでいきなりすぐ結婚ってのも考えにくい。それとも返事来ないで意気消沈してた主人公に新たな別の出会いがあって傷を癒してくれたとか?どちらにせよ同一人物か否かは想像が膨らむ。
【真夏の死】★★★☆☆
真夏のギラギラした熱いイメージとは裏腹に、ジメジメした暗い作品。子を2人も失った母が立ち直らんとする姿が苦しい。自分は大切な人を失ったことはないけど、何かに熱中して気を紛らわすのではなく、時間をかけてゆっくり立ち直ってくのが大事ってのは分かる。ショックな出来事も時間が解決してくれた。最後桃子を連れて海を眺めながら、2人の子供を待ってたんだろうか。
【花火】★★☆☆☆
顔見るだけで大金もらえるって、一体男と大臣になにがあったんだ。大臣が実は男好きで男と寝たことあって口止め料的な感じだったのかな。
【貴顕】★☆☆☆☆
文章も話の流れも分かりづらい。ついていけず途中で残念。あと自分が絵画に全く興味ないのも惹かれなかった要因かも。
【葡萄パン】★★☆☆☆
��ーギが女とやってる最中、ジャックが葡萄パンを食べながら片手で足を持ち上げるのがシュールで想像すると笑える。友人が隣でやってるのに食欲なんか湧かないわ。
あんまり驚いた様子はなかったし、ゴーギが女を連れ込んで手伝うのは初めてじゃなかったのかな?
【雨の中の噴水】★★★★☆
女の涙を噴水で打ち消そうとする男の発想が面白い。泣いてる女のめんどくささが伝わってくる。別れを切り出し勝ちを確信した男が、最後女の一言に負けるのは意外な展開で驚いた。
あの後2人は何もなかったようにヨリを戻したんだろうか? だとしたら女の方が一枚上手ってことになる。全て計算済みだったとしたら恐ろしい女だ...。