モノノケの通史です
2021/01/15 17:50
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投稿者:iha - この投稿者のレビュー一覧を見る
古代から現代にいたるまでのモノノケ現象を辿った通史です。病気や死の元凶とされ畏怖されてきた古代から、娯楽になる近代以降まで時代によって変化するモノノケの在り様が丁寧かつ綿密に描かれています。
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冒頭、藤原道長の「この世をば我が世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」を引用し、著者はこう言う。「これほどまでに栄華を極めた道長は、周囲の貴族から怨みや嫉みも大いに買っている自覚があった。その上、病気がちで精神的にも脆弱だったこともあり、非常にモノノケを恐れていたのである」(「まえがき」より)。はてさてあの道長がそんなものを怖がっていたとは?と古代史に詳しくない私などは思ってしまうのだが、古代の人びとにとって人間の体を抜け出した霊魂(元に戻る場合は「生き霊」、元の体に戻らなければ「死霊」であり、いずれも「モノノケ」[物気])は主として病気をもたらすものとして恐れられていたらしい。道長自身の『御堂関白記』には怖がりすぎてあまりモノノケについて書かれていないらしいが、同時代の貴族の古記録(藤原実資『小右記』など)にはそう記されているとのこと。しかもそのモノノケ退治を自分自身でやることもあったとは、道長のイメージもだいぶ変わってこようというものである。また『小右記』に登場する油瓶の形になったモノノケの話はおそろしくもありおそろしくもなしであるが、一般に「鬼」の形に近似することも多かったモノノケがさまざまな姿を取って描かれていることも面白い(pp.68-75)。
日本人の死生観、霊魂観がやがて中世、近世、近代、そして現代に至るまでどのように変わって来たのかをちゃんとした歴史学の立場(要するに文献史学の立場)から繙いていく本書は、著者の専門分野が中世ということもあって、古代の終わりから中世を扱う第1章から第3章までが圧倒的に面白く読ませる。とくにモノノケを調伏する方法などを詳しく辿った第2章などは知らないことだらけで非常に面白かった。上段でも述べたが、頭の中で考えたことではなく、そうした具体性の中にこそ死生観や霊魂観が現れてくるのであろう。その点、第4章で近世の平田篤胤がモノノケ調伏を法師どもの謀略とする(p.185)のは、まさに「近代的」すぎてつまらないとも言えよう。
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<目次>
序章 畏怖の始まり
第1章 震撼する貴族たち~古代
第2章 いかに退治するか~中世
第3章 祟らない幽霊~中世
第4章 娯楽の対象へ~近世
第5章 西洋との出会い~近代
終章 モノノケ像の転換~現代
<内容>
「もののけ」を日本史のなかでたどりながら現代まで俯瞰したもの。中世が本職なのか、詳しく語っているが、少ししつこかった。
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もののけと一口に言っても、色々と歴史的に見ると変わってきているんです
新書という内容にも関わらず、膨大な資料のレビューをされている(ここらへんは中公は新書といえどさすがの重厚感)
他方で、「モノノケ」にかかる歴史資料のレビュー的な要素が強く、あまりこの分野に精通していない自分からすると結構文献自体がわからず、非常に微細な差異をつらつらと説明していく感じになっていて「面白さ」という視点でいうと今ひとつな感じ。
この分野を先行する学生さんが、自分の論文のとっかかりにする。
とかそういう感じではすごく役立つ書籍だと思う。
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遥か昔、恐ろしい存在であった「もののけ」が時代の移り変わりの
中で、どう変容していったかを豊富な史料から解き明かす。
序章 畏怖の始まり
第一章 震撼する貴族たちー古代
第二章 いかに退治するかー中世
第三章 祟らない幽霊ー中世
第四章 娯楽の対象へー近世
第五章 西洋との出会いー近代
終章 モノノケ像の転換ー現代
主要参考文献、古文書・古記録の幽霊一覧有り。
もののけ、モノノケ、物の気。
古代は得体の知れない死霊の気が病気や死をもたらす存在でした。
天皇や貴族は、僧や陰陽師の調伏や供養に頼っておりました。
時代が経るにつれて「もののけ」は変容していきます。
調伏を行う者や手段の変容・・・双六や囲碁、将棋が用いられたり、
依代となる者がいたり、庶民には山伏や巫女、民間陰陽師が
行ったりしますが、中世以降は医学の発展が関わってきます。
幽霊と怨霊の区別が曖昧になっていき、
近世では死霊の存在が懐疑的になり、また平和な世、
刺激を求める対象になり、娯楽に取り込まれていきます。
かつて怪異だった妖怪や化け物は草双紙で視覚化し、
モノノケも、妖怪や幽霊、化け物との区別が明確でなくなります。
近代、文明開化と西洋の影響に翻弄され、衰退し、或いは注目。
現代、小説や漫画で描かれる姿は自然の中に追いやられます。
そして、人間との対立と共生。『もののけ姫』も登場。
様々なイメージとキャラクター化により、人に近づく存在に。
物の気、物の怪、モノノケ。
日本人の近辺にいたモノは、かつての畏怖の対象から、
時代の変遷と共に、ヒトの精神、世情等の様々な変化を経て、
ヒトに寄り添うまえに至るという、その変化の面白さを、
教えてくれる内容でした。
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もののけ・幽霊・妖怪。現代ではこれらの語はほとんど区別なく用いられているけれど、語の歴史を遡っていくと、古代、中世、近世とそれぞれの時代で意味が異なることを豊富な史料を元に明らかにされていてもう圧巻!すごい…これがプロの研究者の仕事…(ごくり)
中でも面白かったのは碁や双六がもののけの調伏に用いられたという箇所。
私は大河ドラマが好きなので、今後大河で碁や双六をする場面があったら、そのシーンの意味を一層の広がりを持って観られそうです!
著者も「はじめに」で書かれてますが、もののけ・幽霊・妖怪の差異について通史でまとめている論考はこれまでないようなので、そんな貴重な労作を初学者にも優しい新書で出してくださって、ただただありがたい気持ちです。
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病をもたらし貴族を震え上がらせた古代から、怪談や図案入りの玩具で庶民に親しまれる近世、非科学的と否定される近現代までを概観。
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「もののけ」という言葉が何を意味し、どう使われてきたか
を膨大な資料を基に通史的に記述した労作。古代日本書紀
から現代もののけ姫までその視野は広くよくここまでまとめ
あげたものだと感心するのだが、どことなく辞書の定義の
問題に終わっている印象があり損をしていると思う。歴史
全体を俯瞰したまとめと考察を一章別に設けてもよかったの
ではないだろうか。参考文献と年表の充実も高ポイント。
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「もののけ」の言葉を紐解いた1冊。ぜひ派生して各年代の宗教、俗信を研究したくなった。
コミカルな絵がもののけ好きな私には嬉しかた。
美術にも時折解釈として触れながら進行するので、美術から見るのもののけの歴史も読んでみたい。(あるのかは知らないが)
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本書の本筋ではないが、霊と遺骨の関係、墓参り、霊魂観の変化などについて言及がある。
これらに関心のある方は、一読の価値がある。